帝国との試合の翌日。雷雷軒で祝勝会を行った帰り道を豪炎寺と二人で歩く。
「楽しかったけど、ちょっと疲れたなー」
「お前は監督の手伝いをしてたもんな」
原作でもそうだったけど、結構な人数がいるし、監督も一人じゃ大変かと思い、自主的に給仕の手伝いをしていたのだ。
「皆も俺が相手だからって遠慮なかったからなー。お前も手伝ってくれてもよかったんだぜ?」
「やだよ、誰がやるか。そんな疲れそうなこと」
「お前ね……」
最近前にも増してキャラを取り繕うことをしなくなってきたなこいつ。遠慮が無いってのはいい事なのかもしれないけれども。
「次は戦国伊賀島か」
「その前にOBとの練習試合があるぞ」
「ああ、それもあったか」
豪炎寺が話し出したが、忘れてそうだったので訂正すると、案の定覚えていなかったような反応をする。
「何だよ。伝説のイナズマイレブンとの試合だぞ。楽しみじゃないのか?」
「お前は楽しみなのかよ?あの試合は、炎の風見鶏しか得るものはないだろう」
「でも、昔の経験談とか聞けそうじゃないか」
豪炎寺の反応は薄い。俺は割と楽しみなんだけどな。凄技特訓ノートは何とか読めるようにはなってるけど、やっぱり内容を実際に体験したことのある人の話は参考になると思うし。
「そんなの聞いてどうするんだ。少なくとも、試合が始まってすぐは相手がまともにやる気がなくて時間の無駄だぞ」
「お前、それは流石に失礼じゃないか?」
「事実だろう」
今までになくモチベーションが低そうだな。何かあったのか。
「お前、そんなに試合したくないの?炎の風見鶏は覚えといた方がいいだろ」
「原作でも、結構あっさり完成したし、俺とお前が主導で特訓すれば、見本なんて無くたって習得はできるだろ。OBとの試合よりも、自主練でもしたい」
「……爆熱ストームの?」
「ああ」
それってただ単に特訓に割く時間が減るからやりたくないってだけかよ。自己中か。心配して損したわ。
豪炎寺とそんな会話をした後日、響木監督から連絡があり、日曜に河川敷でOBとの練習試合が決定した。
そして当日。試合開始直後はやる気のないプレーをしていたOB達は、響木監督の一喝でまるで別人のように良い動きをするようになった。のだが、
「ファイアトルネード!!」
豪炎寺の放ったシュートが、OB側のゴールネットを揺らす。この試合これで豪炎寺の得点は5点目。あれだけやる気がなかったくせに、いざ始まってみれば嬉々として得点を重ねていく。その一切の容赦のないプレーに、味方も若干引いている。
「……お前、あれだけやる気無さそうにしてたのは何だったんだよ?」
「?やる気が無いのと手を抜くのは違うだろ。何言ってんだお前」
さも当然のようにそう宣う豪炎寺。その不思議そうな顔を止めろ。殴りたくなるから。
「でも、全然炎の風見鶏を打ってこないな。あれを見れないとこの試合の意味がないんだが」
「いや、試合再開してすぐにお前がボールを奪って攻め上がっていくから、向こうのシュートチャンスが生まれないんだろうが。自覚無かったのかよ」
「……ああ、なるほど。気持ちよく点が入るから、楽しくて気づかなかった」
なるほど、じゃねえよ。さてはお前、帝国戦で1点しか取れなかった鬱憤をこの試合で晴らそうとしてるだろ。この試合、お前以外殆ど何もしてないぞ。
OBの人達もお前のこと、ヤベー奴を見る目で見てるじゃないか。
「とにかく、次はもう少し抑えてくれよ。お前の独壇場で試合にならない」
「……分かったよ。あと1点取ったら攻めるの止めるから」
「おい」
何故、そこでもう1点とる必要があるんだ。もういいだろ。
「だって、あと1点でダブルハットトリックだし……」
「……分かった、もう何も言わん」
言ってもどうせこいつは聞かない。それで大人しくなるならもうそれでいい。その直後に、豪炎寺は宣言通りにゴールを奪い、ダブルハットトリックを達成するのだった。……この前言ってた全試合でハットトリックって、世界大会でだよな。これからの全試合って意味じゃないよな。
