冒頭以外は鬼道視点。
それ程大きくはなかったが、その声は不思議とよく響いた。
声に釣られて雷門イレブンが視線を向けた先には、宣言通りにフィールドプレイヤーのユニフォームへと装いを変え、FWのポジションへと歩いて来るデザームの姿があった。その代わりに元々FWのポジションで出場していたゼルがゴールへ向かう。
「あいつ、キーパーじゃなかったのか?」
「何考えてるんだ……?」
それを見た雷門の選手達の間に困惑が広がる。GKとFWのポジションチェンジ等、早々聞く話ではない。彼等が知る中では、円堂が何度かゴールを離れてシュートを打つ場面は記憶にあるが、それにしても別にポジションを変えた訳ではなかった。両極端とも言える2つのポジションの適性を持つ者等、中々居るものではない筈だ。
故にこの場に置いて、デザームの真の力を知るイプシロンの選手達以外で、このポジションチェンジに驚いていないのは2人だけだ。
わざわざ言うまでもないが、1人は鬼道。
原作の知識を持つ彼はデザームの本当のポジションを知っており、それを実際に目の当たりにしたところで、警戒こそすれど驚きはない。
そして、もう1人は────
「ようやくだな。……面白い試合にしてやろうじゃないか」
静かにそう呟き、愉快気な笑みを浮かべていた。
「雷門イレブン。お前達の強さに敬意を評して、私も本気を出すとしよう」
問答をするつもりはないらしく、一方的にそれだけ言い残してポジションにつくデザームからは、リードされているにも関わらず、それを感じさせない程の自信が伺える。
他のイプシロンの選手達も、ニタニタと薄気味悪い笑みを浮かべている。
どうやら余程デザームの実力を信用している様だが、ここから巻き返される程の力があるとは思えんがな。無論、油断するつもりは微塵もないが。
風丸達も未だに困惑は残っている様だが、奴等の様子からはったりの類でないことは感じ取っている。わざわざ言わずとも、デザームを警戒して動くだろう。
それよりも気になるのは吹雪の奴だ。
前半から何か企んでいる様だが、いったい何をしでかすつもりなのか……。
あいつの性格から考えても、万が一にもこちらが負ける様な事ではないはずだが、逆に言えば負けなければ何をしてもいいと考えている可能性はある。
度が過ぎた事をしでかさないように注意せねば……。
試合再開のホイッスルと共に、こちらの陣地へと切り込んで来るデザーム。奴の実力を見極めるべく、ボールを奪いに行こうとした染岡を視線で制して、俺が奴に向かう。
「……ッ!!」
俺が間合いに入った瞬間、デザームは強烈な踏み込みから一気に加速し、俺を抜き去ろうとする。
「むッ……!」
だが、その加速に僅かに遅れながらもついてきた俺に、デザームの顔が微かに歪む。
確かにかなりのスピードだ。今まで俺が相対して来た者達の中でも、間違いなく最上位に位置する速さ。しかし、俺がこうしてついていけている時点で、内心でデザームの脅威度を一段下げる。
速さで振り切れないと見たデザームは俺を躱すべく、細かくフェイントを織り交ぜて俺を翻弄しようとするが、これにも問題なく対応する。
未だにボールを奪えてはいないし、キック力等を加味した総合力で言えば、俺以上の可能性は否定できない。けれど、吹雪と戦った時の様な差は感じないし、バーンの様に目で追えない程の速さがある訳でもない。
こいつは今、ここで倒せる相手だ。
「デザーム様!」
俺を単独で躱すのは難しいと判断したか、デザームはフォローに入ったメトロンとのワンツーパスで俺を突破する。流石に2対1の状況では分が悪い。
だが、後ろには吹雪がいる。あいつならデザームからボールを奪える筈だ。そうすれば、デザームの力に心酔しているイプシロンの連中には間違いなく大きな隙ができる。そこを一気にカウンターで攻めて追加点を奪えれば、それでこの試合は決まる。
そう思い振り返った先では─────
────あっさりとデザームに抜かれる吹雪の姿があった。
「………は?」
抜かれた?吹雪がデザームに?馬鹿な。
俺を単独で抜けなかったデザームに、ポジション的にもオフェンスの方が得意な俺よりも、ディフェンス能力で優れる吹雪があんなにあっさりと抜ける筈がない。
いったい何がどうなってるんだ……。
混乱する俺だったが、デザームに抜き去られた吹雪の表情を見て、その答えを悟る。
────あいつ、抜かれたのはわざとか!?
