原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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二話連続投稿の一話目


開かれた扉

『甘さなど捨ててしまえ。そうすれば、お前は真の強さを手にすることが出来る』

 

吹雪が再び化身を発動し、絶体絶命の状況に追い込まれた今、不意に過ぎったその言葉。かつては師と呼んだこともある男、影山零治が俺に向かって投げ掛けたものだ。あの時、今よりも幼かった俺は、その言葉に何と応えたのだったか─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日はとある市のサッカーの大会の決勝戦だった。帝国学園に入学前、当時の俺が所属していた影山の息のかかったクラブチームは大会を順調に勝ち進み、決勝戦へと駒を進めていた。俺はチームのエースストライカーとしてその日の決勝戦に臨んだ。

試合は終始こちらが優勢で進んだ。俺はハットトリックを達成し、後半のロスタイムを残しスコアは3-0。もう完全に勝負は決まっていた。相手が負けを悟る中、更なる追加点を奪うべく俺達は攻め続けた。そして試合終了直前、相手陣内のペナルティエリアまで侵入した俺は、相手の開き直ったかのような執拗なディフェンスに攻め切れず、マークが外れていた味方にパスを出した。俺のパスを受け取ったチームメイトのシュートは惜しくもゴールバーを叩き、追加点とはならずそのまま試合は終了した。

試合には勝ち、無事に優勝の栄光を掴んだ。最後のシュートを外した奴を責める者はいなかったし、別段俺も気にしてはいなかった。しかし影山はそれが気に入らなかったらしい。

 

「何故、パスを出した?」

「何故って……フリーの味方がいたからですが?」

 

そんな俺の言葉に、影山は呆れたようにため息をついた。

 

「お前の能力ならあの程度のディフェンスは突破出来ていたはずだ。お前の中にはいざとなれば味方を頼るという考えが常にある。だからこそ、際どい場面では無理をせず、安易にその選択を取ってしまう」

 

実のところ、影山のこの指摘は間違ってはいない。この頃の俺は何が何でもゴールを奪うという執念が欠けていた。自分が無理をしてボールを奪われるくらいなら確実にパスを繋ぐ方がいいと思っていたし、決定的な場面以外ではシュートを打つのを嫌ってすらいた。

 

「そんな甘さなど捨ててしまえ。そうすれば、お前は真の強さを手にすることが出来る。他の誰も辿り着けぬ高みに、手が届くはずだ」

「………」

 

影山のその言葉にすぐに答えることは出来なかった。それは、心のどこかで影山の言葉を認めている自分がいたからなのかもしれない。影山の口添えでチームに加入し、いきなりエースの地位を手に入れた俺をチームメイト達が良く思っていないのを知っていた。俺からは何も思うところは無かった為に普通に接していたつもりだが、それでもチームメイトとの間に壁を感じていた。それを多少なりとも煩わしいとは感じていたし、彼等のことなど気にせずにプレー出来たら楽だろうなと思ったことが無いとは言えない。

 

「ですが……サッカーは11人でやるものです。たとえ俺だけの力で勝っても、それはサッカーじゃない」

 

苦し紛れに口から出た言葉はただの綺麗事だった。そこに自分の意思が乗っていたかは怪しかった。

 

「そんなことは関係無い。重要なのは勝つことだ。お前には他者の力など必要無い」

 

意識の隙間を縫うように頭の中に入り込んでくる影山の言葉が苛立たしかった。そして何よりも嫌だったのは、それを受け入れそうになっている自分がいたことだ。

 

「………嫌です」

「……何?」

 

なのに、俺の口から出たのは明確な否定の言葉だった。

 

「貴方の言うことが正しくて……それを強さだと言うのなら、俺は弱くていい。間違いだらけだって構わない。だって……そんなサッカーはきっと楽しくない。どんなに強くたって、それを楽しいと思えないのなら、それは俺の求めるものじゃない。それに────」

 

その先の言葉は、俺に背を向けた影山の発した言葉にさえぎられ、口にされることはなかった。

 

「……いずれお前も思い知ることになる。その時に、後悔しないようにするのだな」

 

影山が言い残したその言葉は、俺の頭の片隅に棘のように残ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶の海から浮上し、目を開けばそこにあるのは勝利を確信し、こちらを見下す吹雪の姿。

