「もう行くのか、豪炎寺」
「ああ。この時代の人間じゃない俺が、あまり長居し過ぎるのもよくないだろうからな」
豪炎寺の放った凄まじいシュートの余波により、フィールドは炎に包まれスタジアムは一部が崩壊。とんでもないそのシュートを受けたオーガの選手達の安否が気になったが、気づくと彼等の姿はどこにもなかった。
シュートのインパクトが強過ぎてそちらにばかり目がいってしまっていたが、豪炎寺曰くキーパーのザゴメルを初め、オーガの選手達はシュートが直撃する直前に消えたという。オーガを洗脳していた者の仕業だと思われるが、単に敗北を悟り撤退させたのか、それとも他に思惑があったのかは定かではない。
何にせよ残り時間や得点から見ても、俺達の勝利と判断して間違いないだろう。
そして、戦いが終わったということは、助っ人達との別れを意味する。
「本当にありがとうな、豪炎寺。勝てたのはお前達のおかげだよ」
「礼なんていらないって。俺達の仲だろ?それに勝てたのはお前の力もあってのことだ。あんまり自分を卑下するなよ」
俺の言葉に少し照れた様な様子を見せながら、豪炎寺がそんなことを言う。まあ、自分を低く見るのは俺の悪い癖だ。ただの照れ隠しで言ってるのは分かってるが、追々直してかなきゃならない点ではある。
「ふっ!!」
俺達から少し離れた位置で、豪炎寺が左足を振るう。すると豪炎寺の目の前に裂け目の様なものができ、それに豪炎寺が両手を掛けて左右にこじ開けると、そこには何とも形容し難い景色が広がっていた。
………どうやって帰るのかと思ったら、帰りも力技なのかよ。というかサラッとおかしなことをしてるが、もう俺はツッコまんぞ。
「………豪炎寺」
「ん?何だ?」
「あ、いや……」
自然と豪炎寺を呼び止めていたが、何でそうしたのか、自分でもよく分からなかった。…………いや、違うか。多分、自分で思ってる以上に、豪炎寺が試合中に見せた様子が気に掛かってるんだ。何と言うか、多分あまり良くない兆候の様な気がしたから。
「……あのさ、豪炎寺。あんまり1人で思い詰めるなよ?」
「………え?」
「何かあったら、お前の時代の俺に相談してやれよ。お前からしたら俺は弱いかもしれないけど、きっとお前に置いてかれないように、必死で走ってるはずだからさ」
「───────」
豪炎寺の表情が、不意を突かれた様に固まる。自分でもいきなり何言ってんだと思う。他に掛ける言葉があったんじゃないかとも思う。けど、頭に浮かんだ言葉を、気づいたら口に出していた。
「………ハハッ……ハハハハッ!!」
「お、おい?」
固まっていた豪炎寺が、心底可笑しそうに、そしてどこか嬉しそうに笑い出した。
「……何もそんなに笑わなくてもいいと思うんだが」
「ハハハッ………わ、悪い悪い。そんなつもりじゃないんだけど………やっぱり円堂は変わらないなと思ってさ」
「はあ?」
何やら1人でスッキリした様な顔してるが、こっちはなんのことやらさっぱり分からない。1人で納得して碌に説明もしないところは直ってねぇなこいつ。
「分かってるよ。俺のことを一番理解してくれてるのはお前だからな。…………俺のこと、頼むぜ?色々と迷惑を掛けると思うけどな」
「ああ、任せろ。お前みたいに滅茶苦茶にならないように頑張るさ」
「おっと、そいつは難しい相談だな。俺は中々手強いぜ?」
「自慢気に言うことかよ」
何故か若干ドヤ顔でそう言う豪炎寺に苦笑しつつ、普段と変わらない会話を交わす。これが最後の会話だというのに、湿っぽい空気はどこかへ行ってしまった。まあ、この方が俺達らしいか。
「じゃあな、円堂」
「元気でな、豪炎寺」
その言葉を最後に、豪炎寺とシュウの2人は裂け目の向こうへと消えていった。………今更だが、ほんとにちゃんと帰れるんだろうなあいつら?なんか不安になってきたんだが。
「ひいじいちゃん」
「カノン」
空気を読んで黙っていてくれたであろうカノンに話し掛けられる。本当のひ孫ではないひ孫と話すのも、これで最後だな。
「俺、ひいじいちゃんとサッカーできて良かったよ。一生忘れない。…………まあ、俺が来た意味はそんなに無かった気がするけど」
「そんなことないさ。カノンが来てくれたから、あいつらだって来れたんだ。それにあのシュートはカノンが居なきゃ止められなかった。だからそんな風に言うなよ」
「そ、そうかな?へへっ」
事実、カノンが来てくれていなければ、あのまま〈デススピアー〉を食らって全て終わっていたはずだ。それにあの時、カノンが現れたことに対する戸惑いも大きかったけど、それ以上に、絶望的な状況に光が差した。それだけで、追い詰められていた心が軽くなった。精神的に救われたんだ。それを無意味だと切り捨てるほど、俺は馬鹿じゃないつもりだ。
「またな………と言いたいところだけど、俺がどれだけ長生きしたとしても、カノンとはもう会えないんだよな」
