ああ、やっと世宇子戦に入れた……。
あれからチーム一丸となって特訓に励んだ俺達。結局俺の必殺技は完成することはなかったが、ここまで来たらやれることをやるだけだ。
決勝戦当日である今日、フットボールフロンティアスタジアムに向かう為に駅に集合した俺達だったが、
「………来ない」
約一名、いくら待っても姿を現さない者がいる。俺達雷門の絶対的エースストライカー、豪炎寺である。
「円堂、どうする。これ以上待っていたら俺達も間に合わなくなるぞ」
「……仕方ない。先に会場へ向かおう。きっと後から来るさ。もしかしたら何かあって先に行ってるのかもしれないしな」
あいつの行動に読めないところがあるのは事実だが、こんな時に何の連絡もせずに遅れて来るような奴ではない。何事もなければいいんだが……。
若干不安そうな様子を見せる者もいるが、ひとまず会場へと向かう。
そして会場に到着したのだが、辺りには人の姿は無く、決勝戦当日だというのに、会場は静まり返っている。おまけに閉ざされた門には閉鎖という張り紙までしてある。
「誰もいないぞ……?」
「どうなってるんスか?」
皆も困惑を隠せない。そうだ、確か決勝戦の会場は変更になるんだ。今日の試合を行う場所は……。
「はい、そうです。えっ?どういうことですか?……でも、今更そんな……。はい…はい、分かりました」
夏未の携帯に電話が掛かって来る。夏未の言葉から察するに会場の変更の連絡か。
「夏未、今の電話は?」
「大会本部から……。急遽、決勝戦の会場が変わったって……」
「変わったって……どこに?」
「それは……」
半ば確信を持って夏未に問い掛ける。その返答が返ってくる前に、俺達の頭上に急に影が差す。反射的に上に視線を向ければ、目に映ったのは空中に浮かぶ巨大な建造物。その外装には翼を持つ女神のような彫像が備え付けられ、見るものに厳かな雰囲気を与える。まるで神殿のようにさえ感じられるあの建造物こそ、フットボールフロンティア決勝戦の舞台、ゼウススタジアム。
なぜこれ程巨大な建造物が空中を浮遊することができるのか、俺にはさっぱり理解出来ない。この世界はたまに当然のように明らかにオーバースペックの建物やら道具が出てくるから反応に困る。
スタジアムの中に入り、フィールドに辿り着く。パッと見でもフロンティアスタジアムと遜色ない立派なスタジアムだ。かといってわざわざ変更する理由もないと思うが。
「決勝当日になって、ゼウススタジアムに変更……。影山の圧力ね。どういうつもりかしら」
ちなみにだが、鬼道からの話で皆も世宇子に影山が関わっていることは知っている。特に夏未は理事長からの情報や、鬼瓦さんとも連絡を取っていたみたいだから、俺達よりも色々知っていることもあるだろう。ふと視線を感じて背後を見上げると、そこにはフィールドを見下ろす影山の姿が。
「影山……」
俺の声で皆も気づいたようだ。特に鬼道は鋭い視線で影山を睨みつけている。
「円堂、話がある」
「?はい」
響木監督が俺に向かってそんなことを言う。えっ、このタイミングで話ってもしかしてアレか。
「大介さん……お前のお祖父さんの死には、影山が関わっているかもしれない」
────ドクンッ……。
原作でもこの発言にどういう意図があったのか、俺はよく覚えてはいない。だが、正直なところ、俺にそれを言われても困る。監督からすれば、俺が祖父さんに憧れてサッカーを始めたのだと思われているのかもしれないが、それは本来の円堂守であって俺からすれば赤の他人なのだ。それに実は生きていることも知っているので尚更どういう反応をすればいいのか分からん。ただ、まあ。
「……関係ないですよ、そんなの」
「……何?」
「確かに、俺は祖父さんの後を追って強くなって来たのかもしれない。でも、俺は祖父さんの為にサッカーをやってる訳じゃない。ここにいる皆と優勝する為に、今俺はここにいる。だから、祖父さんのことは俺にとっては戦う理由が一つ、増えるだけのことです」
思ったことを言ったけど、これで良かったのかは分からない。響木監督は俺の言葉を聞いて口元に笑みを浮かべる。
