原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

97 / 107
10月終わるまでに間に合わなかった……。


月下の語らい

あの後、一同は垣田にサッカー部の道場へと案内され、そこで漫遊寺のサッカー部にエイリア学園との戦いに協力する旨を伝えた。

しかし、漫遊寺のサッカー部はこれを拒否。彼等曰く、自分達がサッカーをするのはあくまでも身体と心を鍛える為であり、争う為ではない。例えエイリア学園が相手であっても、話し合えば分かり合える。これが彼等の主張であった。

当然、染岡や風丸達はこれに強く反論した。雷門の面々はエイリア学園の恐ろしさを身に染みて知っている。幾多の学校を破壊してきた残虐さも、その実力も。到底話し合いなど通じる相手ではないと、言葉を尽くした。

だが、漫遊寺のサッカー部員達はその言葉を聞いても考えを変えることはなく、むしろ雷門がそのようなことになったのは心に邪念があったからであり、心を無にして接すれば必ず通じると言って反論し、それ以上は聞く耳を持たず、交渉はそのまま決裂した。

その後、一同は気持ちを切り替え、練習場所を探すことに。時間は掛かったが、漫遊寺中の近くの河川敷に練習ができそうなスペースを見つけることができたが、既に日が暮れてきていた為、練習は明日からということになり、夕食を取った後は談笑をしたり、1人でボールを蹴る者が居たり、それぞれが様々なことをしながら時間を潰し、明日の練習に備えて早めに就寝となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝袋に入ってからしばらく経ち、周りが皆寝静まったのを見計らって俺はキャラバンの外へ抜け出した。

原作でもそうだったが、木暮の身の上を垣田から聞かされてから春奈の様子が少しおかしい。ということは恐らく───

 

────やはり、な。

 

キャラバンに背を預ける様に座り込んでいる春奈の姿を見つける。幼い頃に親に裏切られたという木暮の境遇を自分と重ねてしまい、思うところがあったのだろう。これは原作でもあったシーンだ。兄妹の絆を感じられる中々良い時間であったと記憶している。

しかし、春奈に原作の鬼道がしたように話し掛けるとして、何と声を掛ければいいのだろうか。さすがに原作と同じ距離感で話せるほど、俺は春奈と打ち解けれていない。完全に自業自得であるし、今も無理に話し掛ける必要はないのだが、いい加減春奈とも向き合わなければならないだろう。資格が無いだのなんだのと言い訳をするのはもう止める。

 

「……眠れないのか?」

「……お兄……ちゃん?」

 

軽く深呼吸をし、意を決して言葉を発する。春奈は俺に気づいていなかったようで、俺の声にびくりと体を震わせる。………しまった。先に近づいて顔を合わせてから話すべきだったか。

いきなり自分の行動に反省点を見出しているうちに、振り返った春奈は自分に声を掛けたのが俺であることに信じられない様な表情で目を丸くしている。………今までの態度がアレだっただけに仕方ないことではあるが、改めてこういう反応をされると少し傷つくな。

驚きに固まった春奈に苦笑しつつ、少し間を空けて俺も腰を下ろす。お互いにすぐには口を開かず、無言の時間が流れる。

 

「木暮のことが気になるのか」

「……あの子の気持ち、分かるような気がして」

 

口に出してから、この言い方では恋愛的に気になってるのか聞いてるみたいじゃないかと思い至り、少し焦ってしまったが、春奈は俺の意図を正確に察してくれたようでほっとする。

 

「お母さんとお父さんが事故で亡くなったっていうのは、分かってた。頭では分かってたけど………裏切られたって気がして……」

「………」

 

両親が亡くなって間もない頃の春奈は、現実を受け入れられず、兄に縋り付き、泣きじゃくっていた。そんな妹を、何も言わず抱き締め、全てを受け止めていた兄の姿。俺の記憶の中にある、俺ではない、本当の鬼道有人の姿。

 

「もしお兄ちゃんが居なかったら、私だってあの子みたいに────」

「それは違う」

 

