前話ではっちゃけ過ぎてどうするか考えまくった挙句、何故か変な方向に……。なんでこうなるんや……。
千羽山との試合を終え、残すは準決勝と決勝を残すのみ。別ブロックでは世宇子が二回戦を20-0の大差で勝利し、準決勝に駒を進めた。
………なんで主人公チームが、ラスボスよりも大差で勝ってるんだろうか。ネットとかで調べてみたが、あの千羽山との試合は相当話題になっているらしい。鬼道が雷門に移籍したことでも物議を醸していたが、それ以上に話題に上がっていたのが豪炎寺である。試合での圧倒的な活躍は人々に強烈な印象を残したらしい。調べれば、豪炎寺のことを指す二つ名みたいなのがわんさか出てくる。原作でも呼ばれてた炎のストライカーや、天才プレイヤー、伝説の再来、なんてのはまだいい方で中には、炎の怪物、灼熱の魔王、なんてものまである始末。本当にあいつはどこに向かっているのだろうか。
皆の感覚のズレは少しずつだが、修正されてきている。これなら準決勝までにはいつものプレーができるようになるだろう。だが、それとは別に問題が出てきた。
「くそっ……!!こんなんじゃ駄目だ!!」
染岡がシュート練習をしているが、ボールは枠を捉えず、ポストに当たって跳ね返される。あの試合から染岡の様子がおかしい。原因は十中八九豪炎寺だろう。豪炎寺の活躍を見て焦っているのだと思う。ベンチから鬼道や豪炎寺のプレーを観察すると言っていた染岡だが、あの試合は参考になるようなものじゃなかった。観察というよりはひたすらに見せつけられたと言った方が正しいのではないか。原作とは違い、最初から同じチームで、同じように努力し、同じ時間を過ごして来たはずだった。なのに、気づけば豪炎寺との間には大きな差ができていた。鬼道の加入もあり、自分のFWとしての価値に疑問を覚えてしまっているのかもしれない。
他にも、視線の先にはドリンクを渡そうとする音無と、それを無視して歩く鬼道の姿。
同じチームにいるんだから、勝手に和解するだろうと思っていたが、この分では進展は期待できなそうだ。一度、鬼道から事情を詳しく聞いた方がいいかもしれない。
別に俺が干渉するようなことではないと言われればその通りなのだが、同じチームにいる以上はどうしても二人の様子は目に入る。正直、いい加減鬱陶しくなってきた。俺に音無のことを頼んでくるぐらいなのだから、嫌いなんてことはないのだろうし、素直になれば上手くいくと思うんだけどな。
そんなことを思っていると、いつの間にか音無が座るベンチの横に誰かが立っていた。そういえば、木野と土門がアメリカから友達が来るから迎えに行くって言ってたな。ということはあいつが一之瀬なのか。
一之瀬一哉。木野と土門の幼馴染で、フィールドの魔術師と呼ばれた天才プレイヤー。アメリカで交通事故に遭い、サッカーが二度とできないと医師から診断されたことから、こんな自分の姿を見せたくないと、周囲には死んだことにしていた。しかし、サッカーを諦めきれず、厳しいリハビリを続け見事に復活を果たす。原作ではフットボールフロンティアの準決勝から雷門に加入し、そのままエイリア学園との戦いにも参加、世界への挑戦編ではアメリカ代表として、円堂達の前に立ちはだかった。
ボールがサイドラインを割り、一之瀬の足元に転がる。すると何を思ったかドリブルしてコートの中に入ってくる。そして戸惑う半田と栗松の二人をあっさりと抜き去った。
流石にいい動きだ。フットボールフロンティア編ではかなり上位の実力者だからな。
一之瀬はそのままゴール前で立ち止まり、ボールを両足で挟み込み、宙返りの要領で飛び上がる。空中でシュート体勢を取ると、一之瀬の背後には青いペガサスが出現する。
「ペガサスショット!!」
────お前もかよ!?
驚愕しながらも、反射的に体を捻り心臓に気を溜める。右手に気を送り、魔神を出現させ、シュートを迎え撃つ。
「マジン・ザ・ハンド!!」
しかし、技の威力が違いすぎる。魔神はあっさりと消し飛ばされ、ボールはゴールに突き刺さった。
「マジン・ザ・ハンドが……!?」
「あんなに簡単に破られるなんて……」
皆が驚愕の声を漏らすが、俺の頭の中は大混乱である。え、何で一之瀬がこの時期に〈ペガサスショット〉なんて使えるようになってんの。鬼道の話だと世宇子もめっちゃ強化されてるらしいし、この世界どうなってんだよ。この先の敵も皆強くなってるんじゃないだろうな、そんなバタフライエフェクト要らねえんだけど。
「良い技だね。アメリカの仲間にも見せてやりたいな」
「簡単に破っといてよく言うよ……。アメリカでサッカーやってんの?」
「うん。この間、ジュニアチームの代表候補に選ばれたんだ」
その辺は原作と変わりないんだな。なんで一之瀬は代表候補になれたんだろうとか思ったことあるけど、この一之瀬なら納得できるわ。
「聞いたことがある。将来アメリカ代表入りが確実だろうと評価されている天才日本人プレイヤーがいると」
「へえ、じゃあこの場には天才が三人もいる訳か」
「三人?」
「うちのチームにも、天才って呼ばれてる奴らがいてさ。一人はそこの鬼道と………あれ?」
豪炎寺の奴はどこに行ったんだ。そういえば今日は姿を見ていなかったな。
「なあ、誰か豪炎寺どこ行ったか知らないか?」
「豪炎寺さんなら、今日は用事があるって帰ったッスよ?」
「はあ?」
