「フットボールフロンティアの地区予選一回戦の相手が野生中に決まりました」
冬海先生から予選一回戦の対戦相手が告げられる。原作通りに野生中か。野生中は昨年の地区予選を決勝まで勝ち進んだチーム。全国レベルの身体能力に加え、空中戦に滅法強いのが特徴だ。とはいえ、原作とは違い豪炎寺と壁山は既に〈イナズマ落とし〉が使える。帝国や尾刈斗の時は出番がなかったが、野生中戦では猛威を奮ってくれることだろう。
しかし、冬海先生がこの部室に来るのは随分と久しぶりに感じるな。帝国や尾刈斗との試合が決まった時も来なかったし。
「初戦で大差で敗退、なんて事は勘弁してほしいですね」
なんて言っているがこの時期のこの人は既に影山と繋がっているはず。
内心ではむしろ早く負けろとでも思っていそうだ。原作とは違う形で何か仕掛けて来る可能性は否定出来ないし、この人の言動にも注意しておいた方がいいかもしれないな。
「ああ、それから…」
「チィーっす。オレ、土門飛鳥。一応DF希望ね」
土門飛鳥。鬼道が送り込んだ帝国のスパイ。原作では雷門に転校して来た当初はスパイとしての役目を果たしていたが、円堂達と関わっていく内に自分の行為に罪悪感を抱き始め、ある出来事が切っ掛けで帝国を裏切り、名実共に雷門サッカー部の一員となる。
「君も物好きですね、こんな弱小クラブにわざわざ入部したいなんて」
そう言って去っていく冬海先生。仮にも自分が顧問を務めるクラブに対してのあまりの言い草に土門も困惑している。
「土門君」
「あれ?秋じゃない。お前、雷門中だったの?」
この二人は昔、アメリカで一緒にサッカーやってたんだったか。よく覚えてないけど、古い知り合いであるのは間違いない。
「歓迎するよ。よろしくな、土門。木野、知り合いなんだったら土門のこと、お前に任せてもいいか?色々教えてやってくれ」
「うん、分かった」
「ところで、相手、野生中なんだろ?大丈夫かな」
木野に土門のことを頼んでいると、土門がそう話し出す。
「なんだよ、新入りが偉そうに」
「前の中学で戦ったことあるからね。瞬発力、機動力共に大会屈指だ。それに空中戦での強さは折り紙付き。そう簡単に勝てる相手じゃないと思うけどね」
アニメの方でこんなやり取りあったな。てことはこの世界はアニメの世界線ってことでいいのかな。ゲームとアニメだと微妙に展開が違うからややこしいんだよな。フットボールフロンティア編での差異が一番大きいのは一之瀬の加入の有無や〈マジン・ザ・ハンド〉の習得時期辺りか。特に一之瀬はゲームだと隠しキャラクターで、特定の条件を満たさないと仲間にならなかったはずだから気を付ける必要がある。まあ、そんな先のことより今は野生中の方が大事だ。
「土門の言う事にも一理ある。ファイアトルネードやドラゴントルネードがあるし、イナズマ落としで高さ勝負に負けるとは思えないけど、決して油断の出来る相手じゃない。気を引き締めていこう」
そう言って練習に向かう。今日の練習場所は河川敷だ。
「円堂。さっきの言い方だと、イナズマ落としって技は高さに定評のある技なのか?」
「ん?ああ、イナズマ落としはな…」
土門に〈イナズマ落とし〉について説明してやる。
「へぇ…。なるほどね…」
……これも帝国に情報として流すんだろうな。正直あまり気分のいいもんじゃないが、知られて困るようなもんでもないし、土門が俺達の仲間になる為には必要な過程だ。今は目を瞑るとしよう。
「「ジャンピングサンダー!!」
「シャドウヘア〜〜」
「壁山…スピ〜〜ン」
一年生組は土門の言葉でまた不安になっているらしい。自分達で考えた必殺技の練習をしているのだが、栗松と少林はいい。確か〈ジャンピングサンダー〉は威力こそ低いが、ゲームでアニメから逆輸入する形で実装されていた技だからな。習得出来れば攻撃の幅が広がる。
だが、宍戸、お前は試合中にどうやって髪の中にボールを入れるつもりなんだ。しかもボールを二つ使っている時点でルール的にもアウトだ。壁山に至ってはその場で回転しているだけだ。そんな事してないでお前は早く〈ザ・ウォール〉を覚えてくれ…。
「クイックドロウ!!」
「コイルターン!!」