吹雪の表情には、一切感情が乗っていなかった。何一つとして揺らぎのない、完全な無。だが、吹雪の性格上、自分を出し抜いた相手がいれば、雷門との試合で見せたように激昂して荒ぶるだろう。そうでなくとも、あの様に全く心が動かない等有り得ない。
それこそ、自分から意図して抜かせでもしない限りは。
吹雪が何のつもりでデザームの突破を許したかは分からないが、結果として俺が先程まで思い描いていた未来とは真逆の事がフィールド上で起こっていた。
俺と吹雪という、現状の雷門で最も強いと言える2人が立て続けに突破された事で動揺が広がっている。デザームはそれを見逃さない程、甘い男ではない。
吹雪を突破した勢いのままに雷門の中盤を食い破ったデザームが、雷門ゴールに迫る。ディフェンス陣も慌ててデザームを止めようと動くが、それよりもデザームがシュート体勢に入る方が早かった。
デザームがボールを踏みつけると、足元に異空間へと繋がる穴が開き、デザームが姿を消す。
「!?奴はどこに……」
「来るぞ、源田!」
────グングニル……V3!!
何処からかデザームの声が響き、先程デザームの足元に開いた穴が空中に開き、そこから禍々しい紫のオーラを纏い、槍と化したボールがゴールへと向かう。
「なっ……!?ビーストッ……ぐおおお!!」
源田はこのシュートに反応したものの、〈ハイビーストファング〉の発動は間に合わず、当然素の状態では止められる筈もなく体ごとゴールへ押し込まれる。
これで得点差は3-2。差が縮まってしまったが、まだリードはしている。けれど、全く油断のできない状況だ。
悔しさを露わにする源田と、そんな源田に声を掛ける風丸や壁山の姿を見つつも、思考を巡らす。
源田には悪いが、今のは例え〈ハイビーストファング〉の発動が間に合っていたとしても、止められたかどうかは怪しい。
デザームの〈グングニル〉も当然の如く進化していたし、単純な技の威力だけなら世界レベルと言っても過言ではない。だが、あのシュートの最も厄介な点はその威力ではない。
あの技はシュートを打つ瞬間は異空間へと潜っていて姿が見えない。シュート自体もその軌道が途中からしか分からないせいで、キーパーからは非常にタイミングが図りづらい上に、シュートブロックも困難だ。
強力な技だという認識はあったが、これは想像以上だな。
それに吹雪の事もある。デザームをわざと抜かせたのはほぼ間違いないだろうが、何のつもりか問い質したところで素直に答えるとは思えない。
あいつが何を考えているか分からない以上は、どう動いてもフォローが効く様に立ち回るしかないが、そうなるとデザームを止めるのが非常に難しくなる。
先の対決から、俺を単独で抜けないのはもう理解できた筈だ。なら今度は最初から連携で突破しに来るのは明白。1体1ならともかく、多人数を一度に相手にして押し留められる程の差は、俺と奴等にはない。
なら、俺にできる手段はただ一つ。
────差が縮まったのなら、もう一度突き放すだけだ。
イプシロンがゴールを決めた事で、雷門のキックオフから試合が再開。染岡からボールを受け取った俺はまず不動へとボールを預けようとする。
が、このボールは吹雪にカットされた。
『!?』
味方が驚愕するのもお構い無しに、吹雪はそのまま自陣からの超ロングシュートを放つ。
吹雪のこのプレーに虚を突かれたイプシロンの選手達はこのシュートに反応できない。
「ワームホール……V3!!」
しかし、反応できなかったのはフィールドプレイヤーの話だ。問題なくこのシュートに反応したゼルが放った〈ワームホール〉によって、あっさりと止められてしまった。
吹雪の強靭な脚力によって放たれたシュートは、ノーマルシュートといえどそれなりの威力ではあった。だが、その程度ではイプシロンの必殺技を破るには足りない。おまけにコースもキーパーの真正面であり、とてもゴールを奪うつもりがあったとは思えない。
