ちゃんと全部読んでます。
「点を取りにいこう」
試合終了まで残り時間僅かというところで同点に追いつかれてしまった雷門。このまま引き分けに持ち込むという選択肢も存在するが、風丸はあくまでも勝利を目指す意思を示す。
それに異を唱える者は居ない。引き分けで終わっていいなどと考えている者はこの場には誰一人存在しない。
源田はもうこれ以上点はやるものかと闘志を昂らせ、鬼道や染岡の瞳は自分こそが勝ち越しのゴールを奪うのだと雄弁に語っている。
その他の者達も気力は十分。勝負はここからだと気持ちを切り替えている。
対するイプシロンはもはや自分達の勝利を疑っていなかった。彼等はデザームが敗北する姿など微塵も想像しておらず、このまま追加点を奪いファーストランクとしての面目を保てるだろうことに安堵する者さえ居た。
彼等のその考えは一概に間違っているとは言えない。鬼道や吹雪と言った一部の例外を除き、デザームの実力は雷門を上回っている。その鬼道もディフェンス陣の徹底したマークで抑え込むことができており、吹雪に至っては1点目のゴールを奪って以降はこちらを負かそうという意思が感じられない。
故に、一抹の不安を胸に抱いているのは、依存とも言える周囲からの期待を一身に受けるデザームのみだった。しかし、そのデザームも何があろうと己の力で捩じ伏せるだけだと、その不安を捨て置いた。
そして───
「そろそろ頃合か」
両チームの闘志がぶつかり合うその中で、1人だけが、誰にも気づかれずに仄暗い笑みを浮かべていた。
染岡から風丸、風丸から塔子、そして不動へ。雷門は試合再開から細かくパスを繋いで攻め込むが、ここに来て改めて吹雪の存在が雷門にとって重い足枷となっている。
何をしでかすか分からない吹雪を避けてパスを回していることで、中盤のスペースを上手く使えていない。イプシロンもそれを分かっていて、本来なら吹雪につくはずのマーカーがフリーで動き回っている為、度々人数的な不利も生じている。
────どうする?このままじゃジリ貧だ。
ボールを持つ不動はこの状況を打開するべく、思考を続ける。
吹雪に回す?───否。吹雪とて負けていい訳はないだろうし、戦況が見えていないとも思わないが、それでもここまでの動きを鑑みれば今ボールを預けるのは余りにもリスキーだ。
FWの2人にボールを託すか?───否。雑にパスを出したところで、2人に届くまでにカットされるのが落ちだ。
鬼道は複数人にマークされているが、いざとなればどうにかして振り切りるだろう。それぐらいの能力はある。
染岡のシュートはデザームが相手ならともかく、身体能力などの面から見てデザームよりも落ちるであろうゼルであればゴールを奪えるかもしれない。
だが、だからこそ2人へのパスを出すのは最後の決定的瞬間であるべきだ。
サイドから崩す?───否。塔子に単独でイプシロンを相手取れる程の突破力は無い。あくまでも彼女の真価はディフェンス面の能力の高さにある。これ以上の失点が許されない今、カウンターに対する備えとして塔子はあまりポジションを上げたくない。
風丸であればそのスピードを活かした突破で活路を見出すことができるかもしれないが、ゴールを奪えるだけのシュート能力は無い。警戒を煽れはするだろうが、それ以上の直接的な脅威になり得ないのなら陣形を崩し切ることはできない。
で、あるならば────。
不動は己の能力と相手の能力、この試合で把握できている限りの情報を元に、ゴールへの道を導き出す。
「よし……いくか」
出した結論は、単独での中央突破。
『なっ!?』
白恋戦から今までパサーとしての役割に徹し、無理なプレーは避けてきた不動のこの選択に、敵だけではなく味方からも驚きの声が上がる。
「舐めるな!」
一瞬驚きはしたものの、それ以上にこの状況で自分を抜けると判断された不動のマーカーであるメトロンが怒りを顕に不動と対峙する。
別に不動はメトロンを舐めている訳ではない。勝算の低い賭けに出たつもりもない。
確かに不動はこれまで決定的なパスを供給することはあれど、目立った突破力を披露することはなかった。だがそれはできないのではなく、やる必要がなかっただけのこと。
中盤でボールを奪われることの危険性を、不動はよく分かっている。白恋戦では相手の中盤に自分の上位互換と言っても過言ではない吹雪がおり、中央突破など仕掛けようものなら即座にボールを奪われ、失点に繋がっただろう。故には端からそんな選択肢は存在しなかった。
