突然の出来事に呆気に取られる雷門イレブンを尻目に何事も無かったように階段を下りてグラウンドに足を踏み入れる、白恋中のユニフォームを見に纏った少年。
その姿を呆然と見つめていた一同だったが、我に帰った白恋の荒谷が少年に向かって声を荒らげる。
「い、いきなり何してるの!?吹雪君!!お客さんだよ!?危ないじゃない!!」
その言葉に雷門イレブンは驚きの表情を浮かべる。目の前の人物が自分達の目的にしていた人物だと分かったからだ。
「ただの挨拶のようなものだ。この程度で一々騒ぐな」
「……随分物騒な挨拶があったものだな」
そう言い鬼道は吹雪を睨みつける。当然だろう。間一髪で気づけたからよかったものの、一歩間違えば大きな怪我をしていた可能性もある。おまけにもう少し軌道がズレていたら妹に当たっていたかもしれないのだ。鬼道が怒るには十分過ぎる。
しかし、当の吹雪は何処吹く風。鬼道の睨みなど全く気にせず言葉を返す。
「あれぐらい対応出来ないようでは程度が知れるというものだ。喜べよ、お前には及第点をくれてやろう」
「……そいつはどうも」
吹雪の上から目線の物言いに苛立つ鬼道だが、吹雪はそんなことはどうでもいいと言わんばかりにあっさりと鬼道から視線を外し、白恋の面々に向き直る。
「お前達、何故勝手に練習を始めている。私が来るまではミーティングをしていろと言ったはずだが?」
「そ、それは……」
「…えっと」
別段吹雪の声音はきついものではなかったが、白恋の面々は吹雪に問い詰められているという状況だけで既にしどろもどろになっている。まともな返答が得られそうにないことに小さくため息をついた後、吹雪が口を開く。
「……まあいい。今日のところは不問としよう。練習を再開するぞ」
その言葉を聞き、白恋の面々は吹雪の気が変わらぬうちに急いで練習へと戻っていく。それに続こうとした吹雪を瞳子が呼び止める。
「吹雪君、少し時間いいかしら?」
しかし吹雪はそれに応えず、否、振り返ることすらせずその声を無視してグラウンドへ歩いていく。
「吹雪君、少し話を……」
「……はぁ」
瞳子の再度の呼び掛けに気だるそうに振り返る吹雪。
「何だ、女。手短に要件を言え」
「おん……」
思わず顔を引き攣らせる瞳子。別に中学生を相手に礼儀を求めてはいないが、流石に限度というものはある。それでもこちらが頼みを聞いてもらう立場である以上は強くは出れない。喉から出そうになった言葉を飲み込み、まずは自己紹介から始めようとするが……。
「お前の名などどうでもいい。覚える気のない名を聞く意味はない」
「……そ、そう。なら単刀直入に言うわ。エイリア学園と戦う為に貴方の力を貸して欲しいの。うちのチームに入ってくれないかしら」
「戯け、寝言は寝て言え」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
瞳子の言葉をバッサリと切り捨て背を向けようとする吹雪を風丸が止める。
「頼むから、もう少し考えてくれないか?」
「くどい。お前達のチームに入るメリットが私にはない。そもそも、お前達はエイリア学園を倒す為にと言うが、私はあの連中が何処で何をしていようがどうでもいい。くだらない正義感を振りかざしてヒーローごっこがしたいなら他を当たるんだな」
「なっ……」
余りの言い分に言葉を失う風丸。鬼道からも似たようなことを言われたが、それよりも明らかに酷い。
「ならお前は、エイリア学園のやってることを見過ごすって言うのか!!」
「その通りだが?」
「……ッ、白恋中を守る為にジェミニストームと戦ったんじゃないのか!?」
「私は目の前の鬱陶しい害虫を駆除しただけだ。そこに学校を守るなどというくだらない意思は存在しない」
必死に吹雪に訴えかける風丸の言葉も虚しく、吹雪の返答はどこまでも冷徹だ。雷門の誰もが理解出来ない、傲慢とすら思えるその思考回路。
それでも諦めずに言葉を紡ごうとする風丸を制するように、吹雪に向かって飛来する影。
鬼道が蹴ったボールである。
吹雪は冷静に迫り来るボールをトラップし勢いを殺すと、鬼道に向かってボールを蹴り返す。鬼道もそのボールを完璧にトラップし、右足でボールを踏みつけてキープ。二人がその場で睨み合う。
「……何のつもりだ?」
「何、さっきの挨拶を返していなかったと思ってな」
「……ほう」
────やっと表情が変わったな。
能面のように無表情だった吹雪の表情を引き出し、鬼道はしてやったりと内心で独り言ちる。ここまでのやり取りで鬼道は吹雪が原作とは完全に別人であると確信している。人の性格など周囲の影響で簡単に変わるだろうが、それでもここまで酷くはならないだろう。
