原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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変わっていないように見えて、中身は結構違うという話。


冷めた心

 

全身から白煙を上げ、倒れ伏すザゴメルを豪炎寺はじっと見つめる。

何やら後方で円堂が頭を抱えているような気配がするが、そんなことはどうでもいい。というか豪炎寺からすればそんな反応をされること自体が心外である。

円堂がどう思っているかは知らないが、別に豪炎寺とて考え無しにプレーしている訳ではないのだ。

 

最初の2点でオーガの実力の底は見えた。結果、本気ではあっても全力を出す必要はないと判断し、豪炎寺なりの方法でオーガの洗脳を解く方法を模索していたのだ。

相手を煽るような言動を取ったのは感情を揺さぶる為。最もこれは成功すれば儲けもの程度の認識だった。ならば肉体的にも精神的にも徹底的に追い込むことで、火事場の馬鹿力的な何かで洗脳が解けはしないかと考え、わざとらしく派手なプレーをした。

普段の豪炎寺であれば、無意味に観客を巻き込むようなシュートは打たない。この場に観客が1人もいないからこそ、あんなシュートを威嚇の意味合いも込めて打った訳であるが、周りに無駄な被害を出さないように気をコントロールすることぐらいは出来る。

しかしそれでも洗脳を解くことは出来なかった。ザゴメルの足が震えているように見えたが、あれは意思の表れというよりは危険を感じ取った肉体の反射的な反応であろう。

次はどうするかと考えていると、目の前のザゴメルに変化があった。

 

若干ふらつきながらも、ザゴメルが自分の足で立ち上がった。これはいい。相当なダメージではあるはずだが、洗脳で痛みも感じていないだろうし、体が動く限りは立ち上がってくるのは理解出来る。だが、体の傷が目に見えて分かる程の早さでみるみるうちに治癒していくのはどういうことなのか。

 

「………やはり、そうか」

 

それを見て豪炎寺は薄々感じていた疑念が確信へと変わる。

そもそも豪炎寺は最初は過去へと渡り、円堂の手助けをする気はなかった。自分がそんなことをしなくても円堂なら自力でどうにかすると思ったし、余程のことがない限りは過去や未来への干渉等しない方がいいとも思っていた。そんな考えを曲げ、豪炎寺がこの時代へやって来たのは、自分でも説明出来ない嫌な予感を無視出来なかったからだ。そして今、その予感の正体が分かった。

オーガの選手達から感じていた、本人のものではない別の気。それが、ザゴメルの体を治癒している間は先程よりも強く感じることが出来た。恐らくはオーガを洗脳した者の気なのだろうが、これがどういう訳か豪炎寺の気と酷似しているのだ。全く同じという訳ではない為、未来の豪炎寺本人ということはないとは思うが、血縁者、それこそ豪炎寺の子孫のセカンドステージチルドレンか何かである可能性は高い。

何が目的でこんなことをしているのかは分からないが、自分が撒いた種である以上は自分の手で片をつけるのが筋というものだろう。少なくとも今はそれでいい。

 

 

 

リスタートと同時にダッシュし、相手との距離を詰める。当然それを避けるように相手はボールを回す訳だが、所詮は操り人形。気の抜けたパスをカットするのは容易い。

ボールをカットし、ドリブルに入るが、相手の寄せが甘い。反応が遅い。フェイントを掛ける必要すらなく、スピードについて来れないのだからわざわざ緩急をつける意味も無い。歯ごたえが無さすぎて欠伸が出そうになるが、それも無理もないとも思う。

 

今の豪炎寺を止めることが出来る者等、世界中探しても数える程しか居ない。各国のエース級の選手達でさえも本気を出せば圧倒してしまえる。フットボールフロンティアで二連覇を果たし、公式戦無敗のまま雷門中を卒業した豪炎寺は、そのまま高校に進学することなく世界中を回る武者修行の旅に出た。父親には猛反対されたし、夕香に寂しい思いをさせてしまうのも心苦しかったが、自分の力をもっと高めていく為にはそれが最適だと思った。思えば、周りが皆反対し説得してくる中で唯一、しょうがない奴だな、と呆れた様に笑い背中を押してくれた円堂に、あの時の自分は救われていたのかもしれない。

