豪炎寺と低レベルな争いを繰り広げた翌日。気を取り直して俺達は特訓に励んでいた。
「グランド……ファイアァァァ!!!」
今日三度目となる、迫り来る極大の炎を両手で迎え撃つ。だが、一瞬で両手は弾かれ、俺の体はゴールネットにボールごと叩きつけられる。
「が、はっ………!!」
凄まじい衝撃に、直ぐには立ち上がれずその場で蹲る。
「円堂……もう止めないか」
「……まだ……まだ……もう、一度だ……頼む、豪炎寺……」
「……分かった」
特訓を始めてからそう長い時間は経っていないが、もう既に俺はボロボロになっている。だが、豪炎寺の提案を却下し特訓を続行する。強力なシュートを受け続ければ、嫌でも鍛えられるはず。後は俺が強くなるのが先か、潰れるのが先かだ。
「マキシマム……ファイアァァァ!!!」
再び放たれる爆炎がゴールに迫る。右手に気を集め、〈メタリックハンド〉を発動。そこから〈マジン・ザ・ハンド〉の体勢に入るが、上手く気を制御できず、気は霧散してしまい、〈メタリックハンド〉も解除される。炎が俺の体を飲み込み、ボールはゴールネットに突き刺さる。
駄目だな。あれから試行錯誤を繰り返し、〈メタリックハンド〉と〈マジン・ザ・ハンド〉を組み合わせてみたらどうかと思いつき、何度かやってみたが全く上手くいかない。やっぱりこんな思いつきの方法じゃ無理か……。
「……雨か」
倒れ込む俺の顔にポツポツと雨が当たり始める。曇ってたけど、ついに降ってきたか。散々豪炎寺のシュートを受けた体にはちょうどいいクールダウンかもな。冷たい雨が気持ちよくて仕方ない。
「風邪引くぞ、円堂」
「なあ、豪炎寺……」
「なんだ」
「俺、必殺技を完成させることができるのかな……」
〈ゴッドハンド〉を覚えようと必死に練習を繰り返していた頃を思い出す。あの頃も、今と同じように、本当に俺にできるのかと不安でいっぱいだった。
「諦めるのか?」
「………いや」
体を起こす。膝をつき、豪炎寺の手を取り立ち上がる。
「最後まで足掻くよ。諦めるのは、やれることをやり尽くしてからだ」
「そうか」
「ありがとな、豪炎寺。今日も付き合ってもらって」
「俺は構わないさ。それより円堂、ちょっと頑張り過ぎじゃないのか。明日は日曜だし、一日くらい休んだらどうだ?」
「……何言ってんだ。そんな暇はないだろ」
「だが、昨日よりもさらに酷い顔をしているぞ。皆も心配している」
……それは、気づいてなかったな。そんなに顔色悪いのか。無駄な心配掛けて情けない。もっと上手く誤魔化さないと……。
「はぁ………。その顔は分かってないな……。ほら、今日はもう帰って風呂入って、さっさと寝ろ。どうせ明日もやるんだろ?」
「ああ、頼む。じゃあ、また明日な」
「ああ」
豪炎寺と別れ、家に向かう。明日は何を試すか考えておかないとな。
「思っていた以上に重症だな、これは……」
一夜明けて翌日。雨に打たれたのが不味かったのか、俺は熱を出してしまい寝込んでいる。こんな時に何やってんだ俺は……。
仕方がないので、豪炎寺には事情を説明し、今日の特訓は中止となった。折角日曜日で一日中特訓ができるはずだったのに、こんなことなら昨日は雨が降る前に切り上げるべきだった。
体は痛いし、寝たいところだが、さっぱり眠くならない。時間を無駄にしているという焦燥ばかりが募っていく。
ベッドの上で悶々としていると、扉をノックされたので返事をする。母さんが何か持って来たのかと思ったのだが、部屋に入って来たのは予想外の人物だった。
「な、夏未……?」
居るはずのない人物の登場に混乱する。いや、マジで何でだ。住所とか知ってたのか。いや、問題はそこじゃなくて……。駄目だ、熱で上手く頭が回らん。
「な、何で夏未が……?」
「えっと、豪炎寺君から円堂君が熱で寝込んでるから、お見舞いに行ってくれって電話があって……」
豪炎寺が夏未に連絡したのか。どういうつもりなんだか。というかわざわざ人に行かせるぐらいならあいつが来いよ。いや、来なくていいけども。
「なぜ寝ていないの?体調が悪い時は無理せずに休んだ方がいいわよ?」
「眠くならないんだよ。別に好きで起きてる訳じゃない」
「そう……。円堂君、最近何に焦っているの?」
「……気づいてたのか」
「あんな疲れ切った顔をしておいて、気づかない方がおかしいと思うのだけど」
そこまで言われる程なのか……。どうやら俺は自分で思っているよりもおかしくなってきているらしい。
「……不安なんだ。必殺技はいくら特訓しても朧気な形すら見えてこない。今の俺じゃ世宇子のシュートを止められない。ゴールを守れないキーパーなんて、いる意味がない。俺が皆の足を引っ張るせいで負けるんじゃないかって、そんなことばかりが頭に浮かんでくる」
自然と弱音が口を衝く。普段ならこんなことは言えないが、熱で意識が朦朧としてきているのもあってか、自分でも驚く程にあっさりと本音を吐き出していた。