「なんのつもりだ、吹雪!!」
「私はゴールを狙っただけだが?それよりも、悠長に話している時間があるのか?」
吹雪に詰め寄るも、やはり全く悪びれもせずに白を切る。そんな吹雪の言葉に振り向けば、ゼルの素早いスローイングによって、既にボールはイプシロンのDFへと渡っている。こいつの思惑通りに動くのは癪だが、試合が止まっていない以上はこうして話している時間が無いのも事実だ。
「くそっ!」
仕方なく吹雪の元を離れて自陣へと走る。
そうこうしている内にボールはタイタンから、ファドラを経由してマキュアへ。
「戦術時間0,7秒。メテオシャワーだ」
「了解!」
ボールを持ったマキュアはボールを奪いに行った塔子を〈メテオシャワー〉で突破し、デザームへとパスを出す。
そのデザームのトラップ際を狙って風丸がスライディングタックルを仕掛けるが、デザームはこれを跳躍してあっさりと躱す。
「ボルケイノカット!!」
だが、畳み掛けるように空中で身動きの取れないデザームに土門の〈ボルケイノカット〉が迫る。しかし、デザームはこれにも動じず、〈ボルケイノカット〉によってボールを奪われるよりも早く、メトロンにパスを出す。
「1,4秒。右へ躱せ」
メトロンからボールを奪うべく、影野が〈影縫い〉を発動するが、影がメトロンの体を捕らえるよりも早く、突破されてしまう。
「真……ガニメデプロトン!!」
メトロンは両手に紫色のオーラを集めて、ボールを雷門ゴールに向かって打ち出す。どう見てもハンドにしか見えないが、審判の笛は鳴らない。
「もうこれ以上点はやらん!ハイビーストファングV2!!」
〈グングニル〉や〈ガイアブレイク〉と比べて威力の劣る〈ガニメデプロトン〉は、源田がしっかりと受け止めた。
ひとまず失点の危機は免れたが、全く安心はできない。
デザームが前線へ上がった事で、他のイプシロンの選手達も動きが良くなっている。デザームは元々、キーパーでありながら仲間に指示を出す司令塔の役割も担っていた。しかし、物理的な距離が離れている事もあり、前線には指示が出しづらかった筈だ。それがポジションチェンジした事で解消されてしまっている。
未だ1点のリードを守りつつ、しかし確実に、試合の流れはイプシロンへと傾き始めていた。
今回から後書きで四馬鹿のキャラ紹介?等していきます。
興味ない方は飛ばしてもらって大丈夫ですよ〜。
【円堂守】
今作の主人公。円堂守に転生?憑依?してしまった自称一般人。初期設定はほぼ無いに等しく、必殺技の習得等は作者の思いつきと勢いで決まる。
銀色のゴッドハンドとか、原作円堂の声とか、全部書いてたら勝手に生えてきた。不思議な事もあるものです。
色々と対策を考えて動こうとするも、大抵肝心なところで抜けていたり、予想外の事態に見舞われる為、原作知識を持っている強みを活かせた事はあまりない。
現在は渾身のガバでチームを離脱中の為、出番の多い鬼道の方が主人公では?という声も多い。
仲間からの信頼は厚く、雷門の頼れるキャプテン。尚、作者と読者からは馬鹿のお世話係という共通認識を持たれている。
おまけ
【雪見ダイフク】
特に由来はない。強いて言えば語感が気に入ったから。ちなみに作者は雪見だいふくを食べたことがない。
【原作を壊したくない円堂守の奮闘記】
原作?何それ美味しいの?状態の為、タイトル詐欺も甚だしい事になっている。
当初は円堂が自分以外の転生者達に振り回されつつ、原作を守ろうとするコメディみたいな感じにしようと思って付けたタイトル。間違ってもどシリアスな展開を書くつもりはなかった。
一応タイトル回収する方法を考えてはいる。
次回は豪炎寺の紹介?です。はい。