この物語の主人公が円堂守に転生、若しくは憑依したのは円堂守が十歳の時であり、憑依する以前の記憶は無い。
円堂は比較的早くにこの事実を受け止め、原作を守る為に動き出した。
では円堂以外の二人、同じ転生者である豪炎寺と鬼道はどうだったのだろう。
これから語られるのは、二人の転生者の目覚めと彼等が内心に秘める想い。
目を開けて、一番最初にその顔を見た。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、『お兄ちゃん』と俺を呼ぶ少女の顔を。
状況が掴めず困惑していると、激しい頭痛に襲われた。走馬灯のように脳裏に様々な記憶が過ぎっていく。そうして理解した。俺が、どうなってしまったのか、目の前の少女が誰なのかを。
突然頭を押さえ苦しみ出した俺を見て、さらに顔を歪め涙を流す少女に、小さく笑みを浮かべ言葉を掛ける。
「大丈夫だよ、春奈。心配するな」
泣き疲れて眠ってしまった春奈の頭を撫でてやりながら、この状況について思考を巡らす。信じ難い話ではあるが、俺はこの少女の兄である"有人"という人物になってしまっているらしい。昨日の晩から急な高熱に襲われ意識を失い、目が覚めたらこうなっていたという訳だ。俺が、この体に憑依でもしたのか、あるいはこの少年の前世が俺で記憶が戻りでもしたのか。俺には死んだ記憶など無いし、どちらにせよ信じられない話ではあるのだが。問題は元々この体に宿っていたはずの人格が消えてしまったこと。表面化していないだけで、眠っているという可能性も有り得なくはないかもしれないが、何となくもう彼はどこにもいない気がする。ただの勘で根拠は無いが。
目の前の少女を見る。まだ幼い彼女にとって、この少年はたった一人の血の繋がった家族だ。別に意図的にこの状況に陥った訳ではないのだから、俺がこの先どうしようがそれは自由だろう。誰にも文句を言われるような筋合いは無い。だが、俺が自分の都合を優先することでこの少女を一人にするのは忍びない。少なくとも、彼女が一人で生きていけるようになるまでは、俺は彼女の兄を演じよう。
そうして、"有人"と"春奈"という名前の組み合わせにどこか聞き覚えがあるような気がしながらも、俺のこの世界での生活が始まった。
記憶はそのまま残っているのだから、記憶の中の少年の言動をなるべくなぞるようにし、違和感を持たれないよう気をつければいい。最初はそう軽く考えていた。
「お兄ちゃん!」
だが、自分の考えの甘さをすぐに思い知ることになる。
「お兄ちゃん!」
そう呼ばれる度に、胸が締め付けられるような感覚を覚える。記憶がある所為なのか、自分が春奈に対し、確かな愛情のようなものを抱いていることに気付く。だが、どれだけ俺が春奈に愛情を注ごうとしても、それは消えてしまった有人という少年の残り香であって、俺の本心から生まれたものではないのではないかという疑問に苛まれた。
「お兄ちゃん!」
自分に向けられるその声は、笑顔は、俺ではなく有人に向けられたものだ。そう呼ばれる度に、何故お前がそこにいるのだと責められているような気がしてどうにかなりそうだった。俺が自分の兄ではないと気付けば、俺に向けられる笑顔が、嫌悪と侮蔑に変わるのではないかと恐怖した。いっそ記憶など無ければ良かったのだ。何も知らなければ、一から春奈と関係を築けただろうに。
そんな日々を送っていたある日、俺は影山零治と名乗る人物と出会う。俺はここでようやくこの少年が後の〈鬼道有人〉なのだと気付いた。
何時バレるともしれない、他人を演じ続ける日々に神経をすり減らしていた俺は、影山の誘いに飛びついた。
原作の主要人物である鬼道がいなくなれば、物語に与える影響は計り知れない。だから、俺はこの男の手を取らなければならない。そんな身勝手な理屈で自分を無理矢理納得させ、俺は春奈の元から逃げ出した。
そうして、俺は鬼道有人となった。
今でこそ同じチームで近い距離にいるが、一度は逃げ出した俺が春奈の隣に兄として立つのは流石に虫が良すぎる話だ。俺にはもう、そんな資格は無い。
でも、いつか叶うのならば、もう一度────。
────俺は、いったいどうなったんだ。
気付けば体は全く動かせず、目もぼやけてよく見えず、聞こえてくる音もどこかノイズが入ったように聞こえる。もしかしなくてもこれ、ヤバい状況なんじゃないのか。
落ち着け、落ち着いてよく考えるんだ。俺は………あれ?
────俺はどこの誰で、こうなる前に何してたんだっけ?
………いや、おかしいだろ!?目が覚めたら体も目も耳も不自由で、おまけに記憶喪失ってどんな状況だよ!?何か覚えてることないのかよ!?
必死で頭を回転させ、ある一つの単語に辿り着く。
────イナズマイレブン……?
超次元サッカーRPGというジャンルのゲーム。アニメや漫画にもなっている。………いや、これでどうしろと?
何でこの状況で思い出せるのがサッカーゲームのことだけなんだよ!?しかもアニメや漫画の内容まで事細かに思い出せるし!!
