レベルアップで世界最強 作:奈落兎
翌日、一同はオルクスに向う。ステータスプレートを見せ迷宮に入った人数をチェックするらしい。
しかしまるで博物館の入り口のようだ。露店も所狭しと並んでいる。少し下には地上の魔物よりも強い魔物が大量に居るのに。
地上に出て来ないという絶対の確信があるのだろう。
殆どのクラスメートは余裕そうだ。一部の生徒は緊張した面持ち。そのうちの一人である雫は冥雲の柄にそっと手を添えている。同じく緊張している香織は、ハジメを見て笑顔で手を振ってきた。
迷宮の中は緑光石という光る鉱石のおかげでそれなりに明るい。魔物も、チート持ちの勇者御一行相手には弱くサクサク進んでいく。
交代で前線へ出て行きハジメと恵里の番だ。
「よし、ハジメ見せてやれ!」
メルドは、恐らくハジメが実戦経験豊富であることを気付いている。自分より強い事も。どんな戦い方をするのか興味津々な様子のメルドにハジメは面倒臭そうに向かってくる猪型の3匹の魔物を見つめる。
「錬成」
パチンと指を鳴らせば先端が《圧縮錬成》により強固になった無数の杭が飛び出し魔物を貫く。磔にされ足がジタバタと暴れるが、恵里が魔法で焼き殺した。
「流石だな!」
「………メルドさん、褒めるのは良いですけど、褒めすぎても南雲はそれを理由にサボりますからその辺に………」
「ん? 何を言っている。ハジメのこれは、土魔法じゃなくて単に形を変える錬成だ。それを戦闘中にこの範囲、この速度で行えるとはなあ。魔法使い系の天職だったなら最強の魔法使いになれただろうに………いや、反応速度から戦士系も行けるか?」
メルドの称賛に、数人が面白くなさそうな顔をしていた。檜山達小悪党組と光輝だ。
努力すれば大概のことが出来る彼にとっては努力は報われて当然であり、逆に努力しない者が褒められるなどあっていいはずがない事なのだ。
仮にハジメが本当に無能だったら努力が足りないと言うぐらいには努力信者の彼からすれば、元の世界の頃から授業中に寝て、帰っても漫画やアニメ、ゲームばかり(と光輝は思っている)なハジメは努力を怠る怠け者。称賛されることなど、あっていいはずが無いのだ。
小休止を挟みながら、移動していく。
現在本日最後の階層予定である20階層。21階層入り口まで向かえば帰還する。
ハジメはピクリと目の前を見つめる。
「お? ハジメ、さては気づいたな? まだ言うなよ? お〜い、お前等! モンスターが擬態しているぞ? よ〜くみろ!」
ハジメの視線が一つの場所に固定されたのを見て、メルドも気付きニヤリと笑うと周りに忠告する。光輝なんかが必死に探す中、獲物が自分達に警戒したことに気付いたのか岩に化けていたロックマウントというモンスターが現れ岩を投げてきた。それもゴリラだ。
ルパンダイブさながら迫ってきたゴリラに雫や香織を含めた女子達はひっと、短い悲鳴をあげるが、小学生の時から性の視線を向けられていた恵里からすればどうと言うことはない。
動けない女子達に、ハジメが仕方なく手を貸す。ロックマウントの目に石を投げ、怯んだ隙にメルドが斬り捨てる。
光輝は香織達を怖がらせたロックマウントに怒り、狭い洞窟内で大技を放った。
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐き歯がキランと光るイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルドに拳骨を食らった。
「へぶぅ!?」
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。
その時、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
「グランツ鉱石だな………ニーナが持ってた」
ハジメはとある貴族令嬢に頼まれ指輪を加工したのを思い出す。特に効果はないが見た目が綺麗で求婚に用いられるのだとか。
因みに余った分を貰い恵里に髪飾りを作って渡したりした。
「………プロポーズ……」
「そういう意味だと、僕は君にプロポーズされたことになるのかな?」
恵里がハジメに擦り寄りながら目を細めると香織が羨ましそうに見つめてくる。その視線に、檜山は舌打ちして良いところを見せようと駆け出した。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく檜山。それに慌てたのはメルドだ。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着き、うるせえおっさんだなと内心毒づきながら鉱石に手を伸ばす。
メルドは、慌てて止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
騎士の一人が叫ぶが遅い。檜山の手がグランツ鉱石に触れ、魔法陣が現れる。あっという間に広がったそれは部屋全体を包み込み眩い光が周囲を覆う。
光が晴れると一同は幅10メートル程の橋の上にいた。手摺も縁石も何もなく、橋の下には底の見えぬ闇が広がる。さしずめ奈落の入り口といったところだろう。
橋の向こうには通路。ハジメ達の背後には階段。そして、階段の前と橋の中央に魔法陣が現れる。どうやら魔物を召喚する魔法陣のようで、階段前からは骸骨剣士トラウムソルジャー。反対からは、トリケラトプスのような魔物が現れる。メルドはそれを見て目を見開く。
「まさか、ベヒモスなのか…………」
ベヒモス。かつて最強と言われていた冒険者ですら勝てなかった魔物だったか、とハジメは己の知識から情報を引っ張り出す。
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
「っ! ……み、見捨てるなんてできません!」
