原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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話が進まん……。


漫遊寺の悪戯小僧

「今回の予告先は、京都の漫遊寺中よ」

「漫遊寺中?」

 

北海道での文字通り、命懸けの特訓を乗り越えた一同は、エイリア学園からの襲撃予告があったという情報の元、京都へと向かっていた。

 

「聞いたことない学校だな」

「確かフットボールフロンティアにも参加してなかったわね」

 

この場に少林が居れば、それはもう詳しく漫遊寺中について語ってくれただろうが、残念ながら彼はこの場には居ない。

キャラバンの中からちらほらと聞こえてくる疑問に答えるように、瞳子が漫遊寺について話し出す。

 

「漫遊寺中は、学校のモットーが心と体を鍛えることで、サッカー部も対校試合はしないのよ。でも、フットボールフロンティアに参加していれば、間違いなく優勝候補の一つとなっていただろうと言われる、実力のあるチームよ」

「漫遊寺のことは俺も知っている」

 

優勝候補という言葉に皆が驚く中、瞳子の言葉に続くように鬼道も漫遊寺のことを口にする。

 

「真偽はともかく、一部ではフットボールフロンティアの表の優勝校が帝国であれば、裏の優勝校は漫遊寺と言う者も居たからな」

「そ、それって帝国と同じくらい強いってことでヤンスか?」

「そんなチームがあったのか……」

 

雷門イレブンは帝国学園の強さをよく知っている。だからこそ、漫遊寺がそれほどの評価を得ているというのは衝撃だった。

だが、鬼道の隣に座っている男はその評価を鼻で笑った。

 

「何を言うかと思えば、帝国なんぞが引き合いに出される時点で、そいつらの実力はたかが知れているだろう。何を驚く必要がある?」

 

わざわざ名前を出すまでもないが、つまらなそうに窓の外の景色を眺めながらそんな事を言うのは吹雪士郎。

北海道でのあれこれを得てキャラバンに加わった新たな仲間である。

 

「おい吹雪、ここには帝国の奴も居るんだぞ。何もそんな言い方しなくてもいいだろ」

「だが事実だろう。ドーピングに頼るような無能共に二桁失点で敗北したチームが、未だに高い評価を得ている方が私からすれば驚きだがな」

「お前なぁ……!!」

「やめろ染岡」

 

ライバルを貶されたことに憤る染岡であったが、当の帝国のキャプテンである鬼道にそれを制され、渋々引き下がる。それを確認した後、鬼道は隣に座る吹雪へと目を向ける。

 

「何だ鬼道。お前も何か言いたいことがあるのか」

「……いや、帝国が世宇子に惨敗したのは事実だ。お前の言い分を否定するつもりはない」

 

無論本心では反論したくて堪らない鬼道だったが、ここでそんな口論をしたところで、場の空気を悪化させるだけなのは分かっている。だから、鬼道が吹雪に問うのは別のことだ。

 

「それよりも……今回、漫遊寺に襲撃予告を出したチームについて、お前が知っていることを話せ。ここに居る者の中で、奴らを直接見たことがあるのはお前だけだろう」

 

鬼道は漫遊寺に襲撃予告を出したイプシロンのことは勿論知っている。だが、それは本来なら知りえない知識だ。故に吹雪に情報の開示を求める。ジェミニストームを倒した際に、吹雪はイプシロンと対峙しているはずだからだ。

鬼道の意図を察したのか、景色を眺めていた吹雪が振り返る。

 

「……私も多くは知らん。私が聞いたのはイプシロンというチーム名と、ファーストランクとかいう地位を自称していたことぐらいだ」

 

吹雪としてもこれぐらいしか言えることはないのだ。知りすぎていても不自然に思われる故に、当たり障りの無いことしか言えない。そもそも話す必要性を吹雪が感じていないというのもあるが。

しかしそんな僅かな情報でも、吹雪以外のメンバーには引っ掛かる言葉があった。

 

「ファーストランク?確かプロミネンスはマスターランクとか言ってなかったか?」

「それであってたはずだ。言葉の意味からするとマスターランクの方が上だろうから、そのイプシロンって奴らはプロミネンスよりは弱いってことか?」

 

帝国学園でのバーンの言葉を思い返しながら、そんな議論をし始める一同だったが、吹雪はそれを聞いて黙ってはいられなかった。

 

「待て。プロミネンスだと?お前達、私が倒したあの雑魚共以外にも戦ったチームがあったのか?」

「ああ。順を追って話そう────」

 

原作の流れから考えても、雷門はジェミニストームとの試合経験しかないと思っていた吹雪からすれば完全に寝耳に水である。ジェミニストームの襲撃時に北海道に居なかったのも、自分を含むイレギュラーの存在によって時期がズレた結果だと吹雪は判断していたのだ。

そんな吹雪の驚きようは鬼道にはよく理解できた。自分も同じ立場だったなら、耳を疑っただろう。

鬼道は吹雪に、雷門のこれまでの道筋を順を追って説明していく。無論、他のメンバーが居ることも考慮し、円堂と豪炎寺がグランの襲撃にあったことなどは伏せたが。

プロミネンスとの試合の顛末までを聞き終えた吹雪は、難しい顔をして何かを考え始めた。

吹雪が今の話を聞いて何を思ったかは鬼道には分からなかったが、完全に自分の世界に入り込んだ様子から、これ以上は話し掛けても無駄だと判断し、未だイプシロンに関して話し合う周りの声を聞きながら、ゆっくりと瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか……のんびりしてるな?」

「襲撃予告なんて全然気にしてない感じ……」

 