マックスが染岡からボールを奪い、影野がそのボールを奪い返す。うん、いい動きだ。それにマックスと影野はいつの間にか必殺技が使えるようになってたんだな。これで二年は目金以外は全員が必殺技を習得した訳だ。
原作の同時期よりは多少皆も強くなってるのかな。でも、一年と二年であまり実力に差が出来てしまうと、連携にも支障が出るだろうし、気を付けておく必要がある。
一年生達は焦りもあるんだろうな。帝国、尾刈斗との試合で活躍したのは二年生ばかりだ。自分達もサッカーが好きで入部して来て、真面目に練習に取り組んで来たのに、結果が残せない。それが歯痒いのだと思う。
今度、一年を誘って居残り練習でも一緒にやってみるか。
「円堂、ちょっといいか」
そんなことを考えていると豪炎寺が声を掛けてくる。
「なんだよ、豪炎寺」
「少し、相談したい事があるんだ」
「相談?」
珍しいな、こいつが俺に相談事なんて。何かは知らないが、大事な大会前に悩みを抱えたままにしておいて、試合で実力を出せないなんてことになったら困るからな。力になれるかは分からないが、聞くだけ聞いてみるか。
「俺が力になれる事なのか?とりあえず話してみろよ」
「ああ……」
いつになく真剣な顔になる豪炎寺。まさか思ったより深刻な内容だったりするのか。
「俺、最近新しい必殺技の特訓をしてるんだけどさ。何度やってもちっとも上手くいかないんだ。だから何かアドバイスをもらえないかと思って」
「新しい必殺技?」
知らなかった。こいつも必殺技の特訓をしてたのか。でも、〈ファイアトルネード〉に〈ドラゴントルネード〉に〈イナズマ落とし〉、次はどんな技を覚えようとしてるんだろう。
「どんな技なんだ。アドバイスって言われても、詳しい事を聞かないと流石に何も答えられないんだが」
「ああ、爆熱スクリューだ」
「………はい?」
俺の聞き間違いかな。こいつ今〈爆熱スクリュー〉って言ったか。
「ごめん、もう一回聞いてもいいか」
「爆熱スクリューだ」
「……………」
〈爆熱スクリュー〉。原作における世界への挑戦編で豪炎寺が習得する技で、豪炎寺が単独で放つ必殺技としては最高の威力を誇る。
習得出来ればフットボールフロンティア参加校のキーパーで、止められる者等絶対に居ない為、間違いなく無双出来ることだろう。しかし、断じてこんな時期に習得出来る技ではないし、しようとするべき技でもない。
「なんで今、そんな技覚えようとしてるんだよ……。どう考えても無理だろ…」
「この間の尾刈斗戦で、お前が新必殺技を完成させただろう?」
「うん」
「だから俺も新しい技を開発しようと思ってな?」
「うん」
「爆熱スクリューを覚えようと思ったんだ」
「なんでだ」
なんで試合中はあんなに頼りになるのに、いきなり斜め上方向にぶっ飛んだ思考してるんだよこいつ。
「百歩譲ってもそこは普通、爆熱ストームからじゃないのか?」
「?爆熱スクリューの方が威力は高いだろう?」
「いや、確かにそうだと思うけど…、そもそも本当に覚えられると思ってんの?」
「?」
豪炎寺は心底不思議そうな表情を浮かべる。
「俺は豪炎寺なんだから、爆熱スクリューだって使えるはずだろ?」
「あ、はい」
駄目だこいつ。自分が〈爆熱スクリュー〉を習得出来る事を全く疑っていない。
「で、何かアドバイスないか?」
「え、あ、ああそうだな……えっと」
相談の内容が衝撃的過ぎて思考が上手く纏まらない。うん、アドバイスだろ。〈爆熱スクリュー〉の。うん、分かんねーよ。
「えっーと、あ、そうだ!何か、そう、回転!回転が重要なんじゃないか?」
「回転?」
「ほら、原作で豪炎寺が初めて爆熱スクリューを使った時、綱海のシュートを見て、あの回転は!とか言ってたじゃん?」
「ふむ…」
何か考え込む豪炎寺。何か混乱して普通に答えちまったけど、これ止めるべきだったんじゃないのか。もし、万が一使えるようになったら更に原作が崩壊するんだが。
「ありがとう。参考になった」
「え、ああ、そう……」
練習に戻っていく豪炎寺。
……あいつ、本当に習得したりしないだろうな。
何事もないただの練習のはずが、思わぬ不安を抱えることになったのだった。
これからどうなるか?作者にも分かりません。