「円堂!しっかりしろ円堂!!」
グランのシュートを受けて気絶した円堂に駆け寄る。円堂は世宇子戦で受けたダメージがチームの中でも特に大きかったはずだ。そこに〈天空落とし〉なんてくらったんだ。早く病院に連れて行かないと……!!
「勝負は俺の勝ちだね」
汗一つかかず、勝負を始める前と全く変わらない様子のグランがそう言う。
「尤も、勝敗以前の問題かもしれないけど」
「………ッ!」
何も言い返せなかった。グランの言う通り、実力に差があり過ぎて勝負になっていなかった。俺達はただ遊ばれていただけだ。まるで消耗していない様子からも分かるように、グランは全く本気を出していない。今の俺達では、本気を出す価値さえも無かったということ。
「それじゃあ、俺は帰るよ。その様子だと、とても試合に向かえはしないだろうからね」
いつの間にかグランの足元にあった黒いボールが白い光を放ち、気がつけばグランの姿はどこにも無かった。
「………」
完敗だった。この世界に豪炎寺修也として転生して以来、始めて味わうと言っても過言では無い程の屈辱。自分の実力を過信していたところに冷や水を浴びせられたような気分だ。
今はまだ、届かない。だが、目指すべき領域は垣間見た。ならば、後はやることは決まっている。
「この借りは必ず返す……。力を見せつけたつもりだろうが、それが間違いだったと思い知らせてやる……!!」
宇宙人との試合に臨んだ俺達だったが、前半が終わる頃には5点のビハインドを背負っていた。
実力はそこまでの差は無いと感じるが、やはりキーパーが居ないことと、人数が少ないこと。そして、世宇子との試合の消耗が響いてきている。
俺や染岡はまだ比較的よく動けているが、一年達、特に慣れないキーパーのポジションでシュートを受け続けた壁山はもう限界だ。
ディフェンス陣が必死にシュートをブロックしてはいたが、流石に全てのシュートを防ぐことは出来なかった。その結果が5失点の現状だ。
今のままでは、後半に逆転することは不可能。いや、それどころか更に点差は広がっていくだろう。
「風丸、どうする……?」
「………」
何も答えられない。打開策が思いつかない。今この場に豪炎寺が居れば、あいつ一人で逆転することも可能だろう。鬼道が居れば、立ち回り次第でこの程度の点差ならどうとでもなるだろうし、円堂が居てくれれば、ゴールを任せて全員で攻め上がれば勝機があるかもしれない。
だが、今はあいつらは居ない。あいつらに頼ることは出来ない。俺は円堂と対等であることを望んでいながら、実際はあいつに頼ってばかりだ。あいつが居なければ、俺は何も出来ない……。
このまま試合を続ければ、試合が終わるよりも先に皆の体力が限界を迎えるだろう。そんな状態で無理にプレーを続ければ、故障に繋がるかもしれない。
「この試合はここで終了とする」
考え込む俺に、レーゼがそう言い放った。
「な、何?まだ試合は終わっていないぞ!」
「いいや、終わっている。少なくとも、お前達とこれ以上試合を続ける意味は無いと判断した」
「なっ………」
「もはやこの試合の結果は見えている。お前達は我らに勝てない」
「そんなもの、やってみないと……!!」
「分からない、と言いたいのか?フッ……言うは易く行うは難し、口だけなら何とでも言える」
「……ッ」
悔しいがその通りだ。根性だとか精神論でどうこうなることではない。
レーゼの足元の黒いボールが紫色の光を放つ。
「や、やめろーーーーー!!!!」
出前の叫びも虚しく、レーゼが蹴り放った黒いボールが傘美野中の校舎を破壊する。いや、レーゼだけではない。他のジェミニストームを名乗るチームのメンバーもレーゼ同様に黒いボールによって破壊活動を始めた。
「あ、ああああああああ!!!!」
傘美野中サッカー部のメンバーの絶望の声を聞きながらも、俺達は校舎の倒壊に巻き込まれないよう、自分の身を守ることしか出来なかった。
「グラン、噂の二人とやり合ったんだって?で、どうなんだよ。実際にその目で見た感想は」
星の使徒研究所へと戻ったグランにそう声を掛けたのはバーン。どうやらグランが円堂と豪炎寺の足止めに向かったと聞いて気になっていたようだ。
「そうだね……。正直、現状では相手にならないな」
「ハッ!やっぱりお前の過大評価だったんじゃねえか」
「だけど」
「あん?」
