原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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豪 炎 寺 の タ ー ン


天穿つ炎

 

シュートを決めた染岡が豪炎寺に向かって拳を突き出す。豪炎寺もそれに応える。

染岡のこと、心配してたけど俺の取り越し苦労だったみたいだな。なんだかんだ言ってやっぱりいいコンビだよ、あの二人は。

 

「今の、狙ってたのか?」

 

ゴール前に戻って来た豪炎寺に話し掛ける。

 

「染岡にラストパスを送ったのはそうだな。本当なら西垣も躱すつもりだったんだが、思ったよりやるよあいつ」

 

西垣を抜かなかったのはわざとじゃなかったのか。こいつでも抜けないとなると本格的に策を考えた方がいいかもしれない。二点差だが、サッカーでは危険とよく言われる点差だ。気は抜けない。

 

「だが、心配はいらない」

「でも、さっきは抜けなかったんだろ?」

「さっきはな。だが、一つ閃いた。今度はぶち抜く」

「また何かやるつもりかよ……」

 

頼むから思いつきで技覚えるのやめてくれないかな……。俺や鬼道の立場がないんだが……。

まあ、こいつのおかげで染岡も立ち直ったし、多少のことは許容するか。

 

「染岡も吹っ切れたみたいで安心したよ。ワイバーンクラッシュを使えるようになってるって知ってたのか?」

「いや?覚えたのは今じゃないか?」

「えっ?じゃあなんで……」

「………あいつの様子が最近おかしいのは気づいていた。原因が俺にあるだろうことも」

「え、お前気づいてたの?自分のことしか眼中に無いのかとばかり……」

「……お前の俺に対する認識は置いておくとして、染岡に足りなかったのは自信だ。どんなことがあってもブレずに自分を貫き通す強い意志。心の持ちよう次第で人はどんな風にだってなれる。今のゴールで少しは自信を持てただろうさ」

 

何だろう、言ってしまえばただの精神論でしかないはずなんだが、こいつが言うと物凄く説得力があるように聞こえる。

 

 

それ以降は染岡に西垣がマンマークにつき、雷門は何度も攻め込むものの、チャンスを活かしきれず追加点は奪えない。一方、木戸川清修も武方三兄弟を中心とした連携で雷門ゴールに迫るが、ゴール前に立ちはだかる豪炎寺を警戒してシュートまでは持ち込めず、試合は膠着状態へと陥る。

後半に入っても試合は動かず、両チーム共にゴールを奪えないままロスタイムを迎える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────それにしても、千羽山の時と比べて随分とロースコアになったものだ。

 

正直に言うとこの試合も結構な得点差がつくのではと危惧していたが、豪炎寺がゴール前から離れないのもあり、予想以上に良い試合になっている。

だが、この男がこのまま何事もなく試合が終わるのを良しとするはずもない。

 

「……円堂、ゴールは任せるぞ」

 

俺の返答を聞かぬまま、豪炎寺がゴール前を離れ前線へと駆け上がっていく。まあ、あいつからしたらよく我慢した方だな。

 

「ちょっ、チャンスッしょっ!!」

「あいつさえいなければ……!!」

「今度こそ決める!!」

 

それを見た武方三兄弟がゴール前へとなだれ込んで来る。豪炎寺がいなければ簡単にゴールを奪えるとでも思っているのか。随分と舐められたものだ。

武方三兄弟へとボールが渡り、〈トライアングルZ〉の体勢に入る。勝から努、努から友へとボールが繋がる。友がボレーシュートを放ち、決めポーズを取る。

 

「「「トライアングルZ!!」」」

 

迫り来るシュートの威力は俺が今まで受けてきた中でも上位にくい込んでくる程だ。豪炎寺の奴はよくこんなものを蹴り返せるものだ。

だが、強くなっているのは豪炎寺だけじゃない。成長速度では適わないが、それでも俺だって努力してるんだ。

 

精神を集中させ、心臓に気を集める。今までは体を捻って気を溜めていたが、もうその必要もない。集めた気が球状の塊となって胸から飛び出す。そのまま俺の体の周りを旋回した後、右手に宿る。右手を突き上げれば今まで通り、否、さらに圧力を増した魔神が現れる。

 

「マジン・ザ・ハンド……改!!」

 

進化した魔神の右手が〈トライアングルZ〉を完璧に受け止め、ボールは俺の右手に収まる。

 

「何ィ!?」

「そ、そんな……」

「こいつにまで……」

 

豪炎寺に続き、俺にも〈トライアングルZ〉を防がれた武方三兄弟が崩れ落ちる。

前線へと走る豪炎寺とアイコンタクトを交わす。

 

────こい、円堂。

 

────ちゃんと決めろよ?豪炎寺。

 

「いっけえええ!!!」

 

