サブタイは思いつかなかったので適当。
「そこだ!」
「ッ!やるね!」
俺の視線の先では鬼道と一之瀬がボールを奪い合っている。両者全く譲らぬ互角の攻防。俺からすればどっちも異次元の世界だ。ついていける気がしない。あれから一之瀬も俺達の練習に参加して、一緒にボールを蹴っている。鬼道と勝負し始めてからは、お互いに熱中して周りは置いていかれてるけど。
俺は鬼道の話について考えていた。俺が円堂に憑依するのは、この世界の正史かもしれないということ。じゃあもし、本来の円堂の意識が残っていて、体を返そうとしたら、それも歴史を歪めることになるのか。それに、時空の共鳴現象だとか、そんなこと考えたことなかった。二人よりも弱いのは、俺の努力が足りないせいだと思っていた。でも、本当にそうなのか。豪炎寺の異常な成長速度は、そんなもので説明がつくものなのか。鬼道はプロトコルオメガに襲撃された時に化身を出したらしいが、時空の共鳴現象が今までずっと起きていたのなら、何故化身を扱えるようになっていない。帝国戦で俺はいきなり〈マジン・ザ・ハンド〉を覚えたが、時空の共鳴現象って本来あんな感じなんじゃないのか。長期間に渡ってずっと継続するようなものなのか。
「あーー!!分かんねぇーー!!」
ごちゃごちゃ考えてても埒があかない。悩むだけ無駄だこんなの。事実がどうであれ、俺はやれることを全力でやるだけだ。
「一之瀬ーー!!今度は俺とPK対決やろうぜ!!」
「うん!いいよ!」
とりあえず原作でもやってたみたいに、一之瀬と勝負してみたが、ボロ負けした。
練習後、俺は久しぶりに鉄塔広場へと足を運んでいた。昼間の鬼道の話は、考えてもしょうがないし、一度頭の片隅にでも置いておいて忘れようと思ったが、胸の中のもやもやしたようなあまり気分のよくない感情は簡単には消えてくれなかった。こういう時は今、目の前に広がるこの景色を眺めるのが一番だ。原作の円堂とは関係なしに、稲妻町を一望できるこの景色に心を奪われた。特に夕焼けは最高だ。見ているだけで、嫌なことを全部忘れさせてくれる。
「円堂君?」
「ん?」
名前を呼ばれて振り返る。するとそこには夏未の姿が。
「夏未?どうしたんだ、こんなところで」
「貴方こそ」
「俺は……ちょっとな。久しぶりにこの景色を見たくなって。お前は?」
「私も同じようなものよ」
そう言って俺の隣に来る夏未。訪れる沈黙。黙って二人で夕焼けの景色を眺める。
「ここ、俺のお気に入りの場所なんだ。この景色を見てると、嫌なこと全部忘れさせてくれる」
「あら、私もよ。小さい頃に両親とよく来た場所でね。この町で一番好きな場所なの」
「へえ。……そういえば、お前と初めて会ったのもここだったな」
夏未と初めて会った時のことを思い出す。あの日も、ここで夕日を眺めていたら、急に現れて喧嘩腰の偉そうな態度で出てけとか言うもんだから、すっげー口喧嘩になったんだよな。
「あの頃はお前、すごい刺々しかったよな。口を開けば嫌味ばっかりでよ」
「あら、貴方こそ、人のことを会う度に偉そうだの、口が悪いだの、色々と言ってくれたじゃない」
そんなに前の話じゃないのに、なんだか懐かしく感じるな。あの頃は夏未とこんな風に並んで話す日が来るとは思ってなかった。
「……円堂君、何かあった?」
「えっ?」
「嫌なことがあったから、ここに来たのではなくて?」
「……嫌なことっていうか、ちょっと悩みがあっただけだよ」
「それは私には言えないことかしら?誰かに話してみれば楽になるかもしれないわよ」
「……ごめん」
人に話せるような内容じゃないし、仮に言ったとしても理解されないだろう。これは俺の問題だ。
「そう……。無理に話せとは言わないわ。でもね円堂君」
俺と夏未の視線が絡み合う。強い意志を湛えるその瞳に、吸い込まれそうな錯覚を覚える。
「貴方は決して一人ではないわ。苦しい時は、周りに頼ることを忘れては駄目よ?」
「……ああ、分かってる」
自分を見失いそうな時に、こうして大事なことを再確認させてくれる人がいるってのは、幸せなことだよな。
「夏未が居てくれて、俺は幸せ者だな」
「なッ!?い、いきなり何を言い出すのよ!?」
「えっ?いや、日頃の感謝の気持ちをだな……」
顔を真っ赤に染めた夏未が、若干上目遣いになりながら俺のことを睨んでくる。こ、このアングルは、何か普段よりもくるものがあるような……。
多分、今俺の顔もかなり赤くなっているのだろう。
なにやら変な雰囲気になりかけたところで、
────ドォォォォン!!
