原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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作者の構想を完膚無きまでに粉砕する男、鬼道有人。


鬼神が目覚めた日

帝国学園のグラウンドにて行われている雷門とプロミネンスの試合。

ベンチからそれを見ている瞳子の内心は焦りと疑念に満ちていた。

とある理由からエイリア学園の内情について重要な情報を持つ瞳子だが、その実態の全てを知っている訳では無い。ジェミニストームを倒せば全てが解決すると考えてはいなかったが、マスターランクなる階級のチームがあることを瞳子はここで初めて知った。いくつのチームがあるかは定かではないが、マスターランクというからには最上位に位置するチームであることは間違いないだろう。そんな相手に対し、勝率が低いことは百も承知ではあったが、多少なりとも相手の手の内を知れるのなら、価値のある試合だと、そう思っていた。だが────

 

────なんてことなの……。ここまでレベルが違うなんて……。

 

プロミネンスのキャプテンであるバーンと名乗った少年のことを瞳子は知っていた。見れば他のメンバーも、その多くが彼を慕っていた者達で構成されている。確かに高い実力を持つ選手達ではあった。だが、瞳子が知る彼らと、今目の前で雷門を蹂躙している彼らは正に次元が違う。

いったいどんな手を使ってこれほどの力を手に入れたのか。瞳子が想定していた実力を遥かに上回っている。これでは手の内を知るどころか、雷門というチームが完全に潰れてしまう。現に未だ前半ではあるが、雷門の選手は全員が満身創痍。倒れている者が殆どで、辛うじて立っているのは源田、鬼道、風丸、染岡の四人のみ。しかし、源田はキーパーというポジション故に他のフィールドプレイヤーよりも若干ダメージが少ないものの、既に15失点を喫しており精神的にも限界が近い。風丸、染岡の二人は気力だけで持ち堪えている様な状態であり、もう一度倒されれば次は立ち上がれないだろう。ベンチには負傷交代した宍戸と影野が横たわっており、マネージャー達が手当てをしているが、怪我の度合いからしてチームから離脱させざるを得ない。そしてこのままでは全員が戦えなくなる。監督として、選手を守る為にもこの試合を終わらせなくてはならない。瞳子がそう判断し、動こうとしたその時────

 

 

────プロミネンスのネッパーから、鬼道がボールを奪い取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボールを奪われた張本人であるネッパーは、そしてその瞬間見ていたバーンや瞳子も、何が起こっているかを直ぐには理解出来なかった。

我に返ったネッパーが鬼道から奪い返そうとするが─────

 

「なんだと!?」

 

躱す。この瞬間まで、プロミネンスの選手達の動きに全くと言っていい程についていけなかった鬼道が、まるでネッパーの動きを読んでいたかの如く、ネッパーが動き出す直前から回避行動をとっていた。

 

 

試合が始まる直前まで、勝つことは難しいと考えていた鬼道だが、今はそんな思考は微塵も頭の中に存在していない。今の鬼道の中にあるのは実にシンプル。

 

────負けたくない。

 

ただそれだけ。鬼道は思う。よく敗北からも学ぶことがあるだとか、負けたとしても次に繋げればいいだとか、そんな言葉を聞くが、鬼道から言わせればそんなものはただの綺麗事だ。どんな前向きな言葉を並べ立てても、敗北したという事実は変わらない。敗北の悔しさも虚しさも、情けない自分への怒りも、決して消えることはない。雷門の一員として世宇子を倒した鬼道だが、敗北の痛みはその胸に残り続けた。そして今、またしても屈辱的な敗北が齎されようとしている。そんなものを、認められるはずがない。

 

豪炎寺(競い合う好敵手)がいなければ、自分は勝てないのか?

 

────違う。

 

円堂(必ず倒すと誓った相手)がいなければ、自分は勝てないのか?

