鬼道視点の短めの箸休め回。
更新止まってる間に感想や評価してくれた人達ありがとうございます。
感想返せてませんけどちゃんと見てます。
少しずつ更新していけるように努力します。
イプシロン戦の後、京都から東京へ向けて走り出したキャラバンは一晩の休息を挟んで稲妻町へと帰って来ていた。
ジェミニストーム、プロミネンスと敗北が続く中で漸く掴んだエイリア学園を相手にしての勝利の余韻は未だに残っており、車内の空気は明るい。円堂がチームを離れ、一時は最悪の状態だったチームがよくここまで持ち直したものだ。
とはいえ、いつ爆発するか分からない爆弾は今も尚チームの中にあるのだが。
俺は隣に座る吹雪に視線を向ける。腕を組んで目を瞑っているが、眠っている気配はないので視線に気づいてはいるのだろう。その上で無視しているだけだ。
誰にも気づかれないように小さくため息を吐く。
北海道での一連のやり取りから今まで、吹雪の行動は結果的に見ればチームにとってはプラスになってはいる。だが、それはあくまでも結果論でしかない。相手選手の尊厳を踏みにじって高笑いするような輩は、どう考えても雷門というチームの性質とは噛み合っていない。戦力さえ整えば、チームから外れてもらうことも視野に入れておいた方がいい。
風丸や監督がどう考えているのかは知らないが、少なくとも1人くらいはそういった視点の考えも持っておくべきだろう。
「古株さん、停めてください!」
そんな思考は、土門が発したその言葉に遮られた。何気なく窓の外を見てみれば、土手の下には丁度河川敷のグラウンドがあり、そこに何人かの人影が見える。
「ダークトルネード!!」
雷門のジャージを着た銀髪の男が、嫌という程に見なれた自身もよく使う技を放つ。
「スピニングカットV3!!」
対して、シュートの軌道上に立ち塞がった青いバンダナとドレッドヘアーが特徴的な男は、勢い良く右足を振り抜き、それによって生じた衝撃波の壁が、銀髪の男が放った〈ダークトルネード〉を完璧に弾き返した。
「良いぞ、西垣!シャドウも良いシュートだったぞ!」
ゴール前に立つ、スキンヘッドに幾つも棘が生えたような独特な髪型をした長身の男が2人に声を掛けている。
「やっぱり西垣だ!」
「御影の杉森と……誰だあいつ?」
西垣とは親交のある土門と、風丸もそれについて行き河川敷のグラウンドへと降りて行く。
そういえばこんな展開もあったな、と俺は原作アニメの記憶を思い返す。バックアップチーム、だったか。エイリア学園と戦う雷門を支援する為に、有志によって作られた存在。原作では杉森とシャドウの2人だけだったが、西垣もいるのはバタフライエフェクトの結果か。
「今のは……ダークトルネードか?」
「おいおい、技パクられてんじゃんかよ、鬼道クン?」
源田はシャドウが〈ダークトルネード〉を使ったことに驚いているようで、その隣からは不動が冗談交じりにそんな言葉を掛けてくる。それを聞いた俺の心境は正直、何とも言えないものだった。
不動は俺の技をシャドウが真似たと言うが、どちらかと言えばそれは逆だろう。
"天才ゲームメーカー"ではなく、ストライカーになると決めた時、必要だと感じたのは個人でのシュート技だった。
原作での鬼道は、強力な連携シュートの多くに絡んでいるという点で見れば決定力も備えた選手ではあったが、個人で放てるシュート技は持っていなかった。だがゲームメーカーではなく、ストライカーとして大成する為には連携技だけでは足りない。時には自らの力のみで強引に点を奪いにいくことも重要だと俺は考えた。そして、数あるシュート技の中から〈ダークトルネード〉を習得することを決めた。
その決断に、特に大きな意味はない。鬼道有人という人間が使っていて違和感が少なく、それでいて比較的早い段階から習得が可能であると判断した技が〈ダークトルネード〉であったというだけ。
