「勝った……のか?」
豪炎寺のゴールが決まり、試合終了の笛が吹かれた。表示されている得点は、3-2で雷門の勝利。
「やったぜ!」
「円堂!」
「俺達が優勝したんだ!」
駆け寄ってくる仲間達の姿を見て、ようやく優勝したという実感が湧き上がってくる。
「よっしゃあああ!!」
我慢できなくて、気づけば叫んでいた。仲間達と抱き合い、喜びを分かち合う。
勝ったんだ、あの帝国に。何度も、もう駄目だと思った。でも、その度に皆が俺を支えてくれた。俺達皆で掴み取った優勝。
「ありがとう、皆!」
皆は俺の言葉を聞き、笑顔を浮かべる。
『どういたしまして!』
「よし、円堂を胴上げだ」
「ええ!?何でだよ!?」
染岡がいきなりそんなことを言い出し、あれよとあれよという間に皆が俺を取り囲み、皆の手で俺の体は宙を舞う。
「ちょっ!?止めろって!俺より豪炎寺の方がいいんじゃないか!?決勝ゴール決めたのあいつだし!!」
その言葉に皆は手を止め、一斉に豪炎寺の方を向く。ぎょっとした様な顔を浮かべる豪炎寺。
「次は豪炎寺を胴上げだぁ!!」
「待て!?俺を売ったな円堂!?」
逃げる豪炎寺とそれを追う皆。その光景に自然と笑いが込み上げてくる。
「円堂」
「鬼道?」
後ろを振り向けば、そこに居たのは足を引き摺っている鬼道。
「足、大丈夫か?」
「ん?ああ、これぐらい何ともない。全国大会までには完治するさ」
「そっか、帝国も全国大会には出られるんだもんな」
前年度の全国大会の優勝校である帝国には、自動的に今年度の全国大会への出場権が与えられている。
「円堂、悪かったな」
「え?」
突然謝られて、困惑する。別に謝られるようなことはしてないと思うんだが。
「お前を、紛い物と呼んだこと」
「ああ……」
そういえばそんなこと言われたっけな。でもまあ、
「いいよそれは。俺が紛い物なのは間違ってないしな」
「いや、それは違う」
「鬼道?」
力強い否定の言葉を返されて思わず鬼道の顔を見返すと、真剣な顔で、真っ直ぐに俺を見る瞳と、視線がぶつかる。
「この試合中、お前のプレーが雷門の選手達に力を与えていた。認めるよ。その体に宿る魂は別物であったとしても、お前は確かに円堂守だ」
「鬼道……」
そう言った後、鬼道は右手を俺に向かって差し出す。
「全国大会で、必ずお前達にリベンジする。………必ずな」
「……ああ。決勝戦で、また会おうぜ」
固く握手を交わす俺達。こいつと、こんな風に握手を交わす日が来るなんて思ってなかった。全力でぶつかり合えば、分かり合えるものなんだな。
身を翻し、フィールドを去ろうとする鬼道の姿を見ながら、そんなことを思う。あ、そうだ。そういえば。
「鬼道、お前音無とは……?」
俺の言葉に鬼道は背を向けたまま、足を止める。原作だと、この試合で鬼道と音無は分かり合えたはずだけど、こいつはそもそも音無とどうなってるのか知らなかった。
「俺には、あいつと会う資格は無い」
「え?」
原作の記憶あるのに、仲違いしてるのか。何したんだよこいつ。
「これからも、春奈のことを頼む、円堂」
「あ、ああ……」
今度こそ、フィールドを去る鬼道。原作でも連絡さえ取り合っていたらすれ違うこともなかったはずだし、原作知識があればその辺は大丈夫かと思ったけど、あいつにも色々あるのかな。
「円堂」
と、また呼ばれたのでそちらを見ると、こちらを恨みがましい目で見る豪炎寺の姿が。どうやら、この様子から察するに、結局捕まったらしいな。
「よお、豪炎寺。胴上げ、楽しかったか?」
「お前……後で覚えてろよ」
こちらを睨む豪炎寺の視線に気づかない振りをしてそっぽを向く。悪いとは思うが、やられると結構怖いんだから仕方ないだろ。
まともに取り合う気がない俺にため息をつき、豪炎寺が口を開く。
「よかったのか?」
「ん?何が?」
「さっき鬼道に全国大会の決勝で会おうって言ってただろ。原作に拘ってる円堂的にはいいのかなと思ってさ」
「ああ、そういうこと」
原作では帝国は全国大会の一回戦で負けるからな。俺が原作の展開を守ることに拘ってることを知ってるこいつからすれば、意外な発言だった訳だ。
「ま、いいんじゃないか。もう色々、原作とはかけ離れてるし。最終的に雷門が優勝すれば何とかなるだろ」
この試合でとうとう俺自身も原作の展開をぶっ壊したからな。もうどうやってもフットボールフロンティアが原作通りの流れになることはない。正直〈マジン・ザ・ハンド〉と〈爆熱スクリュー〉があれば、少なくとも世宇子以外の相手には負けるイメージは湧かない。千羽山の〈無限の壁〉も、木戸川の〈トライアングルZ〉も、問題なく対処できるだろう。というか今思ったが、武方三兄弟は〈トライアングルZ〉を習得しているのだろうか。〈バックトルネード〉も確か豪炎寺の〈ファイアトルネード〉への対抗心で編み出した技だったし、豪炎寺が木戸川へ入学しなかったことで、間接的に武方三兄弟の弱体化を招いたとしたら、少し申し訳なくなるな。
