三馬鹿のイナズマブレイクで最後を締めたいとか思ってた時期もありましたよ、ええ。そんなものは時空の彼方へと消えていきましたがね。
同点に追いついたのは良いとして、何て技を使ってるんだ。〈ソード・オブ・ファイア〉って確かイナズマイレブンGOの天馬、神童、剣城の合体化身である魔帝グリフォンの化身技だったよな。究極の絆(妹への愛)ってか。喧しいわ。〈爆熱ストーム〉の魔神を化身の代わりに使うな。いや、あの魔神って確か化身の一種とか聞いたことあるから、やろうと思えば可能性は無くはないのか?なら、俺も化身出さなくても〈グレイト・ザ・ハンド〉使えるようにならないかな。………グレイト出てないのにグレイトの手とはこれ如何に。
まあ、あいつがおかしいだけだよな、うん。
「さあ、これで同点だ。最後の1点は俺達で取るぞ、鬼道」
「お前が来てから大して時間は経っていないはずなのに、精神的な疲労を覚えているんだが……」
豪炎寺に話し掛けられた鬼道が何やらぼやいているが、俺から言わせればお前も大概だぞ。お前ら二人で世界大会やるな。日本国内にお前ら止めれる奴もういないだろ。エイリア学園が来ても一方的に蹂躙してる姿しか想像出来ないんだが。
何はともあれ、後1点。長かった試合も、もうすぐ終わる。目標に定めた日本一の栄冠はもう目の前だ。
────負けた。
アフロディは自らの敗北を悟っていた。残り時間はもうロスタイムを残すのみ。〈ゴッドノウズ〉は止められ、相手のシュートは止める術が無い。
自分達、世宇子は神のアクアによって強くなった。神の力を手にし、この試合も雷門を圧倒し完璧な勝利を手にする。そのはずだった。
だが、現実はどうだ。味方は皆、恐怖に呑まれ戦意を喪失している。例え同点のまま守りきったとしても、延長戦になればこちらに勝ち目は無い。豪炎寺修也が来てから、ボールを回し時間稼ぎに徹すれば、もしかしたら勝てた可能性はあるかもしれない。だが、そんな勝利は無意味だ。世宇子にとって勝利とは、常に完璧なものでなければならない。………いや、少し違うか。本当は認めたくなかったのかもしれない。自分達がたった一人の選手に劣るという事実を。総帥から彼を試合に出場させないようにすると聞かされた時、多くの者は安堵を覚えた。だが、アフロディの胸中は複雑だった。それは、戦う前からお前の方が弱いと言われたに等しいことだったから。神として、いや、一人のプレイヤーとしてそれを認めたくなかった。せめて、実際に競い合って優劣を決めたかった。それが、勝てない勝負であるとしても。
────結局、この状況は全て僕の所為か。
点を取ろうと思えば、いくらでも取れたはずだ。だが、相手を痛めつけることを優先してゴールを奪おうとしなかった。その結果、アフロディの〈ゴッドノウズ〉は止められ、進化を遂げた鬼道有人と豪炎寺修也には歯が立たず追い詰められた。
────これで、終わりか。
このような無様な姿を見せた以上、総帥は既に世宇子を見限ったことだろう。元々、あの人は僕達を道具として信用していただけで、そこに信頼は無い。使えない道具は捨てられるだけだ。
何もかもを失い、後は訪れる敗北を待つのみ。……そのはずなのに、アフロディの中に、まだ燻っているものがある。
────僕は、まだ………負けたくない。
それは全てのプレイヤーが当たり前に持ち合わせる感情。力に溺れ、弱者を蹂躙するのが当然になっていた彼等が、忘れてしまっていたもの。
暗く、澱んでいたアフロディの目に、火が灯る。
ボールがセンターマークにセットされ、試合が再開されようとしている。
「何……?」
センターサークルに立つアフロディの姿を見て、思わず声が漏れる。ここに来てアフロディがFWにポジションチェンジ。俯いたアフロディの顔は見えず、その真意も読み取れない。だが、どんな意図があるにせよ、ここに来ての変化。油断は出来ない。
審判の笛が吹かれ、試合再開。デメテルが軽くボールを蹴り出し、アフロディへ。しかし、アフロディは俯いたまま、その場に棒立ち。
そのアフロディへ豪炎寺と鬼道が向かっていく。アフロディがゆっくりと顔を上げる。その目には、先程までは感じられなかった強い決意が見て取れる。そして次の瞬間。
急加速したアフロディが、豪炎寺と鬼道を一瞬で抜き去った。
「………は?」
あの二人があんなにあっさりと抜かれただと。いきなりどうなっているんだ。
続けて迫る染岡を軽快なステップを踏み、幻惑させ突破。そのままマックスと半田を鮮やかなフェイントを駆使し抜き去る。
────何だ!?さっきまでと動きが変わった!
