「率いるチームを決勝戦まで進めるとは、流石だなあ、冬海?」
「も、申し訳ありません……。まさかあいつらがここまでやるとは……」
人気の無い校舎裏で電話をしている男。その額には汗が流れ表情も強ばっている。
「どんな手を使ってもいい、雷門中を決勝戦に参加させるな。いいか、どんな手を使ってもだ。もしも失敗した時は……」
「わ、分かっております。何としても、不参加にしてみせます」
通話を終えた男は、その場に蹲り悲痛な声を漏らす。
「駄目だ…。うちのチームを決勝戦に参加させたら、私は破滅だ……!」
その一部始終を物陰に隠れた少年、円堂守が聞いていたことに、その男、雷門中サッカー部顧問冬海が気づくことはなかった。
本当に冬海と影山が繋がってるか確証が欲しくて後をつけてみたが、思ったよりも早くボロを出してくれたな。さっきの電話の相手は間違いなく影山だろう。こうして追い詰められた冬海は俺達の乗るバスに細工を仕掛ける訳だが
「さて、どうしたもんかな」
原作通りに事を運ぶのなら何もしなくていい。土門が冬海を告発するのを待てばいいだけだ。ただし、それは原作通りになることを前提として考えるならの話だ。
土門が冬海の犯行を知ったのは、偶然朝に冬海を見かけたのが切っ掛けだ。何かしらの要因が重なればそれが起こらない可能性は十分ある。
俺や豪炎寺はこの出来事を知っているから、何も知らずに細工されたバスに乗り込む、何て展開にはどうやってもなりえないが、何の事前情報も無しにこの事を指摘すれば、何故俺達が知っていたのかという疑念を皆に抱かせることになる。
………面倒だが、俺も動いてみるか。
朝早く、サッカー部が決勝戦に向かうのに使用する予定のバスが格納されているガレージに入っていく人影。しばらく何かをしていた様だ。頃合いを見てこちらから声を掛ける。
「冬海先生」
「!!」
人がいるとは思っていなかったのだろう。振り返った冬海の顔には、焦りの色が見て取れる。
「おはようございます、冬海先生」
「え、円堂君……」
声を掛けた人物が俺であることを認識し、冬海はさらに顔色を悪くする。
「え、円堂君……。な、何故ここに……」
「いえ、冬海先生がここに入っていくのが見えたので、挨拶でもしようかなと。………バスの整備でもしていたんですか?」
「……!!」
俺の言葉に息を詰まらせる冬海。しかし、黙っているのは不味いと判断したか、引き攣った笑いを浮かべて話し出す。
「え、ええ。当日に整備不良でも起こされては堪りませんからね」
「へえ、それはどうも。でも冬海先生、整備の資格なんて持ってたんですね」
「ええ、一応はね」
これ以上会話を続けると不味いとでも思ったか、会話を切り上げてガレージから出て行こうとする冬海を呼び止める。
「冬海先生」
「……何です」
「昨日の電話の相手、誰だったんです?」
「!?」
驚愕の表情を浮かべる冬海。
「な、何のことで───」
「なかなか面白いことを言っていましたね。雷門を決勝戦に参加させたら先生は破滅する、でしたか?」
「……………」
驚愕から一転、冷たい目で俺を睨みつける冬海を見据える。
「……聞き間違いでしょう。君には関係の無いことです」
そう言ってガレージを去っていく冬海。
今はこれでいい。後は俺と冬海の会話を盗み聞きしていたであろう土門に任せよう。さっき柱の影に隠れてるのが見えたからな。原作と同じ様な流れにしてくれるはずだ。
帝国戦を控え、皆の練習にも熱が入っている。
「よし、もう一度だ!」
「「はい!」」
風丸が栗松と宍戸と何かやってるな。最近あの組み合わせよく見るけど、新しい技でも作ってるのかな。
「クンフーヘッド!!」
「クロスドライブ!!」
少林とマックスが覚えたばかりのシュート技を何度も打ち込み、精度を高めている。MF陣の得点力が増すのは良い事だ。豪炎寺や染岡以外の選手も積極的にシュートを打っていけば、相手にプレッシャーを与えられる。
「行くぞ壁山!」
「はいッス!」
壁山は染岡と半田を相手にしてのディフェンス練習か。最近たまに壁山のでかい体がより大きく感じる事がある。〈ザ・ウォール〉の習得も近いかもな。
皆が練習に励む中、土門が練習を抜け出しどこかへ行くのが見えた。
原作を考えれば鬼道と話しに行くのだろう。……あいつも色々悩んでるんだろうけど、信じるしかない。俺達の仲間である土門飛鳥のことを。
「何か有用なデータでも手に入ったか?」
「……いえ、そういうことじゃないんですが」
問い掛けたのは決勝戦で雷門と戦う帝国のキャプテン、鬼道有人。応えたのは雷門サッカー部の一員である土門飛鳥。
「鬼道さん、本気なんですか。いくら何でもやり過ぎですよ。移動用のバスに細工するなんて……」
「…………」
鬼道は何も言わない。土門の問いに沈黙を返す。
「鬼道さん!」
「……それが帝国の、いや、総帥のやり方だ」
