────何だ、これは。
見上げた視線の先にあるのは、同点を示す得点表示。視線を移せば、同点に追いつき、歓喜に湧く雷門イレブンの姿。
────何なんだ、これは。
〈パワーシールド〉が破られるのは、想定内だ。かつての練習試合の時にも破られていることを考えれば、別に不思議なことではない。
だが、〈ハイビーストファング〉が破られるのは、完全に予想外だ。今の雷門に、この技を破れる程の威力を持つシュートは存在しない、はずだった。
何故、〈トリプルブースト〉なんて技を、もう使えるようになっている。〈ハイビーストファング〉を破った今のシュートは何だ。そのシュートに繋げたあの凄まじい連携は何だ。前半は、誰の目から見ても明らかな程の差があったというのに、何故、今はこちらと互角か、それ以上に渡り合えるようになっている。いっそ異常とすら思えるその成長速度を目の当たりにし、背筋に怖気が走るのを感じる。
────その切っ掛けを作ったのは、誰だ。
相手ゴール前に立つ、その人物を見据える。以前、自身が紛い物と評したはずのその男に、何故、そんな力があるのか。
〈デススピアー〉によって、奴は折れかけていたはず。前半の醜態がそれを物語っている。立ち直ったのはいい。〈ゴッドハンド〉が進化したのも、まだ分からないでもない。だが、何故いきなり〈マジン・ザ・ハンド〉を使えるようになるのだ。前半ではそんな素振りは全く見せなかったことを考えると、習得したのはあの瞬間か。そんな事が、できるものなのか。
────今まで、俺達が長い時間を掛けて、積み重ねてきた努力は、たった一試合で覆されるというのか。俺は、円堂守の紛い物にすら、勝てないのか。
「ふざけるな……」
────そんな、そんなことを──。
「認めてたまるかあああああ!!!!!!」
試合再開と同時に、勢いよく飛び出し、豪炎寺と染岡を一瞬で抜き去る。そのまま半田とマックスを躱したところで、ボールを上空に蹴り上げる。そのボールに向かって、跳躍する。
「これで………終わりだあああああ!!!!」
〈デススピアー〉の体勢に入った鬼道を見据えながら、俺は秋葉名戸戦の前に豪炎寺と話したことを思い出していた。あの試合で豪炎寺が欠場した本当の理由は、あの時点でほぼ完成していたという〈爆熱スクリュー〉による足への負担が、想像していたよりもかなり大きく、そのまま練習し、試合にも出るとなれば、帝国戦までにベストな状態に戻すのが難しいという判断によるもの。
〈爆熱スクリュー〉が足にそれだけの負担を掛けるなら、同じことが〈デススピアー〉にも言えるはず。共に本来なら、こんな時期に習得しているはずのない必殺技。その威力に、体の方が追いついていないのだ。
鬼道はこの試合、最初の〈デススピアー〉に加えて、〈ダークトルネード〉、〈ツインブースト〉、〈皇帝ペンギン2号〉にその連携シュートと、何度もシュートを放っている。その足に掛かっている負担は、どれ程のものとなっているのか。
そんな状態で放つ〈デススピアー〉は、一度目に放たれたものよりも、いくらか威力は落ちるはず。勝機を見出すとすれば、そこしかない。
「デス………スピアァァァァァァ!!!!!!」
黒雷を迸らせ、凄まじい不快音を奏でながら、死の槍が雷門ゴールへと墜ちる。
その前に、風丸と壁山の二人が立ち塞がる。
「やるぞ壁山!!」
「はいッス!!」
風丸が足を振り、青色の衝撃波を発生させ、壁山が自身の背後に、巨大な岩壁を作り出す。
「スピニングカット!!」
「ザ・ウォール!!」
二人が生み出した二重の壁が、死の槍を食い止めようとする。
「そんなものに、止められるものかああああ!!!」
死の槍の前に、壁は一瞬で崩壊し、二人が吹き飛ばされる。
「お前達のプレー、無駄にはしない!!」
今のシュートブロックで、ほんの僅かであったとしても、確かに威力は落ちているはず。二人のプレーに応える為にも、絶対に止めてみせる。
体を後ろ向きに捻り、心臓に集めた気を右手へと伝える。右手を天に突き出し、紫電と共に、背後に白銀の魔神を出現させる。
俺の動きと連動し、突き出された魔神の右腕が、凄まじい轟音を轟かせながら、死の槍とぶつかり合う。
