若干短めです。
「皆、大丈夫?」
プロミネンスとの試合で負傷した雷門の面々は病院へと運び込まれ、その内、特に怪我が酷かった者達は入院することになってしまった。
入院したのは半田、マックス、宍戸、少林の四人。
「そんなに心配するなよ木野、大した怪我じゃないんだからさ」
「そうだよ」
「そうですよ」
半田の言葉に便乗してマックスや宍戸もそれを肯定する。入院等と大袈裟なことになってしまったが、すぐに復帰出来るはずだ、と。
「怪我しちゃったのは、俺の鍛え方が足りなかったせいですよ……。今からでも、特訓しましょう!……いたっ!!」
「駄目よ無茶したら!!」
少林が起き上がろうとするも、怪我の痛みでそれは出来ず、慌てて木野が体を支える。
「でも俺……悔しいんです……」
瞳に涙を滲ませながら少林が言う。この場には木野の他にもメンバーが揃ってはいるが、誰も掛ける言葉が見つからない。
「……もっと俺が強かったらいいのに。そしたらあんな奴らやっつけられるのに……!!」
半田が絞り出すように発したその言葉が全てだった。どれだけ明るく振る舞おうとしたところで、その想いは全員に共通して存在するものだ。
拳を強く握り締め、奥歯を噛み締める。そして思う。
『強くなりたい』 と。
「……皆の気持ちは分かるけど、先ずは怪我を治さなくちゃ。大丈夫、きっと直ぐに良くなるわ」
木野とてその想いは分かってはいる。だが、それが無茶をしていい理由にはならない。せめて少しでも気持ちが軽くなるように励ますことぐらいしか、木野には出来ないけれど、それが無駄ではないと信じて声を掛ける。
「……ねえ、風丸君と染岡君が居ないようだけど……それに音無さんも……」
そんな中、その言葉を発したのは夏未。殆どのメンバーが集まっている中で確かに彼等はこの場に姿が見えない。
「風丸君と染岡君は分からないけど……多分、音無さんは────」
「お兄ちゃん……」
半田達が居るのとは違う病室。音無の視線の先にはベッドで眠っている鬼道の姿。先のプロミネンスとの試合で暴走し、意識を失った鬼道はあれから丸一日以上眠り続けている。病院の検査では軽い怪我はあれど、その他は特に問題は無いと結果が出ている。
だが、まるで死んだ様に一人眠り続ける兄の姿を見ていると、音無は無性に不安になるのだ。ひょっとしたら、もうこのまま目を覚まさないのではないかと、そんなことばかり考えてしまう。
「ん?君は確か……」
俯く音無の耳にそんな声が届き、振り向くとそこには病室に入って来た佐久間と源田の姿があった。
「ええと……雷門のマネージャーの……」
「音無……だったか?」
そう言う二人の顔にはどうしてここに居るのかという疑問が見て取れる。二人からすれば雷門のマネージャーが一人で鬼道の病室に居るのを不自然に思うのは不思議ではない。
「あ、あの……私、お兄ちゃんの……」
妹、だと言おうとした音無であったが、その言葉が口から発せられることはなかった。思ってしまったのだ。自分は今も昔も変わらず有人の妹の春奈のつもりだが、兄はきっとそうではない。この二人に妹だと伝えても、兄からすればそれは酷く迷惑なことなのではないかと。
「お兄ちゃん?そういえばあの時も……。もしかして、君は鬼道の妹なのか?」
訝しむような表情を浮かべる佐久間に、無理もないと苦笑する。
音無春奈と鬼道有人の容姿はお世辞にも似ているとは言い難い。言われなくては兄妹だとは気づけないだろうし、鬼道は妹がいるなどとは絶対に言わないだろうから、こういう反応をされるのは仕方ない。
そう思ったからこそ、佐久間が次に発した言葉は音無にとって衝撃だった。
「確かに妹がいるとは聞いたことはあるが……」
「……えっ?」
本当に?兄が、自分のことをチームメイトに話したのか?自分は、妹だと思われているのか?
