試合までの一週間の間、俺達はイナビカリ修練場での特訓を続けた。河川敷での勝負は起こらず、試合当日を迎える。
「これ、サッカー場か?」
御影専農中へと足を運び、グラウンドにやって来たわけだが、周りはアンテナだらけだ。この学校って農業系だったよな。思いっきり見た目は機械系だけども。
控え室でユニフォームに着替え、試合の準備をする俺達。トイレに行こうと、控え室を出たところで杉森と遭遇する。
「御影専農のキャプテンだよな?今日はよろしくな」
そう言って俺は手を差し出すが、杉森は一瞥しただけで握手には応じず。
「君達は我々には勝てない。棄権する事を進める」
「……大した自信だな。やってみなければ分からないだろう」
「君達のデータは全て分析済みだ。結果は分かりきっている」
「……参考までに聞きたいんだが、そのデータだと、雷門の勝つ確率はどれぐらいだ」
「聞かない方がいい」
そう言って俺の横を通り過ぎ、遠ざかっていく。
「……雷門を舐めるな。データが全てじゃない事を教えてやるよ」
その俺の言葉に杉森はなんの反応も返す事はなかった。
「結局新必殺技は出来なかったようですね。どう戦うつもりです?」
試合前に冬海先生がそんな事を聞いてくる。勝たれたら困るクセに、白々しい。
「確かに、新必殺技は出来てません。ですが、安心してください。この一週間の特訓の成果を発揮して、必ず勝って見せますよ」
「……そうですか」
「それより冬海先生」
「何です?」
「珍しいですね、そんな事を気にするなんて。いつもは試合前でも関心無さそうにしてるのに」
「!……私はサッカー部の顧問ですからね…。こう見えて、いつも貴方たちの事を考えていますよ…」
「一度も練習を見に来た事すらないのにですか」
「………」
これ以上話す事は無いとでも言うかのように黙り込んだ冬海先生から視線を外す。
「皆、御影専農は強い。でも、イナビカリ修練場の特訓を乗り越えた今の俺達なら、必ず勝てる。さあ、行くぞ!」
『おう!』
雷門ボールのキックオフ。ボールを持った染岡がそのまま上がっていく。染岡の前に、御影専農のエースストライカー、下鶴が立ち塞がるが
「何っ!?」
下鶴は棒立ちのまま、染岡に抜き去られる。
「ディフェンスフォーメーション、γスリー、発動」
杉森の指示で、御影専農の選手達が行動を開始。染岡からボールを受けた豪炎寺の動きを読んでいたかのように、目の前に立ちはだかる。
豪炎寺は自分にマークが集中した為に、フリーになっている染岡にパスを出す。ボールを受けた染岡はそのままシュート体勢に入る。
「ドラゴンクラッシュ!!」
放たれた染岡の必殺シュートは、コース上にいた御影専農の選手達がボールを一回ずつ蹴り、ボールは杉森の元に辿り着いた時には完全に勢いを失っていた。
なるほど。正確な指示出しと、それを寸分違わず実行する選手達。大したもんだ。今のシュートブロックだって、染岡のシュートの威力や角度を完璧に把握していなければ出来ない芸当だ。しかし、なんというか
「……気持ちの悪いサッカーだな」
実力があるのは確かだろうが、どこか機械の様な冷たい印象を受ける。サッカーサイボーグとはよく言ったものだ。
ボールは杉森から下鶴へと渡り、そのままドリブルで攻め上がる。
「オフェンスフォーメーション、βツー、スタンバイ……実行」
杉森のその指示に従い、下鶴がパスを出す。しかし、それを風丸がスライディングでカットする。早くも特訓の成果が出始めてるな。
「あいつ、よく間に合ったな」
そう土門が声を掛けてくる。今日は土門が栗松の代わりにDFに入っている。原作だと影野がベンチになるけど、この世界だと影野は一年の時からサッカー部にいたから、実力は栗松よりも上だ。
ボールを奪いそのままドリブルで持ち込んだ後、風丸は宍戸へパスを出す。しかし、このボールを御影専農に奪われる。
そのままマックスと土門が抜かれ、ゴール前に持ち込まれる。
「影野、壁山、11番のマークにつけ!」
