レベルアップで世界最強 作:奈落兎
ハイリヒ王国王都の、とある路地裏。見た目こそ中世ではあるが魔法という、面倒な機構を作る必要もなく大概のことを行える技術があるため下水道などもある。そんな下水道に定期監査を行うための入り口は人気のない場所にある。万が一浄水機能に異常が生じた場合入り口から異臭がするだろうから。
そして、普通なら関係者以外立ち入れぬはずのそこから一人の少年が出て来る。
「日が昇ってきたな。時間をかけ過ぎたか」
南雲ハジメだ。
『ランダムボックス』より与えられた『鍵』を使いインスタンスダンジョンを攻略してきたのだ。
メルド曰くステータス不明。公的には何故か最弱扱いされたハジメは訓練をサボっても国からとやかく言われないから楽だ。おかげで全員が訓練してる間に農地に向かうところだった愛子とも話しが出来た。
この辺りで使えるE級の鍵は全てクリアした。B級はそれなりに時間がかかるし、C級も不審に思われる程度には時間を有する。
そろそろ鍛錬場に顔を出すか。彼等のレベリングによる変化がどの程度か見ておきたいし。
「ふぅむ………」
強くはなってはいるが、劇的と言うほどではない。まだまだメルドの方がずっと上だ。ステータスは勿論技術も。
とはいえ訓練と実戦は違う。王都外での魔物との戦闘、ついていけば良かった。そういえば雫はどこだろうか?
一応は鍛冶職の可能性があるからとメルドに紹介された王宮抱えの武器職人の工房であるものを造って、渡そうと思ったのだがいない。まだ来ていないのだろうか? と、その時だった。
「あれ〜、誰かと思えば南雲じゃ〜ん。赤ちゃん以下の雑魚がこんなところで迷子でちゅか〜?」
「それとも中村のおっぱいでも吸いに来たか〜?」
「ぎゃはは! おねしょしちゃった報告じゃね〜の〜?」
「ぶは! それありえる!」
ゲラゲラ下品に笑いながら小物四人集が現れた。少なくとも簡単に丸太を砕ける自分達が、余程強くなれたと喜んでいるようだ。
「なぁ、大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから、俺らで稽古つけてやんね?」
一体なにがそんなに面白いのかニヤニヤ、ゲラゲラと笑う檜山達。
「あぁ? おいおい、信治、お前マジ優し過ぎじゃね? まぁ、俺も優しいし? 稽古つけてやってもいいけどさぁ~」
「おお、いいじゃん。俺ら超優しいじゃん。無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」
ハジメははぁ、とため息を吐きながら父の言葉を思い出す。
──ハジメ、良いか。その力は何かに備えているからだと思うから、力つけるべきだと思う。だが、飲まれるな。力を持つ者の責任なんかじゃない。そんなものはない。ただの、親父としての我儘だ。
「…………………」
普段の素行を見る限り、あまり子を見て親を貶したくはないが自分は彼等よりよほど親に恵まれているなぁ、と改めて思った。
「おい聞いてんのかよ、さっさと来いよ! …………あ、あれ?」
「おいおい何やってんだ〜?」
「い、いや…………おら、来い!」
やはりハジメの方が筋力が上。無理やり引っ張る気だったのにビクともしないハジメに困惑する檜山だったが再び引っ張ろうとする。
下に見たいのだろう。自分を上に置きたいのだろう。だからそんな筈は無いとせっかく解った現実を否定する。
「ちょっと檜山! あんた等、いい加減にしなさいよ!」
「るせえぞ園部! 何ならてめえが相手するかぁ?」
「負けたら俺らの南雲への善意踏みにじった罰を…………そうだなあ、体で払ってもらうけどなあ」
「っ!」
その言葉と視線に、割り込んきた女子生徒、園部優花はビクリと震える。
「ああ、別に良い。園部、大丈夫だ」
「だ、大丈夫ってそんな訳………」
「さっさと行くぞ檜山。何チンタラしてんだ?」
ハジメがそう言って歩き出すと檜山が生意気と判断したのか後ろから蹴りかかってかる。優花が短い悲鳴を上げ………しかし檜山はすっ転んだ。まるで壁でも蹴ったかのように。
「何してんだよ〜、流石に優しすぎるぜ〜」
「あ、ああ………」
なお声を掛けようとする優花に片手を振り視線で大丈夫だと伝えると不安そうな顔で見つめてくる。