以前豪炎寺のことを高く評価していたグランの目は節穴だったと嘲笑おうとしたバーンだが、グランが更に言葉を紡ごうとしたので訝しげな表情に変わる。
「あくまで現状の話だ。彼らは必ず強くなる」
「……何を根拠に言ってんだか。で?それだけ言うくせに、豪炎寺修也を連れて来なかったのかよ」
バーンの言うことも尤もだ。元々、エイリア学園内部では豪炎寺を引き込もうとする動きがあった。グランがそれだけ評価しているのなら、そのまま連行した方が違和感は無い。
「ああ、その話は無くなったよ」
「ああ?どういうことだ」
バーンにはその話は初耳だったので、グランに詳細を問う。
「俺が父さんに言ったんだよ。彼を引き込む必要は無いってね。中々納得してもらえなかったけど、今日の結果もあって考えを変えてくれたよ」
「テメェ……何考えてやがる」
豪炎寺の危険性を訴え、バーンとガゼルの両名に協力を持ち掛けたのは他でもないグランだ。そのグランの豪炎寺を軽視するかのような行動に、バーンは疑念を覚える。
「別に、俺にとっては豪炎寺修也よりも欲しい選手が居た。それだけのことだよ」
「欲しい選手だと?誰のことだ」
「バーン、君はあの三人にどういう印象を持ってる?」
「ああ?」
バーンの問いには答えず、新たな問いを返すグラン。
「三人ってのは………豪炎寺修也と円堂守、それに鬼道有人のことか」
「ああ、彼らは三人それぞれが違うタイプの選手だ。豪炎寺修也は常に進化し続け壁を破っていき、鬼道有人は一見すると分かりにくいが、成長の切っ掛けになっているのは恐らく誰かへの想いだ。そして、最も不気味なのが円堂守だ」
そこで一度言葉を切るグラン。バーンはひとまず最後まで聞くつもりのようで、無言で先を促す。
「実力そのものは他の二人に劣っているが、爆発力では決して引けを取らない。何より、彼の闘志とでもいうべきものに引き上げられるように、他の選手も力を増す。それは、個人を抑え込めばいいだけの豪炎寺修也よりも、ある意味脅威となるものだ」
ここまで聞けばバーンにもグランが誰を欲しているのか分かる。
「お前が欲しいのは円堂守か。だがよ、それだけの理由なら別に他の二人でもいいんじゃねえか?実力は他の二人には劣るんだからよ。それに結局引き抜くなら、今日円堂守を連れてくればよかったじゃねえか」
「それだけなら、ね。だけどエイリア学園は脅威となる可能性を排除したいだけで、実力目当てで引き抜こうとしている訳じゃない。なら、それに一番適しているのは円堂守なんだよ。雷門はチーム全員が纏まった良いチームだけど、常にその中心には一人の人物が居る。それが」
「円堂守ってことか」
グランの言葉を引き継ぐようにバーンが口を開く。バーンの答えを聞いたグランが笑みを浮かべる。
「豪炎寺修也が居なくなったところで、雷門は崩れない。だけど、それがキャプテンであり、チームの絶対的な要である円堂守なら?増してや、チームメイトに理由も言えず、自分の意思でチームを離れるとなれば、残された選手はどう感じるかな?」
「……性格の悪いこった。これだからテメェは好きになれねぇ」
「それにね」
「まだ何かあんのかよ」
徹底的に雷門を調べあげているグランに若干辟易しながらも、バーンは続きを促す。
「彼の目が好きなんだ」
「気持ち悪ぃこと言ってんじゃねえよ」
グランと別れ、バーンは一人考えを巡らす。グランは円堂守に豪炎寺修也とやり合った。グランが何をしようがそれは勝手だが、今回のこれは自分の標的を横取りされたようで気に入らない。
今回もお咎めは何も与えられなかったようだが、グランの独断での行動であり、良く思っていない者も居る。
「テメェが好きに動くんなら、俺が何したって文句は言えねぇよなあ?」
要注意人物だとされていたのはもう一人残っている。
「鬼道有人………精々楽しませてくれよ?」
どうにかしてプロミネンスの出番を作ってやるぜ……!!
原作なんぞ知らん!!
バーンとグランの会話については途中から作者もよく分かんなくなってるので、おかしなところがあっても勢いで理解してくれ。どうせこの先もノリで展開は変わるから、何となく流れさえ掴めてたら問題ないから。
あ、後Twitter始めました。更新した時とか執筆状況とか呟こうかと思ってるので興味がある人は雪見ダイフクで検索してみてね。アイコンの画像ないから分かりやすいと思う。
追記
作者のマイページにリンク貼りました。