僅かな時間しか接していないにも関わらず、明らかに分かる人格の破綻具合。というよりもはやサイコパスではないのかこれは。転生者であるとしても何故ここまで捻くれたのかと思わずにはいられない。
吹雪がチームに加入したとしても、チーム崩壊の引き金を引く劇薬にしかならないのではと思う鬼道だが、より強力な戦力が必要なのも事実。
「面白い。十把一絡げの雑魚とは違うとは思ったが、身の程知らずにも私に盾突くか」
「さっきから聞いていれば何様だお前は。上から目線でベラベラと偉そうに」
「完璧たる私がお前達よりも上位の存在であるのは当然だ。私の言葉を不快と感じるのはお前が自分の立場を理解出来ていないだけだ」
「ふん、ああ言えばこう言う。人の話はもっとちゃんと聞いたらどうだ」
「聞く価値があるのならそうするさ。だが有象無象が垂れ流す戯言を聞くのは時間の無駄というもの。そんなことすら分からないのか?」
「理解した先で行き着くのがお前のような性根が腐り切った存在なら微塵も分かりたくないな」
「お前如きが私のいる高みに登り詰められるはずがないだろう。身の程を弁えろよ、凡人」
「その言葉、そっくりそのまま返してやろう」
ヒートアップしていく吹雪と鬼道の舌戦。ひりついた空気に他の者は口を挟むことも出来ない。
鬼道としてもどうやってこいつを仲間にしたらいいのかは皆目見当もつかない。今までことある事に豪炎寺のことを頭がおかしいと思ってきたが、目の前のサイコ野郎に比べれば百倍マシである。
「ここまで私に噛み付いてくる愚か者は初めてだ。………興が乗った。お前を試してやろう」
「………何?」
「試合をしてやると言っているのだ。私の力を欲するのなら、それ相応の資格を示せ。万が一お前が私に土をつけることが出来れば、チームでも何でも入ってやろう」
突然の提案に少し戸惑う鬼道だったが、目的を考えればこの提案に乗らない手はない。
「……いいだろう。だが一つ訂正しろ」
了承の言葉と共に眼前の吹雪を見据える。
「お前が戦うのは俺一人ではない。雷門というチームだ。そこだけは間違えるな」
「……個人ではなくチームの力で私を倒すとでも言いたいのか?くだらん」
吹雪がそこで一度言葉を切る。侮蔑の色を浮かべていた翡翠の瞳に明確な敵意が宿る。その身から発するプレッシャーが膨れ上がる。今までに相対してきたどの敵よりも強大なその威圧に思わず気圧される一同。
「────叩き潰してやろう」
「監督、作戦は?」
「ひとまずは好きにしていいわ。状況に応じて指示を出します」
試合前、ベンチにて準備をする雷門イレブン。
「あの吹雪って野郎、気に入らねぇぜ……」
「本当にあんな奴をチームに入れるのか?」
そう言うのは染岡と土門だが、同じ様なことは誰もが思っていることだろう。とても仲間として上手くやっていけるとは思えない。
「奴の言い分が気に入らないのは確かだが、負ければ奴の言葉が正しいと証明すると同義だ。こちらの意志を通すには勝つしかない」
「その通りよ。これはエイリア学園との戦いではないけれど、負けられない試合という意味では同じよ。気を引き締めなさい」
鬼道の言葉に付け足す形で瞳子もメンバーに注意を促す。負けてもいい試合というのが存在するのは確かだが、この試合はそうではない。
吹雪のこともあるが、今のチームはメンバーが大幅に入れ替わった直後、それに加えてジェミニストーム、プロミネンスと負け続けている状況だ。この辺りで敗北のイメージを払拭しておかないと変な負け癖がつきかねない。
「相手はジェミニストームを倒したチームだ。絶対に油断は出来ない。だけど俺達の実力を出し切れれば、きっと勝てる。鬼道、源田、不動。まだチームに馴染みきれてないかもしれないが、頼むぞ」
「ふん」
「任せておけ。ゴールは割らせん」
風丸の言葉を心配など必要ないと言わんばかりに鼻で笑う不動と頼もしい言葉を返す源田。
二人の様子に頷き、風丸が声を張り上げる。
「勝つぞ!!」
『おう!!』
打って変わって白恋ベンチの空気は、はっきり言って緩んでいた。
「あの雷門と戦えるなんて……!」
「宇宙人の時みたいにもしかして雷門に勝てるんじゃないべか?」
「もし本当に勝てたら、僕らが日本一ってこと?」
わいわいと騒ぐチームメイトを吹雪は冷めた目で見つめていた。
────馬鹿共が。何を浮かれている。
瞳子や風丸、鬼道に対して見下す姿勢を決して崩さなかった吹雪だが、内心では雷門というチームの力を冷静に計算している。