 

────ああ、そういうことか。

 

この試合中、ずっと感じていた微かな苛立ち。その正体に思い至る。

 

────こいつは、有り得たかもしれない俺なんだ。

 

あの日、影山の言葉に従い、他者を切り捨て自分だけを信じるようになっていたら、きっと俺もこいつと似た様な存在になっていただろう。これ程の力を手に出来ていたかは分からないが、碌でもない奴に成り下がっていることは確かだと思う。

吹雪は俺よりも強い。その事実が、今の俺が間違っているのだと言われているようで腹立たしい。

今の状況が影山の言っていた"思い知らされる"ということなのだとしたら、もう充分に分からされた。けれど、それがどうした。今更今まで積み重ねてきた物を捨てるのか。

 

────それだけは有り得ない。

 

そんなことはしない。いや、出来ない。

 

だってそうだろう。

 

────こんな俺と共に歩んでくれる、最高の仲間達が出来た。

 

────共に競い合うことが出来る、好敵手達がいる。

 

その全てが、今の自分を形作る大切なピース。何が欠けても駄目なんだ。それを自分から捨てることなど出来ない。

 

「お前は可哀想な奴だな」

「……何だと?」

 

気づけばそんなことを口にしていた。俺の言葉を聞いた吹雪が訝しげに眉を寄せる。

 

「仲間と勝利の嬉しさを分かち合う喜びも、敗北に涙する悔しさも知らず、一人孤独に戦い続ける。お前はそんなサッカーをしていて楽しいのか」

 

思えば、俺は色々と恵まれている。鬼道家に引き取られてからは、何一つ不自由することなく暮らしてきた。不安な時も、苦しい時も、いつだって誰かが傍にいてくれた。練習環境にだって不満を覚えたことはない。

では吹雪は?あまりに実力のかけ離れたチームメイト達、雪の降り積るグラウンド、ろくに指導経験の無い顧問。何もかもが足りないこの劣悪な環境の中で、間違っていると、あいつに言ってやれる人がいたのか?

 

「俺がお前に……本当のサッカーを教えてやる」

 

その言葉を聞いた吹雪が小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら口を開く。

 

「何を言うかと思えば……。本当のサッカーを教える?お前が私に?くだらん。今のお前に何が出来るというのだ。ほざくなよ、精も根も絞り尽くしたぼろ雑巾風情が」

 

確かに、今の俺にはもう化身を出す力は残っていない。普通に考えれば勝ち目は無い。けれど俺は一人ではない。ならば戦える。

それに、本当の意味での限界は、まだ先にある。

 

脳裏に固く閉ざされた巨大な扉を幻視する。プロミネンスの時には無意識に開かれた扉。それを自らの意思でこじ開ける。

とはいえ扉を全て開く必要は無い。今の俺ではあの力を完全にコントロール下に置くことは出来ない。だから少しだけ、ほんの少しだけで構わない。ほんの僅かな時間だけ、今よりも少しだけ強くなれればそれでいい。

 

鈍い音を立て、扉が僅かに開かれる。と同時に溢れ出した力の濁流に意識が持っていかれそうになる。不味い、このままでは、また暴走し─────

 

 

 

不意に、不安そうな顔でこちらを見つめる、春菜の姿が目に映った。

 

 

────お願いだから……元に戻ってよ………お兄ちゃん────!!!!

 

 

また、俺は同じ誤ちを繰り返すのか?また、春菜を傷付けるのか?涙を流させるのか?

 

 

千切れそうになる意識を強引に繋ぎ止める。勢いに呑まれ、開きかけた扉を押し戻す。

 

こんなにも簡単に飲まれそうになるなど、情けなさで泣きたくなる。あんな表情をさせている馬鹿はどこのどいつだ。あんな顔をさせたい訳じゃない。あんな顔は見たくない。あいつが、もっと安心出来るように、目を背けたりしなくてもいいように………だって………いつだって────

 

 

────大切な人に、笑っていて欲しいから……!!

 

 

「俺が……証明する……。仲間がいてくれることが……けっして無駄なんかじゃないことを……!!信頼が生む力が……個を上回ることを……!!」

 

 

その言葉と共に、鮮やかな闇が、溢れ出した。

 




こいつ試合の度に覚醒してんな。
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