続けられた春奈の言葉を、黙って聞いていることは俺にはできなかった。その考えを、肯定してやる訳にはいかない。

 

「お前は強い。お前は俺なんて居なくても、立派に生きてきた。音無の家で、雷門で。……こんな俺なんかより、お前はずっと強い人間だ。だから、そんな風に自分を疑うのは止めろ」

「………ありがとう。ねえ、お兄ちゃん」

「何だ?」

「………ふふっ」

 

小さな笑い声が聞こえて、何かおかしいことでもあったのかと横を見れば、春奈は心底嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 

「春奈?」

「お兄ちゃん、私………お兄ちゃんを、お兄ちゃんって呼んでも、いいんだね?」

「────」

 

目尻に涙を溜めてそう言う春奈を前に、俺は以前までの自分の彼女に対する言動を改めて思い返した。

 

『お前の知ってる俺は、もうどこにも居ないんだよ』

『俺はお前の兄ではない』

 

冷たく突き放し、繋がりを否定し続けてきた。傷つけ続けてきた。

そんな奴が急に心を入れ替えて兄貴面をするなど笑わせる。こうやって話をする前に、しなければいけないことがあった。

並んで座っていた体勢をずらし、春奈に正面から向き合う。そして、深く頭を下げる。

 

「春奈。今まですまなかった。俺の自分勝手な考えで、ずっとお前を遠ざけてきたこと、どんなに謝っても謝り切れない。煮るなり焼くなり、好きにしてくれていい。………だが、もしお前が許してくれるのなら、一度だけでいい。俺にお前と兄妹としてやり直すチャンスをくれ。頼む」

 

判決が下されるのを待つ罪人の様な気分で、心からの誠意を込めて言葉を発する。頭を下げたまま、春奈の答えを待つ。

例え春奈がどんな意思を示したとしても、俺は甘んじてそれを受け入れる。この先、共に居られなくなるようなことがあろうとも。

そんなことはないと思いつつも、後ろ向きな考えを抱き、それを否定することができない自分に情けなさを感じていると、少しだけ離れていた距離を、春奈が詰めてきたのが分かった。拳を握り、身構えていると、俺の背に手が回され、冷たくなっていた体に温もりが伝わる。

抱きしめられている。そう気づくのに、時間は掛からなかった。

 

「佐久間さんの……言う通りだった……」

「……?」

 

俺の耳元で春奈が零した呟きに疑問を覚え、顔を上げる。何故このタイミングで佐久間の名前が出るのか。というか2人は何か関わりがあったのだろうか?

 

「北海道に向かう前、お兄ちゃん入院してたでしょ?その時に、佐久間さんが言ってたの。お兄ちゃんは何の理由も無く家族を蔑ろにするような人じゃないって。話し合えば、きっと分かり合えるって」

 

佐久間がそんなことを?………そういえば、随分前に佐久間には妹が居ることを話したことがあった気がする。まださほど親しくもなかった頃の、他愛も無い会話の中で話しただけの妹のことを、あいつはずっと覚えていたのだろうか。

世宇子の時にも思ったが、春奈のことだけでなく、佐久間は俺のことを本当によく見ている。きっと、俺の気づかないところでも色々と世話を焼いてくれていたのだろう。エイリア学園のことが片付いたら、きちんと礼を言おう。

 

「………チャンスなんて、いらない」

 

春奈の発した言葉に、思考を引き戻される。潤んだ瞳が、しっかりと俺の姿を捉えていた。

 

「だって……そんなもの無くたって………私は、ずっと────

 

 

 

 

────お兄ちゃんの、妹だから」

 

その言葉と共に向けられた春奈の表情は、幼い頃に見て以来、ずっと見ることのなかった、満面の笑顔だった。

胸に込み上げてくる様々な感情を飲み込みながら、春奈の体を抱きしめ返す。

 

「────ああ。そうだったな。俺も……いや、俺は────

 

 

 

────お前の兄だ」

 

 

長いすれ違いの末に、ようやく分かり合えた兄妹を、夜の空に浮かぶ月の光が、優しく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ戻るか?」