 

────違う。

 

俺は、俺の力で、勝利を掴み取ってみせる。

 

相手のスピードは驚愕だが、少し慣れてきた。なんとか相手の動きを目で追うことぐらいは出来る。ならば集中して相手の動きを見極めろ。相手の視線、重心、軸足の角度、周りの選手の位置、空気の流れ、呼吸や瞬きのタイミング。あらゆる要素から、相手の二手、三手先の動きを予測しろ。相手の方が速いなら、相手が動き出す前に動け。

 

バーラのスライディングを跳躍して躱し、ヒートのショルダーチャージを自分から体勢を崩して受け流し、続けて殺到するプロミネンスの選手からボールをキープし続ける。

 

────もっとだ……もっと……もっと集中しろ……!!

 

だが、そんな滅茶苦茶なプレーは長くは続かない。限界を超えた情報量を処理し続けた脳はオーバーヒートを起こし、防衛本能によって強制的に意識がシャットダウンされる。

本来なら、意識を失った鬼道の体は崩れ落ちるはずだった。だが、勝利への渇望が、固く閉ざされていたはずの扉をこじ開ける。

 

 

理性という名の枷は失われ、心の奥底に封じ込められていたはずの本性が、目を覚ます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、反射的にプロミネンスの選手達は動きを止めた。目の前にいる鬼道有人の発する気配が変わった。先程まで伝わって来ていた気迫とは違う。鬼道の体から放たれる殺気が、周囲の空間に充満する。プロミネンスの選手達は体に鉛を背負わされたような錯覚を覚えた。体が重く、水の中にでもいるかのような息苦しさすら覚える。

プロミネンスの選手達が見つめる中、鬼道に更なる変化が訪れる。鬼道の体から赤黒い稲妻が迸る。瞳孔や結膜が血のように赤く染まり、身に纏う殺気が更に一段重くなる。

 

「ガァァァァァァァァ!!!!」

 

聞く者に恐怖を植え付ける悍ましい咆哮を上げ、迸る稲妻がプロミネンスの選手達を吹き飛ばす。

そして次の瞬間には、それをやや後方で傍観していたバーンの体は宙を舞っていた。

 

「………は?」

 

バーンは理解出来なかった。今、何が起きた?何故自分は空中にいるのだ?思考が纏まらないバーンの視線が空中でシュート体勢に入った鬼道の姿を捉える。

 

見る者に恐怖を与える、凄まじいエネルギーが込められたボールは鬼道が纏っているのと同様に赤黒い稲妻を迸らせる。

 

「ウグァァァァァアア!!!!」

 

鬼道が打ち出したボールは地を抉り、砂塵を撒き散らしながらゴールへ向かう。後の時代において〈ディザスターブレイク〉という名で呼ばれる破壊の一撃。

 

「バ、バーンアウ……ッ!?」

 

そしてプロミネンスのキーパー、グレントをいとも容易く吹き飛ばし、ボールはゴールに突き刺さった。

 

「な、なんだと!?」

 

体勢を立て直し着地したバーンが驚愕の声を上げる。自分達が点を取られた?こんな雑魚共を相手に?腸が煮えくり返りそうなバーンだが、鬼道はそんなバーンを歯牙にもかけず自陣へと戻っていく。

 

理性が完全に飛んでしまっている鬼道だが、辛うじてサッカープレイヤーとしての本能は残っているようだ。

 

 

 

 

 

 

「潰せ!!そいつを叩き潰せ!!」

 

試合が再開されると共にバーンの怒号が飛ぶ。プロミネンスのメンバーも言われるまでもなくそうするつもりではあった。だが、今の鬼道を相手にするには彼らでは足りない。

 

「ァァァァァアアアアア!!!!」

 

プロミネンスのFW、サイデンの視界に広がる赤黒い稲妻。それを認識した次の瞬間には鬼道によって吹き飛ばされ、ボールを奪われていた。

直ぐ様ボール奪い返す為にプロミネンスの選手が鬼道に殺到する。

 

「ガアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

だが、止まらない。止められない。全身に悍ましい黒雷を纏い、咆哮を上げながら、鬼道がプロミネンスの選手を蹴散らし、ゴールへ向かい突進する。

 

「なんなんだこいつは……!!」

 

苦戦することなど考えもしなかった。ただ、暇潰し程度の感覚で手を出しただけだった。円堂守や豪炎寺修也はグランに手も足も出なかった。ならば鬼道有人も同じ様なものなのだろうと。実際に試合が始まってからも取るに足らない程度の相手だったはずだ。だというのに────

