原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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イナビカリ修練場

翌日、河川敷のグラウンドで練習に励む俺達。

 

「やっぱり見られてるなぁ」

 

他校の偵察隊と思わしき人達が相当な数いる。中にはカメラまで持ち出してる人もいるみたいだ。正直、対策とかしたところで必殺技を封じるなんて事は難しいと思うのだが、俺のこういう思考が野生中戦での苦戦を招いたのだ。何事も慎重過ぎるぐらいでちょうどいいのかもしれない。

部員達にはあれが偵察隊だという事は既に伝えてある。一部の部員はあれが俺達のファンだと思っていたらしく、若干ガッカリしていた。まだ地区予選の一回戦を勝っただけ、しかも観客は殆ど野生中の生徒しか居なかったのだから、ファンなんてつくはずないだろと思うのは俺だけなのかな。

必殺技の練習は控えて、基礎練習や連携の確認等をしているが、不便だし見られていると居心地も悪い。

次の対戦相手は御影専農中。一回戦で戦った野生中も強かったが、はっきり言って御影専農は野生中よりも確実につよい。情報収集やデータ分析に長け、相手チームの選手の行動パターン、必殺技に至るまでを解析し尽くす。そのうえ、キーパーの杉森は正ゴールキーパーの座を掴んでから今まで、無失点記録を更新し続けており、原作でも〈ファイアトルネード〉、〈ドラゴントルネード〉に加え〈イナズマ落とし〉まで防いでみせた。エースストライカーの下鶴は原作では豪炎寺の〈ファイアトルネード〉をコピーしていた。

こちらを完璧に分析され尽くした状態での戦いになる以上、勝つ為には奴らの持つデータを上回るプレーをする必要がある。

 

「夏未、ちょっといいか」

「何かしら、円堂君」

「最近、他校の偵察隊が多くて、ろくに必殺技の特訓が出来てないのはお前も知ってるだろ?それでお前に頼みたい事があるんだ」

「頼みたい事?」

「ああ、お前に、誰にも見られる事無く、必殺技の特訓が出来る場所を探してほしいんだ」

「……貴方ねぇ、そんな場所があるなら最初から言ってるわよ」

「無理を言ってるのは分かってる。でもこんな事頼めるのはお前しかいないんだ。頼む」

 

夏未に向かって頭を下げる。試合までの僅かな期間で、それほどの成長を促す為には、あの施設の存在が不可欠だ。

 

「……分かったわ。でも期待はしないでちょうだい」

「ああ、ありがとう夏未!」

 

後は夏未に任せるしかない。アニメでもゲームでもあの施設を見つけて来てくれたのは夏未だった、はず。俺の記憶が確かなら、だけど。試合の事は割と覚えてるんだけど、それ以外は曖昧な事も多いんだよな。

 

それとあと一つ、現状の必殺技が杉森に止められる可能性が高い。原作ではこの試合で〈イナズマ1号〉を覚えた訳だが、

 

────出来れば使いたくないんだよなぁ、あの技。

 

〈イナズマ1号〉はGKとFWの二人による連携シュートだ。そう、GKとFWの。つまりシュートを打つ片方は俺になるのだが、問題がある。

キーパーがシュートを打つ為に前線に上がると、当然ゴールががら空きになる。止められてカウンターでも食らおうものなら即、失点に結びついてしまう。

原作の円堂は多くの連携シュートに関わっていた。後にそれが問題視される程に、積極的に攻撃参加も行っていた。

正直、俺に同じものを求められても困る。少なくとも俺には、いくらチャンスであっても、ゴールを放り出して前線へ駆け上がっていくような勇気は無い。というかキーパーが役割を無視して、前線で攻撃に加わっていたら、ディフェンス陣は堪ったもんじゃないだろう。原作円堂がそんなプレーを何度も行っていても、殆ど文句を言われてもいないのは流石としか言い様がない。

使うのはもう本当にどうしようもなくなった時だけにしたい。

ならどうやって点を取るのかという話になるが、あの施設で特訓すれば、こぼれ球を押し込むなり、連続でシュートを打ってごり押すなりすれば、一点ぐらいならなんとかなるだろう。

あとは俺が点をやらなければいい。今まで無失点で終わった試合がない。いつも何かしらの形でゴールを奪われているが、今度こそゴールを守り抜いてみせる。

豪炎寺にもその旨を伝えると、どこか残念そうではあったが納得してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作だと偵察に来た御影専農の杉森、下鶴との勝負があったが、今のところはそんな事は起きていない。起きないならそれはそれでいいんだけど、原作と展開が違うと自分の知らない所で何かあったんじゃないかと思ってしまう。

そして俺達は今日は夏未に呼び出されたので、練習を中断して指定された場所に来ている。

開かずの間、とか呼ばれて雷門の七不思議だかなんだかに数えられる扉の前。そこで夏未を待っている。

ちゃんと見つけてくれたみたいだな。扉が開き、中に誰かが立っている。悲鳴を上げる部員をスルーして、その人物に声を掛ける。

 

「夏未、ここが頼んでいた場所なのか」

「ええ、そうよ。さあ、入って」

 