そうして世界へと飛び出し、世界を自分の目と足で見て回るうちに、豪炎寺は世界は自分が思っていたよりも狭く、つまらない物なのだと知った。勿論まだ世界の全てを知った訳ではないが、豪炎寺は世界にはもっと凄い奴が沢山居ると思っていたのだ。世界大会に出場していなかった国等、それこそ幾らでもある。ならばその中に、まだ見ぬ強敵が待っているのだと、信じて疑わなかった。なまじ世界大会の経験があった故に、そんな風に思ってしまったのだろう。鬼道と二人掛かりでもボールを奪えなかったヒデナカタの圧倒的なテクニックや、幾度と無く放った豪炎寺の渾身のシュートを尽く受け止めてみせたロココを知っていたから。

けれど、いくら世界を探してみても、彼等のような存在には滅多に出会えなかった。大抵の者は最初は自信満々な癖に、少し相手をすれば勝手に戦意を喪失していく。再会した世界大会で鎬を削ったライバル達も、その殆どは成長した豪炎寺の敵ではなかった。

中学3年次のフットボールフロンティアで、あろうことか化身アームドを披露し、豪炎寺の全力のシュートを打ち返してみせた鬼道は、やはりまともではなかったと、自分のことを棚に上げて思ったものだ。

 

 

 

そんな思考を切り上げ、目の前のオーガの選手達を見やる。こいつらも決して弱くはない。世界レベルでみてもむしろ強い部類に入るのだろう。しかしそれだけだ。

何も考えずに適当に放ったシュートが、ゴールネットを揺らす。キーパーが反応出来ていないのだから、どこから何を打っても同じだ。同じことを繰り返す作業でしかない。シュウはともかく、わざわざ未来から来たカノンや、アフロディ達にも本当なら見せ場を作ってやりたいところではあるが、気づけばもう同点になってしまっている。7点差等所詮はこんなものだ。どうせならば20点差くらいついていれば、もう少し楽しめただろうに。

以前、豪炎寺のことを100年に1人の怪物と称した記事を出した記者が居たらしいが、本当にそうだろうか。年月と共に積み上げた歴史とは決して甘く見てはいけないものだ。選手達の経験や知識、それを元に編み出された新たな戦術や技。今は通用する技術も、数年後には研究され尽くして全く通用しなくなる、なんてことも有り得るはずなのだ。それなのに、80年後の精鋭を集めたはずのオーガは、豪炎寺相手にまるで歯が立たない。確かオーガの時代は国が一度再編されているはずだし、地域紛争も多いとかいう話だから、失われてしまった技術も多いのかもしれない。だが、それにしても80年経ってもこの有様なのだ。

ずっと、強くなることだけを考えてきた。強くなるのが楽しかった。なのに、最近では強くなりすぎたと感じる。ここ数ヶ月で全力を出せたのは円堂と勝負した時の一度だけだ。

ゴールを量産し相手を圧倒するのも、それはそれで悪くはないのだが、最後の最後までどちらに天秤が傾くか分からない、ギリギリの勝負は本当に得難いものだと今は思う。

実の所、身体能力自体はもう既に上が見えなくなってきていると感じる。勿論、体が成長すると共に筋力量などは自然と増えるだろうが、そんなに伸び代はないと思う。突き詰めれば豪炎寺は途轍も無く早熟なだけなのだろう。きっといつかは周りが豪炎寺に追いつく日が来る。けれどそれが5年後なのか、10年後なのかは分からない。

 

 

この時代の豪炎寺も、同じ存在であるのだからいつかは同じ道を辿るだろう。そしてオーガを洗脳して操っている誰かも、もしかしたら同じなのかもしれない。自分が生きる時代に敵が居ないのなら、過去や未来にそれを求める気持ちは分からないでもない。寿命の短いセカンドステージチルドレンなら尚更だろう。まあ、子孫なのが確定している訳ではないのだが。

 

 

何にせよ、今の豪炎寺に出来るのはこの試合を終わらせることだけだ。さっさともう1点取って、逆転するとしよう。




ちなみにこの豪炎寺は正確には本編世界線のパラレルワールドの豪炎寺の為、これから全く同じルートを辿る訳では無い、とだけ言っておく。
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