ジェミニストームの選手達は既にポジションにつき、俺達もベンチで試合の準備をする。テレビで試合の放送もするらしく、慌ただしく機材が用意されている。……テレビ局にサッカーコートは普通は無いと思うんだが。まあ、今更か。
「円堂、私も一緒に戦わせてくれ。あいつらを倒して、パパを助け出すんだ!」
「ああ、勿論だ。よろしく頼むぜ、塔子」
人数は足りているが、塔子も力を貸してくれるようだ。塔子が加われば中盤の層が厚くなる。守備力は勿論だが、司令塔としての役割も期待できるかもしれない。原作だと鬼道がいたからそういう描写は無かったが、SPフィクサーズでは司令塔ポジションだったはずだからな。とはいえ、初めてプレーするチームで多くを求めるのは酷だ。もしかしたら程度に考えておこう。
「傘美野で戦った時は負けたが、今回はあの時とは違い万全の状態だ。それに今回は円堂がいる。前みたいに大量得点を取られることは無いはずだ。積極的に点を取りにいこう」
「ああ、今度こそゴールを奪ってやるぜ!」
風丸の言う通り、皆が前回の時との最大の違いはGKがいることだろう。大量失点を奪われたのはGKである俺がいなかったから。それは間違ってはいないだろうし、今回は大丈夫だと思うのも当然だろう。だが………。
目線をコートの脇に立っている例の3人組へと向ける。あいつらに監視されている限りは、俺は全力ではプレーはできないだろう。無失点で抑えることは可能かもしれないが、それをやってしまうと母さんや父さんに手を出される可能性がある。シュートを打たれたら、最悪はわざとゴールを───。
「監督、何か指示はありますか?」
「いえ、自分達で考えてプレーしてちょうだい」
考えているとそんなやりとりが聞こえてくる。俺が役に立たないと分かれば、監督はどうするのだろうか。できれば皆に不信感を抱かせないような采配をしてほしいが……。
俺達もポジションにつく。今回のフォーメーションはオーソドックスな4-4-2の陣形。SPフィクサーズ戦の後半と同じく、風丸をFWにして少林の代わりに塔子を入れた形となる。
雷門ボールから試合開始。染岡がドリブルで切り込んでいくが、素早くレーゼが詰め寄ってくる。だが、染岡は冷静に一旦ボールを後ろに預け、自身はジェミニストーム陣内へと侵入していく。
ボールを受けた塔子にもディアムがチェックにくるが、しっかりとボールをキープしパスを回す。
よし、いいぞ。確かにジェミニストームの動きは速いが、対応できない程じゃない。これならシュートさえ打たれなければいけるかもしれない。
ボールはやや下がり目の位置にいた風丸へ。すかさずガニメデがボールを奪いに掛かる。
「グラビティ───」
「遅い!疾風ダッシュ!!いけ、染岡!」
必殺技を発動しボールを奪おうとするが、それよりも早く風丸がガニメデを抜き去り、染岡へとラストパスを送る。
「よし、いくぜ!」
ボールを受けた染岡はボールを蹴り上げ、〈ワイバーンクラッシュ〉の体勢に入る。青い翼竜が空を舞い、ボールに気を送り込み急降下。染岡がシュートを放つ。
「ワイバーンクラッシュ!!」
染岡のシュートに対し、ジェミニストームのGKであるゴルレオは右手に小規模のブラックホールを発生させ迎え撃つ。シュートがブラックホールに引き寄せられ、ゴルレオの右手に向かい………僅かな拮抗の後、ゴルレオの右手を弾き飛ばし、ボールはゴールに突き刺さった。
雷門、先制。
「よっしゃああああ!!!!」
「やったな染岡!」
「ナイスシュート!」
前回惨敗した相手から先制点を奪い喜ぶ皆を見ながら、俺は違和感を覚えていた。
────やけにあっさりと決まったな……。
DFの反応も遅かったし、何より失点したにも関わらず、ジェミニストームには一切動揺した様子が見られない。1点取られたぐらいなら問題ないということか。それとも何か他に意図が……?
ジェミニストームのボールで試合が再開される。ディアムが軽くボールを蹴り出し、そのボールを受けたレーゼはボールに回転を掛け………
「何ッ!?」
────キックオフシュートだと!?