夏未に連れられ、扉の中の階段を下りていく。そこにはパッと見では用途がよく分からないような謎の機械がズラリと並んでいる。

 

「ここはイナビカリ修練場。伝説のイナズマイレブンの秘密特訓場よ」

 

俺が夏未に見つけてほしかった施設とはここの事だ。ここなら、誰にも見られる事無く、思う存分特訓出来る。ここでの厳しい特訓なら、短期間の内に実力を伸ばす事が可能なはず。

 

「円堂、イナズマイレブンって?」

 

風丸がそう聞いてくる。あれ、イナズマイレブンについて話した事はそういえば無かったか。アニメだと古株さんから聞かされたはずだけど、そんな事を聞いた覚えは無いし。

 

「イナズマイレブンってのは、四十年前の雷門サッカー部のことだ。俺もあまり詳しく知ってる訳じゃないが、フットボールフロンティアで優勝目前まで勝ち進んでいたらしい。今では知る人こそ少なくなったけど、伝説なんて呼ばれてる」

「へぇ、そんなチームがあったのか」

「でも、何でキャプテンがそんな事知ってるでヤンスか?」

「俺のじいさんがイナズマイレブンの監督だったんだよ。それでな」

 

実際はそんな話は聞いた事無いけど、筋は通ってるだろう。前世の記憶で、とは言えないし。

 

「夏未、本当にここがイナズマイレブンの特訓場なのか」

 

見れば記憶と照らし合わせて確信出来たが、確認しないのも不自然なので一応聞いておく。

 

「ええ、本当よ。かなり古くなっていたけど、必殺技の練習場としてリフォームしたの」

「そうか。夏未、ありがとな」

「私にここまでさせたのだから、負けたら承知しないわよ?」

「ああ、もちろんだ。必ず勝ってみせるさ」

 

 

修練場の扉が閉ざされる。この扉はタイマーロックになっており、特訓が終わるまでは開かないらしい。

 

「よし、やるぞ!」

『おう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉ざされていた修練場の扉が開かれる。特訓を終えた俺達は、体力を使い果たし、皆倒れ込んでいる。

 

「死ぬかと思ったでヤンス…」

「イナズマイレブンってこんな特訓してたんだ…」

「結局新必殺技は出来なかった…」

 

想像以上に厳しい特訓に、弱音を吐く部員達。気持ちは凄く分かる。知っていたから覚悟はしていたが、それでもこの辛さだ。何の心構えもなくこの特訓を受ける事になった皆の疲労は肉体的にも、精神的にも相当なものだろう。だが、

 

「元気出せよ。伝説のチームと同じ特訓を乗り越えたんだ。この特訓は無駄にはならない。必ず俺達の力になる。試合まで毎日ここで練習するぞ!」

『お、おぉ……』

 

弱々しい返事が返ってくる。

ボロボロの俺達を見て、木野と音無は救急箱を取りに戻った。階段を上り、二人の姿が見えなくなると同時に、豪炎寺が立ち上がる。

 

「豪炎寺?」

 

若干ふらつきながらも、修練場の中に戻っていく。なんとか立ち上がった俺も豪炎寺を追う。

 

「豪炎寺!お前まだやるつもりなのか」

「円堂……ああ、そのつもりだ」

 

まじかよこいつ。でも、そんな体力が残っているようには見えない。

 

「ここでの特訓は、必ずあの技の完成を早めてくれるはずだ」

 

それは、確かにそうだろう。元々、その為の施設だしな。しかし、

 

「今、無理することないだろ。怪我したら元も子もないじゃないか。それにお前、本戦までには完成するって言ってただろ。それで十分じゃないか」

 

〈爆熱スクリュー〉なんて元々、フットボールフロンティアで使うには強力過ぎる必殺技だ。無理をしてまで習得を早める必要は無いはずだ。

 

「……円堂、帝国には鬼道がいるだろ」

「え?あ、ああ…」

「あいつが俺達と同じだろうと、そうでなかろうと、この世界の帝国学園は原作とは別ものだ。なら、原作には無い切り札の一つや二つ、あってもおかしくない、そう思わないか」

「それは……」

 

否定は出来ない。鬼道は既に原作では習得していないはずの〈ダークトルネード〉を習得している。それにもし鬼道が俺達と同じなら、雷門や世宇子に対抗する為の何かは、確かにあるかもしれない。

 

「お前、その為に爆熱スクリューを…?」

「ああ」

 

ただの天然かと思ってたけど、こいつも色々考えてたんだな。

 

「分かった。なら、俺もやる」

「え?」

「そんな事聞かされて、俺だけ休んでなんていられるかよ。どうせ言ったって止めやしないんだろ?」

「円堂……」

「あと、お前帝国のことばっか気にしてるけど、次の相手は御影専農だからな?先の事ばっか考えて足元掬われんなよ?」

「……ああ!」

 

俺達二人は再び、イナビカリ修練場での特訓を開始した。

 

 

その後、特訓を終えた俺達は疲労困憊で動けなくなり、木野と音無にこっぴどく説教を食らった。

 

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