「そうなのか?俺は初耳だが……」
「お前はあの時いなかったからな。あれはまだ俺達が一年の時……」
困惑する音無に気づかず、佐久間は当時のことを思い返す。
まだ帝国学園に入学して間も無い頃、大勢の部員が凌ぎを削る帝国のサッカー部において、入部して即一軍のレギュラーに定着した鬼道有人という存在は当時の佐久間からすれば遠い存在だった。
同じ学年ということもあり、面識自体はあったもののまだそれ程親しくもなく、用事があれば話す程度の関係だった。
そんな鬼道と休憩中に偶然鉢合わせ、二人きりになった時に沈黙に耐えかねて聞いたことがあるのだ。鬼道の家族について。
なにか深い意味があった訳ではなく、ただの話のネタとして振っただけ。鬼道財閥の跡取りと聞いたことがあったから、そういう凄い家なら何か面白い話でも聞けるかもしれない。ぐらいの軽い考えから出た話題だった。
今思えば割と無神経な質問だったが、鬼道は思っていたよりも友好的で、こちらが振った話題に乗って来てくれた。
自分が鬼道家の養子であり、実の両親は事故により他界していると。
思った以上に重い話になってしまい、この話を振ったことを後悔した佐久間であったが、気まずい気持ちを振り払おうと口を開く。
「じゃあ、もう血の繋がった身内はいないのか?」
口に出してから、強引にでも別の話題に切り替えるべきだったのではと思い至ったが、既に言ってしまった言葉を取り消すことは出来ない。
恐る恐る鬼道の様子を伺った佐久間が見たのは、実の両親のことを語る際も表情を崩さず、他人事のような態度であった鬼道が言い淀んでいる姿。
「………妹が、いる」
「妹?」
何故そこまで言いにくそうだったのかは分からないが、佐久間からすれば先程よりは明るい話になりそうなだけで十分である。
「仲は良いのか?」
「……いや、もうずっと連絡も取ってないな」
こいつ家庭環境が複雑すぎやしないかと若干辟易してきた佐久間ではあるが、鬼道はそれに気づいた様子はなく、言葉を紡ぐ。
「そもそも、俺はあいつと関わる資格が無い。……あいつが幸せに暮らしているのなら、それでいい。こんな薄情な兄のことなど、忘れてしまった方がいいのさ」
自嘲するような笑みを浮かべるその表情は、いつも自信に満ち溢れた姿ばかり見ていた佐久間にとっては、そこそこ印象深く記憶に残るものであった。
「……少し喋り過ぎたな。佐久間、今聞いたことは忘れろ。どうせこの先、気にすることはないであろう事柄だ」
そう言って練習に戻って行く鬼道の纏う空気は既にいつも通りのものだ。鬼道の言う通り、その日からこの会話を思い返すようなことはなかったけれど、頭の片隅でこのやり取りは覚えていた。
佐久間の話を聞いた音無は溢れる困惑を隠せなかった。幸せに暮らしているのならそれでいい?それではまるで、自分のことを大切に思っているようではないか。
資格が無い、というのは以前にも言われたが、自分を嫌っている訳ではないのか?
形容し難い複雑な感情が頭の中を駆け巡る。
俯き黙り込む音無の姿と、かつての鬼道の言葉から何かを察したのであろう佐久間が口を開く。
「俺には、君と鬼道の間に何があったのかは分からない。だけどこれだけは言える」
その言葉に顔を上げた音無の視界に映るのは真剣な眼差しでこちらを見やる佐久間の姿。
「鬼道は……あいつは何の理由もなく家族を蔑ろにするような奴じゃない」
「……ッ!」
そんなことは分かっている。誰よりもよく知っている。
自分のことを拒絶する兄を、信じたい気持ちはある。浴びせられる冷たい言葉が、本心ではないのだと、そう思いたい。
けれど、何を根拠にそれを信じればいいのか分からない。
昔のように笑い合えるような関係に戻る為に何をすればいいのか、兄が何を求めているのか、自分には分からない。
「鬼道が目を覚ましたら、一度ちゃんと話し合ってみるといい。大丈夫、きっと分かり合えるさ」
視線をベッドで眠る兄に向ける。その寝顔はとても穏やかで、音無からすれば酷く懐かしいものだ。昔は隣にいつも穏やかな兄の笑顔があって、それが当たり前だった。
もう一度、あの頃のように────。
音無は関係の修復を望み、鬼道が目覚めるのを待つ。そして鬼道もまた、深い眠りの底で、自らの感情と向き合うことになる。
なるべく次は遅くならないように頑張ります……。
次回「霞の中の邂逅」(仮題)
気長にお待ちください。
オリキャラ登場するのは許せる?※エイリア編及び世界編では出るとしても一瞬です。
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許せる
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やめてほしい