右腕を振りかぶり、豪炎寺目掛けて思いっきりボールを投げる。俺のロングスローは狙い通りに豪炎寺の元へ。

残り時間がもう無い中、豪炎寺からボールを奪おうと木戸川のMF陣が三方向から襲い掛かる。それを見た豪炎寺は全身から炎を迸らせ、右腕を振るう。すると、燃え盛る炎がまるで意思を持つかのように独りでに蠢き、木戸川の選手達を飲み込み、吹き飛ばしていく。

何あれ……。必殺技……じゃないよな。とうとう技関係なしに炎を操るのがデフォルトになったのかあいつ。どういうことだよ。

 

「俺が止める!!」

 

中盤を突破し、炎を纏ったまま木戸川陣内を突き進む豪炎寺に西垣が向かっていく。

豪炎寺はその場で立ち止まり、左手を眼前にかざす。豪炎寺の纏う炎が勢いを増し、そこに向かって集中していく。燃え盛る炎の中から何かを掴むような仕草をした後、左手を天に掲げる。その手に握られているのは巨大な炎の大剣。それを腰だめに構え、すれ違いざまに振り抜く。

 

「巨人の剣!!」

 

炎の斬撃によって西垣を吹き飛ばし、二度目の勝負は豪炎寺に軍配が上がった。

 

今度は〈王の剣〉の火属性バージョンですか……。技名は前半の〈レーヴァテイン〉と関連付けたのかな。まあ、元ネタ的には同じ剣なんだし使えてもおかしくない………いや、おかしいわ。危ない、感覚が麻痺してきている。さも当然のように使うもんだから、あいつが正しいのかと思いそうになる。というかもうシュート技ですらないんだが、なんでもありだな、おい。

 

遂にゴール前まで到達した豪炎寺。しかし、木戸川の残りのDF三人が豪炎寺の周囲を取り囲み旋回し始める。あれは〈ハリケーンアロー〉か。前半では不発だったが、強力な必殺技であることは間違いない。たとえ豪炎寺であってもまともに受ければ恐らくボールを奪われてしまうだろう。だというのに

 

「何やってる!?豪炎寺!!」

 

豪炎寺は動かない。その場で立ち止まり、左足でボールを踏みつけ、キープしたまま、不敵な笑みを浮かべている。いったい何を考えているんだあいつ。〈ハリケーンアロー〉が発動する。砂塵が巻き上がり、竜巻に豪炎寺が囚われる。

 

「豪炎寺!!」

 

思わず叫んだ俺だったが、次の瞬間、〈ハリケーンアロー〉によって発生した竜巻を炎が飲み込んだ。

 

「えっ?」

 

燃え盛る巨大な炎の竜巻が、豪炎寺に襲い掛かろうとしていたDF三人を吹き飛ばす。〈ハリケーンアロー〉の竜巻を逆に利用したのか。炎の竜巻ということは〈爆熱スクリュー〉か。いや、だがこれは……。

 

かつての帝国戦での豪炎寺の〈爆熱スクリュー〉を思い出す。あの時と比べて、〈ハリケーンアロー〉を利用したことを踏まえても……。

 

「でかすぎないか……?」

 

炎の竜巻は、さらにその大きさと激しさを増し、天を衝く灼熱の嵐の誇る熱量は、フィールドの反対側である雷門ゴール前まで伝わってくる程だ。気のせいか、竜巻の上空の天候すらも、雲を巻き込み変動しているような────。

 

────待て、天候……?まさか……!?

 

フィールドには熱風が吹き荒れ、そのあまりの熱量に誰も近づくことすらできない。

そして遥か上空、竜巻のさらに上方に豪炎寺がボールと共に姿を現す。

 

「はああッ……!!」

 

豪炎寺が咆哮と共にボールに気合いを込めると、天を衝く灼熱の嵐がボールにみるみるうちに凝縮されていく。見ているだけでも凄まじいエネルギーが込められているのが分かる。

 

「スカーレット………ハリケェェェンッ!!」

 

豪炎寺の左足によって解き放たれた灼熱の嵐が、フィールドに吹き荒れる。巨大な炎の竜巻と化してゴールに襲い掛かるその光景を前に、木戸川のキーパー軟山はゴールの守備を放棄して逃げ出した。しかし、誰が彼を責められようか。人は決して天災に抗うことなど出来はしないのだから。

 

そして、無人のゴールを竜巻が飲み込み、灼熱の炎がゴールネットを焼き尽くす。

 

一瞬の静寂の後、我に返った審判の笛が吹かれ、雷門対木戸川清修の試合は幕を閉じた。

 




この先どうなろうが知ったこっちゃねぇ(震え声)
これは全てをぶっ壊そうとする豪炎寺と、どうにか軌道修正を図ろうとする作者の勝負だ……。
そんなこと言うぐらいならもっと大人しくさせろという話だが、思いつくままに書いたらこうなるんだからしょうがない。
大人しい豪炎寺なんて豪炎寺じゃない。

オリ技のネーミングセンスに関しては触れないでおくれ。ただスカーレットハリケーンはクリムゾンハリケーンと迷ったんだ。でも炎の色って考えたらこっちかなって……。
何かいい案あったら教えてください。お願いします。(土下座)

長々と失礼しました。

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