御影専農との試合を終えた翌日、俺達は部室でミーティングを行っていた。
「尾刈斗が負けたか…」
つい先程、準々決勝の試合結果がネットにアップされ、俺達の準決勝の相手が判明した。
「あの尾刈斗が負けるなんて……」
「秋葉名戸っていったいどんなチームなんだ?」
準決勝の相手は原作通りに秋葉名戸になった。今大会最弱と言われる秋葉名戸。純粋な実力勝負であれば負けることはまずありえない。
「木野、音無、秋葉名戸の情報はあるか?」
秋葉名戸が原作と比べて強化される要素は特にないし、大丈夫だとは思うが、確認するのは大事だ。
「学力優秀だけど少々マニアックな生徒が集まった学校」
「フットボールフロンティア参加校の中でも、最弱の呼び声が高いチームです」
「そして……な、何これ!?」
木野が顔を赤らめ、声を荒らげる。ああ、あれか。
「尾刈斗中との試合前も、メイド喫茶に入り浸っていた、ですって」
「な、なんですと!」
その言葉に目金が反応して立ち上がる。やっぱりこいつはこういう反応をするのか。てか原作よりもオーバーになってないか。夏未が物凄く冷ややかな目で見てるぞ。
「これは行ってみるしかないようですね。そのメイド喫茶に」
「いや、なんでそうなる」
「秋葉名戸学園とやらがあの強豪、尾刈斗中を破ったのにはきっと何か訳があるはず。僕にはその訳がメイド喫茶にあると見ました。行きましょう、円堂君!」
「いや、行かないから」
いつになく自信満々にそう言う目金だが、それお前が行きたいだけだろ。というか俺にその話を振るのは止めろ。夏未が凄い目で見てきてるから。怖いから。
「円堂君、いいですか。僕達は秋葉名戸のことを何も知りません。これは言わば、試合を有利に進める為の情報収集なのですよ!」
「……はあ、分かったよ」
俺は全くそうは思わないが、許可しないと目金は止まらないだろう。それに豪炎寺も居るし、勝てる試合だと思うけど、秋葉名戸は何をしてくるか分からない怖さがある。穏便に事を運ぶには、原作をなぞるのが無難だ。目金と秋葉名戸に面識を持たせるのはそう悪いことではない。
「だけど、全員で行かなくてもいいだろう?お前と……後一人ぐらい行けばいいだろ」
目金一人だけを行かせるのも少し不安だ。お目付け役として誰か一人同行させればいいだろう。誰か行きたい奴はいるかと聞いてみれば、全員が無言で目線を逸らした。……仕方ない。
俺達の生贄を決める、熾烈な戦いが始まるのだった。
俺達の戦い、じゃんけんに破れメイド喫茶への同行が決まった染岡が絶望の表情を浮かべている。原作ではそれほど嫌がってなかったような気がするけど、集団心理ってやつかな。流石にそこまで親しくもない目金と二人きりでメイド喫茶と言うのは抵抗があるらしい。しかし染岡と目金が二人きりでメイド喫茶って想像してみると絵面が凄いな。
「さあ、練習始めるぞ!」
思わず笑ってしまいそうになるのを堪えつつ、練習に向かう。染岡が助けを求める視線を送ってきているが気付かないふりをする。じゃんけんをしている最中、誰とは言わないがずっと殺気を感じて冷や汗が止まらなかったのだ。許せ染岡。俺はまだ死にたくない。
その後、酷く疲れた顔をした染岡から聞いた話によると、だいたい原作と似た様な展開になったようだ。原作の展開を思い出すとあの場に染岡一人を放り込んだことに今更ながら罪悪感を覚える。今度、雷雷軒でラーメンでも奢ってやろう。
溜まった鬱憤を晴らすかのごとく、練習に励む染岡。それに触発されてか、他の部員達もやる気になっている。原作だと秋葉名戸のサッカー部を見て、練習へのモチベーションが落ちていたからな。メイド喫茶に行くのを少人数にしたのは正解だった。
