原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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更新遅くてすんません。
後書きがやたら長くなってしまってます。


勝者の特権

 

氷の槍がイプシロンゴールを貫くと同時に、試合終了を告げる長い笛の音がピッチに響く。

スコアは4-3で見事に雷門の勝利、なのだが。

フィールドの選手達は各々の勝利に、敗北にリアクションを取ることもできず、今起こった出来事に理解が及ばず呆然としていた。

 

 

雷門のゴール前、思わずといった様子で無意識にピッチに膝をついていたデザームは、己の背後にゆっくりと歩み寄ってくる誰かの気配に振り向く。そこには、氷の様に冷たい瞳でデザームを見下ろす吹雪の姿があった。

 

「───勝てると思ったか?」

 

その声は、差程大きいわけでもなく、周りに聞こえる様に声を張っているわけでもなかったが、不思議とよく響いた。

 

「哀れなものだな。万に一つも有りはしない勝利の可能性を信じ、求め、それを掴もうとした寸前に、全てを否定されるその姿。実に愚かで、無様で、お前の様な凡人にはお似合いの姿だ」

 

デザームは吹雪のその言葉の意味を理解できなかった。イプシロンはあと少しで勝利を手にするはずだったのだ。それは決して、手が届かないものではなかったはず。

 

「本当に?」

 

自分の思考を読み取ったかの如く挟み込まれたその一言に、デザームの背に冷たい汗が流れる。

 

「所詮は掃いて捨てる塵芥。己の置かれた立場も状況も、何一つを分かろうともしない愚物よな。お前は自分達が互角の勝負を演じることができているのが実力によるものだと真に思っていたのか?あれだけ私が手心を加えてやったというのに、その慈悲に気づかないとは」

「…………」

 

デザームは何も言わない。言えない。目の前の男が散々おかしな行動を取っているのは事実であり、それを不審にも思っていた。警戒もしていた。

しかし、自らのチームを不利に追い込む様な行動や、仲間と明らかに不仲な様子を見せられては、単なる仲間割れという可能性も捨てきれなかった。結果的にデザームは、否、イプシロンというチームは吹雪という選手のことを一旦捨て置いた。

 

「私の掌の上で踊るのは楽しかったか?道化よ」

 

結果はどうあれ、デザー厶達イプシロンは勝利を目指して全力を尽くしたのだ。にも関わらず、吹雪はデザーム達を端から敵としてすら認識していなかったとでもいうのか。それは、余りにも救いが無い。

 

「良い顔だ。絶望と失意に濡れた情けない負け犬の顔。お前に相応しい」

 

完全に心が折れたデザームに言い返す気力は既に無く、力なく項垂れ視線をピッチに落とす。それを見た吹雪の顔が愉悦に染まる。

 

「そうだ、それでいい。頭を垂れろ。恭順しろ。敗者を見下ろすのは勝者の特権だ。お前に私を見下ろす権利は無い」

 

結局、試合開始前にデザームが吹雪に対して侮った視線を向けたその瞬間から、この結果は吹雪の中で決定づけられていた。吹雪が試合の中で考えていたのは、決して相手の戦意を失わせることがないように状況をコントロールしながら、最後に目の前の勝利を完全に否定して心を折ること。

如何に少ない労力で、かつ周りの駒の能力を確かめながら、相手に悟られることなく終局を迎えるか。吹雪がしていたのはそんなゲームでしかなく、そこに一切の情けも思いやりもありはしない。

暴君にとって、目の前の矮小な存在にそんな思考を向けてやる価値は無いのだから。

 

「ク……クク……クハハハッ……ハーハッハッハ!!」

 

静まり返ったフィールドに、吹雪の嘲笑が響き渡る。他者を見下し、罵倒し、嘲り笑う。そこには本来在るべきはずのスポーツマンシップの欠片も有りはしない。

しかしそんな吹雪を止めることは誰にもできない。それを成すことができる対等な人間をもたないが故に、孤独な暴君は愚かに嗤う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざまぁねぇな、デザーム」

 

そんな地獄の様な空気の中、唐突に聞こえたその声は差程大きな声ではなかったにも関わらず、吹雪の笑い声に掻き消されることなく、不思議とよく響いた。

 

「ッ!バーン!」

 

吹雪が笑いを止め、風丸達が声の主を視界に捉える。そこに居たのはエイリア学園、プロミネンスのキャプテンであるバーン。雷門にとっては多くのチームメイトを病院送りにされた因縁の相手だ。