「私もう少しここに居る。お兄ちゃんは先に戻ってて」

「分かった。だが、夜は冷える。あまり遅くなり過ぎないようにな」

「うん」

 

あれから少しだけ取り留めのない話をした後、俺はその場を後にした。

正直に言えばもっと色々なことを話したいところだが、そのせいで春奈と木暮のやり取りを潰してしまうのも申し訳なく感じる。別に原作を守らなきゃならない、なんて思っている訳ではないが、これから時間はいくらでもある。少しずつ、失った時間を取り戻していけばいい。

だから、俺が今から話をしなければいけないのは春奈ではない。

 

春菜に不審がられることがないよう、キャラバンに戻るふりをしつつ、俺はキャラバンを停めてある脇の森の中へと足を踏み入れる。

しばらく進み、多少大きな声を出してもキャラバンに届かない場所で足を止め、そいつに声を掛ける。

 

「盗み聞きとは趣味が悪いな────吹雪」

「なんだ。気付いていたのか」

 

まるで悪びれた様子もなく、木陰から姿を見せる吹雪に思わず視線が鋭くなる。春奈との会話は聞かれて不味いのものではないが、だからといって盗み聞きされて気分を害さないはずもない。

 

「何を白々しい。途中であからさまに気配を漏らしたくせに」

「いや、何。あまりにも滑稽な会話だったものでな。つい笑ってしまったのだ」

「滑稽だと……?」

「そうだろう?何が兄妹だ。くだらん。血が繋がっていようが、所詮は他人。何故そこまで想い合えるのか理解に苦しむ」

「……兄妹は家族だ。他人じゃない。大体、お前にだって信じられる人が一人くらい────」

「居ない」

 

居るんじゃないか。そう言おうとしたのを遮った吹雪の瞳を見てぞっとする。信じられない程に熱が感じられない、まるで氷のように冷たい瞳。

 

「私にそんな者は居ない。必要ない。今も、昔も、これからも」

 

その言葉には、とてつもない圧が込められていた。どこか、自分に言い含めているようにも感じられるその言葉に気圧されていると、吹雪が背を向け、話はもう済んだとでも言わんばかりにキャラバンへと戻ろうとする。俺はそれを呼び止めた。

 

「待て吹雪!」

「……何だ」

「これだけ聞かせてくれ。お前は、俺と同じ転生者だと思っていいのかどうか」

 

確信を持って問い掛ける。他の者が居る前では聞けないことであるし、まず間違いないだろうが、一応これだけははっきりさせておく必要がある。

 

「………そうであるとも言えるが、そうでないとも言える」

「……えっ」

 

予想に反する曖昧な返答に困惑する俺を、振り向いた吹雪の視線が捉える。先程までのような圧は消えていたが、相変わらずそこに友好的な感情は見られない。

 

「鬼道、お前の言う転生者の定義とは何だ?」

「それは……」

 

俺はその問いにすぐに答えることができなかった。円堂と話している時も、転生者の定義など考えたことはなかった。

 

「イナズマイレブンというゲームやアニメの知識を記憶として持つ者か?それとも、異なる世界で生きた魂を持つ存在か?少なくとも、後者であるのなら、吹雪士郎の名を持つ転生者なんて存在は、もうこの世の何処にも存在しない」

 

それは………どういう意味だろうか?転生者ではないと言っているようだが、吹雪は俺の問いにはそうであるとも言えると答えていた。それに、今の言い方では、かつては転生者と呼べる存在が別にいたかのような………。

 

「………じゃあ、お前は何なんだ」

 

俺の言葉に、吹雪は薄い笑みを浮かべて答える。

 

「私は誰でもない。だからこそ、私はただ完璧であればいいのさ」

 

 

 

今度こそキャラバンへと戻っていく吹雪に、鬼道はそれ以上は何も言えず、鬼道に新たな謎を残し、夜は更けていった。




強引に展開を変えたい時に豪炎寺が便利なように、文字数稼ぎたいとか思ってたら気づいたら吹雪を書いている。
お前ら出しゃばってくるんじゃねぇ……!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。