北海道から京都までのかなりの長距離の移動ではあったが、適宜休憩や息抜きの特訓などを挟みつつ、一行は無事に漫遊寺中までやって来た。

そこで彼等が目にしたのは、楽しげに会話を交わす女子生徒や武道の型の練習をしている男子生徒の姿。その光景は平和そのもので、とてもつい先日に襲撃予告を受けたとは思えない。

 

「とにかく、サッカー部を探そう」

 

近くに居た生徒にサッカー部に聞いたところ、奥の道場をサッカー部が使っているらしいので、ひとまずそこを目指し歩き出す。

漫遊寺の校舎は一般の学校のそれとはかなり違っており、外見は完全に寺である。珍しいその外観に目を引かれながらも奥へと進んでいくと、蹴球道場と書かれた看板が入り口に提げられた建物が見えてくる。

 

「お、あれじゃないか?」

「みたいだな。さっさと行こうぜ」

 

そう言い、何故か先頭を早足で歩き始めた不動であったが、その矢先に盛大に足を滑らせ、まるでギャグの様に音を立てながらひっくり返った。

 

「お、おい!?大丈夫か、不動?」

「痛ぇ……何だこの床……」

 

不動が顔を顰めながら見ている場所は、他の場所と比べて少し色が違っていた。それを見た木野が床を触り、あることに気づく。

 

「これ、ワックスじゃないかしら」

「はあ?ワックスぅ?何でそんなもんがこんな所に────」

 

 

「うっしっし!ざまぁみろ!」

 

 

木野の言葉に不動が疑問の声を上げると、横合いからそんな言葉が響いた。一同が声がした方を見ると、何やら岩陰から漫遊寺の生徒らしき、外に跳ねた藍色の髪が特徴的な小柄な少年が顔を覗かせている。

 

「引っ掛かってやんの!フットボールフロンティアで優勝したからっていい気になって!こんなのに気づかないなんて実は大したことないんじゃないの?」

「んだとぉ……」

 

あまりに分かりやすい挑発であったが、そこは割とチョロい性格をしている不動である。少年の思惑通りに怒りを露わにし、廊下の柵を乗り越え、少年の元へ向かおうとし────

 

「待て、不動」

 

不意に聞こえたその声に動きを止める。振り返ると吹雪が呆れた様な様子を見せながら、不動を見ている。

 

「そいつを追うのは勝手だが、降りるなら真下ではなく少し位置をズラせ。落とし穴があるぞ」

「は?」

 

吹雪の指摘を聞き、地面を見る不動。すると確かに、今まさに不動が降りようとした場所だけ、周りと比べて若干違和感がある。

 

「チッ……」

 

それに加えて、やり取りを聞いていた少年が舌打ちをしたことが決定的であった。

そしてそんな時であった。近くから誰かの名前を呼ぶ声が響いたのは。

 

「木暮ーーーッ!!」

「!!まずッ!!」

 

その声を聞いた少年の反応は早かった。軽い身のこなしで柵や岩を飛び越え、木の幹を蹴って反動で勢いをつけ、あっという間に姿を消した。

 

「な、なんだったんだ……」

「まったく……ちょっと目を話したらすぐにサボって……」

 

一同が呆気に取られていると、サッカーボールを脇に抱えた、オレンジ色の手拭いを頭に巻いた漫遊寺の生徒が、ぶつぶつと何やら呟きながら、奥の道場の方から歩いてくる。その生徒は雷門イレブンに気づくと駆け足で近寄り、深々と頭を下げた。

 

「すいません、お客人。私はサッカー部のキャプテンをしている垣田と申します。先程はうちの部員が失礼をしました」

「うちの部員?ってことは……あいつサッカー部なのか?」

「ええ。木暮と言うんですが────」

 

 

 

 

風丸と垣田の会話を聞きながら、鬼道は吹雪に先程のやり取りで気になったことを聞いてみた。

 

「吹雪、お前何故あの場所に落とし穴があると分かった?」

 

鬼道も原作の知識から、落とし穴があるかもしれないとは思ったが、あれほどはっきりと断定はできなかった。にも関わらず、吹雪は確信を持って落とし穴の存在を口にしていた。鬼道はそれが引っ掛かったのだ。

 

「あの位置に僅かではあるが、あの小僧の気が残っていたからな。気を流して地形を探ってみたら落とし穴を見つけただけだ」

「さらりとよく分からんことをしているなお前……」

 

初めて聞いた気の活用法に感心すればいいのか、呆れればいいのか分からない鬼道である。少なくとも地形探査の技術はサッカーには間違っても必要ない。

 

「それよりもあの小僧、悪くない身のこなしだった。荒削りだが、鍛え方次第では使える駒になるやもしれん」

「お前がそんなことを言うとは意外だな」

「当然だろう?現状の戦力は万全とは言い難い。後顧の憂いを断つ為にも、予備の駒はどれだけあってもいい」

 

相変わらず選手を駒扱いして話す吹雪に、あまり良い感情は持てない鬼道であったが、ここであることに思い至る。

 

吹雪は口を開けばとことん高圧的で、会話をすれば実にナチュラルに相手を見下し、貶し、罵る。だが、曲がりなりにも自身に近い存在であると認めているのか、鬼道にだけはほんの少しだけ態度が軟化する。

それを周りも感じているのか、キャラバンの中でも吹雪の隣の席を押し付けられたし、今もこうして皆の少し後ろを並んで歩いて、会話をしている。

 

────俺、自然とこいつの相手をする係になってないか?

 

それに気づき戦慄する鬼道。冗談ではない。こんなサイコ野郎に振り回されるのは御免である。問題児に振り回されるのは円堂の役目であろう。

 

────円堂がいずれ戻ってきたら、どうにかしてこいつの担当を押し付けねば……。

 

時に自分も振り回す側になることを全く自覚せず、そんなことを考え始める鬼道であった。


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