レベルアップで世界最強 作:奈落兎
ドゴォ! とハジメの蹴りがベヒモスの顎の骨を砕く。顎の骨を砕くほどの威力は、首の骨を折る。折ったはずだが、ベヒモスはハジメの足に
「─────!!」
「ヴヴヴゥゥゥゥッ!!」
ガンガンと首を上下に振りハジメを橋に叩きつけるベヒモス。ハジメは錬成を行い地面に手を埋め体を固定すると身体を捻る。
元々牙はハジメの体を貫いていない。抜け出た足を反対の足と揃え両足蹴りを放つ。ベヒモスの頭が抉れ体が橋を滑るように吹き飛んでいくもすぐに立ち上りハジメを睨み付けてくる。
「チィ、どうなってやがる…………!」
ベヒモスの強さが変わっている。強化というより、最早
だから、何度も確実に殺している。殺している筈だ。首の骨を折った。頭を砕いた。内臓を貫いた。
だが、死なない。
即死の一撃でも即座に回復して攻撃して来る。
回復で良いのかも不明だ。どちらかというと傷ついた事実が無かったことになったような………傷つく前に
「ゴアアアアアアアアアッ!!」
兜を赤熱化させ突進して来るベヒモス。ハジメが角を掴むと炎が腕に絡み付く。
「こん、のぉ!」
鼻頭を蹴りつけ角を引き抜く。やはり再生するベヒモスだったが角をベヒモスの頭部に深く突き刺す。再生の妨げになればと思ったが、あっさり抜けた。
再生した肉に押し出されている訳でなさはなさそうだ。ベヒモスは再び突進しようと足に力を込めている。
「ばーん」
「────!?」
と、緊張感のかけらもない声がハジメのすぐ後から聞こえる。途端にベヒモスの体がグラリと倒れかける。
振り返れば人差し指と親指を立ててピストルに見立てた手を上に向けた恵里が居た。
「恵里!? お前、何やって……!?」
「サポート。だってあれ、どっちかというと僕の本分だ」
恵里はそう言ってベヒモスを見つめる。あれは降霊術だ。いや、あるいはそれに近い、それ以上の何か。この世界の高名な降霊術ですら見抜けぬであろうそれを、恵里は観察し、理解する。
再生しているのは別の何かだが、何度も死んでいるベヒモスが動くのは魂……より厳密に言うなら生存本能を消し去り闘争本能のみで構成された魂の欠片を死体に定着させられているからだ。
「術者を倒すしかねえってことか?」
「いいや? 闘争本能以外の意思の部分を動力にしてるみたいだから、それが尽きるまで壊すのも手だね。術者はどうやら何処かに行ったみたいだ。後6時間ぐらい全身の骨をへし折るレベルで殺し続ければ君の勝ちだね」
「ふざけろ」
可能だがこれは撤退戦。そこまで時間をかける気はない。クラス全員が階段の向こう、上の階層に行ってくれたら助かるのだがトラウムソルジャーがいる以上難しい。階段にたどり着いても仲間は見捨てられぬと残っているのだ。
ベヒモスを錬成で橋に沈めながらハジメはいっそ橋を落とそうかと考えるが、それは今後の探索に影響があるかもしれないと迷う。
橋を壊さぬためにあまり深くは沈めらぬベヒモスが暴れ抜け出そうとするがハジメの錬成のほうが速く、抜け出せない。さて、ここからは千日手だ。死なぬベヒモス、最下層に用があるため橋を落とせぬハジメ。
クラスメート達が階段にたどり着くのを待って、恵里を抱えて全力で撤退するか?
