作者のネーミングセンスに関しては、期待しないでもらいたい。
*サブタイ変えました。
迫り来るタイヤを右手で受け止める。だが勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。
「ぐっ…」
尾刈斗中との練習試合を明日に控えた現在。俺は鉄塔広場で一人特訓に励んでいた。
「もう少し、もう少しだ…」
俺がしているのは必殺技の特訓。〈ゴッドハンド〉に見切りをつけ、新たな必殺技の習得の為、アイデアを考えていたのだが、円堂の必殺技を思い返していて一つ、閃いたことがあったのだ。それを早速試してみたところ確かな手応えを感じた。
それ以来、尾刈斗との試合までに必殺技を完成させることを目標とし、特訓していたのだ。
完成度は既に九割といったところか。あとひと押しで完成出来る確信がある。
「あとはもう試合の中で完成させるしかないか」
円堂守のとある必殺技を参考にした俺の必殺技。尾刈斗が相手なら完成出来なくても勝てはするかもしれないが、だからこそ挑戦する絶好の機会であるとも言える。俺に試合の中で成長するなんて芸当が出来るかは正直自信がないが、やるだけやってみよう。やる前から弱気になっていたら、何も成し遂げることは出来ない。
自分の右手を見つめる。
ボロボロになったグローブはこれまでの努力の証だ。
努力したところで必ず報われる訳じゃない。でも努力は自分を裏切ることは無い。
この必殺技を完成させることは俺にとってのある種の証明だ。
自身が決して原作の円堂の後を追うだけの存在ではないことの証明。
完成したところで威力は恐らく〈ゴッドハンド〉を上回る程ではない。〈ゴッドハンド〉を完璧に使いこなせるようになれば、この技を使うことはもしかしたら無くなるかもしれない。だけど、自分だけの必殺技を作り上げたという事実は、きっとこれからの俺の支えになる。
そして尾刈斗中との試合当日を迎える。皆には既に尾刈斗の使う催眠術と、その対策については話してある。念の為に耳栓も全員に渡しておいた。耳栓に関してはつけていると味方の声も聞こえなくなり、連携が取りづらくなる為、あまり使いたくはないがあった方が安心出来ると思ったので一応用意した。
「円堂、来たぞ」
風丸の声で俺も正門の方を見ると確かに尾刈斗中の選手の姿が見える。
尾刈斗のメンバーはオカルト関連の用語や作品をモチーフとしてるんだっけ。なんか凄い見た目してる奴いるな。
頭に蝋燭巻き付けてる奴とかいるんだけど、それ大丈夫なのか。せめて火は消した方がいいと思うんだが。
グラウンドに雷門と尾刈斗の選手が整列する。尾刈斗の監督が冬海先生と握手した後、俺達に話し掛けてくる。
「君達と帝国との試合。見させてもらいましたよ。いやはや、全くもって素晴らしかった。今日はお手柔らかにお願いしますね」
この監督、原作だと豪炎寺を目当てにしてて、それ以外の選手への態度は悪かった覚えがあるけど、あまりそんな感じはしないな。
それより向き合ってる尾刈斗のキャプテンの方が気になる。一つ目が描かれたバンダナを着けてるんだが、目がどう見ても完全に覆い隠されている。前見えてんのか、これ。
「尾刈斗中キャプテンの幽谷です。今日はよろしくお願いします。」
「あ、ああ。雷門サッカー部キャプテンの円堂守です。こちらこそよろしく」
俺の視線に気づいたのかこちらに挨拶して来たのでこちらも返す。え、マジで見えてるのかそれ。いったいどういう構造になってるんだ、そのバンダナ。
俺のそんな疑問をよそに試合が始まる。
尾刈斗の幽谷のキックオフで試合開始。
ボールを持ったMF武羅渡がドリブルで上がっていく。マークについたマックスが抜かれるものの、その隙をついて少林がスライディングを仕掛ける。武羅渡はこれを躱しきれず、ボールが弾かれる。
しかし、こぼれ球を同じくMFの月村が押さえた。
立ち塞がった壁山をフェイントで上手く躱し、シュート体勢に入る。
「くらえ、ファントムシュート!!」
月村が放ったシュートは紫の気を帯びながら、分裂して雷門ゴールに迫る。
────分裂しているように見えようとも、ボールは一つ。本物は……これだ!