とにかく、それで一応は満足したらしい豪炎寺が攻めるのを控えるようになった為、ようやくまともな攻防が始まる。いや、本当にOBの方々には申し訳なく思う。こちらの都合で呼んだのに、待っていたのは一方的な蹂躙とか笑えんわ。
「備流田ァァ!!」
「おう!」
そしてボールはゴール前。備流田さんと浮島さんの二人がボールを蹴り上げ、浮島さんはそのまま跳躍し、備流田さんはオーバーヘッドキックの体勢となり、同時にシュートを放つ。ボールから燃え盛る炎で形成された鳥の如き翼が出現し、その翼を羽ばたかせ、ボールはゴールへと向かう。
俺はシュートに対抗する為、体を捻り、右手に気を送る。
「マジン・ザ・ハンド!!」
魔神を出現させ、その右腕でボールを受け止める。僅かな拮抗の後、俺の右手にボールは収まった。
「なっ!?」
「あれは、円堂監督の……!?」
俺が〈マジン・ザ・ハンド〉を使ったことに、OBの人達は驚いているが、それはこちらもだ。原作でも円堂の〈ゴッドハンド〉を破っていたし、かなりの威力なのは分かっていたが、原作よりも強化されていたであろう帝国の〈皇帝ペンギン2号〉と比べても全く見劣りしない威力だ。四十年ものブランクがあってこれなら、全盛期は一体どれほどの威力だったのだろうか。
その後はどちらも譲らず、一進一退の攻防が続き、どちらも得点できないまま試合は終了した。
その後は、俺は凄技特訓ノートの内容でOBの人達と盛り上がり、皆も各々でOBとの交流を楽しんだ。そして、俺達も〈炎の風見鶏〉をやってみようという話になり、スピードとジャンプが重要と言ったところ、名乗りを上げた風丸と豪炎寺が挑戦することになったのだが、
「くそっ!」
「また失敗か……!」
何度やっても一向に成功する気配が無い。原作ではそこまで苦戦してなかったので少し意外だ。ちなみに二人の距離とスピードが重要だというのは既に伝えてある。
ただ、雷門も帝国と同様に原作よりも多少は強くなっているかもしれないとは思っていたが、まさかこんな所でその弊害が出るとは思わなかった。
失敗する原因は単純に二人の息が合わないから。走り込む距離は問題ないが、スピードが風丸の方が上回っている為に、まずそこで合わない。そして、そこをクリアしてシュートまで持っていけても、
「まだ、俺の方が強いか……」
「すまん、豪炎寺……」
「いや、俺の方にも問題はあるからな。お互い様だ」
豪炎寺の方がキック力が高いせいでシュートが真っ直ぐ飛ばない。ゴールネットを揺らすどころか、ポストに当たればいい方で、大抵はあらぬ方向へと逸れる。風丸が申し訳なさそうにしているが、スピードは風丸の方が合わせてるんだし、キック力に関しては豪炎寺がおかしいだけなので、気にしなくていいと思う。
そして数時間後。
「「炎の風見鶏!!」」
炎の翼をはためかせ、ボールは見事にゴールネットを揺らした。
「やった!とうとう成功したな、豪炎寺!」
遂に完成した〈炎の風見鶏〉に、風丸が歓喜の声を上げ、豪炎寺へと呼び掛けるが、豪炎寺は黙ってゴールの中に転がるボールを見つめている。
「豪炎寺?」
「風丸、もう一度いいか?」
「えっ?あ、ああ」
その様子を訝しんだ風丸がもう一度声を掛けるが、豪炎寺はもう一度〈炎の風見鶏〉を打ちたいと言い出す。その言葉に、何か駄目だったのかと不安を抱きつつも、風丸は了承の返事を返す。
「「炎の風見鶏!!」」
ボールは再びゴールネットを揺らす。
「豪炎寺、今度はどうだ?」
「……風丸、今日これから時間はあるか」
「え?」
完璧な手応えに、風丸は豪炎寺へと再び声を掛けるが、返ってきたのはそんな言葉だった。
「これから二人で特訓するぞ。この技はもっと高い威力で打てるはずだ」
「い、今からか?もう夕方だぞ。明日からでもいいんじゃ……」
「駄目だ。行くぞ風丸」
「え?ちょっ、待っ!?」
風丸からすれば何の問題も無かったのだが、豪炎寺は何か気に入らなかったらしく、風丸を引きずるようにして連行し、特訓を始めるのだった。
帝国関連の話の間は若干影が薄かった豪炎寺さん。
書いてるうちに、気づけば勝手に生き生きし出す。