「さて、次はどうやって点を取ってやろうか」
まるで世間話でもするような様子でそんなことを呟いている豪炎寺だが、周囲はそれを得体の知れない物を見るような目で見ていることに、あいつは気づいているのだろうか。
まるで、見えなかった。
ボールをカットする為に動き出した瞬間も、シュートを打った時の足の振りも、肝心のシュートそのものも。
グランと勝負した時にも、速すぎて動きが見えなかった。あの時は圧倒的な力の差を感じ取れた。だが、今のは違う。
混乱が冷めやらぬ中、オーガのリスタートで試合が再開される。先程とは違い豪炎寺は動かず、一旦ディフェンスラインまで下げられたボールを、まるで誰かを避けるがの如くサイドに展開する。
ジニスキーからドラッヘにボールが渡り、そのままミストレにパスを出す。しかし、このボールを冷静にカノンがカット。
「カノン!寄越せ!」
「豪炎寺さん!」
それを見た豪炎寺が即座にパスを要求し、それに素直に応じたカノンからパスが繋がる。オーガ陣内浅く攻め入ったところ、カノンからのパスを受け取った豪炎寺がそのまま振り向きざまにシュートを放つ。
先程と比べれば常識的な範囲内の速度のシュートがオーガのゴールへ向かう。だが見る限りではこのシュートは枠に行っていないように見える。距離がある為、正確には分からないがボール2~3個分程度ゴールバーよりも高いだろう。同じように判断したのであろうオーガのキーパー、ザゴメルがシュートに備えて身構えていた体を脱力させ────
「甘いぜ、二流キーパー」
────ほぼ直角に近い角度で下方向へと軌道を変えたボールに反応出来ず、ボールがゴールネットに突き刺さる。
「試合が止まった訳でもないのに気を抜くな。洗脳されたぐらいでそんな当たり前のことさえ忘れたか」
言ってることは間違ってないけど、今の俺も初見で止めれる自信ないんだが……。この超次元世界でシュートの軌道にツッコミなんて入れてたらキリがないが、必殺技でもないのにそんな変態的な軌道のシュートを打つな。なんで数十メートル直進したボールが、ちょうどゴールライン手前で鋭角に落ちるんだ。どんな回転掛けたらそうなるんだよ。
再び試合が再開し、今度は細かくパスを繋いで攻め上がってくるオーガ。豪炎寺はまたも動かない。
助っ人に入ってくれている3人が全員FWである為、それより後ろは元から居る戦力でどうにかするしかない訳だが、前半あれだけ好き勝手やられたのが後半から都合良く対抗出来るようになるはずもなく、あっさりとゴール前まで侵入を許してしまう。
「デスレイ───」
エスカバがシュートを放とうとするが、それよりも早く一陣の風がボールを横から颯爽とかっさらった。それが誰かはもう言うまでもないかもしれないが、豪炎寺である。さっきまでセンターサークルに居た気がするが、ツッコむだけ無駄だろう。
「来いよ、二流共」
豪炎寺のその挑発に乗った訳ではないだろうが、1番近くに居たエスカバが豪炎寺に物凄い勢いで突っ込んでいく。その勢いのままスライディングタックルを仕掛けるが、豪炎寺はそれをあっさりとバックステップで躱す。そこを狙いミストレが背後から襲い掛かるが、これも軽くいなす。体勢を立て直したエスカバが再び仕掛けるも、浮き玉で頭上を通され躱される。ボールのトラップ際をミストレが狙うが、全く意に返さず突破される。
「ん?」
エスカバとミストレを軽くあしらった豪炎寺だが、そこにバダップ、ドラッヘ、サンダユウの3人が迫る。そして後ろからはエスカバとミストレが追い縋る。
5人もの選手に囲まれた豪炎寺だが、その顔には焦りの色は全くない。いっそ緩慢とすら思える動作でボールをキープし続ける。
「5人掛かりでもこんなもんか?洗脳で判断力が落ちてるとは言え、情けないな。大切なのは相手の気を感じ取り、動きを読むことだ。お前らは目だけで動きを追うから、俺についてこれないんだよ」
少なくとも俺はその理論が適用されるのはバトル漫画の世界だけだと思う。間違ってもサッカーに必要な要素だとは思いたくない。
しばらくボールをキープし続けた豪炎寺だが、何を言っても反応はないと理解したか、急加速して包囲網の間を縫うように一瞬で駆け抜ける。
「選手としての矜恃も、軍人としての信念も、大切なものを全部忘れてしまっているお前らに、俺が手加減してやる理由はないよな」
豪炎寺が腕を振るうと、虚空に一筋の赤い光が走り、そこから勢い良く炎が溢れ出す。爆発的に燃え広がった炎が無数に分散し、その全てが炎の剣と化す。
「グラディウスレイン」
豪炎寺の背後から放たれる大量の炎の剣による絨毯爆撃により、オーガのディフェンス陣が為す術なく蹴散らされていく。
あれは〈巨人の剣〉の進化系なのだろうか、それとも虎丸の〈グラディウスアーチ〉をパクった上でドリブル技として流用したのだろうか。何にせよ、フィールドのおよそ3分の1が火の海と化しているあたり、ドリブル技に必要な火力を大きく逸脱していることは間違いないだろう。
燃え広がった炎が再び豪炎寺の元へと集まっていき、豪炎寺の左右に渦巻いていく。やがて炎は豪炎寺と瓜二つの人型となる。