「円堂」
声を掛けてきたのは豪炎寺。
「頼みがあるんだが」
……なんか似た様なことが前にもあったような気がする。
「……なんだよ?」
若干警戒しながら聞き返した俺に豪炎寺が言ったのは、予想していなかった驚きの言葉だった。
「次の試合、俺をスタメンから外してほしい」
試合当日、秋葉名戸学園までやって来た訳だが
「どうして私がこんな格好を……」
マネージャーはメイド服着用とかいう訳の分からんルールに従って、メイド服に着替えた雷門のマネージャー達。木野と音無は結構ノリノリだけど夏未は嫌そうだな。まあ、本当ならこういうのを着るような奴じゃないから仕方ない。
そしてメイド姿の三人を秋葉名戸のサッカー部員がカメラで撮影している。おい、本人の許可取ってから撮れよ。
しかし、まあ、
「これが準決勝の相手かぁ……」
分かってはいたが、実際に見ると気が抜けるな。とてもじゃないがこんな奴らに負けるイメージが湧かない。
「今日のスタメンだが、豪炎寺を抜いて目金で行こうと思う」
『ええ!?』
全員が驚きの声を上げる。無理もない。俺だって同じ立場なら同じ様に驚くだろう。
「なんで目金がスタメンなんだよ!?」
「そうでヤンスよ!」
「やっぱり豪炎寺さんがいないと!」
こうなるよな。皆が言うことも尤もだ。豪炎寺を外さなければならない理由もなければ、目金を出す理由もない。仮にもイナビカリ修練場の特訓に耐えているだけあって目金も体力はそこそこついてきてはいる。しかし、技術面では部内で一番下だ。
「目金だってサッカー部の一員だ。今回はなんかやる気になってるし、出してもいいかと思ってさ」
この試合に掛ける目金の熱意は本物だ。原作抜きに考えてもこういう気持ちになってる奴は出してやりたいと思う。それに元々どこかで出場させるつもりではあったのだ。この機会を逃せば、恐らく次に目金が出なければならなくなる可能性が一番高いのは世宇子戦になる。流石に初めての試合の相手が世宇子というのは酷なので、経験を積ませておきたい。
「でも、なんで豪炎寺さんを外すんですか!」
結局そこだよな。豪炎寺は雷門のエースストライカー。普通に考えれば大事な準決勝のスタメンから外すのはありえない。俺も本当なら外したくない。だが、これにも理由はある。
「……皆、豪炎寺がいるのが当たり前だと思ってるだろ?今までの試合を振り返ってみても、俺達は豪炎寺に頼りすぎてる」
野生の時も御影専農の時も、豪炎寺がいなければ勝てなかった。別に豪炎寺に頼るのが悪い訳じゃないが
「この先、豪炎寺が試合に出れない時だってあるかもしれない。それに何より、豪炎寺一人に頼らなきゃ勝てない様なチームが帝国に勝てるはずがない」
自分がやるんだという意識を全員が持たなければ、きっと帝国には勝てない。ましてや今日の相手は参加校最弱の秋葉名戸。豪炎寺がいないだけで勝てなくなるようでは話にならない。というのが表向きの理由。本当の理由は別にあるのだが今はそれは置いておく。
「だから、今日は豪炎寺に頼らず、俺達だけの力で勝つ」
俺の言葉に皆は一応納得はしたみたいだ。まだ不安そうにしてる奴もいるけれど。
「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか!」
「大船に乗ったつもりでいてくださいよ」
染岡と目金がそれぞれやる気を示す。この調子ならなんとかなりそうだな。
秋葉名戸との試合が始まったのだが、相手は一向に攻める気配がない。ボールを奪いに行くが相手の妙なノリにペースを崩されている。