この試合に於いては前半に吹雪が無理なパスを繰り返していたこともあり、個人技による突破が有効な場面は存在した。しかし、その時点ではこちらがリードしており、吹雪の行動が読めないという不安要素も有ったことから、手札は残しておいた方がいいと考えていた。
そして今、未だ吹雪という不安要素は残っているものの、限られた選択肢の中で最も可能性を感じたのがこの中央突破だった。
不動の全力のドリブルを見ていないメトロンと、これまでの試合の中でイプシロンの選手達の動きを観察してきた不動。情報という名のアドバンテージは不動にある。
右へ左へ細かくフェイントを織り交ぜ、メトロンを抜きにかかるが、流石にメトロンもそう簡単には突破を許さない。
不動のスピードでは純粋な加速だけで振り切るのは難しい。だが、ボールキープに徹すればメトロンが自分からボールを奪うのが難しいことにも不動は気づいている。
ボールを奪われる隙を作らぬよう細かいボールタッチを繰り返しながら、不動が僅かに後退する。メトロンは警戒しながらも深追いはせずに不動の出方を窺う。
不動は小さく息を吐き出し呼吸を整える。意を決して、持ちうる限りの加速を持ってメトロンの左側を駆け抜けようとする。当然の如くメトロンはそれについてくるが、スピードで振り切れないのは端から分かっている。
相手を上回る為には必ずしも相手を超える能力を持つ必要はないのだ。競うだけの力さえあれば、そこに駆け引きが生まれる。
加速する体を無理矢理制御し、鋭く右へ切り込む。メトロンも対応できてはいるが、最初からそのつもりで動く不動と、不動の動きを見て動くメトロンでは動き出しに差ができる。
メトロンが右足で踏み込み、不動を追い重心を左へ傾ける。その瞬間にメトロンの右足へボールを当て、股の間を抜く。一瞬何が起きたか分からず、メトロンの体が硬直する。その横を不動が通り過ぎて行く。
不動が中盤を突破した。その事実を周囲が認識すると同時に、状況が動く。
不動のこれ以上の突破を阻止するべく、鬼道についていた3人のマーカーの内の1人、モールが不動に向かう。鬼道は残りのマーカーを振り切るべく、仕掛けるタイミングを窺う。染岡は自身が今取るべき行動はシュートを打つことではなく、より確実性のある鬼道にボールを繋げることだと判断。ポストプレーの為にややポジションを下げつつマーカーを釣り上げる。
その全てを把握しつつ、不動はモールをギリギリまで引き付けて風丸へとパスを送る。
「中央へ切り込め!」
そのままライン際を駆け上がろうとした風丸だったが、不動の言葉で進路を変更し中央のゴール前へと切り込む。これによってゴール前での4対4の攻防となるが、不動にモールが、染岡にケンビルが、鬼道にタイタンとケイソンがマークについている今、風丸はフリーの状態。
これが単なるサイドからのドリブル突破であったならば、イプシロンは焦る必要はない。サイドを深く抉られたところで、風丸の決定力では直接ゴールを狙うのは難しく、またそこまで攻め込まれるまでの時間で守備を整えられる。
だが、ここで風丸がフリーの状態で抜け出せば待っているのはキーパーと1体1の状況。それも角度の無いサイドからならともかく、スペースの広いゴール正面となれば、1つの可能性が浮上する。
キーパーをドリブル突破されて失点するという可能性が。
ボールを持つのが他の選手であれば、そんな心配は要らなかったはずだ。だが、風丸のスピードはイプシロンの選手を上回っている。加えてキーパーのゼルは普段はFWのポジションについている。無論ゼルとてキーパーとしての能力は高い。しかし、長い間他のポジションをしていたが故に土壇場での判断力などで不安は残る。
だからこそ、風丸を無視することができない。鬼道をマークしていたケイソンが風丸を止めに掛かる。
この瞬間、3人でマークしなければ封じられなかった鬼道のマーカーは、たった1人となる。それも巨体故にイプシロンの選手の中でも比較的スピードが落ちるタイタン1人に。
ゴールを狙う鬼は確信する。好機が来たと。
「風丸!」
「ッ!不動!」
ケイソンを抜きに掛かるか一瞬思案した風丸だったが、不動の声に反応してそちらへパスを出す。
パスが己の元に届くまでの僅かな間に、不動と鬼道がアイコンタクトを交わす。ここまで来れば、お互い何をすべきかは分かっている。
モールにぴったりと張り付かれながらもボールに走り込んだ不動は、そのボールをダイレクト、かつヒールでモールの股の間を抜きゴール前に通す。そして、そこには当然のようにタイタンを引き剥がした鬼道が走り込んでいる。
これ以上ない、決定的なラストパス。
それを────ここまで戻って来たデザームが掻っ攫った。