しかし、恐るべきは〈デススピアー〉の凄まじき威力。かつて最強と謳われたキーパー技を以ってしても、その進撃を阻むことはできない。
魔神の右腕に亀裂が走り、その体が、徐々に砕け散っていく。
やはり、無理なのか。今の俺では、〈デススピアー〉を止めることはできないのか。
そんな考えが頭の中を過ったその時、俺の背を誰かの手が支えた。
「円堂一人で、ゴールを守ってるんじゃない!!」
「俺達が、キャプテンを支えるでヤンス!!」
影野と栗松が、左右の後方から俺の背を支える。
「お前ら……ありがとな……!いくぞ!!」
そうだ。俺は一人じゃない。皆と力を合わせれば、止められないシュートなんて、絶対にない。
「「「うぉぉおおおおおお!!!」」」
足への多大な負荷による威力の低下。シュートを打った位置が、ゴールから距離があったこと。風丸と壁山の二人掛りでのシュートブロック。円堂の〈マジン・ザ・ハンド〉と影野、栗松による〈トリプルディフェンス〉。数々の要因の上に成り立つ、何十、何百と繰り返した末に、ようやく訪れるかもしれない一度の奇跡。
雷門ディフェンス陣の執念が手繰り寄せた奇跡は、確かに、円堂守の右手に収まった。
「そん………な……」
止められた。〈デススピアー〉が。その事実を認識し、限界を迎えた体が崩れ落ちる。
円堂がスローイングしたボールに向かって駆け出そうとしたが、駄目だ。足に力が入らない。もう、動けない。
────負ける。
ボールは風丸に渡り、辺見を〈疾風ダッシュ〉で抜き去り、半田、マックスへとパスが繋がる。そして、ボールは豪炎寺へ。
────俺は、負けたのか。
あれほど、否定し続けてきた敗北を、受け入れようとしている。自身の全てを賭けた一撃は、ゴールネットを揺らすことはなく、足はもう限界。これで、終わり────────
「まだだ!まだ時間はある!」
「ボールを奪って、もう一度鬼道に渡すんだ!」
なのに、仲間達から聞こえてくる声は、そんなものばかり。まだ、誰一人として、諦めていない。俺を信じて、ボールを繋ごうとしてくれている。
────まだ、終わりじゃない。あいつらが諦めていないのなら、俺も、諦めない。だから。
ゆっくりと立ち上がり、鬼道有人は走り出した。
後半に入ってから、ここまで沈黙を保ってきた豪炎寺へとボールが渡る。ゴールを目指し、ドリブルを開始する。成神の〈キラースライド〉を横へのステップで躱し、大野の〈アースクエイク〉を跳躍して回避。〈ヒートタックル〉を発動させ炎を纏い、万丈と五条の〈ダブルサイクロン〉の強風を受けて、激しさを増した炎で二人を吹き飛ばす。圧巻の突破力を見せつける豪炎寺。彼の前に、立ち塞がるのはキーパーの源田のみ。
左腕を振るい、激しく燃え盛る炎を纏う。回転しながら飛び上がった豪炎寺の周囲に炎の竜巻が形成される。
「爆熱……スクリュゥゥゥッ!!!」
遂に解き放たれたその爆炎が秘める威力は、鬼道の〈デススピアー〉にも決して劣らない。世界を相手にしても通用する規格外のシュートが、帝国ゴールを襲う。
「止める!ハイビーストファングゥゥゥ!!!」
しかし、どれだけ鋭く、獰猛であろうとも、獣の牙では燃え盛る爆炎を鎮めることは敵わない。
獣のオーラは一瞬で焼き尽くされ、源田を吹き飛ばし、シュートは無人の帝国ゴールへと向かう。
「さ、せるかああああ!!!!」
ゴールラインを割る直前で、気力を振り絞り、ここまで戻って来た鬼道がこのシュートをブロック。否、打ち返しに掛かる。
「負けて、たまるかッ!!俺は、俺は……!!誰にも、負けない!!そう誓ったんだッ!!こんな、ところで……!!」
必死に持ち堪える鬼道だったが、爆炎の勢いは微塵も衰えることは無く、鬼道の足は弾き飛ばされ、ボールは帝国ゴールへと突き刺さる。
一瞬の静寂の後、試合終了の笛が鳴り響き、因縁の対決は終わりを迎えた。
なんかすごい疲れた。
ランキングに載るのは嬉しいけど、こんな小説が載っていいのかとビクビクしてたので、更新が空いてランキングから名前が消えたことに安堵している自分がいる。
まじでお気に入りが急に増えたんだけど、これ維持できる自信ないわ。