「さあ、決勝戦の準備だ!」
原作の円堂と大分違うこと言ったはずだけど、大丈夫だったみたいだな。響木監督が俺に抱いている印象も原作の円堂とは違うかもしれないし、思ったことそのまま言ったのが逆に良かったのかもしれない。監督を勧誘した時みたいに原作の円堂の言葉をそのまま言ってたら、面倒臭いことになっていた可能性が高い気がする。
控え室でユニフォームに着替える。ここまで色々なことがあった。楽しいこと、辛いこと、皆と乗り越えて決勝まで辿り着いた。豪炎寺と出会ったあの日、二人で決めた目標であるフットボールフロンティア優勝はもう目の前だ。だと言うのに、
────いったいどうしたんだ、豪炎寺。
刻一刻と試合開始時間は迫って来ているが、豪炎寺は来ない。
「キャプテン、どうするんですか?」
「豪炎寺さんがいないと……」
皆も、特に一年生組は豪炎寺がいないことに不安を感じている。無理もない事だ。今までの試合において、豪炎寺の存在感は図抜けている。あいつがベンチにもいない試合というのを俺達は経験したことがない。いざという時にあいつに頼れないのは、皆にとって精神的な負担となるかもしれない。
「豪炎寺抜きで試合をするしかない」
「でも……!!」
「あいつは必ず来る。それまで、俺達だけの力で戦い抜くんだ」
いない以上はどうすることも出来ない。豪炎寺を信じるしかない。皆も俺の言葉に覚悟を決めたようだ。
「行くぞ」
控え室を出て、フィールドへと向かう。扉を開ければ、スタジアムは満員の観客で埋めつくされていた。その光景に圧倒される俺達だったが、突然突風が吹き荒れ、そちらを向くと、そこには世宇子イレブンの姿があった。
「あれが世宇子か……」
直接この目で見るのは始めてだな。そちらを見ていると、俺の横に立っている鬼道が拳を震わせているのに気づく。
「鬼道」
「……心配は要らん。これはただの武者震いだ。俺の怒りは、全て試合にぶつける」
そう言ってアップに向かう鬼道。この試合に掛ける思いはあいつが一番かもしれない。豪炎寺がいなくとも、鬼道なら世宇子からゴールを奪えるはずだ。
アップを終了させ、ベンチ前に集合して円陣を組む俺達。
「俺がここまで来れたのは、皆がいたからだ。皆がいてくれる限り、俺は何があろうと絶対に諦めない。この試合、俺達の全てを出し尽くして、必ず勝つ。皆で優勝しようぜ!」
『おお!!』
俺達が試合に向けて気合いを入れた一方、世宇子は運ばれて来たドリンクをイレブン全員が一斉に飲み干す。
「僕達の、勝利に!」
『勝利に!』
あれが神のアクアか。身体能力を増強させるドリンク。当然、本来ならドーピングで失格な訳だが、影山が支配するこの大会でそんなものが発覚する訳もなく、その力で今大会を勝ち上がって来た世宇子。だが、それがどうした。そっちがドーピングで強くなるなら、俺達はチーム全員の力でそれを超えるだけだ。
フィールド中央、両チームが整列し、キャプテンである俺とアフロディが握手を交わす。
「世宇子中のキャプテン、アフロディだ」
「雷門中キャプテン、円堂守」
「鬼道君から僕達のことは聞いていなかったのかな?もし聞いた上でこの場に立っているのなら、愚かとしか言えないが」
「何とでも言えよ。お前らがどれだけ強くても、俺達は勝ってみせる」
俺の言葉を聞いて、アフロディはおかしそうに笑う。
「威勢が良いね。……ところで、君達のエースストライカーの姿が見えないようだけれど」
「……少し、遅れてるだけさ。あいつは必ず来る」
「必ず来る、か。果たして本当にそうかな?」
何だ、こいつのこの態度は。まさか……。
「お前ら、豪炎寺に何かしたのか」
「さあ、何のことか分からないな」
「お前……!!」
影山お得意の盤外戦術って訳かよ。狙ったのは豪炎寺本人か、それとも原作の木戸川戦の時と同じく、妹を狙ったのか。どちらにせよ、豪炎寺が手に負えないからとはいえ、こんな手段に出るとは。怒りで拳を握り締め、眼前のアフロディを睨みつける。
────こんな奴らに、負けてたまるか……!!
