世宇子ボールから後半開始。ボールを持ったアフロディは相変わらず、余裕を隠そうともせず歩いて攻め上がる。
「ヘブンズタイム」
染岡と鬼道が吹き飛ばされる。やはりあの技を攻略しない限り、アフロディの突破を止めるのは不可能なのか。
「サイクロン!!」
「クイックドロウ!!」
「無駄だよ」
半田とマックスが同時に必殺技で仕掛けるが、これも通用しない。先程の二人同様吹き飛ばされる。
しかし、時間差で宍戸と少林がスライディングでボールを奪いに掛かる。
「ヘブンズタイム」
だが、連続で発動した〈ヘブンズタイム〉の前には無意味。結果は変わらず、地に叩きつけられる、〈ヘブンズタイム〉の厄介な点は技の性質もそうだが、モーションが小さいので隙がないことにある。純粋に破る以外に攻略の術は無い。
「ヘブンズタイム」
壁山の大きな体支えにして突風に堪えようとしたディフェンス陣だったが、そんな単純な手では太刀打ち出来ず、空中へ投げ出され、フィールドに倒れ込むことになる。
「残るは君だけだ」
アフロディが俺に向かってボールを蹴り込む。反応しきれず、ボールは俺の顔面に直撃してアフロディの元に跳ね返る。俺は痛みに耐えながら立ち上がる。
「何故だ……。勝ち目の無い戦いにどうしてそれ程熱くなれる」
再びアフロディがシュート。今度は反応するも、左腕だけでは止めきれず、ボールは弾かれ、アフロディがもう一度シュートを放つ。
「何故君は僕をイライラさせる……!!」
アフロディの蹴ったボールが俺の鳩尾に叩き込まれ、耐え切れずに前のめりに倒れ込む。
「そうだ。君は神の力を得た僕に、ひれ伏すしかないんだ」
「……まだだ」
「……!!」
膝をつき、体を起こす。ボロボロの体で、尚も立ち上がる。
「まだ……終わってねぇぞ……!!」
「嘘だ……。体力は既に限界のはず……」
「俺の限界を……お前が決めるな……!!」
「……ッ!!」
アフロディが何度も、何度もシュートを放つ。それを受けた俺が倒れ、その度に起き上がる。
「まだだ……」
「……ッ!!君はいったい何なんだ!!」
人は自らの理解の及ばないものに恐怖を感じる。アフロディもそれは例外ではない。何度倒そうと立ち上がってくる円堂の姿は、アフロディには理解出来ないものだ。
無意識の内にアフロディが後ずさる。一瞬遅れてそれを自覚する。
────神である僕が……怯えているというのか……?そんなことが………。
「ッ!!そんなことは……あってはならない!!」
アフロディが純白の翼を背中に顕現させ、空中へと舞い上がる。翼を広げ、ボールにエネルギーを送り込む。
「これで終わりだ……!!」
────人は、倒れる度に強くなれる。
他でもない、アフロディが原作で言った言葉。その通りだと思う。俺は今まで、何度も迷い、挫け、立ち止まりそうになった。その度に、風丸が、豪炎寺が、夏未が、チームの皆が俺を支えてくれた。
俺はどうやっても円堂守にはなれないし松風天馬のようにもなれない。先頭に立って皆を引っ張っていくなんて出来ない。かといって、皆の横を肩を並べて、同じように走っていくには、俺は弱過ぎる。きっとこの先も、俺は皆に助けられながら前へと進んでいく。だから、俺は皆の前でも、隣でもなく、後ろにいる。躓きそうになったら手を引いてもらいながら、誰かが置いていかれないように、誰かが道を踏み外しそうになったなら、すぐにそれに気づけるように、一番後ろで皆を見守る。皆が、安心して前だけを見ていられるように、俺がゴールを守る。だから─────
「もう……1点足りとも入れさせやしねぇ!!」
『円堂!!』
『キャプテン!!』
『円堂君!!』
拳を握り締める。ふと視線を落とせば目に入るのは、焦げ跡のついた左手のグローブ。
────そうか!そういう事か!!
