気づけば辺り一面、真っ白な空間に居た。
────この夢、久しぶりに見たな。
真っ白な空間の中を歩いていく。何も無く、どちらが右で左なのか、上か下かも定かではない。だが、歩みを止めることはない。
しばらく歩いていると、どこからかボールを蹴るような音が聞こえてくる。
気づくと、俺はサッカーコートの中、ゴール前に立っていた。周りには雷門のユニフォームを着た皆の姿がある。
そして、反対側のゴール前に、一人だけ誰かが立っている。
────皆と、サッカーがしたい。
そんな声が俺の耳に響き、俺は夢から目覚めた。
「うーん……」
木戸川清修との準決勝を終えた翌日、俺は風丸と染岡に練習を任せ、ある事で頭を悩ませていた。
「何悩んでるんだ?」
その声に振り返れば、そこに居たのは豪炎寺と鬼道。この二人が練習以外で一緒に居るのは実は珍しかったりする。プレーでは息の合う二人だが、割と神経質なところがある鬼道と、色々と大雑把な豪炎寺はプライベートだと意見が合わないことも多い。勉強に対する姿勢一つ取っても、鬼道は教科書の隅々まで読み込み、全ての内容を覚えているらしいが、豪炎寺は一回やったことだからと言って、恐らく教科書をそもそも開いたことすらない。授業中もずっと寝ている。豪炎寺のそんな態度に鬼道がよく青筋を立てている。ちなみに俺は懐かしみながら、時折前との違いを見つけたりして結構楽しんでいる。
「いや、必殺技のことで悩んでて……」
話を戻そう。俺が悩んでいるのは必殺技について。というのも、今の俺の使えるキーパー技は〈メタリックハンド〉、〈ゴッドハンド〉、〈マジン・ザ・ハンド〉の三つ。その内、〈メタリックハンド〉と〈ゴッドハンド〉は世宇子には通用しないだろう。残るは〈マジン・ザ・ハンド〉なのだが───
「鬼道、マジン・ザ・ハンドは世宇子に通用すると思うか?」
原作通りなら、〈マジン・ザ・ハンド〉があれば何の問題も無い。だが、
「……はっきりとは言えんが、恐らくアフロディのシュートを止めるのは厳しいだろうな」
「やっぱりか……」
今の俺の力ではアフロディの進化した〈ゴッドノウズ〉に対抗するのは難しい。アニメでは二期中盤以降はまるっきり出番が無くなり、〈ゴッドハンド〉よりも影が薄くなった〈マジン・ザ・ハンド〉だが、〈ゴッドノウズ〉は演出の都合もあるだろうが、世界編まで現役で使われ続けた技だ。下手をすれば〈正義の鉄拳〉でも未進化では止められるか怪しい。
「新技を覚えればいいだろ。特訓なら付き合うぞ。次は〈正義の鉄拳〉か?それとも〈怒りの鉄槌〉か?」
豪炎寺の新技を覚えるという意見には俺も賛成なのだが、問題は何を習得するかだ。俺も最初は順番通りに次は〈正義の鉄拳〉かと思っていたのだが、
「本当に……それでいいのかな……」
「?どういう事だ?」
「俺だけが、円堂守の後を追うだけでいいのかなって……」
鬼道も豪炎寺も、原作の彼等とは明確に違う成長を遂げている。俺も原作の円堂とは違った進化をするべきなんじゃないか。そんな風に考えしまう。
「オリジナルの技を作るという事か?しかし、今から考えるには時間はあまり無いぞ?」
「分かってるよ、そんな事は!だから悩んでるんだろ!?だいたい何で俺だけがお前らと比べてこんなに弱いんだよ!!俺だって……努力してるのに……」
「円堂……」
「………」
気まずい雰囲気が流れる。何言ってんだ俺は……。こんな事言いたかった訳じゃないのに……。
三人揃って黙り込んでいると、部室の扉が開き、皆が入ってくる。
「キャプテン!」
「早く練習来てくださいよ!」
「皆待ってますよ!」
「決勝戦までこの勢い、止めたくないんですよねー!」
「俺達一年、絶対優勝するって誓ったでヤンスよ!」
「雷門中はもう誰にも止められないッス!」
「お前ら……」
……一年達がこんなにやる気になってるのに、俺の個人的な事で水を差す訳にはいかない。
「よしっ!やろう!今、三人で作戦会議してたんだよ。なっ?」
「………」
「ああ……」
「今日も張り切って、練習やるぞー!」
『おう!』
