少し短めになってしまった。
電光掲示板に表示された得点差を、虚ろな目で見つめる。まだ前半ということもあり、残り時間で考えれば逆転するのは不可能ではない。だが、いくら時間があろうとも、点を取れなければ点差は広がっていくだけだ。〈デススピアー〉ならゴールを奪えるはずだが、世宇子の固い守りの前に俺一人ではシュートまでは持っていけないし、なにより俺以外ならばシュートなど打たれてもなんの問題もないと言わんばかりにDF全員で俺を押さえ込みにくるのだ。失点して試合が再開した時はボールを持てるが、それ以外ではボールに触れることすらできない。
容赦なく放たれる〈ゴッドノウズ〉を受け止め続けた源田はもう限界だ。他の皆も〈ヘブンズタイム〉によって幾度となく吹き飛ばされ、そのダメージでフィールドに倒れ込んだまま起き上がれない。唯一、佐久間だけがなんとか立ち上がっているものの、ダメージは大きく、立っているだけで精一杯だろう。
────あいつも、こんな気持ちだったのか。
いつぞや、円堂に向かって言った言葉を思い出す。試合の途中で諦めたことを責めた俺自身が、折れそうになっている。圧倒的な力の差を前に屈するその気持ちが、今なら痛いほどによく分かる。
────所詮、俺はこんなものなのか。運命を変えることは、できないのか。
雷門との試合のような、死力を尽くした末の敗北ならまだ納得できる。だが、今の現状はどうだ。一方的に蹂躙され、磨き上げた矛を放つこともできず、仲間達が倒れていくのをただ見ていることしかできない。これでは何が原作と違うのか。いや、鬼道が出ていなかった分、原作の方がマシかもしれない。
────俺達の今までの努力は、全て無駄だったのか。
俺だけじゃない。皆、これまで血の滲むような努力を重ねてきたというのに、その結末がこれか。
鬼道有人の偽物に過ぎない俺には、最初から分不相応な想いだったのかもしれない。でも、それでも、もっと皆と、
────勝ちたかったなぁ……。
────俺は今まで、あいつに何をしてやれただろう。
いつだって、苦しい時、辛い時、皆が最後に頼るのはあいつだった。そして、あいつは常にそれに応え続けてきた。なのに、俺達はあいつに何かを返してやれていたのか。
皆を頼ってはいても、いつもあいつは独りだ。心のどこかで、俺達に対して壁を作っている。
雷門に負けた時も、そして今日も、あいつは自分を責めるのだろう。自分の力が足りなかったと。負けたのは自分のせいだと。
でも、そうじゃない。責任はあいつ一人のものではなく、俺達全員のものであるはずだ。あいつが一人で抱え込んで自分だけが傷つくことはないんだ。
でも、今の俺に何ができる。かろうじて立ってはいるものの、できるのはもうワンプレーが限界だろう。〈デスゾーン〉も〈皇帝ペンギン2号〉も奴らには通用しない。それに今動けるのは俺だけだ。俺一人で放てるシュート技は無いし、ましてや奴らからゴールを奪える程の威力を持つ技など─────
────いや、ある。
そうだ、あるじゃないか。一つだけ、俺が単独で使え、かつ奴らからゴールを奪える可能性を持つだけの威力がある技が。
今の消耗仕切った状態で使えば、俺の体がどうなってしまうかは分からない。それでも。
指笛を吹けば、2号のものとは違う赤いペンギンが地面から現れ、宙を舞う。
「なっ!?止めろ佐久間!!」
俺のやろうしていることに気づいた鬼道が叫ぶが、もう遅い。止める気もない。
赤いペンギンが振り上げた右足に噛み付く。激痛が走るが、それを無視してシュートを放つ。
点を取る。帝国があいつ一人のチームではないと証明する為に、あいつが、俺達のキャプテンが、前を向けるように。傷つかずに済むように。
「皇帝ペンギン……1号ォォォォォォ!!!!」
「ぐああああああああああぁぁぁ!!!!!!」