光輝とメルドが言い争う内にもベヒモスはこちらに向かって突進してくる。咄嗟に騎士達が障壁魔法を発動するも、その衝撃で橋が揺れ、生徒達はパニックになり我先にと階段に向かって駆け出す。
連携はもちろん訓練で学んだ事も活かしきれていない。ハジメは舌打ちして、クラスメートに突き飛ばされ転んだ優花に襲いかかったトラウムソルジャーを蹴り殺し、改めて周りを見る。
恐怖は十分。皆、これが遊びではないと理解しただろう。
だが同時にパニックになり本来の動きも出来ていない。落ち着かせるためにはリーダーが必要だろう。そのクラスリーダーはこの一団のリーダーであるメルドと言い争っていた。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
メルドからすればこれは撤退戦。勝てぬ戦いだ。だが、光輝は仲間を置いていかずにベヒモスを倒すつもりである。自分なら倒せるからと、引こうとしない。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。
「今回ばかりは無茶だ! ていうか後ろ見ろ後ろ!」
龍太郎の言葉に光輝は漸く後ろに振り返る。そこでは仲間達が骸骨に襲われている。
「ここはメルドさん達に任せて、俺等はあっちをどうにかすんぞ!」
「くっ! だけど………!」
光輝の中でクラスメート達を助けることと、メルド達を見捨てずベヒモスを倒すという2つの正義がせめぎ合う。世界は、そんな迷いの答えを待たない。
「下がれぇぇぇぇ!!」
メルドの叫びと同時に障壁が吹き飛ぶ。暴風のような衝撃波が光輝達を吹き飛ばすも、咄嗟にメルド達が庇ったためなんとか無事ですんだ。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
光輝が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
二人がベヒモスに突貫する。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
光輝の指示で香織が走り出す。
光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」
光の本流がベヒモスを飲み込む。雫と龍太郎は既に撤退した。詠唱が終わるほんの数秒で、だいぶボロボロになっていた。
だが、これでと光輝が緊張を解こうとするが、土煙の中から現れたのは無傷のベヒモスだった。
低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィ───という甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。
「ボケッとするな! 逃げろ!」
メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った光輝達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始め───
「寝てろ」
ハジメの拳が頭蓋を砕き割り、ベヒモスの顎が橋に打ち付けられた。
「……………は?」
「天之河、クラスメート達の方に向かえ!」
「は? え? な、南雲? 何で、お前が……だって、俺でも………お前が、そんな、ありえな───」
「光輝! ぼーっとしてないで行くぞ!」
困惑する光輝を龍太郎が連れて行く。ハジメはそれを確認するとベヒモスに向き直る。
フラフラと立ち上がりハジメを睨むベヒモスは、固有魔法が使えなくなったのか普通に突進してくるも、ハジメは両角を掴む。体重差から引きずられるも、橋の一部が砕けるほど踏み込みベヒモスの突進を止めたハジメは、腕をそれぞれ上下に動かしベヒモスの首を捻る。
ゴギャン! という音ともにベヒモスの首の骨が砕け、完全に沈黙した。ハジメが直ぐにクラスメート達のもとに戻ろうとした、まさにその時だった───
世界から音が消えた。
争う音も、生徒達の悲鳴も、落ち着かせようとする光輝の叫び声も止まり、風の音すら止む。
無音の世界。動く者は誰もいない。戸惑っているのではない。そもそも、今の世界に
たった一人、彼女を覗いては。
『───良い』
どこから現れたのか、銀色の髪と………翼を持った女は、笑う。そして唐突にゴボリと血を吐き、血の涙を流した。
体そのものも軋む。まるで、内側から破壊されるかのように。
『ああ、圧倒的な力が絶望を打開する。素晴らしい、まさにこれぞ英雄譚に相応しい。だが、些かありきたりが過ぎる』
パチパチと拍手し、全てが静止した世界で英雄と称した人物を見つめ目を細める女はしかし、どこかつまらなそうに異世界の勇者とその仲間達を見る。
『やはり初めての失脚は劇的でないと面白くない。単なる敗戦では、味気ないな。それではつまらん。我がつまらぬ。故に……』
ニィ、と笑いながら女はベヒモスの上に降り立つ。指を向ければ、足が徐々に砕けていく。
『盛り上げよう。慟哭を聞かせよ。恐怖から抜け出せぬ無様を晒せ。そんな仲間を見れば、嗚呼、お前は我を許せぬだろうか? この世界に連れてきた我を、殺そうとするだろうか?』
女の目に映るのは、勇者………ではない。たった一人、ベヒモスに背を向ける男。
『……チッ。ここまでか………嗚呼、器がないことが悔やまれる。だが、我は何時でもお前を見ている』
そう言い残し、女は完全に塵へと返り、音が戻ってくる。
「────!?」
ハジメは足を止め振り返る。
「グゥ、ルルルルルル」
ベヒモスが首が90度以上曲がったまま、立ち上がる。首の位置はすぐに戻り、額の傷が塞がり、赤熱化し炎を吹き出す。
「グルオオオオオオオオオ!!」
何が起きたか解らないが、一つだけ言えること。それは、第2ラウンドが始まったという事だ。