「がっ!?」
顔面にボールを受け、吹き飛ばされる。痛みに耐えながら、何とか体を起こし、ボールを蹴った人物を睨みつける。誰かなど考えるまでもない。炎を纏ったボールなど、蹴れるのはこいつだけだ。
「少しは目が覚めたか?」
「何しやがる……豪炎寺!!」
豪炎寺は俺の怒声など、全く気にせず、冷ややかな目で俺を見下ろす。
「それはこっちのセリフなんだがな。何だ、前半のお前の腑抜けたプレーは」
「………ッ!!」
それを言われては言い返す言葉は俺にはない。前半、不甲斐ないプレーをしていたのは事実だ。
「何を怖がってるのか知らないが、試合中はプレーに集中しろよ」
「……ッ、お前に俺の気持ちが分かるのかよ!?いつだって、たった一人でゴールを守らなきゃならない俺の気持ちが!!」
ついカッとなって言い返してからハッとする。違う、こんな事を言いたかった訳じゃない。本心からこんな事を思っている訳じゃない。だが、口から出た言葉を取り消す事はできない。八つ当たりの様な言葉をぶつけてしまったことに対して顔から血の気が引くのを感じる。
俺の言葉に呆気にとられていた豪炎寺だったが、やがて俺の言葉を理解したのか、一度目を瞑り考えるような仕草を見せた後、口を開く。
「円堂」
「な、何だよ?」
「なぜ、皆がお前のことをキャプテンと呼ぶのか、分かるか」
「は?」
何だその質問は。今の状況と何の関係があるんだ。質問の意図が掴めず困惑する俺だったが、豪炎寺はそれ以上口を開かず、俺の返答を待っているので仕方なく答える。
「なぜって……俺がサッカー部を作ったからだろ」
他に誰もいなかったから、成り行きで俺がキャプテンになった。それ以上でもそれ以下でもない。他に理由などないはず。
しかし、豪炎寺は俺の返答を聞いて顔を顰め、大きくため息を吐いた。
「お前は何も分かっていない。周りを見てみろ」
気づけば、座り込む俺を囲むようにして皆が集まってきていた。
「円堂、お前はいつも、俺達の為にラグビー部の連中や稲妻KFCの会田さん、隣町の学校のサッカー部の顧問。色んな人に頭を下げて回ってくれたよな」
「半田……」
「俺が豪炎寺との差に悩んでいた時に、俺は俺でいいんだって言ってくれただろ。あれ、嬉しかったんだぜ?」
「染岡……」
「影の薄かった俺を、サッカー部に誘ってくれた。いつも、俺を見失ったりしないでくれる」
「影野……」
「イナズマ落としの特訓の時、遅くまで付き合ってくれたッスよね」
「壁山……」
「どんな小さなことでも、真剣に相談に乗ってくれたでヤンス」
「栗松……」
「カンフーがサッカーに生かせないか、一緒に考えてくれたこと、覚えてますよ」
「少林……」
「周りについて行けるか不安になっていた俺を、励ましてくれて嬉しかったです」
「宍戸……」
「サッカー部に誘ってくれたのが君じゃなかったら、きっともう飽きちゃってるよ。これでも感謝してるんだ」
「マックス……」
「お前が後ろに居てくれるから、俺は振り返らず、前だけを見ていられるんだ。俺だけじゃない。皆、他の誰でもない、お前だからついてきたんだ」
「豪炎寺……」
「円堂、俺はいつも、お前に助けられてばかりだ。だから今度は俺にお前を助けさせてくれ。一人で辛いなら、お前が背負ってるものを、俺にも一緒に背負わせてくれ。お前が守ってるゴールは、俺達皆のゴールなんだから」
「風丸……」
……俺は、なんて馬鹿なんだろう。いったい何を、あんなに怖がっていたんだろう。俺にはいつだって、俺を信じてくれる仲間が、こんなにも居たというのに。
気づけば、体の震えは止まっていた。代わりに、瞳から涙が溢れた。心が暖かいもので満たされていくのを感じる。
涙を拭い、立ち上がる。
「ありがとう、皆。おかげで目が覚めた」