「………!!」
その言葉にショックを受ける土門。自分もスパイとして雷門にいる以上、帝国に後暗い部分があるのは理解していたが、そこまでとは思っていなかったのだ。
「……土門、お前が雷門に行く前に、俺がお前に言ったことを覚えているか?」
「えっ?」
言葉を失う土門に今度は鬼道がそう問い掛ける。
「あの時、俺は言ったはずだ。お前が自分の行動に疑問を覚えることがあれば、その時は自分の心に従えと。お前がこのまま帝国のスパイを続けようが、帝国を裏切り雷門につこうが俺は構わん。お前が、自分の意思で決めるんだ」
「俺の、意思で……」
考え込む土門を残し、その場から立ち去ろうとする鬼道の耳に、一番会いたくなかった相手の声が響いた。
「お兄ちゃん」
「……春奈か」
鬼道の前に立つのは雷門のマネージャーである音無春奈。
「雷門中の偵察にでも来たの?」
「偵察?そんな必要はない。勝つと分かっているのに、そんな労力を払う必要がどこにある?」
「……!!」
鬼道を睨む音無と、何も感じていないかのようにその視線を受け流す鬼道。場の空気がより一層険悪なものへと変わる。
「貴方は、変わってしまった……」
「何だ、分かってるじゃないか」
鬼道が笑う。目の前の愚か者を、嘲笑うかのように。
「お前の知ってる俺は、もうどこにも居ないんだよ」
「……!!」
音無の顔が歪む。信じたものに裏切られ、今にも泣き出してしまいそうな彼女に背を向け、鬼道は去っていく。
「………そう、どこにもな」
小さく呟いた鬼道のその言葉が、音無の耳に届くことはなかった。
「貴方のような教師はこの学校を去りなさい!これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!」
どうやらきちんと夏未に冬海のやろうとした事は伝わったらしい。原作通りに冬海の企みは暴かれ、夏未が解雇通告を突きつける。
「クビですか。そりゃあいい。いい加減こんな所で教師やってるのも飽きてきたところです」
悪びれた様子も無く、そんなことを宣う。
「しかし、この雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけと思わないことだ。ねぇ…………土門君?」
それだけを言うと、冬海は笑いながら立ち去って行く。
なんでこいつはこう余計なことを言うかな。黙ってどっか行ってくれりゃいいのに。
冬海のその言葉で、土門に皆の視線が集中する。
「………冬海の言う通りだよ。皆、悪ぃ!」
「おっと、待てよ土門!」
自分が帝国のスパイだという事を認め、走り去ろうとする土門の腕を掴んで引き止める。
「離してくれ円堂!俺は………!」
「知ってたよ」
「……えっ?」
抵抗する土門だったが、俺の言葉を聞いて動きを止める。
「な、ならどうして……?」
「どうしてって、お前は俺達の仲間だろうが」
「お前!話を聞いてなかったのか!?俺は帝国のスパイなんだぞ!」
「……はあ。あのな土門、スパイだとかそんなのは関係ない。その雷門のユニフォームを着れば、皆仲間なんだよ」
「そんな屁理屈……!」
「屁理屈なんかじゃないさ。お前は野生の時も御影専農の時も、雷門の勝利の為に尽くしてくれたじゃないか」
「それは……」
「後、夏未が持ってるあの手紙、お前が書いたんじゃないのか?」
「…………」
この場の沈黙は肯定と同義だな。
「同じスパイである冬海を告発したってことは、お前はもうスパイは辞めるってことだろ。それでいいじゃないか」
「……それでも、お前らを騙してたのは事実だ」
………なんか段々面倒くさくなってきたな。
「いつまでもうじうじ言ってないで、さっさと練習に戻るぞ。だいたいなぁ、そんな辛そうな顔してる奴のこと、放っておけるかよ。心配しなくても、こんな事でお前のこと追い出そうとするやつなんかうちの部には居ねぇよ。そうだろ?皆!」
皆が頷きを返してくれる。
「……俺、まだ、サッカー部に居てもいいのか……?」
土門が声を震わせながらそう聞いてくる。
「当たり前だろ。お前は雷門中サッカー部の土門飛鳥だ。これからもよろしくな!」
「……ああ!」
涙を流しながら、土門が破顔する。今日、土門は本当の意味で俺達の仲間になった。
「さて、冬海も居なくなって気持ち良く決勝戦に挑める、と言いたいところだが一つ、問題がある」
「?何だよ円堂、問題って?」
「フットボールフロンティアの規約書によると、監督の居ないチームは大会への参加が認められないらしい」
『え?』
「つまり冬海が居なくなったから、代わりの監督を見つけられなきゃ不戦敗になるってことだ」
『えええええええええええ!?』
響木監督の勧誘、どうすっかなぁ………。
円堂の誕生日に帝国戦を投稿しようとか思ってたんですが、作者が書くのが遅すぎて全然間に合いませんでした(泣)