後から気になったら書き直せばいいや。
ジェミニストームとの試合を終えた俺達は、テレビ局を後にし、キャラバンでシカ公園まで戻って来ていた。
「くそっ!納得いかないぜ……何で監督は試合を放棄なんてしたんだ!!」
そう不満を漏らすのは染岡。先制点を奪い、確かな手応えを実感していただけに、悔しさは人一倍だった。
そして不満を抱いているのは染岡だけではない。勝利の可能性が少しでも残されているのなら、最後の一分、一秒まで諦めずに全力を尽くす。それが雷門のサッカーだ。今日の瞳子の試合放棄は到底受け入れがたいものだった。
とはいえ、不満を口に出している程度でそれが爆発していないのは、あのまま試合を続けていても勝つのは難しい、と心のどこかで思っていたからでもある。
「円堂、そう落ち込むなよ。調子が悪い時なんて誰でもあるさ」
「………ああ」
皆に申し訳なくて俯いていた俺に風丸がそう声を掛けてくれるが、気分はちっとも晴れない。
────俺……思ってた以上にチームの足手まといだったな……。
チームを離れることになるのは覚悟していたはずだった。でも、何とかチームに残留したままでどうにかならないかと、そういう思いもあった。……それがどんなに甘い考えだったか、思い知らされた。
だから─────
「……ごめんな」
「……円堂?」
ちょうどキャラバンから降りてきた監督に向き合う。意を決して、口を開く。
「監督、俺は…………チームを離れます」
────さよならだ。
円堂が言った言葉の意味を、すぐには理解することはできなかった。
「い、今何て言ったでヤンスか?離れるとかなんとか……」
「ど、どういうことですか……?」
周りからも困惑の声が上がる。はな、れる?チームを?それは……。
「……分かったわ」
「……短い間でしたが、お世話になりました。……皆のこと、よろしくお願いします」
円堂と監督のそんなやり取りを前にして、ようやく現実を認識する。
「ちょっ、ちょっと待てよ円堂!!いきなり何を言ってるんだ!?」
思わずそう叫べば、周りからも同じように声が上がる。
「そ、そうですよ!!キャプテンがいなくなるなんて……」
「どういうつもり何だよ、円堂!」
「監督も何言ってるんですか!?」
円堂は何も答えない。答える気はないと言わんばかりに無言を貫く。そして監督は────
「私の使命は地上最強のチームを作ること。戦う意志の無い者は必要無いわ」
「そ、そんな……」
あっさりと円堂を切り捨てようとする監督に絶句する。円堂自身はそれを気にも止めず、この場を立ち去ろうとする。
「円堂!?おい、どこに行くんだ!!」
慌てて円堂を追いかける。何度も円堂に向かって声を掛けるが、円堂は歩みを止めない。だが、納得いかない以上はこのまま行かせる訳にはいかない。
「円堂!!」
エイリア学園によって破壊された鹿の象の前まで来て、ようやく止まってくれた。
「円堂……何で出ていくなんて言ったんだ……?今日の試合で調子が悪かったからか?もしそうなら、さっきも言ったけど、誰にだって調子の悪い時はある!俺ならいつだって特訓に付き合うぞ!そ、そうだ!何なら今から────」
「風丸」
必死に円堂に向かって語り掛けるが、円堂が発した声でそれを遮られた。
「何度も言わせないでくれ」
円堂がそう言って振り返る。
「俺はチームを離れる。今の俺がいても、足手まといになるだけだ」
「……ッ!!そんなの……!!」
足手まといになる?だからチームを離れる?それを本気で言ってるなら何で……どうして……。
「そんな……苦しそうな顔をしてるお前を、放っておけるはずないだろ!?」
「!!」
円堂が驚いたような表情を見せる。分からないはずがないだろう。いったい何年一緒にいると思ってるんだ。今のお前の顔は、辛いけど、それを自分だけで抱え込もうとしてる時の顔だ。
「何で一人で全部抱え込もうとするんだ……!!辛いなら、苦しいなら、俺にも話してくれよ!!仲間だろ!?」
「………」
俺の言葉を聞いた円堂は一瞬だけ迷うような素振りを見せたが、一度自分を落ち着かせるように目を閉じる。開かれた目には、もう迷いは無かった。
「……ごめん、風丸」
「……ッ!!」
………やっぱり、俺には話してくれないのか。ここにいたのが俺じゃなくて豪炎寺なら、鬼道なら、お前は話してくれたのか?俺にはお前の重荷を一緒に背負う資格すら無いって言うのか?お前にとって、俺は────。
「風丸!」
思考の渦に呑まれそうになっていた俺に向かって、円堂が何かを投げ渡してくる。それをなんとかキャッチし、手の中にあるそれを覗き込む。
「これは……」
「雷門のキャプテンマークだ。………俺はいつか、絶対にチームに戻って来る。だからその時まで、そのキャプテンマークはお前に預ける」
「俺……に…?」
こんな……大切な物を……?
