原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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1話で収めようとしたら長くなりました。


エースストライカー

地区予選一回戦当日。俺達は試合会場となる野生中へとやって来た。

 

「ここが野生中か、まるでジャングルだな」

 

辺りは一面見渡す限り森で囲まれている。ここまで来ると田舎ってレベルじゃないと思うんだが…。

雷門中と野生中の中間地点辺りの学校のグラウンドを借りるとかじゃ駄目なのかな。野生中の生徒しか応援来れないだろここじゃ。

 

ん、何か騒がしいような…。

 

そちらに目を向けると、野生中のサッカー部員と思わしき者達が夏未が乗って来た車に群がっていた。

初めて車を見たらしく、興奮している様子。

……今のご時世に車見たこと無いって有り得るのか。ここまでくると田舎者ってよりジャングルに住む部族とか言われた方が納得出来るぞ。

 

「なんなのよ…」

「こんな奴らに負けられっかよ…」

 

反応に困っている夏未と呆れる染岡。というか当たり前のように夏未がいるがわざわざこんな所まで応援に来たんだな。

 

「ええ。折角見に来てあげたんだから、見応えのある試合を期待しているわね?」

「ああ、任せろ」

 

グラウンドに向かうと、周りは観戦に来た野生中の生徒達でいっぱいだ。

 

「うわ、俺達完全にアウェーだな」

 

半田がそう言う。アウェーとは言っても物投げつけられたりする訳じゃないし、精々ブーイングくらいのものだろうけど、経験の少ない俺達にとってはこの環境は中々厳しいかもな。

 

「皆、観客は気にするな。俺達はいつも通りのサッカーをするだけだ。むしろ、この空気を楽しむぐらいのつもりでいこう」

「キャプテンは前向きッスねぇ…」

「後ろ向きになったって仕方ないだろ?それより壁山、今日の試合はお前が鍵になるかもしれないんだ。よろしく頼むぜ?」

「は、はい!オレ、頑張るッス!」

 

壁山の気合いも十分。これならいざ〈イナズマ落とし〉を打つ時にしり込みすることも無さそうだ。

 

 

とうとう始まるんだ。フットボールフロンティアが。必ず優勝してやるぞ。

 

────ドクンッ……。

 

心臓が急に高鳴り、思わず胸に手を当てる。しかし、伝わってくる心臓の鼓動は静かに規則的なリズムを刻んでいる。

 

「円堂?どうかしたか?」

「……いや、何でもない」

 

────気のせいか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両チームの選手がポジションにつく。今日の雷門のフォーメーションはFWが染岡と豪炎寺のツートップ。MFが少林、半田、マックス、宍戸。DFは栗松、壁山、影野、風丸。

まあ、いつも通りだな。〈イナズマ落とし〉の為に壁山をFWにする案もあったが、そうすると守備が手薄になる。だから前半はDFについて、DF陣が野生中の動きに慣れた後半からFWにポジションを上げる予定になっている。土門は能力的にはスタメンでもいいぐらいなのだが、チームに入ってまだ日が浅く、スタートから出てもらうのは少し不安が残る為、ベンチとなっている。

 

雷門ボールでキックオフ。

中盤で慎重にパスを回していく。

 

────寄せが早いな。

 

ボールを取られてはいないが、野生中の選手達の動きが早い。ボールを持った選手に即座に詰め寄ってくるせいで落ち着いたプレーが出来ていない。

 

────相手の動きに皆が慣れるまでは気は抜けないな、これは。

 

この試合。思っていたよりもシュートを打たれる回数は多くなるかもしれない。

気を引き締めていると、オーバーラップしたサイドの風丸へとボールが渡る。俊足を飛ばしサイドを駆け上がっていく。早い、野生中の選手と比べても全く引けを取っていないどころか、むしろ上回っている。

 

「疾風ダッシュ!!」

 

必殺技で相手DFを躱し、野生中陣内深くまで切り込んだ風丸は中央へとセンタリングを上げる。

 

「よし!」

 

そのボールに反応した豪炎寺が〈ファイアトルネード〉の体勢に入るが、

 

「何!?」

 

豪炎寺よりも更に高く飛んだ野生中キャプテン、鶏井にボールを奪われる。

 

「高さなら負けないコケッ!」

「くっ…!」

 

鶏井がボールを大きく蹴り出し、前線の水前寺へと繋がる。

 

「不味い、皆戻れ!」

 