シュートを放った佐久間の絶叫がフィールドに響き渡る。〈皇帝ペンギン1号〉は威力こそ凄まじいが、使用者への負担があまりにも大きい為に封印された禁断の技。まして、限界まで酷使した体で放てば、体に掛かる負担は想像を絶する。
そのシュートを目にし、今まで余裕の表情を浮かべていた世宇子の選手達の顔色が変わる。その技が持つ威力が、自分達のゴールを脅かすものであると気づいたが為に。
「裁きの鉄槌!!」
シュートコースに割り込んだヘルメスがシュートブロックを仕掛ける。が、止まらない。その程度では〈皇帝ペンギン1号〉を止めることはできない。
〈裁きの鉄槌〉を粉砕し、ボールは世宇子ゴールに向かう。
「ツナミウォール……V3!!」
ポセイドンの生み出した津波が、シュートの行く手を阻む。赤いペンギンが津波を食い破らんと、その力を振り絞る。
永遠にも思える長い、長い激突の末に、敗れたのは赤いペンギン。
ペンギンが力尽き、津波の壁に呑み込まれ、ボールはポセイドンの手に収まった。
「佐久間!しっかりしろ佐久間!」
「鬼道……ボール…は?俺の……シュートは…決まったのか……?」
「ッ、……ああ、決まったよ、お前のおかげで、1点返せたんだ」
「そう……か……鬼道……お前は………一人なんかじゃ……ない」
「……!!」
「いつだって……お前…には……俺達が………いる……」
「佐久間……」
「鬼道……帝国の……俺達の………サッカーは……負け…ない……そう……だろ……鬼……道………」
そう言って佐久間は気を失った。俺は、俺は……。
「やれやれ、理解できないな。何故、勝ち目の無い勝負に、そこまで必死になれるのか」
ボールを持ったアフロディのそんな声が聞こえる。
「そんなことをしても、何の意味も無いというのに」
「黙れ」
その言葉を許すことはできない。佐久間のプレーが、無駄だったなんて言わせない。俺が、意味の無いものになんて、させない。
「ア、フロディィィィィ!!!」
アフロディに向かって、全力で飛び出す。〈ヘブンズタイム〉を発動するよりも速く、間合いに踏み込み、アフロディと全く同時にボールを蹴り込む。
ボールを挟んで、俺とアフロディの右足がぶつかり合う。
「何度やっても同じだ。君は僕には勝てない!」
「だ、まれぇぇぇぇぇ!!」
一度はもう駄目だと思ったのに、不思議と力が湧いてくる。1点返したと言ったんだ。お前のおかげだと、そう言ったんだ。その言葉を、決して嘘にはしない。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
「なっ!?」
強引にアフロディを吹っ飛ばし、そのままボールを高く蹴り上げる。
「この僕が、力負けしただと!?」
驚愕の声を漏らすアフロディを尻目に、ボールに向かって跳躍する。
人の身では神に勝てぬというのなら、今、人を超えろ。神を超えた"鬼"となれ。
「デス……スピアァァァァァァァァ!!!!!!!」
迸る黒雷はより激しく、纏う気はより禍々しく、感じる圧力はより強く。
全身全霊を持って放たれた極大の死の槍が世宇子ゴールへと堕ちる。
「真……ゴッドノウズ!!」
アフロディが自身の必殺技で、このシュートを打ち返しに掛かる。まるで、1点目の時の焼き直しのようなその光景。
しかし、今度は死の槍が打ち返されることはなく、逆にアフロディを弾き飛ばし、ボールはゴールへ。
「ツナミウォール……V3!!」
ポセイドンが津波の壁を生み出すものの、それをものともせず突き破り、ボールは世宇子ゴールへと突き刺さった。
そのゴールを見届け、気力の全てを振り絞った鬼道が崩れ落ちる。
帝国学園の試合続行不可能による世宇子中の勝利が審判によって宣言されたが、勝者であるはずのアフロディの顔は屈辱に歪み、眼前に倒れ伏す鬼道をいつまでも睨み続けていた。
久しぶりにイナイレやりたくなってファイアを引っ張り出してきて、データを確認したらキーパーが鬼道でビーストファングG5覚えてて草生えた。
当時の俺は鬼道に何の恨みがあったんや……。