 

「随分と情けねぇ面を晒してるじゃねえか、デザーム。お前らには失望したぜ」

「バ、バーン様……我々は……」

 

バーンに対して恐怖が混じった声を漏らすデザーム。先程までの自分に対するものとはまた違った態度に、吹雪がその様子を興味深げに観察している。

 

「敗者に用は無ぇ。お前らはエイリア学園から追放する」

 

そう言ったバーンの足元にあった黒いボールが独りでに浮き上がり、眩い光を放つ。思わず目を瞑った風丸達が再び目を開けた時、そこには既にイプシロンの選手の姿はなかった。

 

「デザーム達が……」

「あいつらだって仲間だったはずじゃねえのかよ……!」

 

目の前から人が消えたことに動揺する者が居る中、染岡などはバーンの仲間に対する仕打ちに憤りを覚えていた。そんな染岡が漏らした言葉が耳に入ったのか、バーンはそれについて淡々と触れる。

 

「仲間?ああ、そうだな。だが、あいつらは負けた。弱い奴はエイリア学園には必要無ぇ」

「気に入らんな」

 

バーンの言葉に染岡や風丸などが反応を返すよりも速く、言葉を発したのは意外にも吹雪。その顔はさも機嫌が悪いと言わんばかりに歪んでいる。

 

「自分が上位者であると思っているその態度。心底気に食わん。凡人はそれ相応の振る舞いをしろ。見ていて不快だ」

 

お前が言うか、と周りから総ツッコミを食らいそうなことを平然と宣う吹雪。当然ながら冗談ではない。

 

「ああ?何だテメェは?雑魚は引っ込んでな」

「ほう……私を雑魚呼ばわりとはな。お前を凡人と呼んだことを撤回しよう。お前の様な低脳をそんな風に呼んでしまっては凡人に失礼だからな」

「………言うじゃねえか」

 

元より血の気が多く、比較的短気な性格をしているバーンだ。吹雪の自身を小馬鹿にした言葉に、沸点を超えるとまではいかずとも苛立ち、眉間に皺を寄せる。

 

「───落ち着け、バーン」

 

吹雪に言い返そうとしたバーンだったが、前触れなく聞こえたその声に動きを止める。そしてバーンにしては珍しく、ばつが悪そうに振り返る。

 

「……居たのかよ、ヒート」

「すぐに熱くなるのはお前の悪い癖だよ」

「……分かってるよ」

 

いつの間にかバーンの後ろに居たのは、右頬についた傷が印象的な、顔立ちの整った白髪の少年だった。ヒートと呼ばれたその少年とバーンの口振りからして、どうやら2人は親しい間柄のようだ。

 

「雷門イレブン。今日はイプシロンを追放しに来ただけだ。お前らとやり合うつもりはねぇ」

 

そう言うバーンは雷門イレブンを見渡すし、鬼道に目を止める。

 

「次に会う時は今度こそ潰してやる。精々、それまでに強くなるんだな」

 

かつて己に屈辱を味わわせた存在に向けてそう宣言し、黒いボールが放った光が収まった時、そこにバーンとヒートの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆様、本当に色々とありがとうございました」

 

イプシロンとの試合から一夜明け、俺達は京都の地を離れ東京へと戻ろうとしていた。

漫遊寺のキャプテンである垣田を先頭に、漫遊寺のサッカー部員達が俺達に頭を下げてくる。

 

「や、やめてくれよ。そんな風に頭なんて下げてもらわなくてもいいって。元々あいつらと戦うつもりで俺達はここまで来てたんだから」

「いえ、皆様が居なければ私達ではこの漫遊寺中を守ることはできませんでした。自分達の未熟さを改めて知ることができたという意味でも、皆様には感謝してもしきれません」

「いや、だから……」

 

それに対して狼狽しながら頭を上げてくれと頼む風丸と、意地でも頭を下げなければ気が済まない垣田達という謎の構図が発生している。

感謝くらい素直に受け取っておけばいいものを。風丸も変なところで真面目だな。

というかそんなことよりも春奈の前に神妙な顔で歩み出た木暮の方が俺は気になっているのだが。

 

「……俺さ。お前に言われたこと、色々考えたんだ」

 

春奈が木暮に何を言ったのかは、大体のことは春奈から聞いている。記憶に残っているアニメで言っていたこととほぼ同じ内容であったが、原作とは違ってイプシロンとの試合を経験していない木暮は何を思っているのか。