風丸が攻め上がり、守りが手薄になっている雷門陣内のサイド際を水前寺が駆け上がっていく。こいつ、他の選手と比べても明らかに早い。

雷門の選手がディフェンスに走るが、誰も追いつけない。

ゴールライン際まで来てなんとか追いついた栗松がスライディングを仕掛けるが、それよりも一瞬早く水前寺がボールをゴール前へ上げる。

このボールにMFの大鷲が飛び込む。シュートを阻止しようと影野もジャンプするも届かない。

 

「コンドルダイブ!!」

 

上空からの叩きつけるようなヘディングシュート。

右手に気を集めて、〈メタリックハンド〉の体勢に入る。

 

「ターザンキック!!」

「なっ…!?」

 

しかし、横から飛び出して来たFW五利がシュートチェイン。シュートの軌道が変わる。

 

────しまった……!完全に逆をつかれた!

 

右手に気を集めそれを腕全体に纏わせるという工程を必要とする為、〈熱血パンチ〉よりも発動速度で劣る〈メタリックハンド〉では、間に合いそうにない。

 

「と、どけぇぇぇ!!」

 

それでも必死にシュートに飛びつく俺だったが、やはり届かず、ボールは雷門ゴールに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野生中の先制点。まさかたった一度の攻撃で失点するとは。野生中の身体能力を甘く見ていたか。

 

────いや、違う。

 

今の失点の原因は俺の慢心だ。〈メタリックハンド〉で野生中のシュートは止められるだろうと高を括っていた。もっと周りをよく見ていれば、FWが走り込んで来ているのにも気づけたはずだ。

 

「あんなに特訓したのに…」

 

不味い、先制点を取られたことで士気が下がっている。特に、自分が上がった隙を突かれた風丸の顔が暗い。

 

「悪い!止められなかった!だが、試合はまだ始まったばかりだ!直ぐに取り返すぞ!確かに相手は手強いが、落ち着いて対処すれば十分対抗出来る!」

 

チームを鼓舞する。こういうのは口に出すのが大事なんだ。

 

「風丸、今のは良いオーバーラップだったぞ!」

「円堂、でも……」

「点を取られたのは結果論でしかない。俺達が点を取っていた可能性だって高かった。お前は間違ったプレーはしていない。もっと自分に自信を持て」

「円堂……ああ、分かった!」

 

よし、これで風丸も大丈夫だな。まだまだ試合はこれからだ。もう一点もやるものか。

 

 

雷門ボールで試合再開。

ボールを持った豪炎寺が攻め上がるが、野生中のチェックが早い。直ぐに囲まれてしまった。

 

「くっ、隙がない…!」

「豪炎寺!こっちだ!」

 

ボールは豪炎寺から染岡へ。そしてゴールからはやや遠い位置だが、染岡が早くもシュート体勢に入る。

 

「空中戦で適わないならこいつはどうだ!ドラゴン──」

「スーパーアルマジロ!!」

 

染岡が必殺技を放とうとするが、それよりも早く、猛スピードで突っ込んで来た野生中DF獅子王に大きく吹き飛ばされる。

染岡は足首を押さえ、倒れたまま立ち上がれない。

 

「染岡!」

 

試合が止まり、俺達は染岡に駆け寄る。

 

「染岡、大丈夫か」

「ッ、ああ。どうってことねぇよ、こんなの」

 

口ではそう言うものの、表情は固い。

 

「木野、どうだ?」

「……駄目。足首を捻ってる。試合は無理よ」

「選手交代か…」

 

ここで染岡が抜けるのは痛い。〈ファイアトルネード〉が封じられている以上、染岡が抜ければ得点手段が完全に〈イナズマ落とし〉に限定されてしまう。

 

「仕方ない…。土門、染岡と交代してDFに入ってくれ。壁山、少し予定よりも早くなるが、ここからはお前がFWだ。豪炎寺とイナズマ落としで点を取ってくれ」

「はいよ」

「わ、分かったッス!」

 

現状では恐らくこれがベストだ。壁山が前線に上がることで生じる穴は、土門が居れば埋められる。

 

野生中のスローインから試合再開。

ボールは野生中MF香芽に渡り、そのままドリブルに入る。

 

「キラースライド!!」

 

だが、代わって入ったばかりの土門が必殺技でボールを奪う。

 

「いいぞ土門!」

 

やはり現時点で信頼出来るかは別として、土門の実力は本物だ。

ボールを奪った土門から宍戸、半田へとボールが繋がる。そのまま豪炎寺へとパスを出そうとした半田の足が止まる。ゴール前の豪炎寺には厳しいマークがついていた為だ。

壁山はFWの練習は普段はしていない。当然、FWとしては素人で、動きも拙い。それを早くも見破られたか、壁山をフリーにしたまま豪炎寺にマークが集中してしまっている。

 

