そんな訳で新しい監督を探すことになったのだが、誰に頼むかは考えるまでもない。
響木正剛。
四十年前の雷門サッカー部、イナズマイレブンのキャプテンでGKを務めていた人物。現在は稲妻町の商店街で雷雷軒というラーメン屋を営んでいる。
原作を抜きにしても彼以上に適任な人物は他に居ないだろう。
問題はどうやって勧誘するかだ。原作では響木さんから円堂大介の秘伝書の存在を教えられたから、そこから響木さんに頼むという案が出たはず。だが俺はそんなこと教えてもらってないし、全然接点がなかった中学生が、いきなりラーメン屋の店主に監督になってくれと頼み込むのは、あまりに不自然だ。昔の事を調べれば元イナズマイレブンだというのは分かるかもしれないが、その為に調べ回るのも怪し過ぎる。隠せたとしても露見した時の言い訳が立たない。
「どうしたんだ?」
悩む俺に豪炎寺が声を掛けてくる。
「響木監督の勧誘、どうしようかと思ってさ。秘伝書の事も教えてもらってないし、サッカーやってたことも知らないだろ?声掛ける理由が無いなって」
「ああ、そういうことなら、前にサッカーしてたって聞いた事あるぞ」
「え、マジ?」
「俺、雷雷軒に結構通ってるんだけどこの前ポロッと漏らしてな」
………こいつの有能ムーブは何なんだ。試合での活躍もそうだが、俺が毎回頭を悩ませる割に、いつも対処が後手後手に回ってるのが馬鹿みたいじゃないか。しかし、そういうことなら一応理由はできたか。
豪炎寺と共に雷雷軒まで足を運ぶ。
「監督になって下さい。お願いします!」
「……仕事の邪魔だ」
とりあえず直球で頼んでみたが、反応は悪い。まあ、無視されるよりはマシだと思っておこう。
「響木さん、昔サッカーやってたんですよね?俺達、どうしても監督が必要なんです。お願いします!」
俺の言葉に顔を上げた響木さんは、そのまま俺の顔をじっと見つめる。
「あの?俺の顔に何か……?」
「お前……円堂大介の孫か?」
「え?は、はい。そうですけど」
「そうか!大介さんの孫か!大介さんの!」
ああ、そうか。この事もまだ知られてなかったのか。でも、これは話を広げる口実になる。
「俺の爺さんのこと、知ってるんですか?その言い方だと結構親しそうですけど、もしかして響木さん、伝説のイナズマイレブンの一人だったり!?」
「……イナズマイレブンは災いを齎すぞ。関われば恐ろしいことになるだけだ」
そう言って手に持っていたお玉を俺に突きつけてくる。響木さんは別に嫌がらせでこんな事を言ってる訳じゃない。イナズマイレブンの悲劇は、響木さんにとって忘れることのできないもの。下手に関わることで同じ様な悲劇を生まない為に、厳しい言い方をしているのだろう。でも、ここで引く訳にはいかない。
「次の試合、地区予選の決勝戦の相手は、帝国学園なんです」
「!!」
「お願いします。帝国に勝つ為には、響木さんの力が必要なんです!俺達の監督になって下さい!」
そう言って今まで黙っていた豪炎寺と共に頭を下げる。
「……客じゃない奴は出て行け。仕事の邪魔だ」
「……分かりました。今日はこれで失礼します。でも、また来ますから。行こう、豪炎寺」
もう一度響木さんに頭を下げ、雷雷軒を後にする。
「で?どうするんだ。原作と同じ様に勝負を仕掛けるのか?」
「最終的にはそうなるだろうな。でも直ぐには仕掛けない。今後の事を考えると、鬼瓦さんとも話しておきたいからな」
「鬼瓦さん?あの人と何かあったっけ?」
「……イナズマイレブンの悲劇はあの人から聞くんだよ。後、響木さんがイナズマイレブンのキーパーだったのもな」
「そうだったか」
俺達は原作の知識を持ってはいるが、細部に至るまでの全てを記憶している訳じゃないし、曖昧になっている部分もある。こういう認識の擦り合わせは大事だ。間違った認識のまま、お互いがこうだと思い込んで行動すれば下手をすれば何か、取り返しのつかないことになる可能性も有り得るからな。
「豪炎寺、響木さんの説得は俺に任せてくれないか?」
「お前の方が適任だと思うし俺は構わないが」
「ありがとう」
いつも試合では豪炎寺に頼ってしまうことが多いからな。こういうところでは俺が頑張らないとな。
そのまま今日の練習場所である河川敷のグラウンドに向かう。到着してから少しの間、練習の様子を見ていたが、やはりどこか熱が入っていないようだ。このままだと不戦敗になる状況だし無理もない事ではある。
木野に皆を集めてもらい、先程の雷雷軒でのことを報告する。
「皆、聞いてくれ。監督の当てが見つかった」
「本当か円堂!?」
「ああ、さっき豪炎寺と一緒にその人の所に行ってきたんだ」
「そ、それで……?」