 

「正直、お前に言われたことは今でも凄くムカついているし、偉そうな口利きやがってって、思わないわけじゃないけど───」

 

そこで一度言葉を切った木暮は少しだけ俯いた後、憑き物が落ちた様な穏やかな表情を見せた。

 

「でも、もうちょっと、頑張ってみようって思えたんだ。雷門のサッカーを見て、そう思えたんだ」

 

木暮は目の前の春奈に向かって右手を差し出す。

 

「次に会うまでに、もっともっと上手くなって、お前をぎゃふんと言わせてやる。だから、楽しみにしてろよな」

「木暮君……」

 

春奈が感動した様な面持ちで、木暮の差し出した右手に応じる。これで終われば良い雰囲気だったんだがな。

 

「……ん?きゃあっ!?」

「うっしっしっ!引っ掛かった!」

 

木暮が忍ばせていた蛙の感触に春奈が悲鳴を上げる。そのリアクションを見た木暮が馬鹿にした様に笑う。当然そうなれば被害を受けた春奈が黙ってはいない。

 

「木暮君ッ!!」

「うわぁ!逃げろぉ!」

「待て、木暮!!」

 

春奈だけでなく、恩人に失礼な態度を取ったことに憤慨する垣田までもが木暮を追い回す。

 

「待ちなさい!!」

「やだね!!捕まえれるもんなら捕まえてみろ!!」

 

最後までなんとも締まらない空気になってしまったが、プロミネンスの時の様に悲惨なことになるよりはずっとマシだ。

この時点でイプシロンを倒してしまったことや木暮が仲間にならないなど、原作と乖離してしまった部分もあるが、もうそれは今さらだろう。

これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、その時々で上手く対応していくしかない。まあ、それは兎も角として───。

 

「あれ?」

「春奈に蛙を握らせたのはいただけんな。大人しく罰を受けろ」

 

逃げ回る木暮の首根っこをひょいと掴み上げれば、本人は何が起きたか理解できていない様だったが、俺の声で状況を理解したのか顔色が真っ青に染まる。

 

「おい!放せ!放せったら!!」

「木暮君!!」

「木暮!!」

「!?……ぎゃああああ!!!!??」

 

 

漫遊寺の空に木暮の悲鳴が響き渡る。木暮がどうなったかは、わざわざ言うまでもないだろう。

 





キャラ紹介④
【吹雪士郎】
バグ3号。雪原の暴君。鬼畜外道を地で行く男。
作者にしては珍しく、ちゃんと設定があるキャラ。……なのだが結局作者の想定を超えた外道に仕上がっている。一応、改心?覚醒?的な流れは考えてはいるのだが、登場から僅かな時間で積み上がりまくった外道ポイントをチャラにできるかは正直疑問である。
ネタバレになるのであまり語れることは無い。

完全に余談であり本編で語ることもないであろう話にはなるが、オーガ戦で助っ人として登場した豪炎寺が辿った世界線では、雷門が白恋に敗北した為仲間にならず、そのまま世界編に突入し代表選考の候補には選ばれたものの、久遠監督から「今のお前はチームに必要ない」と言われ落選する。
そのことを逆恨みし、日本代表に制裁を加えるべく単身海を渡り、ロシア代表チームを乗っ取りFFIに殴り込む。が、結局日本代表に敗北して自暴自棄になっていたところをガルシルドに目をつけられ、RHプログラムの実験台にされた挙句洗脳され、チームガルシルドの一員として日本代表の前に立ちはだかる。
という本人も踏んだり蹴ったりな上に、様々な方面に迷惑を振りまき続ける存在と化す。その為本編の流れは一応吹雪救済ルートと呼べなくもない。


おまけ
【ヒート】
プロミネンスのMF。バーンの幼なじみという恵まれた設定をゲームでもアニメでも生かせなかった男。見た目が個人的に結構好き。
本作では折角の幼なじみ設定を生かしてバーンの相棒的ポジションにできないかと考えている。その結果オリキャラ化するとか言ってはいけない。
世界への挑戦編ではキーパーに転向させられた上に、何故かビーストファングを習得している。にも関わらず控えで台詞もろくに無いという、瞳子監督の謎采配の被害者となっている。
その反面、無印3での自由値も含めた合計ステータス値が、あのヒデナカタすら上回る全選手中トップというよく分からない待遇を受けているキャラでもある。
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