優香はランニングを始めたばかりの頃立ち寄った洋食屋の客と店員という間柄でしかないが、庇ってくれた人物に危険が及ぶのを無視できるほどハジメは甘くない。
「南雲〜、てめえマジで調子のってんなあ」
転ばされたことを仲間に笑われた檜山は怒りに肩を震わせる。間違いなく人を殺せるだけの力を持ちながら怒気ばかりで殺気を感じないのは、己の力がどういったものか全く理解していないからだろう。
「大丈夫だつってんのになあ………」
そんな檜山を無視してハジメは、結局何時でも助けられるようにかこっそりついてきてる優花の気配にため息を吐く。
ハジメは、まだ本気を出す気はない。ニートのように聞こえるがそういう意味ではない。
力がある者が近くにいれば、それがましてや知り合いならば人は守られて当然と思い込む。光輝の言葉に従う者が多かったのは自分が死ぬはずが無いと思っているのと、もし危なくなっても守ってもらえると思っている奴等が多いのが原因だろう。だから、少し薄情かもしれないが実際に死を実感するほどの境地に陥るまでは静観するつもりだったのだ。
とはいえ自衛ぐらいはするが………。それでもハジメを下に見てる彼等なら多少痛めつけても吹聴しないという確信があったが、優花は違う。むしろ善意から、ハジメが馬鹿にされないようにと吹聴するかもしれない。
鍛錬場から遠ければ檜山達をけちょんけちょんにしたあと直ぐに言わないように言えたが、すぐ近く。内緒話は出来そうにない。
「おらあ! 死ねやあ!」
「はあ………」
振り下ろされた鞘に収まった大剣を躱す。ナイフを躱す。槍を躱す。
どれ一つハジメにはかすりもしない。ポケットに手を入れたまま、ハジメは槍を踏みつけ檜山のバランスを崩させ事故に見せかけて膝で檜山の鼻を折る。手加減はした。しなければスイカ割りが人体で再現される。
「つぅ〜! こ、このやろう!」
「ここに焼撃を望む――〝火球〟!」
と、檜山の取り巻きの一人、中野が魔法を使う。しかも火だ。チッ、と舌打ちしたハジメは地面を靴裏で擦る。バチッと黒い紫電が、魔力が走った。
「錬成」
地面が形を変え、中野そっくりな像が出来上がり炎の玉によって爆ぜた。
「こ、この! ここに風撃を望む――〝風球〟!」
今度は斎藤が風属性の魔法を放つが、再び地面から石像が現れハジメの代わりに食らう。因みに顔だけ斎藤の小便中の犬の像だった。理由? 嫌がらせに決まっている。
「てめぇこのやろう! ふざけてんのか!」
「ああ、嫌な気分になったろう?」
「ぶっ殺す!」
| 警告! 殺意を持つ者が近くに現れました! |
「ああ? チッ………」
システムメッセージに何やら不穏な気配を感じたハジメは、さっさと終わらせる事にした。地面から石柱が飛び出し、ハジメはバレリーナのように回転しながら柱を蹴り砕いていく。蹴り付けると同時に錬成の派生スキル《圧縮錬成》を行い破片を圧縮、より硬く、より重くした。
砕けた破片は円錐状へと姿を変え檜山達の足に突き刺さった。
「があああ!?」
「い、いでああ!?」
「ぎゃああ!」
「ぐぎょえ!?」
所詮は手にしたばかりの力で粋がったガキ。ハジメのように命の危険と対面したわけでもなし。骨が折れてなくても肉が抉れる怪我を負えばすぐに心がポッキリ折れる。
敵意は一変、恐怖に染まった視線を向けてくる檜山達。こうなったら優花を攫ってでも口止めをしなくては。何、ハジメの能力値なら可能……
「南雲! 大丈夫!?」
「…………あ?」
ハジメが優花を人の視線のない場所に攫うべく足に力を込めようとした瞬間、優花の方からやってきた。
「怪我、してない? 脚は、捻ってない?」
「おま、何で………」
「何でって、何がよ?」
「……………ああ、いや、良い」
どうやら優花は怖がっていないようだ。丁度いいしこのまま口止めしておこう。
「悪い園部、この事は黙っててくれ」
「黙っててくれって…………コイツ等が言うんじゃ」
「雑魚の俺にやられたって? 強者にゃ媚びるくせにプライドだけがいっちょ前のコイツ等が?」
そう言われると、確かにないか、と思う。色々聞きたいことはあるが、取りあえずは無事を喜ぶ事にした優花。と………