原作通りに後半に勝負を掛けてくるつもりだな。前半で点を取れると思っていたが実際に試合してみると力が抜ける。こりゃ前半はこのまま終わるな。
俺の予想は当たり、前半を0-0のまま折り返す。
「まさか全く攻めてこないなんて……」
「よく分からない奴らだな……」
皆も別に動きは悪くないんだがな。相手の考えが分からず困惑しているようだ。
「恐らくだが、あいつらは後半に攻めてくるつもりなんだろう。前半は守備に徹する作戦だったんじゃないかな」
「でも、なんでそんなことを?」
「多分だけど……単純にスタミナがもたないからじゃないか?」
『ええ……』
体つきや目金と染岡から聞いたメイド喫茶での様子を考えると、普段から練習もあまりしていないのだろう。スタミナがそれほどあるとは思えない。
「何にせよ、後半からが勝負だ。皆気は抜くなよ」
そして始まった後半戦。予想通り攻め上がってくる秋葉名戸。ボールを奪いに行ったマックスがボールをスイカとすり替えられ突破される。実際に見ると酷い技だ。あれ、相手の監督が食ってるスイカだろ。試合妨害で退場させてくれないかな。
そんなことを考えている間にボールはゴール前。
「「ど根性バット!!」」
サッカーじゃなくて野球じゃねぇかとツッコミを入れたくなる必殺技によるシュートが雷門ゴールに向かう、が
「よっ、と」
「何っ!?」
横っ飛びで軽くキャッチする。相手は止められたことに驚いているが、こんなのは不意をつかれなければただのシュートと変わらない。むしろ普通に蹴るよりも威力は低いかもしれない。
「行け!カウンターだ!」
素早くボールを蹴り出す。秋葉名戸の陣形はFWが五人という超攻撃的なもの。上手く機能すれば攻撃力はかなりのものだろう。
しかし、この陣形は致命的にカウンターに弱い。FWの五人に加えてMFまでもが攻撃に参加する為、得点できずにカウンターを食らった場合に守備の人数が少ない。特に中盤はがら空きだ。おまけに戻りも遅い。
一度の攻撃で何としてでも一点もぎ取る為の陣形なのだろうが、諸刃の剣という言葉がこれ程似合う戦い方もそう無い。
無人の中盤を走り抜けた染岡がDF二人を抜き去りシュート体勢に入る。
「ドラゴンクラッシュ!!」
放たれたシュートはキーパーの体ごと、秋葉名戸のゴールに叩き込まれた。………え、決まったんだが。〈五里霧中〉と〈ゴールずらし〉はどうした。
皆が喜ぶ中で一人困惑する俺。えっと、今染岡がDF二人躱してゴール前に一人しか残ってなかったから〈五里霧中〉が使えなかった、のかな。そして〈ゴールずらし〉も間に合わずにそのままゴール、ってことだよな多分。
その後、失点し後が無くなった秋葉名戸は全員攻撃を仕掛けてきたものの、真正面からぶつかり合えば雷門に分がある。カウンターからの得点を三度重ね、4-0で勝利したのだった。
あれ、目金出した意味…………。
なお原作の様な展開にはならなかったものの、試合後に目金と秋葉名戸の間には謎の友情が芽生えており、大会で優勝してアメリカ遠征に行った際に限定フィギュアを彼らの分も買ってくると約束していた。
試合前に色々言ったのになんかあっさり勝ってしまった。目金の見せ場を潰してしまったことに若干罪悪感を覚えるが、苦戦しなかったんだし良しということにしておこう。
目金の活躍を無くして申し訳ありません。
全国の目金ファンの皆様にこの場を借りて謝罪申し上げます。
作者の秋葉名戸戦に対するモチベーションが低過ぎて良い展開が思いつきませんでした。まあ、こういうこともあるよね。
帝国戦は頑張るので許してください。
※作者は別に秋葉名戸戦が嫌いな訳ではないです。