下鶴には二人掛りのマークをつける。これで一人にマークを集中させた分、逆サイドの山岸がフリーになる。御影専農はそこを突いてくるはず。
予想通りに山岸へとボールが渡る。ゴール左隅を狙ったシュートを余裕を持ってキャッチする。
御影専農のデータに基づいた正確なサッカーは確かに脅威だ。だが、それは裏を返せば、必ず最も成功率の高いプレーをしてくるということ。視野を広く持ち、状況を上手く誘導してやれば、次のプレーを予測するのは、決して不可能なことではない。
ボールは俺から風丸へ、風丸から豪炎寺へと繋がる。
「ファイアトルネード!!」
「シュートポケット!!」
杉森の創り出したバリアは、〈ファイアトルネード〉の勢いを完全には止めきれず、しかし、両手でこのボールを弾く。
だが、雷門の攻撃はまだ終わっていない。弾かれたボールに染岡が走り込んでいる。
「行くぞ豪炎寺!ドラゴン──」
「トルネードッ!!」
「シュートポケットォ!!」
素早く体勢を立て直した杉森が再び〈シュートポケット〉でこのシュートを止めに掛かる。しかし、〈ファイアトルネード〉よりも威力の高い〈ドラゴントルネード〉を止めることは出来ず、またもバリアは突き破られる。杉森はシュートの威力に後ずさりながらもなんとかボールを弾き返す。
「豪炎寺さん!」
このボールにオーバーラップして来た壁山が走り込んで来ている。跳躍した壁山を踏み台に、豪炎寺が上空へと飛び上がる。
「「イナズマ落とし!!」」
「ロケットこぶし!!」
しかし、杉森が今度は完璧にこのシュートを弾き返す。
────今の攻撃を防ぎ切るのか。
恐らく同じ事が出来るキーパーは、全国的に見てもそう多くないだろう。杉森は間違いなく全国クラスの選手だ。
今の攻防からも分かる通り、奴から点を取るのは容易ではない。だが、決して不可能という訳でもない。奴は〈ファイアトルネード〉と〈ドラゴントルネード〉に対して〈シュートポケット〉を使った。それが示すのは、御影専農の事前のシュミレーションでは〈シュートポケット〉で完全に止めきれていたということ。だが、実際には両方とも完全には止められず、〈イナズマ落とし〉には別の必殺技での対処を余儀なくされている。これは、豪炎寺や染岡のシュート力が奴らの持つデータを上回った証拠だ。奴らがデータに固執すればするほど、この僅かな差がどこかに隙を作り出す。そこを攻めれば、得点に結びつけることが出来るはずだ。
ボールを確保した御影専農が攻め上がってくる。早くもゴール前だ。
「オフェンスフォーメーション、データファイブだ」
「来るぞ!風丸は10番のチェック!壁山と影野は9番をマークだ!」
これで、選択肢は大分絞れる。マークの厳しい山岸へのパスは無い。時間を掛ければ、こちらに体勢を立て直されるからバックパスの線も薄い。風丸を突破してそのままシュートを打ってくる可能性は否定出来ないが、それよりも確率の高い選択肢があればそちらを優先するはず。なら残る選択肢は一つ。逆サイドの下がり目の位置から走り込んで来ている下鶴だけだ。
10番の大部から予想通り、下鶴へとボールが渡る。後はこいつのシュートを俺が止めればいい。
ボールを受けた下鶴は、ボールを空中へと蹴り上げ、自身も回転しながら飛び上がる。
「ファイアトルネード!!」
「ゴッドハンド!!」
下鶴が豪炎寺の〈ファイアトルネード〉を使ったことに皆は驚いている。俺も初見なら同じように動揺し、ゴールを奪われたかもしれないが、こいつが〈ファイアトルネード〉を使えるのは知っている。
冷静に〈ゴッドハンド〉でこのシュートを受け止めた。
シュートを受けた感覚からすると、豪炎寺の〈ファイアトルネード〉よりも若干威力は低いか。しかし、〈メタリックハンド〉では止めきれないだろう。十分に脅威となり得る。
試合はまだまだこれからだ。気は抜けない。
キーパーの指示出しとか、こんな感じでいいのか分からない……。
でも原作でも似たようなもんだったし、大丈夫ですよね……?