「……残念ながら、断られた」
俺の言葉に希望を見た部員達の顔が暗くなる。……上げて落とす様な言い方をして申し訳ないと思うが、隠しておく訳にもいかないからな。
「必ず俺がその人を説得してみせる。皆が練習に集中できない気持ちはよく分かる。だけど俺を信じてくれ、頼む」
そう言って皆に頭を下げる。
「……顔を上げろよ、円堂」
俺にそう言うのは風丸。
「別に改まって頭なんて下げなくても、俺達はお前を信じるさ」
その言葉に皆を見ると、苦笑を浮かべる者、頷きを返す者、反応はそれぞれだが否定の声は上がらない。
「皆……ありがとう」
「俺達にもできることがあれば、何でも言ってくれよな」
再び練習を再開した部員達。不安が無くなった訳ではないだろう。それでも、俺を信じてくれている。頑張らないとな。ん、あれは……。
こちらを見ているとある人物を発見したので、その人物の元へ向かう。
「よお、久しぶりだな鬼道」
「………」
こいつと会ったのは練習試合の時以来だな。一度ちゃんと話をしてみたいと思ってたけど、何しに来たんだろうか。
「監督が居なくなって意気消沈しているかと思ったが、思ったよりそんな様子は無さそうだな」
「ああ、なんとかな。冬海の事で何か言いに来たのか?」
原作では冬海の事で謝りに来たと記憶していたので、そう聞いてみる。
「冬海?何故この俺が、あんな奴のした事に気を使わねばならない。全てはあいつが勝手にやったこと。俺には関係ない」
影山の指示が原因だし、全くの無関係ではないと思うが、鬼道に非がある訳じゃないのは確かだわな。しかし、じゃあ何で来たんだろう。
「俺は貴様らの様子を見に来ただけだ。やる気のない奴らを倒しても意味はないからな」
「そりゃあどうも。見ての通り、心配してもらわなくても大丈夫だよ」
「そのようだな。まあ、貴様らの調子に関係なく、帝国の勝利は間違いないが」
「……言ってくれるじゃないか。そう簡単に負けるつもりは無いぜ?」
「ふっ、面白い冗談だ。貴様の様な紛い物になど、負ける気がせん」
「なっ!?紛い物だと!?」
かつての練習試合では確かに、帝国に大差をつけられたが、それでもこいつにそんな風に言われる筋合いは無いはずだ。
「試合の途中で勝利を諦めようとする様な奴を、俺は円堂守だと認める気は無い。紛い物で充分だ」
「……ッ!今の俺は、あの時とは違う!!」
つい声を荒らげてしまう。今の俺はあの時よりも随分と強くなったはずだ。もうあの時の様にはならない。
「どうかな?お前自身がそう思っていても、人はそう簡単に変われるものでは無い」
「………!!」
「じゃあな。貴様等との試合、楽しみにしておいてやるよ」
その言葉に、俺は何も言い返せなかった。
鬼道と話した後日、俺は響木さんをもう一度説得する為に雷雷軒に向かっている。鬼道に言われた事は一旦忘れる。今はこっちが優先だ。
「円堂守だな?」
と雷雷軒に向かう途中で声を掛けられた。運がいいな。こんなにすんなりと鬼瓦さんと遭遇するなんて。それとも待ち伏せでもされてたか。まあ何でもいいか。
話があると言うので場所を鉄塔広場に移し、そこでイナズマイレブンの悲劇が語られた。鬼瓦さんがそれについて疑問を抱き、その真相を探る為に刑事になったという事も。……アニメで見てた時は何とも思わなかったが、初対面の中学生にいきなりこんな事話してると思うと、結構ヤバい人に思えて困る。
頃合を見て響木さんについても聞いてみたところ、快く色々と話してくれた。いい人ではあるんだけどな。後の話になるけど、豪炎寺を沖縄に逃がしてくれたり、悪役を皆逮捕してくれるし。あれ、そう考えるとこの人って超重要人物だな。
「貴重なお話しを聞かせてもらって、ありがとうございました。鬼瓦さん」
「ああ、時間取らせて悪かったな。頑張れよ」
「はい!」
鬼瓦さんと別れて、改めて雷雷軒に向かう。鬼瓦さんから話も聞いたし、今日で説得も蹴りをつけてやる。
「響木さん!!」
「……またお前か」
俺の声に面倒そうに反応する響木さん。
「何度来ても答えは変わらんぞ」
「なら、俺と勝負しましょう」
「勝負だあ?」
「響木さん、キーパーだったんですよね?鬼瓦さんから聞きました」
「……鬼瓦のオヤジか。あのお節介め」
そう言って手に持っていた新聞に目を落とす響木さん。やはり応じてくれる気は無いようだ。しかしこちらも引く訳にはいかない。
「キーパーなら、どんなボールも受け止めるもんじゃないんですか」
元キーパーとして、その言葉を聞き流せなかったのか、響木さんが顔を上げる。
「昔の事は聞きました。でも、一度試合ができなかったからって、それがどうしたって言うんですか。人生はそれぐらいで終わるもんじゃないですよ」