『なっ!?』
驚愕の声を上げる周りに一切反応を示さず、デザームがドリブルを開始する。反転しすぐさまそれを追おうとした鬼道だが、速度を落としたことで追い付いてきたタイタンが、反則すれすれの激しい寄せをして来たことで体勢を崩される。
デザームはその間に不動をあっさりと躱し、雷門ゴールへ向かって進撃する。
「ザ・タワーV2!!」
不動は抜かれ、風丸は攻め上がっていて間に合わない。吹雪は動かないとなれば、中盤で残るは塔子のみ。必殺技でデザームを止めようと試みるものの、デザームの動きを捉えきれず〈ザ・タワー〉の雷撃は虚しく空を切る。
塔子を突破し、遮る物の無い中盤を駆け抜け雷門陣内へと攻め入るデザーム。その前方に、集結した雷門ディフェンス陣が立ちはだかる。
「止めるぞ!」
「はいッス!」
「ここを抜かれる訳にはいかない!」
「通さないでヤンス!」
土門、壁山、影野、栗松。その誰もが、何がなんでも止めるという強い覚悟を持ってその場に立っている。しかし、その程度の気迫にデザームが臆する訳はなく、彼等を抜きに掛かるつもりすら、デザームには無かった。
「雷門イレブンよ。素晴らしい戦いぶりであった。その健闘に敬意を表し、この一撃をもって引導をくれてやろう」
ボールを踏み付け、立ち止まったデザームの足元に異空間へと繋がった穴が開く。それを見た土門達が慌ててボールを奪いに来るが、当然間に合うはずもなく、デザームの姿は異空間へと消える。
ボールと共に異空間へと潜ったデザームはすかさずシュート体勢に入る。
「これで終わりだ……グン───ッ!?」
右足を振りかぶり、〈グングニル〉を放とうとしたデザームだったが、ここである異変に気づく。
ここはデザームの作り出した異空間であり、当然他には誰も居ない。外界と遮断されたこの空間に於いては、暑さも寒さも感じない。何故なら、そんな変化を齎す要因が存在しないからだ。
ならば、何故、今この空間に、
異変はそれだけには留まらない。
デザームの耳に、何かが割れるような音が響く。走馬灯のように引き伸ばされた意識の中でデザームが目にしたのは、内側から氷の膜に覆われひび割れた空間。
────グングニル。北欧神話に語られる最高神が持つ槍か。
その声に、デザームの全身が総毛立つ。
────お前のような凡人には過ぎた代物だ。故に。
〈グングニル〉を放つ為に振りかぶった右足は、もうデザーム本人にも止められない。振り抜かれた右足が捉えたボールは────。
────私が使ってやろう。
「氷結のグングニル」
ほんの僅かに遅れて振り抜かれた吹雪の右足によって、意図も容易く蹴り返された。
何かが割れる甲高い音がフィールドに響き、虚空から禍々しいオーラに彩られた氷の槍が出現する。
『!?』
明らかに通常の〈グングニル〉とは異なるそのボールが、しかもイプシロン側のゴール目掛けて飛んでいく光景に、誰も理解が追い付かなかった。
そんな周りの驚愕を背景に、美しい氷のアーチを京都の空に描き、〈氷結のグングニル〉がイプシロンゴールを襲う。
「ワームホールV3!!」
何とか驚愕から立ち直り、〈ワームホール〉で対抗するゼルだったが、デザームの〈ドリルスマッシャー〉すら容易く打ち破った吹雪のシュートに〈グングニル〉のパワーまで上乗せされたその一撃を止められる道理はなく、至極あっさりと〈ワームホール〉は突破され、ゼルの体ごと氷の槍がイプシロンゴールを貫いた。
これにてイプシロン戦終了。試合後のやりとりは次話で。
全くのノープランから始まったこの試合、長い長いトンネルだった……。
キャラ紹介③
【鬼道有人】
バグ2号。十年に一人の逸材という異名を持つシスコン。インフレの元凶。
例の如くまともな初期設定は無い。
天才ゲームメーカー?そんな賢そうなキャラ俺馬鹿やから書けんわ。せや!いっそFWにしたれ!という作者の適当なノリで原作からポジションを変えられた。
その他の設定は全て後から生えてきた為、途中まで作者の中ですらキャラが定まっていなかった。
一部の馬鹿共のせいで比較的常識人枠のように思われるが、実のところこいつも結構なキチガイである。極端な話、妹と世界を天秤に乗せられれば、躊躇いなく妹を選び世界を滅ぼすくらいには。
エイリア学園との戦いに参加しているのも、負けたままではいられないという思いと、妹や仲間の身を案じて、といった面が大きい。
最近では円堂が不在のせいでこいつが主人公のような扱いになってきている。実は登場話数で考えるとあと数話で円堂より多くなるのであながち間違いとも言い切れないかもしれない。