「て、帝国学園が……!!」
二回戦に向けてイナビカリ修練場での特訓に励んでいた俺達の耳に、音無の声が飛び込んだ。
音無のその様子から、俺は帝国と世宇子の試合の結果を悟る。
「1-10で……世宇子中に、完敗しました……」
その言葉に、皆が驚愕の声を漏らす。
「そんな!?」
「ガセじゃねぇのか!?」
「あの帝国が、10点も取られるなんて……」
俺は帝国と世宇子の試合を見には行かなかった。鬼道には勝てと言ったが、心のどこかで帝国の勝利を信じきれずにいるという自覚があったから。
でも、原作よりも強くなっているはずの帝国が、そこまでの大差をつけられるとは思っていなかった。
「音無、詳しく教えてくれ。鬼道は試合に出ていたんだよな?」
「……見たことも無い技が次々決まって、帝国が、手も足も出なかったそうです。帝国のキャプテンが1点を返した後、帝国の選手達はフィールドに倒れたまま誰も立ち上がれず、帝国の試合続行不可能によって相手の勝利になった、と」
音無の言葉に皆が騒然としているが、そんなものは俺の耳にはろくに入ってこなかった。
────1点、取ったんだな、鬼道。
相当な力の差があったのだろう。練習試合の時の帝国と俺達のような、もしくはそれ以上の差が。それでも、あいつは1点をもぎ取った。最後まで、諦めなかったのだろう。次々と仲間達が倒れていき、自分達のプレーが何一つ通用しない。そんな絶望の中で、最後まで。
原作の円堂は、帝国の敗北の知らせを聞き、すぐさま鬼道に会いに行った。だが、今の俺が会いに行ったとして、あいつに何と声を掛ければいいのだろう。原作で鬼道が戦うことすらできなかったのとは違う、死力を尽くして、それでも届かなかったあいつに。
「……皆、練習に戻ってくれ。帝国が負けたのはショックだけど、俺達がやるべき事は変わらない。今は二回戦を勝ち抜く事だけ考えよう」
俺の言葉に、納得した者もいれば、できなかった者もいるだろうが、ひとまずは皆練習に戻っていく。
「音無、二回戦の相手が決まるまでは、帝国を破った世宇子中について調べてくれないか」
「……分かりました」
音無も今は何かをしていた方がいいだろう。鬼道のことで内心色々と思うことはあるだろうが、体を動かした方がきっと少しは気が晴れるはず。
「鬼道に会わなくていいのか」
音無が修練場を後にしたのを見送った後、豪炎寺がそう聞いてくる。
「……俺が会いに行ったところでどうなる。これからの事は、あいつ自身が決めればいい」
「……そうか」
原作のように雷門に来るか、それとも別の道を行くか。全てはあいつ次第だ。俺はいつも通り、練習に集中するだけだ。
そう言って皆に続いて練習に戻って行った円堂だが、上手く隠しているだけで俺から見ればお前が一番動揺してるように見えるけどな。まあ、人のことはさておき、問題は世宇子だ。10点取られたことはいい。理論上は〈爆熱スクリュー〉を十回ぶち込めば俺にもできることだ。だが、1点しか取れなかったのは流石に驚いた。世宇子がそれだけ強いということなんだろうが、鬼道の〈デススピアー〉は防がれたのだろうか。それとも一度しか打てなかったのか。後者ならいい。だが、前者なら話は変わる。鬼道の〈デススピアー〉の威力は、俺の〈爆熱スクリュー〉と比べても遜色ないものだ。〈デススピアー〉が防がれるということは〈爆熱スクリュー〉も防がれる可能性があるということ。〈爆熱ストーム〉は既に七割方完成しているし、決勝までには十分に間に合う計算だが、それも通用する保証はない。
────今のままでは駄目か。なら、どうする。
〈爆熱ストーム〉と並行して何かもう一つ別の技を覚えるか。だが、今からでは決勝に間に合うかは分からないし、豪炎寺の個人技で残るのは〈マキシマムファイア〉ぐらいだ。あの技は映画でしか使われてないし、それもシュートチェインとかしてたから、単独の威力がいまいちハッキリしない。なんとなく、やろうと思えば割とあっさりできそうな気はするが、覚えるメリットもあまり無い。
────あ、でも〈ラストリゾート〉もあったな。
オリオンの刻印というシリーズで、豪炎寺が使った必殺技を思い出す。あれは一応世界編の技だし、作中での扱いから考えても威力は高いはずだ。他の豪炎寺の技とは方向性が違うし、習得にも時間が掛かるかもしれないが、試してみる価値はあるかもしれない。後は今覚えている技を進化させるか、それとも〈グランドファイア〉を一人で再現できないかやってみるか。技自体はシンプルなものだし、火力さえ何とかできればいけるかも──────