「皆を頼んだぜ、風丸」
そう言って笑う円堂に、俺は何も言葉を返すことができなかった。円堂の背中が遠のいていく。駄目だ。止めなきゃ……止めなきゃならないのに……。
『……ごめん、風丸』
『キャプテンマークはお前に預ける』
俺を、信じてくれているのか……?でも、ならどうして何も話してくれないんだ……。お前は俺のことをどう思っているんだ。
俺は……何を信じればいいんだ………?
俺は、円堂が立ち去るのを、ただ黙って見ていることしか、できなかった。
────これで、良かったんだろうか。
正直、自分の行動が正しかった自信はない。チームを抜ける上で色々考えていたのだが、まず瞳子監督から離れるように言われるのは駄目だと思った。監督と皆の関係を少しでも良い状態で維持するには、監督が俺を追い出したのではなく、俺が自分から出て行ったと印象づけた方がいいと考えた。だから自分からチームを離れることを切り出した。……まあ、その後の必要ない発言で結局印象悪くなったような気がするが、あれぐらいなら大丈夫だろう………多分。
風丸にキャプテンを任せるのは正直賭けだとは思う。原作を知っている者が俺の行動を見れば、多分バカだと言うだろう。ただでさえ闇堕ちする可能性が高い風丸に、さらにプレッシャーを掛けるようなことをしてどうするのだと。だが、これはもうどうしようも無いのだ。俺が抜けた後の雷門で最もキャプテンとしての適正が高いのは、恐らく風丸だ。染岡や半田も候補として考えていたが、二人とも仲間想いで慕われてもいるのだが、染岡はやや直情的で頭に血が上りやすいところがあるし、半田はこれからの戦いでチームを引っ張っていくには個人としての能力が物足りない。結局、プレーで皆を引っ張ることもでき、物事を冷静に判断できる。普段からディフェンス陣を纏めている風丸が一番適任なのだ。
……後は、これはあまり言いたくないが、あえてキャプテンとしての立場を与えることで、少なくとも俺がチームに戻るまでは風丸をチームに繋ぎ止めて置くことができるのではないかと思ったのだ。原作以上に思い詰め、下手したら闇堕ちどころか潰れる可能性すら否定できない、リスクの高い賭けだが、俺に打てる手はこれくらいしかなかった。
「全部終わったら、風丸に謝らなくちゃな」
そして、ありがとうと伝えよう。俺を追って来てくれたこと、抱え込んでることに気づいてくれたこと、言葉を尽くしてくれたことを。
「これからどうすっかなぁ………」
思い出すのはグランの〈天空落とし〉。あれを止めなくてはジェネシスには勝てないだろう。チームから離れている間にそれができるぐらいに強くならなくてはならない。
しかし、強くなると言ってもどうしたものやら。豪炎寺が沖縄に原作通りにいるなら、一緒に特訓してもいいんだけどな……。
「あいつが素直に沖縄に行ってるかなぁ……?」
日本全国を巡って武者修行とかしてた方があいつらしいと思う。それか未開の地でサバイバルとか………流石にないか。
それにいつまでも豪炎寺頼りじゃ駄目だよな。でも、俺一人で特訓してもいつもろくな結果が出ないからなぁ……。上手くいったのって〈メタリックハンド〉ぐらいだもんな。行き詰まって思考が駄目な方向に向かったら一人で軌道修正できる自信が無い。かといって沖縄で土方と特訓したところで、言っちゃ悪いがそんなに強くなれる気がしない。原作の豪炎寺はよく自力であそこまで強くなったよなぁ……。
やっぱりキーパーの特訓を誰かとするなら、強力なシュートを打てるストライカーがいて欲しいよな。豪炎寺以外だと鬼道……は無理か。じゃあ後誰かいるか?…………………。
「……あ。あいつならどうだ?……ん、いや、でもなあ……」
一人思いついたが、これって有りなのか?でも多分協力は取り付けられると思うんだよな……。原作でも一時は雷門に加入してくれた訳だし。
「まあ、駄目元で当たってみるかな。……………あ、響木監督ですか?円堂です。鬼瓦さんの携帯の番号教えてもらえませんか?」
響木監督から鬼瓦さんの電話番号を聞き出し、早速連絡する。
「もしもし、鬼瓦さんですか?円堂です。…………はい。はい、そうです。ちょっとご相談と、聞きたいことがありまして……」
俺は鬼瓦さんに自分が今置かれている状況を説明した。ちゃんと説明できたか少し不安だったが、すぐに俺の両親やチームメイトの家族の安全を保証する為に動いてくれるそうだ。俺の今後についても色々と提案してくれたが、それに関してはさっき思いついたことがあるので、聞いてみることにしよう。
「あの、鬼瓦さん。教えて欲しいんですが───」
多分、鬼瓦さんなら知っているだろう。分からなくても、調べれば分かるはずだ。
「───世宇子中ってどこにあるか分かりますか?」
一方、その頃。ゴッドエデンで特訓を開始した豪炎寺はと言えば……。
「………君、大丈夫かい?」
それは、原作と呼ばれる本来の歴史であれば有り得なかったはずの出会い。
最強を目指す炎のストライカーとゴッドエデンに住まう悲しき亡霊。
その出会いは、お互いに何を齎すのか─────。
次回、「豪炎寺の無人島生活」
お楽しみに。