「アストロ……ブレイク!!」
エネルギーが集まり、不気味な輝きを放つボールをレーゼが蹴り込む。放たれたシュートは地面を抉りながら、雷門ゴールに向かって突き進む。
完全に虚を突かれた雷門イレブンはこのシュートに反応できていない。
「ッ!壁山!!ブロックだ!!」
「は、はいッス!ザ・ウォール改!!」
咄嗟に指示を出し、壁山がシュートブロックを試みる。岩壁がシュートを食い止めるが、流石に止めきることはできず、岩壁は粉砕されシュートはゴールに向かう。
俺は左手を胸に当て、気を集中させる。左手を天に突き出し、白銀の魔神を出現させる。更に魔神に鋼鉄の鎧を纏わせ、その左手でシュートを迎え撃つ。
「マジン・ザ・ハンド!!」
シュートと魔神の左手が激突する。そしてその瞬間、このシュートは止められるという確信を得る。〈ザ・ウォール〉によるシュートブロックでいくらか威力が下がっていることも相まって、確実にアフロディの〈ゴッドノウズ〉よりも威力は低い。だが、俺の視界の端にあの3人組の姿が映る。
──── いいのか?断れば君の周りの人間の安全は保証出来ないが。……例えば、家族やチームメイト達の、ね。
「くっ……!!」
あの時のあいつらの言葉が頭を過ぎる。このシュートを止めることはできる。だが、それをすれば……。
「………ごめん、皆」
左手の力を抜き、ボールが俺の腕を弾き飛ばし雷門ゴールに突き刺さる。
『…………え?』
雷門が先制ゴール奪った矢先、ジェミニストームがあっさりと同点に追いついた。だが、雷門のメンバーにとっては単に同点に追いつかれるよりもその衝撃は大きい。
「そ、そんな……」
「円堂のマジン・ザ・ハンドが……破られた……?」
〈マジン・ザ・ハンド〉はアフロディにも破られたことがあるが、あの時は皆相手に圧倒されていた。だが、今は違う。試合を行っているメンバーは相手との実力差はそれ程でもないと感じており、実際に先制点を奪っている。だからこそ、円堂があっさりと失点した事実は雷門イレブンにとって信じ難いことだった。
そして円堂自身もまた、自身への怒りと情けなさで拳を震わせていた。止められたはずのシュートにわざとゴールを奪われる。キーパーにとっては屈辱以外の何物でもない。
わざとゴールを奪われる、というのはイナズマイレブンGOでも、フィフスセクターによる勝敗指示を守る為に行う描写があった。テレビで見ていた時は何やってるんだよ、ちゃんと止めろよ。そんな風に思っていたが、自分が同じ立場になってみればこれ程に悔しいものは無い。自分の感情を押し殺し、実行していたであろう三国に対する尊敬の念が湧いてきそうだ。
────でも、何でいきなりキックオフシュートなんて……。
視線を前に向ければ、こちらを見ていたレーゼと視線が噛み合う。歯を食いしばる俺を見て、レーゼはニヤリと嘲るような笑みを浮かべた。
その表情を見て察する。あいつは俺の事情を知っていると。あの3人組はエイリア学園の人間であるのだから、レーゼがあのことを知らされていても何ら不思議では無い。今のシュートはそれを確かめる意味合いもあったのだろう。
だが、これであいつも理解したはずだ。この試合、俺がシュートを止められないことを。恐らく、ここからはボールを持てば多少距離があろうとお構いなくシュートを打ってくるだろう。打てば入ると分かっているのだ。ならばやることは決まっている。
この試合に勝ち筋があるとすれば、それは俺が失点する以上に点を取り続けることだが、雷門とジェミニストームには対して実力差はないことから、正直それは現実的では無い。
雷門は2度目の敗北を喫するだろう。
────俺は後、何回ゴールを奪われればいいんだ。
試合は始まったばかり。円堂にとって地獄に等しい時間はまだ続く。
正月休みの間に円堂離脱までいきたい。そこまで進んだら息抜きに豪炎寺サイドの話をちょっとだけ挟みます。