「ねえ、円堂君。この間私が言ったこと、もう忘れてしまったのかしら」
「………忘れてなんか、ない。でも……」
「皆に迷惑を掛ける訳にはいかない。とでも考えているのでしょう?」
「…………」
図星だった。なぜ分かったのだろう。そんなに俺は分かりやすいだろうか。
「貴方に頼られることを嫌がるような人は貴方のチームメイトにはいないのではなくて?むしろ、貴方が一人で苦しんでいることを悲しむと思うわ」
そうかもしれない。皆良い奴だから、相談すれば真剣に考えてくれることだろう。風丸や染岡辺りはなぜ黙っていたのかと怒るかもしれない。でも、それは甘えだ。一度それを良しとしてしまえば、俺は皆に頼りきりになってしまいそうで怖い。
「誰かに頼ることは悪いことではないわ。頼り、頼られ、互いに助け合い、壁を乗り越えていく。それがチームというものだと私は思うのだけれど、貴方にとっては違うのかしら」
さっきから何なんだ。何で俺の考えていることが分かるんだ。何で俺の欲しい言葉を、こんなに的確に言ってくれるんだ。
「貴方は一人じゃない。貴方が迷いそうになるなら、何度だって同じことを言ってあげる」
そう言って夏未は俺の手を取る。
「私は、貴方の傍にいる」
「─────」
その言葉が、何か、俺の中の欠けていた部分に入り込んで来るような感覚を覚えた。思えば、円堂守になったあの日、一番最初に感じたのは寂しさだったのかもしれない。家族に、友達に、もう会えない。そんな不安や悲しみを胸の奥底に押し込んで、見ないようにしてきた。この世界で自分は独りなんだと、心のどこかで思っていたのかもしれない。でも、本当は誰かに、今の言葉を言ってほしかったのだと思う。
思わず涙が零れた。視界がぼやける。強烈な眠気に襲われ、意識が落ちていく。
「───おやすみなさい」
夏未のその言葉を最後に、俺の意識は完全に途絶え、眠りについた。
翌日には熱も下がり、久しぶりにぐっすりと眠れたこともあり、体調はかなり良くなった。しかし
「夏未にどんな顔して会えばいいんだ……」
あの後、目が覚めた時には夏未はもういなかった。夜になっていたので当たり前なのだが。一瞬残念だと思った後、俺は自分の醜態を思い出し、羞恥に悶えた。熱に浮かされていたとはいえ、散々情けないことを言っただけでなく、終いには泣き出したのだ。正直、かなり気まずい。
「おはよう」
「おはよう………おお」
悩みながら教室まで辿り着き、豪炎寺に挨拶をする。豪炎寺は俺の声に振り返り挨拶をした後、俺の顔を見て驚いたように声を漏らす。
「……何だよ?」
「いや、随分と顔色が良くなったなと思って。効き目があったようで何よりだ」
そういえば夏未が来たのはこいつの差し金だったか。結果的に見れば俺はこいつに感謝すべきなのだろうが、どうもこいつの手のひらで転がされているようで釈然としない。普段すっとぼけたことばかり言っているくせに何故こういう時だけ妙な勘を働かせるのだろう。
ニヤニヤと笑う顔がムカついたのでとりあえず頭を一発叩いておいた。豪炎寺の抗議の声を聞き流し、自分の席に着き授業の準備をする。一連のやり取りを見ていた鬼道がため息を吐いたような気がするが気のせいだろう。
一日の授業を終えて部活の練習が始まる。夏未の様子は普段と変わりないように感じる。俺が変に意識し過ぎてるだけなのか。
練習が終わる頃には俺も普段通りに話せていたように思う。ただ、夏未の顔が少しだけ赤かったような気がする。昨日のは疲れから熱が出ただけで風邪とかではないと思っていたが、もしかして実は風邪でそれを移してしまったのだろうか。だとしたら申し訳ない。夏未が学校を休むようなことがあれば、俺もお見舞いに行くことにしよう。
今日の練習も終わり、豪炎寺と特訓を始めようと思ったのだが
「何で皆帰らないんだ?」
何故か練習が終わったというのに、誰一人として帰らずグラウンドに残っているのだ。
「水臭いぜ、円堂」
「えっ」
すると風丸にそんなことを言われる。どういうことだ。
「最近残って特訓してるんだろ?」
「俺達も付き合うよ」
「キャプテン一人に苦しい思いはさせないッスよ!」
「俺達皆で特訓するでヤンス!」
風丸に続き、皆口々にそう言い出す。
「お前ら……」
────貴方は一人じゃない。
その通りだな、夏未。俺が勝手に怖がっていただけ。もっと早く、皆を頼ればよかったんだ。自然と笑みが零れる。
「よし!決勝戦まであと少し、皆で特訓しよう!」
『おお!』
不安が完全に消えた訳ではない。けれど、きっと大丈夫。そんな気持ちも湧いてくる。だって、
俺は、独りではないのだから。
自分が何を書きたいのか分からなくなってきた今日この頃。
次から世宇子戦に入ろう。多分、きっと。
アフロディ来ないのかって?来たら豪炎寺に追い返される未来しか見えない。
合宿?やる意味ある?