雷門は伊達に日本一と呼ばれるチームではない。まともにやり合えば白恋のメンバーでは相手にならないだろう。自分一人の力で対抗してもいいが、吹雪としてはそれはあまり取りたくない手段である。吹雪が理想とする完璧なサッカーは決して個人で完結するものではないのだ。
────少しお灸を据える必要があるか。
「ふ、吹雪君、作戦は?」
吹雪が考えを纏めたところで荒谷が吹雪にこの試合についての作戦を求めてくる。見ればいつの間にか吹雪の周りにメンバーが集まって来ている。全員が注目する中、吹雪が口を開く。
「お前達の好きにしろ」
「えっ?」
「聞こえなかったか?好きにしろと言ったんだ」
吹雪の意外な言葉に呆気に取られる一同。恐る恐る代表して荒谷が再度問い掛ける。
「い、いいの……?」
「何度も同じことを言わせるな。それより、準備は出来ているんだろうな?」
「う、うん」
「ならばいい。さっさと行け。試合が始まる」
その言葉でグラウンドに散っていくメンバーの姿を見つつ、吹雪もその後を追う。
その途中でちらりと、横目で雷門ベンチの鬼道へと視線を向ける。
────少しは楽しませて欲しいものだ。
『さあ、いよいよ始まります!!雷門中対白恋中の練習試合!!実況は私、角馬圭太でお送りします!!』
何故かいる角馬の実況をBGMに試合が始まろうとしていた。そしてポジションについた吹雪の姿に困惑の声が上がる。
「MFだと?」
「あいつ、FWじゃないのか……?」
ジェミニストームから一人で7点を奪ったという情報から吹雪はFWだと思い込んでいたことから、吹雪がMF、所謂トップ下と呼ばれるポジションについたことでメンバーに動揺が広がる。
────FWでもDFでもなく、MFか……。
自身という前例があるだけに吹雪が原作とは違うポジションについたことは鬼道にとっては意外ではあってもそこまで驚くことではない。
雷門ボールから試合開始。染岡からボールを受けた鬼道がドリブルで攻め上がっていく。
────何だ?
白恋の選手が鬼道からボールを奪いに来るが、何故か一度吹雪の方を見やり困惑する様な様子を見せる。鬼道は氷上、喜多海の二人を軽く躱し、吹雪へと迫る。
────さあ、見せてみろ!
しかし、吹雪は動かない。能面のような無表情を貼り付けて腕組みをしたまま、
『えっ?』
それに驚くのは白恋の面々だ。鬼道は一瞬何かの作戦かとも考えたが、他の選手の反応からそれはないと直ぐに自身の考えを否定する。
────何を考えているか知らないが、止める気がないならこのまま点を取らせてもらう。
吹雪を抜いた勢いのまま加速した鬼道を白恋のディフェンス陣では到底止めることは出来ず、瞬く間のうちに全員が抜き去られてしまう。
「こ、来い……!」
鬼道が右足でシュートを放つ。必殺技でも何でもないただのノーマルシュート。しかし鬼道の凄まじい脚力から放たれたその一撃は、並の必殺技の威力を凌駕するほどに強烈だ。
「オーロラカーテン!!」
白恋中のキーパー、函田はこのシュートに対し地面に手をつき、その技の名の通りオーロラのカーテンを展開し防ぎに掛かる。だが残念ながら両者の基本的なスペックに差があり過ぎる。鬼道のシュートはあっさりと〈オーロラカーテン〉を貫通し、ボールはゴールネットに突き刺さった。
雷門の先制点だが、あっさりとし過ぎていて喜びよりも困惑の方が勝る。鬼道の実力の高さは皆が知るところではあるが、それにしても手応えが無さ過ぎる。本当にこのチームがジェミニストームを倒したのかという疑問が再燃する。何故吹雪が動かなかったかも気に掛かる。
雷門のそんな困惑をよそに白恋のボールから試合が再開する。喜多海が蹴り出したボールを氷上が後ろの吹雪へと送る。吹雪にボールが渡ったことで警戒する雷門イレブンだが、ボールを受けた吹雪は驚きの行動に出る。右足を高く振り上げ、そのままシュート体勢に入ったのだ。それを見た雷門のディフェンス陣は即座にシュートコースに割り込み、ブロックの体勢を取ろうとする。だがそれは全く意味のないものだった。
「えっ……」
それは誰の声だったのか。吹雪はそのままセンターサークル付近からのロングシュートを放つ。ただし雷門ゴールではなく、
完全に予想外なこのシュートに対し、白恋の選手は誰も反応出来ず、そのままボールはゴールネットを揺らす。
雷門中と白恋中の練習試合。注目の吹雪士郎のファーストプレーは、まさかのオウンゴールであった。
雷門のスターティングメンバー
GK 源田
DF 栗松 壁山 影野 土門
MF 風丸 不動 塔子 目金
FW 染岡 鬼道
作者も吹雪を扱い切れる自信はない。
オリキャラ登場するのは許せる?※エイリア編及び世界編では出るとしても一瞬です。
-
許せる
-
やめてほしい