「やるじゃねぇか、半田!」
「凄いですよ半田さん!」
御影専農のゴール前で半田が皆に揉みくちゃにされている。上手くいってよかった。一度しか通用しない手だったからな。
一個人の情報の全てを知るなんてことは不可能だ。知った気でいても、何かしらの取りこぼしは必ずある。親友や親兄弟にだって知らないことはあって当然だ。ましてやそれが見ず知らずの他人なら尚更な。この一点は、御影専農がデータに頼ったサッカーをしていたからこそ生まれたもの。御影専農のサッカーにとって、情報収集の重要さは言うまでもない。それを怠っていたのが原因の失点は御影専農のサッカーの根底を揺るがすことになる。
────杉森、今の失点はお前がデータに頼らず、自分自身の意思でゴールを守っていれば防げたはずだ。
〈ドラゴントルネード〉に〈ローリングキック〉の威力を足したところで、〈ロケットこぶし〉を破れる程のパワーは無い。杉森が最初から半田にも意識を向けた上で、〈ロケットこぶし〉で対応していれば何の問題も無かった。
────これでも、お前はデータが全てだと言えるのか。
試合再開後から、御影専農の様子がおかしい。杉森が困惑している様子を見せた後、御影専農の選手達の動きが止まった。
まさかと思い、御影専農のベンチを見ると、さっきまでいたはずの監督の姿がない。失点されたことで、選手達を見限ったのか。
眉間に皺を寄せる。まだ試合は終わっていない。杉森達の実力を考えれば逆転することは十分可能なはず。なのに、選手達の誰よりも早く、チームを導く立場であるはずの監督が勝負を投げたというのか。それは、ここまで頑張ってきた選手達への裏切りではないのか。御影専農の監督への苛立ちを隠せない。
御影専農の選手達はここまで、状況に応じてその都度指示を出され、それを忠実に実行していたにすぎない。だから、その指示が無くなれば、どうしていいか分からず足が止まる。自分達の意思でプレーすることを忘れてしまっている。
「ファイアトルネード!!」
豪炎寺のシュートに必殺技を発動することもできず、杉森がゴールを奪われる。あれは、本当にさっきまでゴールを守っていた奴と同一人物なのか。呆然と立ち尽くすその姿は、まるで迷子のようだ。
試合が再開するが、御影専農の選手達は動かない。ボールを奪いそのまま上がっていく染岡を黙って見送る。完全に勝負を諦めてしまっている。
「ドラゴンクラッシュ!!」
染岡がシュートを放つ。杉森は俯いたまま、動かない。そのままゴールされるかと思われたが
「うおおああああ!!!」
杉森が雄叫びと共に〈シュートポケット〉を発動する。発動が遅れた〈シュートポケット〉は本来の威力を発揮できず、〈ドラゴンクラッシュ〉に突き破られる。
「負けたくない……!俺は……負けたくない……!」
杉森は諦めずボールを両腕で受け止める。シュートの威力に押し込まれながらも、ギリギリのところで止めてみせた。
「皆も同じだろう!最後まで……戦うんだ!」
そう言って杉森は自分の頭の装置を投げ捨てる。
「最後の一秒まで……諦めるな!」
杉森の言葉を聞いた御影専農の選手達の瞳に、確かな闘志が宿る。さっきまでとは違う。一人一人が、自分の意思で戦うことを選んだ。
────ここからが本当の勝負だな。
そこからは両チーム一進一退の攻防が続く。
豪炎寺の〈ファイアトルネード〉を杉森が〈シュートポケット〉で防げば、下鶴の〈パトリオットシュート〉を俺が〈メタリックハンド〉で受け止める。
両チーム一歩も譲らず、どちらも得点できないまま、時間だけが過ぎていく。
そんな中、俺は原作の円堂のとある言葉を思い出していた。
────気持ちには気持ちで応える!それが本気の相手への礼儀だ!