「「……ッ!!」」
下の方から何やら凄い音が聞こえてきた。
「な、何だ?今の音……?」
「さ、さあ?下から聞こえたみたいだけど……」
気になり、鉄塔を降りてみると辺りには土煙が舞っていた。そしてそこに居たのは、
「痛え……」
「ご、豪炎寺君………?」
今日は用事があるとかで練習を休んでいた豪炎寺である。
「ん?円堂と……雷門?こんなところで何やってるんだ?」
「それはこっちの台詞だ。何やってるんだよお前」
「見て分からないか?」
「見てって………」
豪炎寺は背中に、俺が使っているものと同じようなタイヤを背負い、両腕と両足、それと胴にも何か巻き付けている。足元にはサッカーボール。
「もしかして……特訓か?こんなところでやってたのか……」
「お前は最近、ここ使ってないみたいだったからな。タイヤ、使わせてもらってる」
「それ、俺のタイヤかよ……」
よく見れば傷の付き方とか、何となく見覚えがあるような気がしなくもない。
「人の物を勝手に使うなよ……。今度、新しく貰ってきてやろうか?」
「よろしく頼む」
即答かよ……。少しは遠慮ってものがないのかこいつは……。
「それ、腕とか足に何つけてるんだ?」
「これか?重りだ」
「重り?」
「こういうのってやっぱ効果あるのかなって」
重りか……。そういえば、原作でもリトルギカントが20kgだったかの重りをつけて試合してたっけ。エイリア学園の使ってたボールも、相当重そうな描写があったし、この世界でもこういうトレーニングは一定の効果は期待できるのかもしれない。
「重さはどれくらいなんだ?」
「両足に付けてるのがそれぞれ20kgで、胴体と腕につけてるのが10kgだな」
「……お前なんで平然としていられるの?」
背負ってるタイヤの重さも考えると相当な重量だぞ。自分の体重よりも重いだろ。
「あとはこれだな」
そう言って豪炎寺が履いていたスパイクを脱いで手渡してくる。ただのスパイクに見えるけど、これがなんだって────
「重っ!?」
思わず落としそうになった。なんだこのスパイク。普通のと比べると馬鹿みたいに重いんだが。
「一足5kgの特注スパイクだ」
「このスパイク何でできてんだよ!?」
「知らん」
自分が使ってる物くらいどういう物か知っとけよ……。
エイリア学園のボールといい変なとこまで超次元だなこの世界。それとも俺が知らないだけでこのくらいの重さのスパイクは前世でもあったんだろうか。
「そのうち体壊すぞお前……」
「慣れればそれ程苦でもないぞ?」
「ええ……」
鬼道、やっぱり違うよ。時空の共鳴現象とか関係ないって。こいつに関してはただおかしいだけだよ絶対。
「それにしても……」
俺と夏未を見てニヤニヤと笑う豪炎寺。何だよ。
「デートの邪魔しちゃったかな?」
「なっ!?」
はぁ。何言い出すかと思えば……。デートって、そんな訳ないだろ。俺と夏未はそういう関係じゃないし。
「そんな──」
「違うわよ!!」
俺の言葉に被せるように食い気味に否定する夏未。恋愛感情持たれてるとは思ってないけど、そんなはっきり否定されるとちょっとショックだな……。
「そういうことだ。第一、俺と夏未じゃあ釣り合わないさ。そういう邪推は夏未に失礼だぞ」
「……馬鹿」
「えっ?」
何で俺罵倒されたの。何か変なこと言ったかな。
「私はこれで失礼するわ。二人とも、また明日ね」
そう言って足早に去っていく夏未。何なんだよ……。
「俺に色々言ってくるくせに、お前はそういうとこ鈍いよなぁ」
「……何が?」
「……駄目だこりゃ」
何が言いたいんだよ。はっきり言ってくれないと分からないじゃないか。っとそうだ。
「豪炎寺、今日一之瀬が来たぞ」
「一之瀬?……ああ、そういえばそんな時期か。でもこの時期の一之瀬って合体技抜きだと大したことないんじゃないか?」
「それがもうペガサスショットを使えるようになってるんだよ。鬼道とも互角にやり合ってた」
「マジか!?」
豪炎寺に一之瀬のことを伝えると、珍しく驚いている。こいつからしても相当意外だったみたいだな。それとこいつには一つ聞きたいことがある。
「豪炎寺」
「ん?」
「お前、プロトコルオメガに襲撃されたことあるか?」
こいつが過去にプロトコルオメガに接触されたことがあるのなら、鬼道の話の信憑性が高まる。鬼道がイレギュラーなら、それは間違いなくこいつにも当て嵌るだろうからな。
「プロトコル、オメガ?何だっけそれ」
「……本当に知らないのか?」
「知らないっつうか、聞き覚えはあるけどよく思い出せないな。そのプロトコル何とかがどうかしたのか?」
こいつの性格から考えても、知らないフリをしているとは考えにくい。なら、本当にプロトコルオメガの襲撃は受けていないのか。こいつはイレギュラーだとみなされていないということなのか。
「知らないなら別にいいんだ」
「そうか?そんなことより、俺も一之瀬と勝負してみたいな。明日も多分来るよな?」
「明日の予定とか聞いてないから分からんけど、多分来るんじゃないか?トライペガサスの特訓とかしてないし」
「よし!」
一之瀬との勝負に目を輝かせる豪炎寺。強い奴と戦うのがそんなに楽しみなのか。やっぱり脳筋だろこいつ。
次の日、グラウンドでいくら待っても一之瀬は姿を見せず、夕方になった。
「来なかったじゃないか、円堂」
「あっれぇ?おかしいな……」
と、木野の姿が見えたので一之瀬のことを聞いてみる。
「木野、一之瀬は今日来なかったけど、何か予定でもあったのか?」
「一之瀬君?今日の便でアメリカに帰ったわよ?」
「えっ」
帰った、だと……。わざわざ日本まで来て一日で帰っただと……。
フットワークが軽すぎるだろ。いや待て、それより帰ったってことは雷門に一之瀬が加入しないってことだよな。それって不味くないか。フットボールフロンティアはともかく、エイリア編であいつが居ないとどっかで詰むんじゃ……。
勘弁してくれよ……。こんなバタフライエフェクト要らねえんだって……。
《悲報》 一之瀬、アメリカに送り返される。
雷門のインフレをこれ以上進める訳にはいかないからね。しょうがないね、うん。
真面目な話を続けることに耐えられなくなったら、豪炎寺の出番だ。
こいつは作者の中で何をさせてもいいキャラなので、真面目な空気をぶち壊したい時に重宝します。