 

「ウウウゥゥゥガアアァァァ!!!!」

「チッ!!聞いてねぇぞ!?とんだ化け物じゃねえか!!」

 

鬼道有人、否、もはや狂った鬼と化した鬼道がバーンに迫る。

 

「ッ……!!舐めんなぁぁぁ!!」

 

鬼道とバーンの右足がボールを挟んで激突する。全身全霊の力を込めて蹴った右足は容易く弾かれ、バーンは大きく吹き飛ばされ、地に叩きつけられる。エイリア学園の中でも、限りなく頂点に近い存在であるはずのバーンが、完全に力負けしていた。

 

「ガァァァァァァァァァァ!!!!」

 

鬼道の体から稲妻だけでなく、どす黒い瘴気が放たれる。鬼道は足元のボールを空中へと蹴り上げ、自身も跳躍する。

空中のボールが凄まじい瘴気を纏う、赤黒い稲妻がスパークし、回転を始めたボールはやがてどす黒い色合いとなり、ボールの形状も剣山の如く刺々しいものへと変化する。

 

「アアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

咆哮と共に放たれたボールは赤黒い巨大なオーラを帯び、地を抉り、プロミネンスの選手達を巻き込み、蹴散らしながらゴールへと向かう。

 

「う、うわあああぁぁぁ!?」

 

その光景を前に、完全に恐怖に呑まれてしまっていたグレントは必殺技を発動することすら出来ず、轟音を響かせながらボールはゴールネットへと突き刺さる。

 

 

 

 

 

「ふざけんな……!!こんなことがあって溜まるか!!俺達はマスターランクチーム、プロミネンスだぞ!?それが、こんな野郎に……!!」

 

スコアは15-2で大差をつけてはいるが、もはやそんなものは何の意味も無い。このままでは間違いなく逆転される。それも、たった一人に。

このままでは終われない。こんな試合で負ける訳にはいかないのだ。ジェネシスの称号を得る為にも、自分は最強でなくてはならないのに……!!

 

「鬼道……………有人ォォォッ!!!!」

 

鬼道に向かって突進する。何があろうとこいつを倒す。この男は自分の敵だ。どんな手段を使ってでも潰さねばならない。

 

対する鬼道は脱力したような姿勢で俯いていた。先程まで放っていた殺気や瘴気はなりを潜め、不気味な程に静かだ。バーンが間合いに入っても動こうとしない鬼道を遠慮なく全力でボールごと蹴り飛ばそうとしたバーンだが、それが現実になることはなかった。

 

「───────!!!!」

 

突如、鬼道が声にならない咆哮を上げ、闇の波動がフィールドを駆け巡る。先程まで放っていたそれと比較にならない程の膨大な稲妻を迸らせ、鬼道の背から溢れた影が異形を形成する。

 

世宇子戦で見せた鬼道の化身〈羅刹の王 ブルート〉。しかし漆黒の体躯を持つその鬼の外見も以前とは少し違っていた。

まず、額の一本の角は左右にも同じ角が生えて三本に。纏う瘴気はより重く、深く。血に染まった身の丈を超える大剣を両手に携え、その全身には深紅の禍々しい文様が浮かんでいる。

 

「───────!!!!」

 

蹴り上げたボールに向かって鬼道が跳躍すると、ブルートが両手の大剣を大地から抜き放ち、振りかぶる。鬼道が踵落としでボールを打ち出すのと同時に、ブルートも大剣を振り下ろす。

それは圧倒的な暴力。何人たりともその進撃を阻むことは出来ない、破壊の奔流。

 

「させるかぁぁぁぁ!!」

 

必死の形相でゴール前に回り込み、体でこのシュートを止めにいったバーンだったが、試合開始直後の〈デススピアー〉とは違い、全く威力を殺すことは出来ず、キーパーのグレント諸共吹き飛ばされ、ボールはゴールネットを突き破り、帝国学園の校舎に巨大なクレーターを作り上げる。

 

 

理性を失い、本能のままに暴れ狂う鬼神に対抗することなど出来はしない。それこそ、世界の運命に愛されたバグの様な存在でもない限りは。




なんやこいつ……。
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