「ん、どうかしたか」
そういえば、最初に原作をぶっ壊す引き金を引いたのはこいつだったなと思い、豪炎寺を見ていると、すっとぼけた顔でそう聞いてきて若干イラッとした。
「別に。それより、完成してたんだな。爆熱スクリュー」
「ああ、前にも言ったけど、秋葉名戸戦の前には殆ど完成してたからな。帝国戦に間に合ってよかったよ。鬼道も想像以上の技を使ってきたしな」
「ああ、そうだな」
鬼道の〈デススピアー〉には度肝を抜かれた。あれを止められたのは奇跡だろう。一対一じゃ全く止められる気がしない。豪炎寺の〈爆熱スクリュー〉も、相手からしたらあんな感じなんだよな。そう考えるとかなり理不尽な存在だよなこいつ。
「豪炎寺は今日も大活躍だったな。爆熱スクリューも凄かったけど、その前の突破も凄かった。思わず鳥肌が立ったよ俺」
「な、何だよいきなり……?あの時の突破に関しては、〈キラースライド〉と〈アースクエイク〉はタイミングさえ誤らなければ、躱すのは難しくないさ。〈ダブルサイクロン〉を破った時の〈ヒートタックル〉は咄嗟の思いつきだったけど……」
「……お前、〈ダブルサイクロン〉受けたの初見じゃなかったか」
「ああ」
「……それでいきなり、あんな突破方法思いつくもんなのか」
「ああ」
こいつ、前から思ってたけど間違いなく天才だよな。豪炎寺だとか関係無しに。
「それに、俺この試合はハットトリック決めてやろうと思ってたのに、結局1点しか取れてないし、まだまだだよ」
「心意気は買うけど、流石に無謀じゃないのかそれは……」
この自信はどこから出てくるんだろうな。こいつが不安そうにしてるところとか、見たことない気がする。
「円堂、俺、爆熱スクリューは習得できたことだし、次は爆熱ストームを覚えるよ」
「いや、今は別にいいよ。フットボールフロンティアが終わった後でいいよ、うん」
向上心が凄い。俺もこの辺は見習うべきなのかも知れないが、少なくともそれ今じゃなくてもいいだろ。
「だいたい爆熱ストームよりも、爆熱スクリューの方が威力高いだろ。覚える必要あるのか?」
「俺も最初はそう思ってたんだけどさ、最近ちょっと思いついたことがあって」
「思いついたこと?」
何だろうか。嫌な予感しかしない。こいつ、絶対に何か突拍子もないことを言い出すぞ。
「ゴッドキャッチってあるだろ?」
「え?ゴッドキャッチ?」
また予想外な名前が出てきたな。〈ゴッドキャッチ〉は原作の円堂守が世界編で習得する必殺技で、映画に登場する技等を除けば、円堂守の最強のキーパー技でもある。勿論、こんな時期に話題に出るような技ではない。
「ゴッドキャッチがどうしたんだよ?」
「あの技ってさ、アニメだとどうだったか忘れたけど、ゲームだとマジン・ザ・ハンドの進化系って明言されてただろ?」
「………そうだっけ?」
はっきりとは覚えてないが、そう言われてみれば、円堂大介がそんなことを言っていたような気がしなくもない。
「でも、それが何だって言うんだよ?」
「いや、それってさ。ゴッドキャッチの魔神は、マジン・ザ・ハンドの魔神が進化したものってことだろ?」
「まあ、文字通りに捉えればそうなるな」
何かこいつの言いたいことが何となく分かってきた気がする。全然分かりたくないけど。
「なら、爆熱ストームの魔神も、極めればなんかスゲーのになって、新しい技作れないかなって」
「最後だけ適当だな、おい」
本当にちゃんと考えてんのかこいつは……。思いつきで喋ってるような気がしてならない。
「それに俺、目標を決めたんだ」
「目標?」
「うん、お前や、多分鬼道も、ちゃんとした目標を持ってるだろ。俺は最終的なそれが曖昧だったからさ。自分なりに考えてみたんだ」
「まあ、それはいいことなんじゃないか?どんな目標何だよ?」
「世界大会の決勝でハットトリックを決めて、大会の得点王になる」
「馬鹿なのかお前は」
もはや無謀すら通り越した滅茶苦茶な目標を聞かされて頭が痛くなる。
「……お前、それどれくらいゴール決めれば達成できると思ってんの?」
「え?全試合でハットトリックすれば何とかなるかと思ってるけど?」
「……あ、そう」
この時、俺は馬鹿と天才は紙一重という言葉は、こいつの為にあるのだと確信した。
この小説における豪炎寺はバグキャラのようなものです。
何故、こうなったかは作者にも分かりません。