「このガキンチョが……」
「俺、思うんですよ。キーパーは足を踏ん張って、へその下に力入れて、でないと守れるゴールも守れない」
「へその下に、か……。大介さんも似たような事を言ってたな。キーパーがゴールを守ってるから、皆全力で敵にぶつかっていける」
「そうです。だから俺も、貴方に全力でぶつかります。勝負です。貴方がシュートを3本打って、俺が3本共止めたら、監督をやってもらいます」
「はあ?3本中3本だと?アホな勝負だ」
「やるのか、やらないのか、どっちですか」
俺と響木さんが見つめ合う。少しの間の沈黙の後、響木さんが静かに口を開いた。
「お前、さっきから言ってるのは誰の言葉だ?」
「……え?」
誰の言葉って、どういう意味だ。原作では確かにこんな感じのやり取りで勝負に応じてくれたはずなのに。
「お前の言葉には気持ちが篭っていない。だから薄っぺらく感じる。そんな言葉では、誰の心も動かすことはできんぞ」
「─────」
言われてみれば、確かにその通りだ。今の俺の言葉は、原作の円堂の言葉をなぞっただけのもの。自分の心の内から出たものではないのだから、そこに感情が宿ることもない。
黙り込む俺の姿を見てため息を吐いた後、響木さんが店の奥に引っこもうとする。
「待ってください!!」
反射的に引き止める。これでどうにかなると思っていたから、他に説得の言葉など考えてはいない。でも、ここで引いたらきっと、響木さんはもう話を聞いてくれなくなる。約束したんだ。俺がこの人を説得してみせるって、皆と。だから
「俺達の、監督をやってください……。お願いします!!」
深く頭を下げる。俺は原作の円堂じゃない。原作に頼らずに、自分の言葉を、この人にぶつけるんだ。
「皆の大会を、こんなところで終わらせたくないんです……!俺にできることなら、どんなことだってやります!だから……!!」
自然と口から出てきたのは、そんな言葉だった。
そうだ。原作を守る為なんかじゃない。初めは俺一人で始まったサッカー部。皆が居てくれるから、今のサッカー部が、俺があるんだ。だから俺は、皆に恩を返さなくちゃならない。全国優勝っていう、最高の形で。その為に、こんなところで終われない。
「お願いします……!!」
「……勝負」
「えっ…」
「勝負、するんだろ。お前が勝てば監督をやってやる」
俺の想いが少しでも通じたのか、響木さんが勝負に応じてくれた。よかった。もう駄目かと思った。
勝負の為に場所を河川敷へと移す。
「いいな、3本中3本だぞ」
「はい!」
ゴール前で響木さんと向き合う。必ず勝ってみせる。
少しリフティングをした後、響木さんが1本目のシュートを放つ。
ゴール左隅にコントロールされたシュートを、何とか弾いた。
精度もスピードも、長いブランクがある人の蹴ったシュートとは思えないものだった。やはりこの人は凄い。
「1本目、止めましたよ!」
「やるな」
今度は先程とは違い、助走もつけてシュートを放つ。明らかにさっきのシュートよりも威力がある。
「メタリックハンド!!」
金属の右手でシュートを受け止めた。
「ほう?……右腕に気を纏わせ、硬質化させたのか。面白い技を使う」
「これで後1本ですよ!」
「調子に乗るなよ。次の1本を落としたら監督の話は無しだ」
「はい!分かってます!」
響木さんがボールをセットし、大きく足を振りかぶる。
「鬼瓦の言ったことが本当なら……見せてみろぉお!!」
放たれたシュートの圧に気圧される。ノーマルシュートではあるが、そこらの必殺技を優に上回る威力だろう。
ならばこちらも最強の技で対抗するのみ。
「ゴッドハンドォォォ!!!」
銀色に輝く神の手が、響木さんが放ったシュートを完璧に受け止めた。
「今のは正しく、ゴッドハンド……。大介さんが帰ってきたようだ」
シュートを止めた俺は、響木さんに駆け寄る。
「俺の負けだ。監督を引き受けよう」
「響木さん……!!ありがとうございます!!」
礼を言うと共に頭を下げる。
「孫、お前……名前は?」
「守……円堂、守です」
「守……。いい名前だ。俺の店でお前が俺に言った言葉、忘れるなよ」
「はい!」
「という訳で、新監督の響木正剛さんだ!」
場所は変わって雷門サッカー部の部室。皆に響木さんを紹介する。
「よろしく頼む。決勝戦はもう目の前だ。お前ら全員鍛えてやる!」
『おう!』
さあ、ついに決勝戦だ。必ず勝ってみせる。勝って皆と、全国へ行くんだ。
次回から多分、帝国戦が始まるかと思います。
帝国戦は書き溜めてまとめて投稿したいと思ってます。
ですが、時間が掛かりすぎると判断した場合はいつも通り1話ずつ投稿します。