体の力を抜き、一度深呼吸した後、左手を胸に当て目を閉じる。
「諦めたか!だが、今さら遅い!」
アフロディがそう言った直後、俺の体から白銀のオーラが立ち上る。俺は勘違いしていた。〈マジン・ザ・ハンド〉は右手でしか出せないと思い込んでいた。だが、円堂大介が使っていたオリジナルの〈マジン・ザ・ハンド〉は左手を使っていたという。原作の円堂の〈マジン・ザ・ハンド〉は彼が編み出した、彼だけのものだ。それが、必ずしも俺に適したものであるとは限らない。
体に流れる気に、意識を集中させろ。体を巡る血液の循環のように、淀みなく完璧に気をコントロールしろ。
「うぉぉおおおお!!!!」
目を見開き、気を集中させた左手を天に突き出す。俺の体から紫電が迸り、白銀の魔神が姿を現す。
「真……ゴッドノウズ!!」
俺の〈マジン・ザ・ハンド〉は右手に気を伝える瞬間に僅かなロスが発生していたんだ。だが、左手を使えば右手に気を伝えるモーションは必要ない。不要な工程を省いたことにより、気を伝達する効率が上がり、余剰分の気が発生する。体から限界まで気を振り絞り、余剰分の気と合わせ魔神の体に纏わせる。全身に鋼鉄の鎧を纏った魔神が咆哮を上げる。円堂大介のものでも、円堂守のものでもない。
「これが俺だけの……マジン・ザ・ハンドだぁああああ!!!!」
真の名を冠する神の一撃と、鎧を身に纏った魔神の左手が轟音を響かせながらぶつかり合う。一瞬の拮抗の後、神の一撃の威力は殺され、魔神の左手がガッチリとボールを掴み取った。
「馬鹿な……!!」
『円堂!!」
『キャプテン!!』
『円堂君!!』
アフロディが驚愕の声を漏らし、雷門の皆が歓喜の声を上げる。俺は風丸にボールを渡す。
「裁きの鉄槌!!」
アテナがボールを奪おうと必殺技を発動するが、それよりも早く風丸が俊足を飛ばし、必殺技の範囲外へと駆け抜ける。
「そんなものに……捕まってたまるか!!」
「何だと!?」
風丸はマックスへとパスを出す。ボールを受けたマックスに、ヘルメスが迫る。
「イリュージョンボール!!」
「はっ!そんな技で───」
確かにこれではヘルメスを躱すのは困難だ。だが、必殺技を前にして一瞬足が止まる。それで充分。
「鬼道!」
「何!?」
〈イリュージョンボール〉によって空中へと舞い上がったボールを半田が鬼道へと送る。虚をつかれたヘルメスはこれに反応出来ない。
厳しいマークに遭いながらも、鬼道がこのボールをキープする。
「裁きの鉄槌!!」
アポロンの必殺技を躱し、前へと進む。
「メガクエイク!!」
隆起した地面を逆に利用し、高く跳躍。ディオを突破する。空中で三人目のマーカーであるヘパイスの〈裁きの鉄槌〉が迫るが、〈ダークトルネード〉を〈裁きの鉄槌〉に向かって放ち、相殺する。世宇子DF三人を突破した鬼道だったが、着地と同時に体勢を崩す。そこに容赦無く襲い掛かる四人目のマーカー、アレスの〈裁きの鉄槌〉。
「鬼道!!」
────無理だ。ボールを奪われる。
直感的にそう察する。円堂がアフロディのシュートを防ぎ、俺まで繋がったボール。何としてでもゴールにねじ込む、そう思い突破を試みたが、駄目だったか。
さっきの風丸、マックス、半田の世宇子を上回るプレーは、前半まででは考えられないものだ。やはり円堂のプレーは、雷門の選手全員に力を与えるらしい。敵として相対すれば恐ろしいことこの上ないが、味方としては頼もしい。だが、その中には俺は含まれていなかったらしい。当然か。俺は心から雷門の一員になっている訳ではないのだから。自嘲するように小さく笑みを浮かべる。
────所詮、俺一人ではこんなものか……。
迫り来る〈裁きの鉄槌〉を前に、目を閉じ、諦めようとしたその時
「お兄ちゃーーーーーん!!!!」
そんな声が、聞こえた。
鬼道の体から衝撃波が発生し、アレスの発動した〈裁きの鉄槌〉を消し飛ばす。鬼道の背中から、黒い影が溢れ出す。
影山零治は、この試合で一つのミスを冒した。それは、鬼道有人という存在を軽視してしまったこと。突如現れた豪炎寺という光に目が眩み、自身が最も恐れたはずの男を野放しにしてしまった。万全を期すのならば、豪炎寺だけではなく鬼道も試合から遠ざけるべきだった。豪炎寺が派手な活躍をする為にそちらにばかり目が行きがちだが、鬼道の秘めるポテンシャルは決して豪炎寺に劣るものでは無い。そして何より、時空の共鳴現象の影響下にあったとはいえ、この世界線で現状唯一、鬼道は化身を発現させたことのある男だ。眠っていたその力が、妹の叫びによって、今目覚めた。
「────────!!!!」
鬼道が声にならない咆哮を上げ、黒い影が鬼道の背に異形を形成していく。漆黒の肌を持つ剛腕が影を引き裂き、異形がその姿を露わにする。
それは鬼だった。漆黒の肌に、額には血のように赤い一本の角。全身に闇色の瘴気を纏い、角と同じく血に濡れ、赤く染まった大剣を携えている。
「羅刹の王……ブルート!!」
漆黒の鬼が地に突き刺した大剣を抜き放ち、振りかぶる。空中に蹴り上げたボールを鬼道が踵落としで打ち下ろす。それと同時に鬼が大剣を振り下ろす。
「鬼神の斧!!」
凄まじい威力を秘めたシュートが、地を抉りながら世宇子ゴールへと向かう。
「ツナミウォールV3!!」
ポセイドンが津波を生み出し、このシュートに対抗する。だが、化身に対抗するにはあまりにも力不足。津波は一瞬で突き破られ、ポセイドン諸共ボールは世宇子ゴールへ突き刺さった。
作者のネーミングセンスに期待するなといつも言っているだろう……!!
鬼道の化身は不満があれば自分で適当な名前に脳内変換してやってください。化身技に関してはダークエクソダスの魔王の斧のオマージュです。
ちなみにブルートはドイツ語で血って意味です。良さげな名前が思い浮かばなかったんだ。許しておくれ。