あの後、豪炎寺から何でいつ帰るのか確認しなかったのかとしつこく責められたが、そんなこと言われても一日で帰るとは思わんだろ。何しに来たんだよあいつ。マジで木野に顔だけ見せに来たのか。顔だけ見せて満足したのか。
と、いつまでも一之瀬のことばかり考えていても仕方ない。何を言ってもアメリカから戻っては来ないんだから。次の準決勝、木戸川清修との試合のことでも考えよう。とは言っても豪炎寺と鬼道が点を取る、俺が〈マジン・ザ・ハンド〉でゴールを守る。それ以外に言うことは無い。何も考えなくてもそれだけであっさりと勝てそうだから困る。
木戸川で脅威となるのは武方三兄弟の〈トライアングルZ〉くらいだ。ディフェンスでは西垣がいるが、豪炎寺と鬼道の攻撃を止めるのは無理だろう。他に考えられるとすればアニメでは登場しなかった〈ブーストグライダー〉や〈ハリケーンアロー〉か。共に強力な必殺技だが、三人技であるために発動時の隙も大きいはずだ。攻略は不可能ではない。
そんな考えを抱きつつ、豪炎寺と木戸川の因縁もない為、何事もなく準決勝当日を迎えた。
「鬼道!俺達はお前に勝つ!」
「パワーアップした僕達武方三兄弟の力」
「見せてやる!」
豪炎寺との因縁はなくとも、別の関わりはあったらしい。試合前のアップをしていると木戸川の三兄弟に絡まれた。どうやら鬼道に宣戦布告に来たらしい。去年の木戸川は豪炎寺がいなかったから、武方三兄弟がFWとして試合に出続けていた。そして決勝で鬼道率いる帝国学園に完敗した訳だが、その経緯から原作での豪炎寺への対抗心が鬼道へと移り代わっているような状態らしい。
「残念ながら俺は今日は試合には出んぞ。というかお前らは誰だ」
「「「何ィ!?」」」
だが、鬼道の記憶には三兄弟のことなど欠片も残っていなかったらしい。少し同情する。というか
「え、お前今日出ないの?初耳なんだけど」
「俺の目的は世宇子だけだ。この試合に出る必要性を感じない。俺はあそこにいる人間かどうかあやしいような奴とは違うからな、万全の状態で世宇子に挑む為にも無理はしたくない」
豪炎寺のことを見ながらそう言う鬼道。そういえばまだ足は万全の状態まで回復していないんだったか。それなら仕方ないか。
「俺達のことを忘れただと!」
「それに試合にも出ない!?」
「僕達のことを舐めてるんですか!」
お前ら一人で喋れないのかよ。さっきから何で三人で順番に喋るんだ。
「文句があるなら引きずり出してみるんだな。お前達にそれができるとは思えんが」
「何だと!?」
「調子に乗るなよ!」
「その言葉、後悔させてあげましょう!」
というやりとりの後、武方三兄弟はアップに戻った訳だが、
「お前……あんまり相手を挑発するなよ。頭に血が上ると何するか分からないような奴だって世の中にはいるんだから」
「俺がいつ挑発をした。ただ事実を言っただけだ」
「無自覚かい。タチ悪っ」
こいつも豪炎寺とは違う意味でズレてるとこあるよな。原作の鬼道と比べても口悪いし、無自覚に毒を吐く時があるし。
ちなみに三兄弟が絡みに来ている一方で、土門と西垣が再会を果たし盛り上がっていた。西垣といえば〈スピニングカット〉だけど、パクられ過ぎてこの世界だと皆に誰の技かと聞いたら鬼道という答えが返ってくるんだろうな。何故か申し訳なくなる。
「今日のスタメンだが……」
どこか疲れたような顔をした監督から、今日のスタメンが発表される。俺の横にいる豪炎寺が満足気に頷いている辺りに監督が疲れている理由があるような気がしてならない。
「豪炎寺をDFに、風丸がFWで出てもらう」
『えっ?』
監督の言葉に皆戸惑っている。そんな試みをしたことは一度もないはずだが、どういう意図があるのだろうか。
「豪炎寺の強い希望でな……」
ああ、豪炎寺が満足気なのはそういう……。監督は豪炎寺に押し切られた訳か。しかし
「お前何考えてんだよ?お前のことだからこの試合もハットトリック決めるつもりでいるもんだとばかり俺は思ってたんだが」
「もちろんそれはするつもりだが?」
「ん?」
こいつ今日DFで出るんじゃなかったか。もしかしてリベロでもやるつもりなのか。
「ディフェンスラインからでも点は取れるだろう」
「ええ……」
まさか味方ゴール前からのシュートで3点以上取るつもりなのかよ……。
「でも何でDF何だよ?FWじゃ駄目な理由でもあるのか?」
すると豪炎寺は俺にだけ聞こえるように小声で耳打ちしてくる。
「どうせならトライアングルZと勝負したいなって思ってさ。無印一期では最強格のシュート技の一つだ。どれほどのものか興味があってな」
「勝負ってどうするつもりだよ。シュートを受け止めるのはキーパーの俺だぞ?」