本来であれば、鬼道有人の代名詞ではなく、シャドウが編み出した技と認識されるべき技なのだ。
「……騒ぐ程の事でもないだろう。そこまで複雑な技でもないんだから、使える奴がいても不思議じゃない」
シャドウが〈ダークトルネード〉を習得したのがいつかは知らないが、仮に本当に真似たのだとしても目くじらを立てる様なことでもない。同じ技でも使い手次第で強くも弱くもなる。大切なのはきちんと自分の物にできているかどうかだ。
「誰だあいつらは」
「御影専農の杉森と木戸川清修の西垣。過去に雷門と対戦したチームの選手達だ。もう1人は知らないが」
いつの間にやら窓の外に視線を向けていた吹雪からの質問に、シャドウのことは周りの目があるので誤魔化しつつ答える。
それを聞いた吹雪は少し考えた後、杉森達の事に思い至ったのか、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「ああ、あの負け犬共か」
「おい、そう言う言い方はよせ」
「事実を言って何が悪い。お前とてあの負け犬共の末路を知らん訳ではあるまい」
「……お前が何を指してそう言っているのかは想像がつくが、まだそうなってはいないし、今話すことでもないだろう」
「ふん……どうだかな」
吹雪はそれで杉森達に対する興味を無くしたようで、再び座席に身を預けて目を閉じる。
若干不穏な会話ではあったが、それほど大きな声ではなかった為、周りには聞こえていなかったようだ。
そしてこのタイミングで風丸と土門が戻って来る。風丸の話によると、予想通り杉森達はバックアップチームとして動いているらしい。
原作では居なかった西垣については円堂が連絡を取っていたそうだ。フットボールフロンティアでは曲がりなりにも豪炎寺と渡り合った選手。実力的には申し分ない。
正直な所、原作では欠片も役に立たないどころか、利用されて敵になったりとむしろ足を引っ張っていた印象があるが、現在のチームの層の薄さを考えれば杉森達も連れて行った方が良いことは間違いないのだ。
監督がどういう考えでいるかは知らないが、バックアップチームのような存在があるに越したことはない。
その監督は、風丸から杉森達と練習する約束を取り付けてきたという話に対してあっさりと許可を出した。
そこで杉森達を見定めるつもりなのだろうか。どうせ練習するにしても、移動の手間を考えれば場所は河川敷のグラウンドになることは容易く予想できる為、こちらとしても異論はない。
その後は一度雷門中に戻り、雷門理事長と話した後はもう夕方だった為、今日はここで解散となった。塔子や吹雪はどこで寝泊まりするのかという問題が上がったが、塔子は木野の家に泊まることになったらしい。
「此処か?権力者にありがちな無駄に見栄を重視した建築だな」
そして誰も引き取ろうとしなかった吹雪は俺に押し付けられた。鬼道の邸宅を見て早速毒を吐いているが、こいつはこういうことを言わないと気が済まないのか。正直、こいつを泊めたらストレスが凄そうだったので断りたかったが、流石に適当なホテルに突っ込めばいいという案は却下された。
ならば監督が面倒を見ればいいとも提案してみたが、監督は無言で目を逸らした後、チームワークがどうのと言い訳地味たことを言い出したので、余程嫌だったのだろう。まあ、吹雪は吹雪でその提案を聞いた途端、監督に対する罵倒を繰り出していたので気持ちは分からないでもない。
………とにかく、一晩だけの我慢だ。流石の吹雪も少しぐらいは遠慮というものを知っているだろう。行き過ぎた行動は控えるはずだ。
尚その後、行動は控えても案内された部屋や夕食に対する批判という名の口撃が止まらなかったのは言うまでもない。
そのせいで鬼道は自宅に帰ってきたというのに、これまでにない程の居心地の悪さを感じながら夜を過ごしたのだった。