「……そうだね。キラード博士の話じゃ、俺の知ってる未来と、ひいじいちゃんのこの時代は、直接的な繋がりはないらしいから……。もし、カノンって名前のひ孫が産まれても、それは俺とは別人なんだと思う」
「そっか……」
未だに目の前の少年が、俺のひ孫であるという実感は湧かない。だが、せっかく出会えたサッカー仲間にもう会えないのは、とても残念だと思う。でも────
「カノン。俺達は一緒に戦った仲間だ。例え血の繋がりがなくたって、俺達は心で繋がってる」
「………うん」
「俺はお前のことを忘れない。だから、もし奇跡が起きて、また逢えたなら────」
「うん。もしまた逢えたら、その時は一緒に────」
「「サッカーやろうぜ!!」」
俺から離れて、こちらへ手を振りながら光に包まれるカノンの姿を、手を振り返しながら目に焼きつける。その姿を、決して忘れないように。
光が収まり、カノンの姿は完全に無くなった。降っていた手を下ろして空を見上げる。日が沈み、赤みがかった空。今も未来も変わらないであろう空を、カノンも見ているのかと思うと、感慨深い気持ちになる。
「行ってしまったね」
「ああ」
こちらに声を掛けながら、アフロディが俺の横に立ち、同じ様に空を見上げる。
「正直、色々あり過ぎてまだ頭が追いつかないよ」
「確かに怒涛の展開だったよなぁ」
世宇子中で練習してたらいきなりオーガが現れて、試合をすることになって。全然歯が立たなくてもうダメだって時にカノンが来て、豪炎寺とシュウが来て。
………こうして羅列してみると訳分かんねぇな。ツッコミどころは満載だが、どうにか無事に乗り切れてよかったぜ。
「………ところで、円堂君」
「ん?」
「考えないようにしていたんだが、やっぱり見て見ぬふりはできないかなと思ってね……」
やけに言いにくそう、というか若干顔が青ざめているアフロディに嫌な予感を覚える。何かあったか?
「
「………え」
アフロディの視線の先を追うと、そこには芝が焼け落ちて地面が抉れ、ゴールもひしゃげて、挙句の果てには豪炎寺の最後のシュートによって破壊されたスタジアムの姿が………
「修繕費とか、相当な額になると思うんだけど……」
「 」
………え、いや、待ってくれ。あれって俺達のせいじゃないよな?……いや、オーガは俺のことを狙ってきたんだから、やったのは豪炎寺でも元を正せば俺が原因ということに……。
………………………………………………。
「アフロディ、俺達は何も知らない。何も見ていない。いいな」
「えっ」
「さあ、すっかり遅くなっちゃったからな。さっさと帰ろうぜ!」
「円堂君!?現実逃避はよくないぞ!?」
「うるせぇ!!俺は知らんぞ!!やった本人はもう居ないんだから俺達には関係ない!!」
幸い豪炎寺の張っていた結界のおかげで近隣の住宅への被害はない。今のご時世なら、エイリア学園に罪を擦り付けられるはずだ。誰も目撃者が居ない今なら、逃げれば誰にも分からん!!
「よし、ダッシュで帰るぞ皆!!俺に続けぇ!!」
「円堂君ーーー!?」
「よっ………と」
行きに通って来た道を何とか辿りながら、無事に元の時代に戻って来れた。深い森が生い茂るゴッドエデンの懐かしい景色を見ながら、内心で胸を撫で下ろす。時間逆行なんてするのは初めてだったから少し不安だったが、なんとかなってよかったな。
「悪かったな、シュウ。無理矢理付き合わせちまって」
「悪い?お前がそんな殊勝なことを思うはずないだろ。思ってもないことを口に出すな」
シュウの相変わらずの毒舌に苦笑する。個人的にはもう少し態度を軟化させてほしいところだが、過去の自分の所業を思い返せば自業自得という他ない。
「もう二度とその顔を見ないで済む様に願ってるよ」
そう言ってシュウはゴッドエデンの森の中へ消えていった。別れる度に同じ様なことを言われているが、もう少しバリエーションはないのだろうか。どうせ定期的に訪れるのだから、毎回同じことを言われると飽きるというものである。
シュウに知られれば激怒されそうなことを考えながら、自分はどうするか考える。
元々はイタリア近辺でヒデナカタを追っていたので、そっちに戻ってもいいんだが………。
「一度、家に戻るか」
一応、日本に戻って来た際には家に顔を見せるのが父さんとの約束でもある。久しぶりに夕香の顔も見たいし、丁度いいかもな。
「それにしても────」
この時代に戻る前に、過去の円堂に言われた言葉を思い出す。
『何かあったら、お前の時代の俺に相談してやれよ。お前からしたら俺は弱いかもしれないけど、きっとお前に置いてかれないように、必死で走ってるはずだからさ』
今の俺の事情なんて何一つ知らないはずなのに、俺の内心を僅かでも察してるのは素直に驚きだ。俺のプレーから何か感じ取ったのだろうか?