そこからは俺達の防戦一方だった。野生中の猛攻をなんとか凌ぐものの、豪炎寺が思うようなプレーをさせてもらえず、〈イナズマ落とし〉はおろか、まともにシュートすら打てない。

 

「スネークショット!!」

「メタリックハンド!!」

 

放たれたシュートをなんとか受け止める。まだ二点目は許していないが、何度もシュートを受け止めている右手はダメージが蓄積されていっている。

 

ここで前半終了の笛がなり、両チームの選手はベンチへと引き上げていく。

 

ベンチに戻った俺は木野に氷を貰い、右手を冷やす。ハーフタイム中に少しでも回復させておかないとな。

皆の顔を見渡すがやはり、表情は暗い。こっちはろくにシュートチャンスを作れず、攻められっぱなしだからな。仕方ないことではあるが。

とはいえ、このままでは何も出来ないまま時間が過ぎていくだけだ。まだ二点目は取られていないが、流れを変えられなければそれも時間の問題だろう。そうなればもう逆転は難しくなる。

 

「皆、いいか」

 

そう考えていると豪炎寺が声を上げる。

 

「後半は俺にボールを集めてくれ。頼む」

「豪炎寺……。そうは言ってもお前にはマークが──」

 

そう言う豪炎寺に反論する俺だが、視線の強さに気圧される。

 

「俺はエースストライカーなんだ。どんな逆境であろうと、最後にボールを託すことが出来る、チームを勝利に導くことが出来る、それが、エースストライカーなんだ」

「豪炎寺……よし、皆!後半は豪炎寺にボールを集めるぞ!いいな!」

『おう!』

 

今の豪炎寺の言葉を聞いて、反論する者は誰もいなかった。

 

 

後半が始まってからも野生中の猛攻が続く。こぼれたボールをサイドに蹴り出し、一息つく。不味いな、前半から攻められ続けていたことで皆、スタミナが切れ始めている。元々スタミナが劣っていたのもあるかもしれないが、攻撃しているよりも守備をしている方が精神的な消耗はずっと大きい。その影響が出始めている。

今の雷門は前線に壁山と豪炎寺を残し、それ以外の全員がゴール前まで戻って来て、なんとかゴールを死守している状態だ。

 

「くそ、豪炎寺にボールを繋げられない…!」

「守っているだけで精一杯だ…」

 

残り時間は刻一刻と少なくなって来ている。早くどうにかしないと。でも切っ掛けがない。

ゴール前で風丸が大きくボールをクリアする。クリアしたボールを野生中の選手がトラップし、

 

そのボールを自陣まで戻って来た豪炎寺がスライディングで奪い取った。

 

立ち上がった豪炎寺は鋭い眼光を放ちながらドリブルを開始する。

 

────あいつまさか、あの位置から一人でゴールまで持っていく気か!?

 

確かに野生中は攻め続けて、前のめりになっているせいで守りは薄くなってはいる。だが、いくらなんでも無茶だ。豪炎寺からボールを奪おうと野生中の選手が豪炎寺に殺到する。

しかし、豪炎寺は冷静に一人目をまた抜きで突破。二人目も鋭い切り返しであっさりと躱し、三人目をヒールリフトで抜き去る。ボールのトラップ際を狙った四人目の横にボールを軽く蹴り出すと、回転を掛けられたボールは四人目の横を過ぎ去った豪炎寺の元へと戻って来る。

あっという間に四人を抜き去った豪炎寺の前に野生中最後の砦、キャプテン鶏井が立ち塞がる。

ここで時間を使えば、抜き去ったDF達が戻って来てしまう。やはり、無理かと思われたその時、

 

「俺は負けない……!俺は……豪炎寺修也だぁぁぁぁあ!!」

 

その叫びと共に豪炎寺の体が炎に包まれる。炎を纏った豪炎寺はそのまま強引に鶏井を吹っ飛ばし、ついに野生中DF全員を抜き去った。

 

────今のは、ヒートタックル!この土壇場で新たな必殺技を編み出したのか!?