豪炎寺がボールを上空に蹴り上げ、2体の分身がそれを追うように回転しつつ飛び上がる。タイミングを合わせ、同時にボールを蹴り込み、エネルギーを増幅させたシュートが真下に向かって打ち下ろされる。
それを上体を限界まで倒し、左足を高々と振り上げた豪炎寺がオーガのゴールへと向けて打ち放つ。
「エボリューション
凄まじい爆炎を伴って放たれたシュートが、文字通りフィールドを焼き尽くしながらゴールへ向かう。
「エレキトラップ!!」
ザゴメルが両腕を振るい、電撃の網を張り巡らせシュートを迎え撃つ。彼の最強のキーパー技の〈ハイボルテージ〉はDF2人との連携技の為、豪炎寺のドリブル技によって蹂躙されDFが戻れていない今は使うことは出来ない。
その為、使える中で最も強い技でシュートに対抗しようとしたザゴメルの選択は間違っていない。ただし、選択を間違えようがどうしようが答えは変わらないという理不尽な現実があっただけ。
電撃の網は一瞬で焼き尽くされ、炎の勢いに呑まれ体勢を崩したザゴメルの頭上を掠めるように通過したシュートが、ゴールネットを焼き尽くし、加えて言えばゴールそのものも数メートル吹っ飛ばし、いつの間にか修復されていたフェンスを再び破壊し、今度は観客席に飛び込み、最上段までを破壊しようやく止まった。ボールは完全に炭化している。
えげつねぇ………。あれ、観客が居たら死人が出てるんじゃないか?謎技術によって一瞬で元通りになった観客やゴールだが、先程の光景は強烈過ぎてしばらく忘れられそうにない。というかさらっと分身使ったな。いや、いつかは使えるようになってもおかしくはないとは思っていたが。そして気のせいでなければ、立ち上がったザゴメルの膝が震えているように見える。シュートに対する恐怖が洗脳を上回ったか……。
同じキーパーとして、今のシュートを受け止めることを想像すると、全く笑えないというか同情してしまう。
などと考えていたら、リスタート早々に豪炎寺がボールを奪った。………俺ら居る意味あるか?もう絶対あいつ1人でいいだろ。
「シュウ!!」
豪炎寺がシュウへとボールをはたく。が、その速度と威力が尋常ではない。炎を纏い、大気を切り裂き突き進むボールは明らかにパスではなくシュートである。それも一般的な必殺技を遥かに上回る威力の。
「暗黒神……ダークエクソダス!!」
それを見たシュウが一切の迷いなく化身を発動する。シュウの体から溢れた影が一瞬で形を成し、巨大な斧を携え、闇のオーラを纏った暗黒の神が顕現する。
ダークエクソダスがその手に持つ斧を両手で構え、まるで野球のようにフルスイング。刃の腹でボールを捉え、前線へと物凄い勢いで弾き飛ばす。
………今のプレーになんの迷いも淀みもなかったが、もしかして普段からあんな感じの動きをよくしているのだろうか。じゃあ誰を相手にしているのかと考えれば当然1人しかいない訳で。
自分に被害が来ないように頑張れと言われた意味を何となく察してしまい、何故か申し訳ない気分になった。
「ナイスパスだ、シュウ!」
こちらも明らかにパスと呼べるような威力ではなかったが、当然のように走り込んでいた豪炎寺があっさりとこのボールを受け止める。
「うぉぉおおおお!!!!」
咆哮と共に豪炎寺の周囲に炎が迸り、ボールに凄まじいエネルギーが充填されていく。高まり続ける熱量により、やがて炎の色は青く染まっていく。
更に豪炎寺の体から炎が溢れ出し、そちらは青ではなく、赤よりもなお深い真紅に染まっていく。
蒼と真紅の炎を纏い、凄まじい熱量を放つボールを1度オーバーヘッドで打ち下ろし、左足で回転を掛けボールを空気の層で包み込み、内部で更に激しく燃え上がらせる。臨界寸前にまで高まったエネルギーを纏うボールを豪炎寺が左足で打ち出す。
「ラストリゾートォォ!!」
解き放たれた蒼と紅の2体の竜がフィールドに激しくその体躯をぶつけ、その度にフィールドを抉り、破壊しながら突き進む。
何度も軌道を細かく変えながらゴールに向かうそのシュートはザゴメルの目の前で弾け、ゴール周辺は二色の炎に塗り潰され、炎の柱が立ち上る。
炎が収まった後には、炭化してボロボロに崩れ落ちたゴールと、全身から焦げ臭い匂いと煙を上げながら倒れ伏すザゴメルの姿があった。
豪炎寺被害者の会 名誉会長 ザゴメル
【グラディウスレイン】
虎丸のグラディウスアーチから着想を得て生み出された必殺技。
50を超える剣群をもってフィールドごと相手選手を火の海に沈める。
普通にシュート技としても使える。
豪炎寺曰く決してパクった訳ではないとのこと。
ソードバレルフルオープン!!
【エボリューションF】
未来豪炎寺の編み出したオリジナル技。
エボリューションと名が付いているが、ジョーカーレインズもマッハウィンドも使ってない為、実際はファイアトルネードDDとグランドファイアのオーバーライド技。
しかし本人はエボリューションだと言い張っている。
【ラストリゾート】
ただ完成させるだけでは飽き足らず、魔改造された。
本家は原作では扱いが酷かったが、こちらは最終兵器の名に恥じぬ威力を誇る。
豪炎寺的にはΣのように4体の竜を出すことを目標にしているらしい。