「どうしたの、円堂君。その顔?」
「何が?」
朝、家を出たところで偶然木野と会ったので挨拶をしたのだが、俺の顔を見るなり何故かそんなことを言われた。
「何がって……すごい隈よ?何かあったの?」
「………いや、少し寝つきが悪かっただけだよ。何でもないさ」
駄目だな。周りに心配掛けてるようじゃ。もっと上手くやらないと。
「豪炎寺、鬼道」
教室に入り、二人に声を掛ける。
「円堂、おはよう。……酷い顔だな」
「睡眠はしっかり取らないと体が持たないぞ」
そんなに酷い顔してんのかな。ちゃんと鏡見てくりゃよかったかな。
「そんなことはどうでもいいだろ。それより今日の練習の後、特訓に付き合ってくれよ」
「鉄塔広場での特訓はもういいのか?」
「タイヤ相手にしてるだけじゃな……。やっぱ生きたシュート受けないと………って何で鉄塔広場で特訓してたこと知ってるんだ?」
「え?あ、いや。お前ならあそこで特訓するかなって」
こいつ、さては見てたな。声掛けてくれればいいのに。
「場所はどうするんだ。今日もそこでやるのか?」
「いや、今日はグラウンドでやろう。ゴールもあった方がいい」
鬼道と特訓のことで確認を取っていると、クラスメイトに話し掛けられた。
「円堂、サッカー部、ついに決勝戦まで勝ち進んだんだって?」
「スゲーよな。ついこの間まで部員もいない弱小だったのによ」
「ここまで来たら絶対優勝してよね!」
「あ、ああ……」
「ああいうのもプレッシャーになったりするのかな?」
「普段なら何とも思わないだろうが、今の精神状態だと多少の影響はあるかもしれないな」
練習も終わり皆が帰った後、俺と豪炎寺、鬼道の三人だけがグラウンドに残る。
「円堂、何か新技の糸口は掴めているのか」
「………いや、まだ何も。でも、今日こそは……」
「……辞めだ」
「え?」
そう言って帰ろうとする鬼道。俺は慌てて呼び止める。
「待てよ鬼道!何で帰るんだ!」
「そんな状態で特訓などしたところで無駄だと言っている。漠然としたイメージすら無く、ただ我武者羅になっただけで必殺技ができるものか」
「うっ……」
「少し頭を冷やすんだな。話はそれからだ」
グラウンドから立ち去る鬼道を俺は止めることができなかった。鬼道の言うことは何も間違っていない。俺だってこれじゃ駄目だなんてことは分かってる。でも、それでも他にどうすればいいのか分からないんだ。
「円堂」
「豪炎寺……」
「やるんだろ?」
ボールを片手に問い掛けてくる豪炎寺。
「……いいのか?」
「鬼道はああ言ってたが、やってる内に何か思いつくかもしれないだろ?俺でよければ付き合うよ」
「……ありがとう」
俺はゴール前に、豪炎寺はペナルティエリアのやや外側に立つ。
「いくぞ円堂!」
「来い!」
豪炎寺はボールを蹴り上げ、回転しながら飛び上がる。
「ファイアトルネードォッ!!」
焔を纏ったボールを両手で受け止めるが、シュートの威力に徐々に押し込まれる。
「がっ……!!」
何とか弾いたものの、俺の体もネットまで吹き飛ぶ。
「円堂!大丈夫か!?」
「……来いよ」
「えっ」
「もっと、本気で来いよ……!遠慮なんてしてんじゃねぇぞ!!爆熱スクリューだろうがマキシマムファイアだろうが、何でも打ち込んで来いよ!!」
手加減なんてしてほしくない。それじゃわざわざ付き合ってもらってる意味がないから。
「……分かった。いくぞ!!」
豪炎寺が軽くボールを浮かせ、そのボールに左足で回転を掛け炎を纏わせる。回転を掛けた時の勢いのまま、その場で一回転。左足でシュートを放つ。
「ヘルファイア!!」
アルゼンチン代表、ジ・エンパイアの必殺シュートか。相手にとって不足はない。迫り来る炎を纏ったシュートを前に、俺は右腕に気を集める。
「メタリックハンド!!」
「なっ!?」
金属の光沢を放つ右手でシュートを受け止めるが、当然止められるはずもなく、俺の体ごとボールはゴールに突き刺さる。
「ぐっ………」
「何考えてんだ円堂!止められる訳ないだろ!」
倒れ込む俺の前に豪炎寺が駆け寄ってくる。止められる訳ない、か。確かにそうだ。でも───
「この技は……俺が一番最初に習得した技だからな……」
「最初って……ゴッドハンドじゃないのか?」
「まあ、そうなんだけどさ。でも、オリジナルの技って意味じゃこの技が初なんだ。だから、この技に何かヒントがあるんじゃないかって思って……」
「ヒントって……ダイヤモンドハンドでも覚えるつもりか?」
「それじゃ結局円堂の後追いになっちゃうだろ。そうじゃなくて、折角作ったオリジナル技なんだし、このまま使わなくなるのも寂しいだろう?だから、新しい技に繋げられないかと思ってさ」
「うーん、難しいな。俺の技は既存の技か、それを改造したものだからなぁ……」
「そういやレーヴァテインとかはどうやって覚えたんだ?」