両チームの選手がポジションにつく。豪炎寺がいない為、少しでも得点力を上げるべく、影野の代わりに〈トリプルブースト〉の発動要因となる栗松をスタメンに。FWは染岡と鬼道のツートップで試合に臨む。
雷門ボールから試合開始。染岡からボールを受けた鬼道がドリブルで切り込む。
「イリュージョンボール改!!」
世宇子のFWをあっさりと抜き去る鬼道。だが、その前にアフロディが立ち塞がる。
「アフロディ……!!」
「やあ、久しぶりだね鬼道君。君にはあの時の借りを返さねばならないと思っていたんだ。そして、今一度教えてあげよう。神に抗うことの無意味さを」
「黙れ……!!」
鬼道がアフロディへと突進する。アフロディは迫り来る鬼道を前に、冷静に左手を顔の辺りまで持ち上げ、指を鳴らす。
「………は?」
気づいた時には、アフロディは鬼道の背後へと移動していた。そしてその足元にはボールがある。何が起こったかを鬼道が理解する前に、発生した突風によって鬼道が吹き飛ばされる。
「ぐああああああ!?」
「鬼道!!」
────今のは、まさか……。ヘブンズタイムをディフェンスに使ったのか!?そんな馬鹿な!?
鬼道からボールを奪ったアフロディに染岡、半田、マックスの三人が迫る。
「ヘブンズタイム」
しかし、アフロディは一瞬で三人を抜き去り、三人が吹き飛ばされる。そのままゆっくりと雷門陣内を歩いて攻め上がるアフロディ。
「まだだ……!!」
しかし、先程吹き飛ばされた鬼道がアフロディの前に回り込む。
「相変わらず執拗いね。君の相手をするのも、もう何度目かな」
「うおおおお!!」
アフロディのボールを奪おうと鬼道がアフロディに向かう。だが、先程までとは違い、アフロディは鬼道に向かってボールを蹴り込み、ボールを鳩尾に食らった鬼道が吹き飛ばされる。
「がっ!?」
「君はそこで這いつくばっているといい。また後で相手をしてあげるよ」
痛みに蹲る鬼道を無感情に見下ろし、再び歩を進める。壁山と土門の体は恐怖に震えていた。先程までのアフロディのプレーの理解の及ばなさに。
「怯えることを恥じる必要はない。自分の実力以上の存在を前にした時」
左手を鳴らしたアフロディが一瞬で二人を抜き去る。
「当然の反応なのだから」
発生した突風によって二人が吹き飛ばされる。雷門ディフェンスを突破し、ゴール前まで到達したアフロディ。残るはキーパーの俺一人。
「こい!必ず止めてみせる!」
「天使の羽ばたきを聞いたことがあるかい?」
アフロディの背中に純白の翼が形成され、空中へと舞い上がる。翼を広げ、ボールに凄まじいエネルギーが注ぎ込まれる。
「真ゴッドノウズ!!」
白い稲妻を帯びたシュートが雷門ゴールに迫る。俺は心臓に気を集中させる。凝縮された気が胸から飛び出し、右手に宿る。
「マジン・ザ・ハンド改!!」
「本当の神は……どちらかな」
魔神を出現させ、その右腕でシュートを迎え撃つ。
「ぐ……くぅ……!!」
凄まじい衝撃が右手に伝わってくる。俺の体は徐々にゴールへと押し込まれていき、やがて限界を迎えた魔神が消し飛ばされ、シュートを受け止めようとした右手を巻き込み、俺の体ごとボールは雷門ゴールへと突き刺さった。
世宇子中先制。そして
「………!!み、右腕が……!?」
豪炎寺を試合から遠ざけ、円堂には負傷によるハンデを背負わせる。
いつだって、豪炎寺にはご都合主義が味方し、円堂には試練を与える。それがこの小説だ。知らんけども。