誰も知らぬところで、自重をかなぐり捨てた天才の進化は加速する。
俺達の全国大会二回戦の相手は、千羽山中に決まった。
「千羽山中は、山々に囲まれ、大自然に鍛えられた選手達がいます」
「きっと、自然に恵まれた環境なんスね」
「皆のんびりしてそう」
音無の言葉に、壁山と少林がそんな感想を漏らす。お前ら、もっと他に思うことないのかよ。
「彼らは、無限の壁と呼ばれる鉄壁のディフェンスを誇っています。未だかつて得点を許していません」
「全国大会まで?」
「ええ、1点たりとも」
全国大会まで1失点も許さないというのは、並大抵のディフェンス力でできることではない。ディフェンスだけで言えば、恐らく帝国すら上回るだろう。
「シュート力には難点もありますが、この鉄壁のディフェンスで、ここまで勝ち抜いてきたんです」
難点があるとは言うが、ここまで勝ち上がってきたということは少なくとも1点は取っているということ。原作でも、円堂からゴールを奪っているし、油断はできない。
原作ならここで円堂が、鉄壁を破るにはダイヤモンドの攻めだ、とか言い出すんだけど、俺がそんなこと言ってもいきなりどうした、みたいになりそうだよな。
「どんなに高い壁も必ず乗り越える方法はある。突破できないDFも、ゴールを奪えないキーパーも、この世には存在しない。俺達の攻撃力なら、きっと得点できるさ。さあ、相手も決まったことだし、今日も練習、頑張ろうぜ!」
『おう!』
皆の士気は高い。これなら何の不安も無い。と、よかったんだけどなぁ……。
「宍戸、パス!」
「はい!」
風丸がパスを要求するも、宍戸のパスはタイミングが合わず風丸の後ろを通り過ぎた。
「何やってんだよ」
「すみません!いつもみたいにパスしたつもりなんですけど……」
「壁山ヘディングーー!!」
壁山がヘディングでボールをクリアしようとする。しかし、ボールは壁山の顔面に直撃し、壁山はグラウンドに倒れ込む。
「何やってんだよー壁山!」
「おっかしいなぁ?いつもみたいにやったんスけど……」
「栗松!」
「うわ!?」
土門が栗松にパスを出すが、早すぎるボールに栗松は対応できない。
「……もしかして俺のボール、スピード違反だった?」
「ドラゴン──」
「トルネード!!」
染岡と豪炎寺がドラゴントルネードを放つ。しかし、ゴールへ向かう途中で赤い竜も、ボールが纏う炎も消え、威力の下がったシュートを軽くキャッチする。
やっぱりこうなったか。イナビカリ修練場を使う以上はこうなるのは分かっていたが、ここでこの状態になるのは正直キツいな……。
ここで響木監督から集合がかかる。一旦練習を中断し、ベンチに集まる。
「皆、調子でも悪いの?」
「そんなことないんだけど……。おかしいなあ……」
動き自体は悪くないだけに、不思議に思うのは当然だよな。俺も原作で知ってなきゃ気づかないだろうし。
「円堂、お前は気づいてるんじゃないか」
響木監督がそう聞いてくる。え、これ言っていいのか。原作だと黙ってたような……。
「……短期間の内に急激に成長したことによる弊害、であってますよね」
「ああ」
分かっているのは確かなので、質問に答える。まあ、皆も知っていれば何か対策できるかもしれないしな。
「弊害?何だよそれ」
「イナビカリ修練場での特訓や、これまでの試合で俺達は前よりもかなり強くなってる。ここまではいいか?」
「ああ」
「短期間で急に身体能力が上がったことで、走ったり、ボールを蹴ったりする基本的な動作の感覚が掴みきれてないんだ。他の人がどれだけ成長したかもな。だから、自分で思っているよりも高く飛んでしまう。パスが強くなってしまったり、逆に弱かったりしてタイミングが合わなくなり、連携が上手く繋がらなくなる」
「なるほど」
他の皆も、何となく理解したようで頷いている。上手く説明できたかは分からないが、伝わったのならよかった。
ただ、俺にさっきから質問してきていたのは豪炎寺である。得心が行ったように頷いているが、何でお前は覚えてないんだよ。今度、こいつとはちゃんと話し合う必要があるかもしれない。
ところで、この感覚のズレは原作では鬼道によって解消されたが、鬼道が雷門に入らないようであればこの状態で千羽山から点を奪わないといけなくなるのか。それに鬼道がいたとしても、FWだから同じことができるかも分からない。どちらにせよ苦戦は免れないだろう。
まあ、最悪豪炎寺の〈爆熱スクリュー〉で1点は取れるだろうから、後は俺が点を取られないかどうかだな。
もはや豪炎寺の暴走を止めることは誰にもできないのだ……。