御影専農の選手達を見る。与えられた命令を淡々とこなすのではなく、全員が自分の意思で、全力でぶつかって来ている。
────なら、こっちも全力のプレーをしなきゃ、失礼だよな。
覚悟を決める。
「壁山、影野、少しの間、このゴールを任せてもいいか」
「はいッス!」
「……ああ、分かった」
俺のやろうとしていることを察した二人が了承の返事を返す。その声を聞くと同時に、俺はゴールを飛び出して前線へと走り出した。
敵味方問わず、俺が上がって来たことに驚いているが、ただ一人、豪炎寺だけがその意味を即座に理解し、笑みを浮かべる。
「いくぞ!豪炎寺!」
「おう!」
豪炎寺が軽くボールを蹴り上げ、ボールの左側に俺が、右側に豪炎寺が回り込む。
「「イナズマ1号!!」」
タイミングを合わせ、二人同時にシュートを放つ。
センターラインからの超ロングシュート。しかし、意表をついたキーパーのシュートに御影専農の選手は反応できていない。誰にも遮られることなく稲妻を帯びたボールが御影専農のゴールへと到達する。
「シュートポケットォォォ!!!」
杉森が全身全霊の〈シュートポケット〉でこのシュートを迎え撃つ。許容上限を超えたシュートの威力にバリアが突き破られ、ゴールに向かうボールを杉森が両手で受け止める。だが、シュートの威力に押され徐々にゴールへと押し込まれていく。
「負け……るか……!俺は……俺は!う……おおおおお!!!」
やがてボールの回転は止まり、杉森の両手にボールが収まる。確かに杉森はボールを止めてみせた。しかし、無情にもその体はゴールラインを割っており、雷門の得点となる。
御影専農のボールで試合が再開されるが、すぐに審判の笛が吹かれ試合終了となる。3-0で雷門の勝利だ。
ゴール前に立つ杉森へと歩み寄る。
「杉森」
「……円堂」
こちらを見る杉森の顔には疲労と悔しさが見て取れる。決して試合前の様な無表情ではない。
「良い試合だったな。最後のお前の気迫、凄かったよ」
「……不思議な感覚だ。自身のデータは把握しているが、あの瞬間確かに、俺はデータ以上の力を発揮できていた気がする……」
そう言って自分の両手を見つめる杉森。
「……杉森、これは俺の個人的な考えなんだけどさ、もう駄目だ、って思った時に自分の背中を押してくれるのは、日々の努力と諦めない強い意思の力だって、俺はそう思ってる」
「意思の……力?」
「ああ、あの時、お前はこのボールだけは止めてみせる、絶対に負けない、っていう強い意思を持っていたはずだ。そういう、誰かに勝ちたい、負けたくないって気持ちが、限界以上の、データを超える力を引き出すんだ」
「データを超える……力……」
「それにさ」
言葉を切り、杉森に笑いかける。
「誰に命令される訳でもなく、純粋に勝利を目指して、自分の全部を出し切った試合は、楽しかっただろ?」
「たの……しい?……そうか、これが、楽しいという気持ちか……」
杉森が自分の胸に手を当て、目を閉じる。
「円堂、君達のおかげで、大切なことを思い出せた。ありがとう」
「俺は何もしてないさ。お前らが全力を尽くした結果だよ」
「……そうだな…」
俺は杉森に向かって右手を差し出す。
「またやろうな。今度は前半から、お前ら自身のサッカーで」
「……ああ、必ず」
試合前には交わされることのなかった握手を俺達は交わす。
この試合で俺もまた一つ、成長できた気がする。
3-0と点差だけを見れば雷門の完勝だが、実際には危ない場面も多かった。
次の準決勝、相手は恐らく尾刈斗を破って秋葉名戸が勝ち上がってくるはず。秋葉名戸はどんな手を使ってくるか分からない。原作とは違い豪炎寺が出場できる分、楽にはなるかもしれないが油断は禁物だ。
短めで申し訳ない。
盆休みが終わるので投稿速度が落ちるかと思います。
ご了承ください。