「何をやってるんだ!」
この世界で……ここは異世界なので、あらゆる世界で一番面倒臭そうなのがやってきた。我等が勇者、天之河光輝だ。光輝は足から血を流す檜山を見て、ハジメを睨みつける。
「南雲………お前、なんて酷い。よくもこんな事が出来るな!」
「最弱の俺に出来ると思ってんのか?」
「園部さんがこんな事する筈がないだろ!」
「俺がやれるか聞いてんだよ」
「お前以外に誰がやるっていうんだ!」
おかしいな。この男、ハジメの事を檜山達同様最弱と思っていた筈だ。なのになんで檜山達を倒せる前提で話しているのだろう。いや、間違いではないけど。
「おいその辺にしとけよ光輝。ハジメがやったとしても、こいつは一方的に人を痛めつけるような奴じゃねーって」
「龍太郎、何を言ってるんだ、事実こうして………」
「先に絡んできたのは檜山の方よ。南雲をリンチしようとして、返り討ちにあっただけ」
「リンチ? 檜山達がそんな事をするわけないじゃないか。大方、サボり魔の南雲を見かねて檜山達が声をかけてくれたのに嫌がってこんな事を、そんなところだろ」
「なっ!?」
その言葉に優花はカッ、と顔を赤くした。雫や香織も光輝を睨むが光輝は気付かず、檜山達は我が意を得たりとばかりに声を荒げる。
「そ、そうなんだよ! それなのに南雲のやろう、ぶっ殺すとか、死ねとかさあ!」
「やっぱりか………南雲、お前は本当にどうしようもない奴だな……」
「いい加減にしなさいよ天之河! 南雲はねえ、檜山に脅された私を守るために大人しく連れてかれたのよ………!」
「園部さん。南雲を庇おうとする君の優しさは十分伝わった。だけど、一緒に戦う仲間を傷つけようとする南雲を……」
『るせえぞ園部! 何ならてめえが相手するかぁ?』
『負けたら俺らの南雲への善意踏みにじった罰を…………そうだなあ、体で払ってもらうけどなあ』
と、微かなノイズ混じりな檜山達の声が聞こえた。振り返るとペンシル型のボイスレコーダーを持った恵里がニヤニヤ笑っている。檜山達の顔が青く染まる中、カチリとスイッチを押し操作する。
檜山達の汚い罵声がたっぷり録音されていた。
「証拠はもう十分だろう勇者君。ハジメだって最初は無視してたんだぜ? けど優しいからねえ、園部さんのために仕方なく付き合ってやってたのに、無抵抗を良いことに調子づかれてこの有様だ……」
やれやれと肩をすくめる恵里は、そのままハジメの下まで歩く。
「君は本当に優しいよなあ。その気になれば始めっから簡単に倒せたのに。だけど、コイツ等は調子に乗るだけで反省なんてしないぜ? さっさと終わらせてしまえば良いんだよ。時間の無駄だ」
「言い方はキツくても、訓練をサボる南雲に稽古をつけようとしたのは事実だ。南雲の行為は流石にやりすぎだ」
「はぁ〜?」
わざとらしく大きな声を出し首を傾げる恵里に、光輝はうっ、と思わず後退る。
「一体、どうしたんだ恵里。君はそんな風じゃなかった筈だ………」
「何知ったかぶってんだおい」
「知ったかぶるなんて、だって俺達は、小学校から………」
「ふーん。ねえ、じゃあ君が僕を救ってくれたこと覚えてる?」
「え、あ、ああ………一年の時に………」
「あははははははははは!」
光輝の答えに、恵里は可笑しそうに腹を抱えて笑い出す。
「一年? それって高校生の? 救ったって、まさか『恵里がやったことは反省させる。俺に免じて許してやってくれ』って、あの台詞?」
「あ、ああ………」
「…………ああ、笑える。ほんと、笑える。勇者くんさあ………君は僕を騙したことはあっても、救ったことなんて一度もねーんだよ」
その表情は、全くの無だった。怒りに歪むわけでも嘲笑を顕にするわけでも悲しみを隠しているようですらない、完全な無。そこに一切の感情を感じさせないその表情に、光輝は再び後退る。と………
「お前らそこで何をやっている! もう訓練が始まるぞ!」
と、メルドの声が聞こえた。光輝は何か言いたげにしていたが、龍太郎と雫に連れられその場から去る。檜山達は治療して欲しそうに香織を見るが、香織はそんな彼等を一睨みして去っていった。
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