馬鹿なのかよ俺は!?もっと違うこと覚えとけよ!何でこんな何の役にも立ちそうにないことしか覚えてねーんだよ!!
「修也……」
混乱した俺の耳がそんな言葉を拾う。誰だそれ?何て疑問を抱きながら、急に襲って来た眠気に抗えず、俺の意識は闇に落ちた。
それから数日経った。俺はどうやら赤ん坊になっており、あの時聞こえた修也という名前は俺のことらしい。何故こうなったかは分からないが、一つはっきりしていることがある。
────意識がある状態で赤ん坊の生活を送るの、地獄なんだが。
泣き声でしか意思表示が出来ず、一日中寝たきりで下の世話をされる。何て羞恥プレイなのこれ?赤ん坊だから変な気は起きないけど、授乳の時とか気まずくて仕方ないんだが。え、俺しばらくこの生活が続くの?嘘やん………。
さらに数年が経ち、俺も自分の意思で動けるようになった。いや、自由って素晴らしいね、うん。ところで、最近知ったが俺のフルネームは"豪炎寺修也"というらしい。………思いっきり原作キャラなんだが?
俺、将来は炎を出せるようになるのか。オリジナル技作ったり……うん、ロマンだな。
まあ、なってしまったものは仕方ないんだが、名前を呼ばれるのだけはどうしても慣れない。名前を呼ばれる度に、俺はそんな名前じゃないという気持ちが湧いてくるのだ。他人の名前で呼ばれる気持ち悪さと、何より、本来あるべき人物を押し退け、そこに俺が居座っている現状に罪悪感を抱いている。息子の中身がこんなんだとは両親には申し訳なさ過ぎてとても言えない。というか両親のことをきちんと親だと思えない。俺の親はこの人達ではないと思ってしまうのだ。だからといって前世?の両親のことは全く覚えていないのだが。
それからどれだけ時間が経っても、俺は自分が"豪炎寺修也"であることを受け入れられなかった。罪悪感は以前よりも強くなり、名前を呼ばれただけで吐き気がする。正直、気が狂いそうだった。
そんな俺を救ってくれたのが、夕香だった。
「お兄ちゃん」
夕香の前でだけは、名前も思い出せない誰かでも、豪炎寺修也でもなく、ただの兄でいられた。
この子を守ろう、そう思った。この子の為に、俺は強くなる。原作で降り掛かる悪意から、この子を守れるように。
原作通りに夕香を事故に合わせるなど有り得ない。木戸川になど死んでも行くものか。ならばどうするか。
散々考えた末に出した答えは、原作主人公の主人公補正に頼ろう。という他力本願も甚だしいものだった。円堂守なら、なんやかんやで原作通りじゃなくても何とかしてくれるだろう。そう思って進学した先で、生涯の親友と出逢うことになる。
一度、円堂に聞いたことがある。俺ではなく、原作の豪炎寺がいた方が良かったかと。円堂は、きょとんとした顔を浮かべた後、こう言った。
「それ、聞く意味あるか?俺にとって、というかこの世界の豪炎寺はお前しかいないんだから、そんなこと気にするだけ無駄だろ。俺はお前がいてくれて良かったと思ってるよ」
それは、円堂からすればなんてことは無い、当たり前の答えだったのだろう。だけど、俺はその言葉に救われた。原作を知る円堂なら、俺なんかよりも、原作の豪炎寺がいてくれた方がいいと、内心では思ってるんじゃないかと不安だったから。原作の知識を持って尚、本当に俺自身を見てくれているのだと分かった。思えば、これが俺が豪炎寺修也であることを受け入れた切っ掛けだったのかもしれない。
俺達はこれからも、力を合わせて壁を乗り越えて行く。
だけどな、円堂。
俺はいつか、世界の頂点を決めるような大舞台で、お前と戦ってみたいと思ってるよ。
円堂守だとか、豪炎寺修也だとか、原作を守るだとか、そんな柵は全部忘れて、全力をぶつけ合いたい。ただ一人の────
────ライバルとして。
申し訳ないですが、エイリア編はちゃんと考えないとエタりそうなので、次の更新は遅くなるかもしれません。
私自身、エイリア編はかなり好きなエピソードなのでどうにか書き切りたい気持ちはあります。ですが、一応世界編の構想も練り始めてるので、最悪どうしても納得する展開が書けなければ、色々な部分を省略しながら無理矢理にでもエイリア編を終わらせて世界編に突入します。
それはそうと鬼道はめっちゃ悩むのに、豪炎寺はスラスラ書けるの何でなんだろう。
オマケ
三馬鹿を抜いたこの世界のヤベー奴ランキング(暫定)
1位 ロココ
2位 ヒデナカタ 風丸(ダークエンペラーズ)
3位 各国エース級 ヒロト
2位と3位の差は単騎でロココからゴールを奪える可能性が僅かでもあるかどうかです。
風丸はあくまで闇堕ちした場合の強さであって、闇堕ちしなかった場合や元に戻ると大幅に弱体化します。
オマケのオマケ
FF終了現時点でのロココ(豪炎寺を止める為の最終兵器)の習得技
真ゴッドハンドX
タマシイ・ザ・ハンドG3
XブラストV2
???
オメガ・ザ・ハンド