「ダイレクトで相手ゴールに打ち返す」
「ええ……」
さっきの話と合わせて考えると〈トライアングルZ〉を最低でも三度以上打ち返して得点するつもりなのかこいつ。鬼か。また相手の心を折るつもりかよ。
「できるかは分からんが、この為に新技も開発したからな。まあ、任せてみてくれよ」
「また何か習得したのか?マジでどうやってんだよ……」
思い立ってから技を覚えるまでが速過ぎる。こいつだけ時間の流れが違うんじゃないかとすら思える。
そんな訳で今日の雷門のフォーメーションはセンターバックのポジションに豪炎寺と壁山。サイドバックに栗松と土門。MFは右から少林、マックス、半田、宍戸。FWは染岡と風丸のツートップだ。染岡のワントップにしなかったのは、単純に一度も使ったことがないので、普段のフォーメーションの方がいいだろうと判断した為だ。風丸がFWなのはスピードを活かした突破力と〈トリプルブースト〉や〈炎の風見鶏〉といった強力なシュート技を持つ点を買われたから。あれ、DFよりもFWの方がしっくりくるような……。気のせいかな……。
両チームがポジションにつき、もうすぐ試合が始まる。
「はあ!?豪炎寺がDFだと!?」
「ありえないだろ、みたいな!?」
「僕達を舐めるのもいい加減にして欲しいですね!!」
恐らく千羽山との試合を見て豪炎寺を要注意人物としてマークしていたのだろう。DFのポジションについた豪炎寺を見て武方三兄弟が怒ってるが、別に舐めてる訳じゃないんだけどな。というか多分この試合も豪炎寺が暴れるだろうから、その怒りを試合が終わるまで維持し続けられるといいんだが……。あれ、何で俺は敵の心配をしてるんだ。
木戸川ボールでキックオフ。武方三兄弟がパスを回し攻め込んで来る。流石は三つ子というべきか。三兄弟の連携は完璧だ。
雷門ディフェンス陣にボールを渡さず、中盤を突破される。勝がボールを上空に蹴り上げ、そのボールに向かって努が跳躍する。〈ファイアトルネード〉や〈ダークトルネード〉と似通ったモーションで回転し、青い炎を纏う。
「これがダークトルネードを超える俺達の必殺技!バックトルネード!!」
青い炎を纏った足でボールを踵落としで打ち出す。身構える俺だが、シュートコースには豪炎寺が待ち構えている。
「俺が勝負したいのはこれじゃない!!」
「「「何ィ!?」」」
何故かキレ気味で、必殺技すら使わず左足で〈バックトルネード〉を蹴り返した。いや、どんなキック力してんだよ。
豪炎寺が蹴り返したボールはマックスが押さえた。そのまま一人躱して染岡へとパスを繋ぐ。
「俺が決めてやる!ドラゴンクラッシュ!!」
体を捻り青い竜を出現させ、染岡がシュートを放つ。これに対して木戸川のキーパー軟山は右拳に青い気を纏わせ、パンチングで対抗する。
「カウンターストライク!!」
〈ドラゴンクラッシュ〉を完璧に跳ね返し、ボールは一直線に武方三兄弟の元へ。その名の通り、一瞬で木戸川のカウンターとなる。
「ちょっと早いが見せてやる!」
「今度はさっきみたいにはいかないぜ!」
「僕達が編み出した最強のシュート!」
三兄弟が再び攻め込んで来る。これは〈トライアングルZ〉を打ってくるのか。
「そうだ!さあ、打ってこい!」
「いや、打ってこいじゃねぇ!仮にもDFならフリーでシュートを打たせようとするなよ!」
豪炎寺に文句を言うが、無視される。この野郎……。
三兄弟はそのままシュート体勢。勝がボールを蹴り出し、努がそのボールを空中へと蹴り上げる。そのボールを勝を踏み台に跳躍した友がボレーシュート。シュートを打った後は、トライアングルに見立てた決めポーズをとる。
「「「トライアングルZ!!」」」
一見ふざけているようにも思えるが、その威力は本物だ。帝国の〈皇帝ペンギン2号〉にも劣らぬ威力を持つだろうシュートが雷門ゴールへ向かう。
「そうだ!これを待っていた!」
しかし、シュートコースには豪炎寺が待ち受ける。さあ、どうするんだ。試合前に言っていた新しい技を使うのか。
豪炎寺はその場で跳躍し、空中で前方へと一回転。すると豪炎寺の左足から魔法陣と、燃え盛る炎を連想させる赤い刀身を持つ剣が出現する。迫り来るシュートに向かってその左足を振り下ろす。
「エクスカリバー!!」
────いや、それはお前が使っちゃ駄目だろう!?
驚愕に目を見開く俺をよそに、豪炎寺は〈トライアングルZ〉を完璧に打ち返し、〈エクスカリバー〉の距離があればある程に威力を増すその特性を最大限に発揮できるゴール前から放たれ、〈トライアングルZ〉の威力も合わさったそのシュートは木戸川のキーパー軟山に対処できるような威力ではなく、その体ごとゴールへと突き刺さった。
《悲報》 エドガー 技をパクられる。