「結局、原作と同じように壁にぶつかる訳か。しかも、目指す所は見えず、暗闇の中でもがいている」
「大丈夫さ、円堂なら」
そう言い切った豪炎寺の顔を鬼道は見る。その目は円堂のことを信じきっているように見える。
「………随分と信用しているんだな。あいつの事を」
「あいつはやる時はやる奴だ。お前だってよく知ってるだろ?」
「……まあな」
地区予選決勝、帝国との試合で見せた成長は目を見張る物があった。鬼道も円堂のことを信じていない訳ではない。だが、豪炎寺がここまではっきりと言い切るのは意外だった。豪炎寺なら、円堂が新技を覚えられなくても俺が点を取るから問題無い、とでも言うのかと思っていたのだ。
「それに───」
そこで言葉を切り、目を閉じる。次に目が開いた時には、豪炎寺の目には闘志が宿っている。
「あいつは俺の親友で、相棒で…………ライバルだからな。こんなところで潰れたりしない」
「ライバル……ね。誰が見てもお前の方が強いと思うが?」
「今はそうかもな。だが、いずれあいつは俺に追いつく。必ずな」
豪炎寺は円堂のことを信じている。そして円堂も、普段の態度から豪炎寺のことを信じているのが分かる。鬼道はあくまでも帝国のプレイヤーであり、事が済めば帝国に戻るつもりでいる。雷門にあまり深く関わり過ぎるべきではないと考えている。だが、お互いを信じ合う円堂と豪炎寺の関係が、鬼道には羨ましく思えた。
「これでよしっと……」
皆との練習を終えた後、俺は鉄塔広場に来ていた。探しておいた今まで使っていたよりも一回りサイズの大きいタイヤを木に吊るし、準備完了だ。迷った時は、一度原点に立ち返ってみるのも手だ。〈メタリックハンド〉を編み出した時も、ここで練習していたのを思い出す。あの時と同じように、俺だけの必殺技を開発する。若しくは習得している必殺技を改良して、より強い技へと昇華させる。決勝戦まで時間はないが、やるしかない。俺はタイヤを思いっきりぶん投げた。
「がっ………!!」
タイヤによって大きく吹き飛ばされる。もう何度目だろう。最初はやる気に満ちていたのに、いつしか俺の胸には、こんな事で本当に新技を身に付けられるのかという不安が渦巻いている。
「もう……一度だ……!!」
それでも、他に出来ることもない。再びタイヤを投げる。
俺は豪炎寺が何かする度に、文句を言ったり、ツッコミを入れるだけで、自分も変わろうとはしなかった。木戸川清修との試合で、進化した〈マジン・ザ・ハンド〉で〈トライアングルZ〉を止めて、俺だって成長してるんだって、実感できた。だけど────
────スカーレット………ハリケェェェンッ!!
奥歯を噛み締める。あのシュートを見た時、頭を思い切り殴られたような気分になった。何を〈マジン・ザ・ハンド〉を進化させたくらいでいい気になっていたんだ。俺はいつだって、豪炎寺に頼っているだけじゃないか。練習試合のあの時から、いつも最後は豪炎寺が決めてくれた。俺の心にはいつもどこかに余裕があった。豪炎寺が居れば何とかなる。無意識にそんな風に考えていた。それは依存だ。そんなものを、本当の信頼とは呼ばない。
あいつは俺を信じてくれているのに、そんなことでどうする。俺はもっと強くならなくちゃならない。
雷門は豪炎寺のワンマンチームだ。調べれば、そんな声も沢山出てくる。悔しかった。そんな風に言われることが。何より、それを当然のように思っていた自分が、許せなかった。
豪炎寺は、原作通りに話が進めば、チームから長期の離脱を余儀なくされる。そうなった時、今の豪炎寺に頼り切った状態では、恐らくチームは機能しなくなる。キャプテンとして、そんな事態を見過ごす訳にはいかない。
「ぐっ………!!」
タイヤに吹き飛ばされ、地面に倒れ込む。気づけばもう辺りは暗くなっていた。そろそろ帰らなくては不味い。痛みを堪え立ち上がり、帰路に就く。
────本来の歴史では俺や豪炎寺のようなイレギュラーが居らず、原作の円堂のような成果を残せないとしたら
以前、鬼道に言われたことが頭を過ぎった。
「くそっ……………」