審判に促され、後半戦の為にポジションに向かう俺達。しかし、俺はフィールドに足を踏み入れる一歩手前で歩みを止めた。徐に額に手を持っていく。そこにあるのは、円堂守のトレードマークであるオレンジ色のバンダナ。少しでも円堂に近づきたくて、少しでも繋がりが欲しくて、せめて形だけでもと思い、円堂守になったあの日からずっと使い続けてきたバンダナ。でも、それももう必要のない物だ。ゆっくりと、頭に着けているバンダナを外す。
────憧れるのは、もう止める。
どれだけ、憧れたところで、他人にはなれない。それに、そんな事にもう意味はないと思える。円堂守になれなくとも、ありのままの俺を信じてくれる、大切な仲間達が傍にいてくれる。それさえ忘れなければ、俺は迷わずに歩いて行ける。
────今までありがとう。
手に持っていたバンダナを投げ捨てる。前を向けばそこにあるのは、俺を待つ仲間達の姿。俺は大きく一歩を踏み出した。
雷門ボールから後半が始まったものの、直ぐに帝国にパスをカットされてしまい、帝国の攻撃が始まる。
帝国の矢のように鋭いパスが雷門ディフェンスを切り裂いていく。ボールはゴール前の佐久間の元へ。鬼道と寺門が走り出し、前半にゴールを奪われた〈皇帝ペンギン2号〉の陣形が形作られる。
佐久間が蹴り出したボールを、鬼道と寺門の二人が同時にシュート。5羽のペンギンと共にボールが雷門ゴールへと飛来する。
半身になり、静かに右手を構える。精神を集中し、気を集める。
『紛い物』
確かに俺は紛い物なのかもしれない。でも、それがどうした。紛い物の放つ輝きが、本物に及ばない等と誰が決めた。
『人はそう簡単には変われない』
変わる必要なんてない。だってこれが俺なんだから。俺を信じる皆を、皆が信じてくれる俺を、信じろ。
顕現した神の手の放つ輝きは今までよりも強く、大きさも一回り大きく。
「ゴッドハンド……改!!」
進化した神の手がペンギン達を吹き飛ばし、ボールは俺の右手に収まる。
「さあ、反撃だ!」
ボールを大きく蹴り出す。だが、なんとこのボールを、凄まじい反応で跳躍した鬼道がカット。ボールは再び佐久間へ。
「皇帝ペンギン2号を止めたことは褒めてやろう。だが、たとえ進化したとしても、ゴッドハンドでは帝国の攻撃を凌ぎ切ることなどできはしない」
俺に向かってそう言い放ち、鬼道は再び跳躍。ボールを持った佐久間の前方には寺門と辺見が走り込む。
「皇帝ペンギン!!」
「2号!!」
三度放たれた皇帝ペンギンの向かう先は、雷門ゴールではなく、空中で既にシュート体勢に入っている鬼道。
「ダークトルネード!!」
〈皇帝ペンギン2号〉から〈ダークトルネード〉のシュートチェイン。闇色の炎を纏ったペンギンが雷門ゴールへと襲い掛かる。
鬼道の言葉は決して間違っていない。進化した〈ゴッドハンド〉でも、このシュートを止めるのは厳しい。そして、〈デススピアー〉は絶対に止められないだろう。
ならばどうする。簡単なこと。答えは一つだ。止められないのなら、より強力な技で対抗するのみ。
体を捻り、シュートに背を向ける。誰のものかまでは分からないが、驚く声が聞こえる。背を向けたと言っても、逃げる訳ではない。心臓に集めた気を右手に余すことなく伝えるには、こうするのが最適だと知っているから。
試してみたことはおろか、この技の為の特訓すら、一度たりともしたことはない。だが、不安はない。できないなんて気持ちは、微塵も湧いてこない。
この胸に溢れる想いを力へと変える。
「オオオオオオオ!!!」
ありったけの気を注ぎ込んだ右手を天に突き上げれば、俺の体から紫電が迸り、咆哮と共に、白銀に輝く魔神が姿を現す。
雷門対帝国。かつて果たされることのなかった因縁の舞台で、長き時を超え、伝説が今、蘇る。
「マジン・ザ・ハンドォォォォ!!」
突き出された魔神の右腕が、闇の炎を纏うペンギンをものともせず、ボールをその手に掴み取る。
「バカな!?」
シュートを止められたことに対してか、それとも俺が〈マジン・ザ・ハンド〉を使ったことに対してか、鬼道が表情を歪め、驚愕の声を漏らす。
「全員、上がれぇぇぇ!!」
ボールを再び大きく蹴り出す。今度こそ、雷門の逆襲が始まる。