円堂はアフロディの動きが変わったと感じたが、変わったと言うよりは戻った、と言った方が正しい。神のアクアは確かに、使用者の力を引き上げるが、それは身体能力の話であってテクニックが向上する訳ではない。そもそも、神のアクアは誰が使っても強くなれる万能の代物ではないのだ。常人が服用すれば、それこそ只では済まない。世宇子の選手達は影山に見出された、神のアクアに耐えうる素質を持つ者達。今と同等とは言えずとも、元々確かな実力を持っていた。アフロディのプレーは〈ヘブンズタイム〉のゴリ押しによる突破や、〈ゴッドノウズ〉の決定力が目立つが、それは本来の彼のプレーとはかけ離れたもの。華麗なテクニックを駆使し、敵味方を問わず見るものを魅了する美しいプレーこそが、本来のアフロディの持ち味。追い詰められた時、本当に信じることが出来るのは、何かに頼った紛い物の強さではなく、日々の努力によって積み重ねてきたもの。この土壇場で、アフロディは本来の自分を取り戻した。
土門の〈キラースライド〉を跳躍して躱し、壁山が〈ザ・ウォール〉を発動させ立ち塞がるが、ヒールリフトによってあっさりと突破される。栗松をエラシコで、風丸を鋭い切り返しによって体勢を崩させ、また抜きで抜き去る。
遂に雷門ディフェンス全員を抜き去り、円堂との一騎打ち。アフロディがシュート体勢に入る。
アフロディの背に巨大な翼が現れる。しかし、その色はこの試合幾度となく見せてきた純白ではなく、神々しい光を放つ金色。エネルギーを込められたボールが光り輝く。金色の翼をはためかせ空中へと舞い上がったアフロディは、そのまま全力の踵落としでボールを打ち出す。
「ゴッドォ………ブレイクゥゥゥ!!!!」
さらなる進化を遂げた神の一撃が、雷門ゴールに向かって放たれた。
迫り来るシュートを前に、今の俺では止められないと本能で理解した。だが、残り時間から考えて、ここでゴールを奪われれば、そこで恐らく試合が終わる。何としてでも、止めなければならない。
そんな中、豪炎寺と鬼道が世宇子ゴールへと上がっていくのが見える。あいつらなら、抜かれてからゴール前まで戻って来てシュートをブロックすることも出来たはず。そうしなかったのは、俺を信じているから。シュートを止めた俺から、必ずパスが来ることを信じて、あいつらは走ってるんだ。なら、俺はその信頼に応えよう。出来るはずだ。いつだって、俺はそうやって壁を乗り越えてきたのだから。
────なあ、聞こえてるんだろ?
目を閉じ、自らの内に語りかける。今まで何度か、その存在を感じたことがあった。そして、今ははっきりと分かる。
激しく脈打つ心臓の鼓動が、燃えるように熱い体が、胸の奥底から無限に湧き上がるような闘志が、その存在を俺に教えてくれる。
────見ているだけなのは、もうつまらないだろう?
俺一人では止められないのなら、力を合わせればいい。俺は一人ではないのだから。
「一緒に………サッカーやろうぜ!!」
────ドクンッ!!
「「うぉぉぉぉおおおおお!!!!」」
俺の体から凄まじい稲妻が迸り、銀色に輝く魔神が姿を現す。そして、一瞬遅れて銀色の魔神と対を成すかのような、
左腕を構える俺の動きと連動して、白銀の魔神が左腕を、黄金の魔神が右腕を引き絞る。
「「マジン・ザ・ハンドォォォォ!!!!」」
────その時、人々の目には、左腕を突き出す円堂守の姿に、右腕を突き出す、オレンジ色のバンダナを身につけた少年の姿が、重なって見えたという。
銀色の魔神の左手と金色の魔神の右手が、神の一撃を迎え撃つ。凄まじい轟音を鳴り響かせ、お互いを上回らんとぶつかり合う。
────ありがとな。
激しくぶつかり合う両者だったが、神の一撃が徐々にその威力を無くし、やがて円堂守の左手にボールは収まった。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
ゴール前へと走る豪炎寺と鬼道目掛けて、全力でボールを蹴り出す。円堂が蹴り出したボールは走り込む二人の上空へと到達し、ボールが青い輝きを帯びる。
ボールに向かって二人が跳躍し、鬼道が左足で、豪炎寺が右足で同時にシュートを放つ。
「プライム───」
「レジェンドォォォォ!!」
最上の伝説と銘打たれた一撃が、世宇子ゴールに向かって放たれる。
『いっけぇぇぇぇぇ!!』
チーム全員の想いを乗せた一撃は、世宇子のキーパー、イカロスを吹き飛ばし、ゴールネットに突き刺さった。そのゴールと同時に、審判の試合終了の笛が鳴り響き、日本の頂点を決める死闘は終わりを迎えた。
6-5
見事な逆転勝利で、雷門中が日本一の栄冠に輝いた。
アレスの天秤に登場した風神雷神の旧魔神バージョン。ところであれ、風神雷神よりマジン・ザ・ハンドWの方がシンプルで良いと思うのは俺だけなのか。
そして、世宇子戦まで無事に書ききれたことに作者自身が驚きを隠せない。千羽山辺りから内心これもう無理やろ、とか思ってたけど案外何とかなるもんやな。