皆に聞いてみれば、壁山からそんな声が返ってくる。俺なんの連絡も受けてないんだが、そういうことは先に言っとけや、あの野郎。でも、用事ってなんだろう。今まで練習を休んだことなんてなかったのに。
「何してるの皆?」
「あ、木野、戻ってきたのか。今さ───」
いつの間にか帰って来たらしい木野がそう聞いてきたので、一之瀬が来ていることを教えようと思ったが、それよりも早く一之瀬が木野に抱きついた。………イケメンだから許される行動だな。俺が同じことをしたらぶっ飛ばされそう。
「お、お前!何を……!?……あっ」
木野の横に居た土門が声を荒らげるが、途中でそれが誰なのか気づいたらしい。
「久しぶりだね。俺だよ」
「一之瀬君……!!」
「ただいま、秋」
幼馴染三人、積もる話もあるだろうとしばらくは三人だけにしてやることになった。ベンチに座って話し込む三人を見ながら俺は鬼道に尋ねる。
「なあ、鬼道。一之瀬は転生者なのかな?」
「何故そう思う?」
「だって本当なら、この時期にペガサスショットなんて覚えてるはずないじゃないか。だから一之瀬も俺達と同じなのかなって」
「ふむ………。俺は違うと思うがな」
「どうして?」
「もし、俺が一之瀬に転生若しくは憑依したとして、一番気にするのは交通事故だ。絶対にそれを回避しようとするはず」
「まあ、そうだな」
「だが、あいつは原作同様に事故に遭っているようだし、さっきの木野とのやり取りも原作そのままだった。あえて原作の通りに行動している可能性はなくはないが、それならペガサスショットを覚えているのは不自然だ。少なくとも、さっきの勝負で使う意味がない」
「うーん。なるほどな」
じゃあやっぱり転生者じゃないってことか。俺達が関わらなくてもインフレしてるのはなんでなんだろうか。
そんな疑問を鬼道にぶつけてみると、こんな答えが返ってきた。
「……俺の考えが合ってるかは分からんが、覚えてないはずの技を使えるようになっている、という認識がそもそも間違っているのかもしれない」
「どういうことだ?」
「円堂、お前が原作と呼ぶのはどのストーリーだ?」
「え?どのって………俗に言う無印のストーリーじゃないのか?FFIで優勝して、イナズマイレブンGOに繋がっていく」
「そうだな。別にその考えは俺も間違ってないと思う。だが、イナズマイレブンという作品の世界線はそれ一つだけじゃない。オーガが襲来したり、プロトコルオメガによる歴史介入が起きたり、エイリア学園事件が起こらず、アレスの天秤、オリオンの刻印へと分岐する世界線もある。なら、今俺達が生きるこの世界が、必ずしも原作、正史の世界線だとは限らない訳だ」
「俺達がいるから強くなったんじゃなくて、そもそも皆最初から強いパラレルワールドってことか?」
それは………考えたことなかったな。有り得ない話ではない、のかもしれない。鬼道が言うように、この世界が原作における正史の世界線であることを証明することはできない。
「それに、俺はプロトコルオメガの襲撃を受けたことがある」
「はあ!?」
いや、マジかよ。え、俺そんなのされてないけど。なんで鬼道だけ。
「だ、大丈夫だったのかよ……?」
「松風天馬とフェイ・ルーンが来なければどうなっていたかは分からんがな。時空の共鳴現象のおかげで化身を出せたのもあって、なんとか追い返せた」
「え、お前化身出したの?」
「それ以降は何度試しても無理だがな」
鬼道の化身ってどんなのだ。原作でも無かったし、想像つかないな。ってか天馬とフェイと会ってんのか。まあ、あの二人来なきゃどうにかなってないか。
「その時に奴らが言っていたんだ。お前達のようなイレギュラーは排除しなければならない、とな」
「で、でも俺は何もされてないぞ?」
「そう、お前"達"ということは俺の他にも居るということ。俺はお前も襲撃を受けたと思っていたが、そうでないのなら、お前は奴らのインタラプト修正の対象外だということになる。考えられるのは、お前の歴史へと与える影響が俺よりも低いと判断されたか、若しくは」
そこで言葉を切り、俺の目を見る鬼道。
「お前が円堂守に憑依するのが、この世界の正史であるのか、だ」
「えっ?」
「そもそも原作とは中身が違い、敵も強いこともあって、本来の歴史では俺や豪炎寺のようなイレギュラーが居らず、原作の円堂のような成果を残せないとしたら、奴らがお前を放置することにも納得がいく」
内容が衝撃的過ぎて頭に入ってこない。俺がこうなるのが、正しい歴史なのだとしたら、それは───
「ちょ、ちょっと待てよ鬼道。お前が言うことが正しいのだとしたら、じゃあ、この体に元々宿っていた円堂守はどうなるんだ!?最初から、俺のせいで消えることが正しい歴史だなんて、そんなの……!!」
そんなのあんまりではないか。なら、なんの為に、俺が憑依するまでの十年間、円堂守は生きてきたのだ。
「……お前だけが俺達三人の中で、成長が遅いことも、一人だけ時空の共鳴現象の影響を受けていないと考えれば、納得できないことはないんだ。ただし、事実を確かめる手段が無い以上、全ては机上の空論でしかない。そういう可能性もあるとだけ思っておけばいいさ」
「…………」
俺にそう言って練習に戻っていく鬼道。俺は何も言葉を返すことはできず、しばらくその場に呆然と立ち尽くすのだった。
思いつきで変な設定をつくることに定評のある作者。
ただし、それを活かせる保証はない。
何か疑問があっても深く考えてはいけない。頭を空っぽにして勢いで読むのだ。深くツッコまれたら作者も分からん。