単純に気になる。改造したとは言うが、元の技の完成度が高ければ高い程、それに手を加えるのは難しくなるはずだ。イギリスのエースストライカーの必殺技である〈エクリカリバー〉やアーサー王とのミキシマックスによって使えるようになる技である〈王の剣〉を改造するのは、新しく技を開発するよりもむしろ難しいような気がするが。
「言葉で説明するのは難しいな……。必殺技ってのはさ、個人によって適性っていうか、相性みたいなものがある」
「相性?」
「例えば、俺がエターナルブリザードを使ってるのが想像できるか?」
「……いや、イメージと違うから想像しにくいな。炎を使った別の技にして使ってる姿なら想像できるけど」
「そうだろうな。実際、試してみたことはあるけど、全く手応えがなかったし」
「やってみたことがあるのか?」
「ああ、一人でクロスファイアが打てるようになるんじゃないかと思ってな」
お前………。いや、今は何も言うまい。
「で、話を戻すぞ。エクスカリバーもやっぱり相性が良くないのか、最初は全然上手くいかなかったんだ。だから─────燃やしたんだ」
「………燃やした?」
どういう意味だ。何かの比喩的な表現か。
「ああ、違うな。何ていうか……必殺技をぶっ壊して、その技を構成してる要素の代わりに火を混ぜ込むっていうか……」
「……よく分からん」
感覚派はものを教えるのが下手だと言うが、その例に洩れずこいつも何を言ってるのかいまいち理解しずらい。今の説明だと改造というより、技を新しく作り直してると言った方が正しい気がするが。豪炎寺にそう聞いてみる。
「ん?んー………。んん、うーん。ちょっと違う、かな?あくまで構成してる要素だけを置換するというか……」
「……そもそもエクスカリバーを構成してる要素って何なんだよ」
「………………色、とか?」
「ふざけてんのかお前」
言うに事欠いてそれかよ。何かヒントになるんじゃないかと期待した俺が馬鹿だったわ。
「な、何だよ。じゃあお前もマジン・ザ・ハンドの出し方説明してみてくれよ!」
「へ?何で?」
「………爆熱ストームが魔神を上手く出せないせいで完成しないんだ」
「そうなのか?前使ってた時も一応出せてはいたと思ったが」
「あと一歩何か足りないんだよ……」
「へぇ……」
意外だな。こいつのことだからもう完成させているものだと思っていたが。というかもっと強力な技使ってるがそっちの方が覚えやすかったのか。
「魔神の出し方なぁ……」
あまり詳しく考えたことなかったな。初めて出した時も勢いで出したようなもんだし。
「こう、気を集めてだなぁ……」
「うん」
「グワァーッと」
「…………」
「…………」
俺達の間に沈黙が訪れる。やばい、豪炎寺の俺を見る目がやばい。
「それだけかよ!?俺より酷いじゃないか!!」
「なんだと!?お前の説明だって変にややこしく言おうとするから分かりづらいんだよ!!」
「擬音だけで一言で纏めようとするよりはマシだ!!」
それからしばらく俺達の低レベルな言い争いは続いた。我に返った時にはだいぶ遅い時間になっており、時間を無駄にしたと二人揃って項垂れることとなる。
「………何をやってるんだ、あいつらは」
ああは言ったものの、気になって様子を見に来たのだが、何故か円堂と豪炎寺は特訓をせず喧嘩をしていた。断片的に聞こえてくる内容からくだらないことだと推測できる。
「戻ってくる意味もなかったな」
あの様子なら直ぐには終わりそうにない。馬鹿二人に構って俺まで時間を無駄にしたくはない。
「気になるなら混ざってくればいいんじゃない?」
帰ろうとした俺の耳にそんな言葉が聞こえた。振り返るとそこにいたのは雷門で最も関わりたくない相手だった。
「春奈……」
「お兄ちゃんは行かないの?」
「……俺はお前の兄ではない。言っただろう。お前の兄はもうどこにもいないのだと」
踵を返して立ち去ろうとする。春奈とはあまり話していたくはない。
「待って!!」
だが、春奈に腕を掴まれ、引き止められる。
「離せ」
「嫌!」
「……俺はお前の兄では」
「違う!!」
俺の言葉は春奈の絞り出すような声に掻き消される。
「見ていれば分かる……。どれだけ変わったように見えても、私に冷たくても、貴方は私のお兄ちゃん」
「……止めろ。俺にはお前に兄と呼ばれる資格はない」
「……ッ!資格って何!?そんなもの要らない!!私はただ、昔みたいに……」
「……そんな日が来ることはない」
「………!!」
春奈の腕を振りほどき、今度こそこの場を立ち去る。そうだ、そんな日は来ない。俺にはそんなものは許されない。俺はお前の兄の"有人"ではないのだから。
「どうして……?お兄ちゃん……」
結局ぐだぐだになる円堂と豪炎寺と、拗らせてる鬼道さんでした。
感想で円堂が闇堕ちしそうという声が多いですが、今のところはその予定はないです。
円堂が闇堕ちするルート分岐は練習試合の帝国戦です。あの試合でゴッドハンドを発動できずにそのまま敗北した場合、色々あってFF決勝戦で世宇子のGKとして、豪炎寺率いる雷門の前に立ちはだかる。というルートが一応存在します。気が向いたらいつか書くかもしれません。