 

豪炎寺の突破を遮る者はもう誰もいない。無人の野生中陣内を豪炎寺がドリブルをしているとは思えない速度で駆け上がっていく。

ゴール前に到達した豪炎寺はボールを蹴り上げシュート体勢に入る。

 

「ファイアトルネードッ!!」

 

放たれたシュートは野生中キーパーの繰り出した必殺技をあっさりと打ち破り、野生中ゴールに突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「豪炎寺ぃぃぃぃ!!」

「やっぱ凄いよお前!」

「豪炎寺さん!」

 

皆が豪炎寺の元に駆け寄る。すげえなあいつ。絶対無理だと思ったわ。

豪炎寺は俺と目が合うと、無言でガッツポーズ。俺もそれを返す。

 

────ホント頼りになる奴だよ。あれで中身違うとか嘘だろ。

 

豪炎寺のスーパープレーによって同点に追いついた雷門。当然士気は最高潮。暗い表情をしている者等一人もいない。

一方の野生中イレブンは皆揃って愕然とした表情を浮かべている。無理もない。自分達が一方的に攻め続けていたのに、たった一人の力によって同点に追いつかれたのだ。その衝撃は計り知れない。

 

とはいえまだ同点。残り時間も少ないし、野生中はこれまで以上に激しく攻めてくるはずだ。豪炎寺が取ったこの一点を無駄にはしない。必ずゴールを守り抜いてもう一度豪炎寺に繋げてみせる。

 

予想通り、試合再開直後から野生中が物凄い形相で攻め込んでくる。

しかし、こちらも完全に精神的に持ち直した。先程までのような一方的な展開にはならず、一進一退の攻防が続く。

 

残り時間がほぼ無くなり、恐らくロスタイムを残すのみとなった頃、中盤の混戦から野生中が抜け出す。

 

「スネークショット!!」

 

FW蛇丸がロングシュートを放つ。残り時間が少なくなって焦ったか。その位置からのシュートなら確実に止められる。そう思った俺だったが、ボールはゴールに向かわず上空へと軌道を変える。

 

「これは!?」

「コンドルダイブ!!」

 

空中で既にシュート体勢に入っていた大鷲がこのシュートをヘディングで打ち降ろす。

 

「ターザンキック!!」

 

その先に走り込んだ五利が更にシュートを加速させる。三人掛でのシュートチェイン。間違いなく、この試合で放たれたどのシュートよりも高い威力を持つであろうシュートが雷門ゴールを襲う。

 

『円堂!』『キャプテン!』

 

消耗仕切った今の俺にこのシュートが止められるのか…。

 

────いや、違う。止められるか、じゃない。絶対に止めるんだ。

 

「勝つんだ……こんな所で…負けてたまるかぁ!!」

 

────ドクンッ……。

 

「うぉぉぉぉおお!!!」

 

白銀に輝く巨大な右手がシュートを受け止める。この土壇場で奇跡的に発動した〈ゴッドハンド〉。三人の力を合わせたシュートは、神の手を打ち破る事は出来ず、俺の右手にボールが収まる。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

円堂がスローイングしたボールは中盤の半田へと渡る。厳しいマークに合う豪炎寺を見て前半と同じく、足が止まる。半田と豪炎寺の視線が絡み合う。

 

────俺にボールをくれ……!!

 

豪炎寺の目から意思を読み取った半田の中から迷いが消える。

 

「豪炎寺!!」

 

豪炎寺へボールが上がる。三人のマークを背負いながら豪炎寺が飛び上がる。しかし、マークについていた三人の内の一人、鶏井が豪炎寺よりも僅かに高く飛び上がる。ヘディングでボールがクリアされる、よりも一瞬早く、豪炎寺がオーバーヘッドの体勢でボールを真下へと撃ち落とす。地面に跳ね返ったボールを落下しながら足裏で踏みつけてキープ。着地と同時のダッシュでマーカーを振り切る。

 

「壁山!」

「はいッス!」

 

豪炎寺の呼び掛けに応え、壁山が宙を舞う。豪炎寺も跳躍し空中で体勢を上向きに変えた壁山の腹を踏み台にして、更に高く跳躍する。

必死の形相で追いすがり、跳躍した鶏井の更に上空から豪炎寺がオーバーヘッドキックを放つ。

 

「「イナズマ……落としぃぃぃ!!」」

 

遥か上空から放たれたシュートは、青白い稲妻を纏い、野生中のキーパーに反応すら許さず、ゴールネットに突き刺さった。

 

そして試合終了の笛がフィールドに鳴り響く。

 

 

激戦を制し、俺達雷門中は無事地区予選一回戦を突破した。

 




書き始めた時はもうイナズマ落としも覚えてるし、盛り上がる所無いだろうからダイジェストにしようとか考えてたのにどうしてこうなったんだろう……。
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