「因みに僕ならベヒモス止められるよ?」
「…………あ?」
「一時的にだけどね。魂と肉体と繋がりを薄くすれば、そのすきに」
「で、俺は何をすりゃいい?」
「グチャグチャにしてくれたまえ」
「りょーかい!」
すぐさま走り出すハジメ。錬成が止まり、ベヒモスは橋の表層を砕きながら抜け出すとハジメに向かって突進する。
「おっ───らぁ!」
「─────!!」
拳を握りしめ、腕に血管が浮かび上がるほど力を溜め、放つ。ベヒモスの頭部のみならず衝撃で背中も大きく抉れる。しかしやはり何事も無かったかのように再生していく………が──
「
恵里の声が響く。ベヒモスの体は、再生する。すぐに動こうとして、しかし叶わない。
戦い続けるというベヒモスの闘争本能が、体から剥がされたのだ。それでも術者の実力は恵里より上。
数秒でまた動ける。数秒は、かかる。
「行くぞ」
直ぐに走り出すハジメ。戦闘に参戦できるように、恵里は抱えないが離れすぎない。トラウムソルジャー達を蹴散らし道を作り、塞がらないうちに恵里と止めに渡るからだ。と、その時ベヒモスの気配が大きくなる。
「うわぁ、ずるぅい。条件付きで備えてたのかぁ」
恐らく支配が断ち切られた時に備え、術式を忍ばせていたのだろう。人工魂魄とも言えるそれは恵里が離した魂が肉体に戻る前に与えられた命令をこなす。即ち、橋を落とすという行為だ。
「─────!!」
赤熱化した兜を橋に叩きつけ、橋が激しく揺れひび割れていく。背後でガンガンと爆音がなるたびに橋が揺れ、とうとうベヒモスの立っていた場所が壊れ、そのタイミングでベヒモスの闘争本能も再び宿り追ってきた。
メルドは階段に辿り着くと直ぐに生徒達に魔法を放ちベヒモスを攻撃するように指示を出す。
檜山はハジメ達など置いてとっとと逃げ出したかったが、ふと香織を見る。ハジメを心配そうに見つめる香織を見て、昨晩を思い出す。
檜山は香織がハジメの部屋に入るところを見たのだ。誰かの部屋の前で座って待つ香織を見て、声をかける勇気もなく、それでも最近女子達の間で噂になってる強姦魔から守ると切り出せば、などと考えているうちにハジメがやってきて香織を部屋に入れる所を、見ていた。
(今ならバレねえ………!)
檜山は全員の視線がベヒモスに注がれているのを確認すると、魔法を放つ準備をする。得意系統の風ではなく、時間のかかる炎の魔法。流れ弾に見えるように進み方まで細かく設定する。
(死ね───!)
放った魔法は些か不自然な動きでハジメに向かう。それでも、この状況なら気付くものは居ないはず。
(死ねえ!)
まもなく着弾。狂気的な笑みを浮かべる檜山の視界で、ハジメが片腕で薙いで炎をかき消した。
「………はえ?」
得意系統ではないとはいえ、自分が放った魔法をあっさり消され、ポカンとする檜山はしかしすぐにハジメと
「ッ!?」
バレた。バレた、バレたバレた!!
まずいまずいまずい!
檜山の脳裏に浮かぶのは訓練と称し痛めつけようとして逆にやられた記憶。
今度こそ、殺される? いや、殺されなくてもバレたら、罪に裁かれる? 俺が? 南雲を攻撃しただけで?
「ひ、ひぃあああ! クソ、死ね、死ねよおおお!」
檜山の叫びになんだなんだと振り返る視線に、檜山は気付かない。
「ここに風撃を望む──〝風球〟ぅぅ!」
真っ直ぐこちらに向かってくる魔法にハジメは舌打ちする。よりによってこのタイミングで来るか。愚かなのか、いっそ清々しいのか。
取りあえず、暴れられても叶わないので階段にたどり着いたら殴ると、決めた時だった………
「あ───」
後ろから聞こえる小さな声。檜山の事など最早眼中に入れず振り返れば恵里の足元が崩れ落ちて行く所だった。
「恵里!」
すぐに手を伸ばす。まだぎりぎり、瓦礫を足場にすれば助かる。と………
「────!?」
「ちゅう」
伸ばした腕の手首を恵里に掴まれ、引き寄せられキスされる。わざとらしく口でキスの音を言った恵里。突然の行動にハジメの思考が固まる。
「嬉しいなあ……助けに来てくれて。でもこれで、雫との約束も香織との約束も、後あのお姫様との約束も果たせないねえ」
ニィ、と微笑んだ恵里の言葉に、ハジメが頬を引つらせる。
「君が悪いんだぜ? 僕というものがありながら、女を部屋に連れ込むなんて。ああ、ごめん。その事に文句は言わない約束だったね。恋する乙女の細やかな捻くれだと思って一回だけ見逃しておくれよ」
「お前、まさか………わざと?」
あの一瞬、思考が停止した数秒の時点で最早戻る事は不可能。下手したら死ぬかもしれないのに、この女はわざと落ちたのかと引きつりながら尋ねるハジメに、恵里は肯定するように笑みを深めハジメに抱きつく。
「ああ、嬉しいな。嬉しいなあ………すべての約束をほっぽりだして、自分という最強の手札を失い考え無しが最強の座につくことでクラスメート達が危険にさらされる可能性を、考えることすら放棄して僕を助けに来てくれた。愛してるぜ、ハジメ」
「こ、この────こんのクソ女ぁぁぁぁっ!?」
絶叫と笑い声の尾を引きながら、ハジメと恵里は闇の中に飲まれていった。
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