ボールの幻影に惑わされることなく本物のボールを判断した俺は、正面から全力のパンチングで迎え撃つ。一瞬、シュートの威力に押されそうになったものの、なんとかボールを弾き返す。
────やはり、尾刈斗のシュートは必殺技無しでもどうにかなりそうだな。
このボールは壁山が拾う。パスを繋いでいきFWの染岡にボールが渡る。
「ドラゴン……クラッシュ!!」
染岡の放ったシュートは、ボールに飛びついた尾刈斗のキーパーの手を掠めながらもゴールネットを揺らす。
雷門の先制点だ。
「よっしゃあ!」
「ナイス、染岡!」
試合を観ている観客からも歓声が上がる。
だが、尾刈斗の選手や監督には焦った様子はない。まだゴーストロックも使ってないし、様子見ってところか。
試合再開後、尾刈斗のパスをカットし、雷門が攻め上がる。
「ファイアトルネード!!」
今度は豪炎寺のシュートが決まり、二点差となる。
二点目を取られた尾刈斗はついにゴーストロックを使ってくる。
「しまった……!」
ゴーストロックの仕組みは理解しているつもりだったが、やはり知識として知っているだけなのと、実際に体験したのでは違う。
ゴーストロックによって動きを封じられた俺はそのままゴールを奪われ一点を返される。
しかし、この失点によって雷門の選手はゴーストロックの脅威をはっきりと認識した。落ち着いて、冷静にプレーしている。相手の動きに惑わされることはない。
尾刈斗はゴーストロックがあっさりと攻略されたことに動揺したか、動きに精彩を欠き、雷門が染岡と豪炎寺の連携技、〈ドラゴントルネード〉で追加点を奪う。その後も雷門は攻め続けたが追加点は生まれず、3-1で前半を折り返す。
「皆、いい調子だ。後半もこのまま攻めるぞ。ゴールは任せろ」
『おう!』
ゴーストロックによって一点は取られたものの、前半はほとんど雷門のペースで試合が進んだ。やはり催眠無しの純粋な実力勝負になれば雷門に分があるようだ。
しかし、にも関わらずシュートは何本か打たれている。なんとか無失点で凌いだが、カウンターでヒヤッとする場面も少なくはなかった。こうして見ると、オフェンスよりもディフェンスの方が課題が多いかもしれないな。今の雷門にはドリブル技やシュート技を覚えている者はいるが、ディフェンス技は誰も使えない。壁山が早いとこ〈ザ・ウォール〉を習得してくれれば改善されるかと思うんだけどな。
そして、俺の必殺技もまだ完成していない。尾刈斗はゴール隅を狙ったコントロールシュートを多く打ってきた為、試す機会が無かったのだ。後半はチャンスがあれば試していきたい。
後半に入ってからも試合は雷門のペースで進んでいた。更に追加点を奪い、4-1としてからは膠着状態が続いているが、もう試合は決まったようなものだ。正直、この結果は互いのチームの決定力の差によるところが大きい。仮に尾刈斗に豪炎寺と同格のストライカーが一人でもいれば恐らくここまで一方的な試合にはならなかっただろう。後は、催眠術に頼らない、実力の高いキーパーがいれば十分に強豪を目指せる。
そんなことを考えていたら、ボールを持った幽谷がドリブルでゴール前に切り込んでくる。
「まだ試合は終わっていない…!もう一点返してやる!」
気を引き締める。残り時間から考えても逆転はもう有り得ない。だが、まだ試合が終わった訳では無い。勝った気になるのは早過ぎる。
この試合、もう何度目になるか。幽谷が〈ファントムシュート〉の体勢に入る。ここまでは今日何度も見た光景。だが、そこに月村が走り込んでくる。
「「ファントムシュート!!」」
「何!?」
なんと幽谷と月村は二人同時に〈ファントムシュート〉を放ったのだ。
それによって通常の〈ファントムシュート〉よりも威力が上がっている。駄目だ。このシュートは必殺技無しでは止められない。
点差もあるしこのシュートを決められても勝ちは揺るがない。止められなくてもいい。そんな思考が頭の中を過ぎり、それをすぐさま否定する。ここで逃げる訳にはいかない。このシュートを止められなければ、俺にとってこの試合は敗北したに等しい。
────ここだ。ここであの技を完成させる!
相手の気持ちの籠ったシュート。それを止めるという強い意志。掛けていたピースが埋まる。今なら出来るはずだ。
イメージするのはフットボールフロンティアでの優勝後のifストーリーを描いた、アレスの天秤、その続編となるオリオンの刻印において円堂守が使用した必殺技、〈ダイヤモンドハンド〉。
右手に集中させた気を放出するのではなく、そのまま右腕に纏わせる。
ダイヤモンドの如き輝きも無ければ、硬度も遠く及ばない。だが、今はこれで十分。
金属特有の光沢を放つ右腕をボールに向かって突き出す。名付けて……
「メタリックハンド!!」
受け止められたボールの威力は完全に殺され、俺の右手にボールが収まる。
それと同時に、試合終了を告げる審判の笛が鳴り響いた。
4-1で雷門の勝利。帝国の時とは違う確かな勝利に部員達が歓喜の声を上げる。これが雷門の実質的な初勝利だな。
それに、俺の必殺技も無事に完成した。〈ゴッドハンド〉を初めて使った時とは、また違った感動を覚える。感慨に耽る俺に幽谷が声を掛けてくる。
「俺達の負けです……。でも、次は負けません」
そう言って背を向ける幽谷を無言で見つめる。確か幽谷はまだ一年だったはず。これからの尾刈斗は強くなりそうだな。来年以降、雷門の強力なライバルになりそうだ。
「次も…俺達が勝つ」
俺の言葉に一瞬だけ足を止めた幽谷だったが、直ぐにまた歩き出す。
部員達に振り返り、声を上げる。
「次はフットボールフロンティアだ!このままの勢いで勝ち進んでやろうぜ!」
『おう!』
俺達の、フットボールフロンティアへの挑戦が始まる。
ドラゴントルネードは実はもう既に習得している。ゴーストロックの種も割れている。でもどうにか尾刈斗戦を盛り上げたい。その結果、こうなりました。
試合描写結構省いてるので賛否両論あるかもしれませんが、暖かく見守って下さると幸いです。
長々と失礼しました。