それまでも分かってはいたが、やっぱり円堂だなとしみじみ思ってしまった。
瞳を閉じれば、まるで昨日のことのように、円堂と勝負した日のことを思い出せる。あの日、全身全霊のシュートを受け止められ、呆然とする俺に、あいつは言った。
『最強?強くなり過ぎた?ふざけんなよ。自惚れんのも大概にしろ。お前よりも強い奴なんて、探せば居るに決まってんだろ。そんなに世界は小さくねぇぞ。大体なぁ、忘れんじゃねぇよ!!お前の全力を受け止めてやれる奴が、少なくとも1人、ここに居るぞ!!これまでも………これからもだ!!』
その後、言いたいことぶちまけたら途端にぶっ倒れたのはあいつらしくて笑ってしまうが、とにかく、その言葉は無意識に天狗になっていた俺の鼻をへし折るには十分だった。
あいつが居るから、俺は道を間違えないでいられる。道を踏み外しそうになったとしても、ぶん殴ってでも引き戻してくれると信じてるから、俺は前だけ見て走っていられる。
オーガを操っていた奴が、俺とどんな関係があるのかは分からないけれど、もし俺の子孫とかだったりするのなら、俺にとっての円堂の様な存在が、傍に居てくれることを祈ろう。
豪炎寺は稲妻町を目指し、歩き始めた。居るかどうかも定かではない子孫に想いを馳せながら、そして─────
─────脳裏を過った、最悪の想像から目を逸らしながら。
───???───
「こ、ここは……?」
意識を取り戻したオーガの一員、エスカバが最初に口にしたのはそんな言葉であった。任務で過去へと飛んだ後の記憶がないのも不可解ではあるが、それ以上に自分がどこに居るのか皆目見当もつかない現状は、エスカバから冷静な判断力を奪っていた。
否、エスカバだけではない。同様に意識を取り戻した他のメンバーも、状況を理解できていない。何名かは死んだように眠っているバダップに声を掛けたりしているが、殆どは困惑した様子を隠せない。
「おいエスカバ。どこだここは」
ミストレがエスカバにそう問うが、エスカバとてその質問に対する答えは持ち合わせていない。エスカバの知識には、今自分達が居る場所と思われるものは存在しない。
いや、そもそも
「……俺にも分からッ!!」
分からない。そう言おうとしたエスカバの視線の先に、唐突に人影が浮かび上がる。
逆立てた髪は、色素の抜け落ちた白髪。肌はまるで死体の様に白く、瞳には何の感情も読み取れない闇が広がっている。身に纏っているのはユニフォームの様に見えるが、少なくともエスカバの記憶にはないデザインのものだ。
「豪炎寺……修也……?」
その容貌は、エスカバがデータとして知っていた人物に酷似していた。その男の名前を、思わず呟く。
『当たらずしも遠からず………といったところか』
闇の中に、機械の様に冷たい声が響く。
『だが、お前達がその先を知る必要は無い』
男の身体から、周囲の闇よりも更に色濃い暗黒が溢れ出す。
『お前達にはまだ利用価値がある。来るべき時まで、眠っていろ』
不気味に蠢く暗黒の炎が、凄まじい速度でオーガを飲み込み、次の瞬間にはそこには誰の姿も無かった。
『オーガもプロトコルオメガも愚かなものだ』
『過去を変えることはできない。過去に干渉した時点で、それは枝分かれした世界を一つ増やしているだけだというのに』
『自らの選択を、否定することはできない』
『犯した過ちを、無かったことにはできない』
『背負った十字架を、放棄することは許されない』
『まだ足りない。もっと強くなれ。世界の誰よりも強く』
『そして、いつか──────』
未来円堂
豪炎寺の全力のシュートを受け止めたということで株が上がり続けていたが、実際には止めれたのは奇跡に近い。おまけに全ての気を使い果たした反動で3日程生死の境を彷徨った。勢いで豪炎寺に啖呵を切ってしまったが、次は死ぬのではと戦々恐々としている。
最後の方に出てきた奴
オーガを操っていた男。豪炎寺と瓜二つの外見をしている。
現時点ではこれ以上の開示できる情報はない。
次回からは本筋の雷門サイドに戻ります。