原作を壊したくない円堂守の奮闘記   作:雪見ダイフク

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イプシロン襲来

 

「ごめんね、お兄ちゃん。こんな事頼んじゃって……」

「気にするな。俺もあいつの事は気になっていたからな」

 

春奈と和解し、吹雪から意味深な事を聞かされたりと随分濃い一夜を明かした翌日、俺は早朝から春奈に頼まれ漫遊寺のグラウンドを訪れていた。

そこには準備万端といった様子でこちらを待つ木暮の姿がある。どうやら無事にあの後、アニメと同じような展開になったらしいな。木暮の相手をしていたのは古株さんだった気がするが、何故か俺になったらしい。

まあ、春奈の頼みを断る気もないし、木暮の事が気になっていたのも嘘ではない。この際、しっかりと実力を見極めてやるとしよう。

 

「俺からボールを奪ってみろ。………できるものならな」

「や、やってやる……!!みてろよ……!!」

 

古株さん相手には割と強気な態度を取っていた気がするが、俺が来て緊張でもしているのか、明らかに体に力が入ってしまっている木暮を見かねて少しだけ挑発的な物言いを付け加える。

………少しは効果があったようだが、まだ硬いな。だが、動いていればそのうち気にならなくなるか。

 

「いいわよ!」

 

春奈のその言葉を合図に、木暮は地を蹴りこちらへ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様。お兄ちゃん」

「ああ、ありがとう」

 

春奈から手渡されたスポーツドリンクを呷り一息つく。あれから二時間程ぶっ通しで木暮の相手をしていたが、スタミナは一級品だな。今も俺の休憩が終わるのが待ち遠しいと言わんばかりにこちらを見ている。

 

「それで、どう?お兄ちゃん。木暮君は」

「そうだな……」

 

さて、どう答えたものか……。

 

「………瞬発力や持久力といった身体能力はそれなりだな。パワーこそ無いが、それは体格的にも仕方ない。それより問題なのは技術力の無さだな」

 

長い間、道場の掃除等の雑用を通じて身に付けたスタミナは全国的に見ても上位に位置するだろうし、スピードや判断力も悪くない。だがボールを奪いに来る際も正面から突っ込んで来るだけで、寧ろスピードに振り回されている印象すら覚える。しかし、改善しようとも対人経験の無さからくる技術の欠如は如何ともし難い。そういったものは一朝一夕で身に付くものではない。勿論、中には僅かな期間でそれを覆す才能の持ち主も居るだろうが、木暮はそういったタイプではないだろう。

〈旋風陣〉を既に習得している可能性も考えていたが、木暮に関しては原作との乖離は無いと断じていいだろう。そうなると今チームに加入したところで、周りについていくのは難しいか。そもそも人数が不足している訳でもなく、実力の足りない木暮を加入させる意味合いも薄い。

とはいえ将来的な事も考えれば加入させた方がいいのは間違いないのだが────。

 

「おい!いつまで休憩してんだよ!」

 

木暮のその声で思考に入り込んでいた意識が引き戻される。………どうなるにせよ、今は納得がいくまで付き合ってやるか。

 

「待たせたな。今行く………!?」

 

苦笑を浮かべつつ、木暮の方へ向かおうと一歩を踏み出すと同時に、どこからともなく、紫がかった怪しげな黒い霧が辺りに漂い始める。

そして、ふと視線を感じて振り返り、漫遊寺の校舎の上に佇むエイリア学園の選手を見つける。

強膜部分が黒く染まった瞳に尖った耳、長い黒髪をマフラーの様に首に巻き付けたその男の名はデザーム。エイリア学園ファーストランクチーム、イプシロンのキャプテン。

倒すべき敵が、無表情に俺を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「漫遊寺との試合を見たところ、スピードで押してきたジェミニストームとは違い、イプシロンは的確に相手のFWを封じて攻撃を削いでくる。漫遊寺が敗れたのは自分達のプレーをさせてもらえなかったからよ。

貴方達もそれを頭に入れておいて。それにある程度戦い方を知れたとはいえ、全てを晒した訳ではないはずよ。だから前半は守りを固めて相手の出方を────」

 

姿を表したエイリア学園ファーストランクチーム、イプシロン。漫遊寺は彼等に対して対話による解決を試みるも、イプシロンが校舎を破壊するという回答を示し、交渉は決裂した。

その後、漫遊寺はイプシロンとの試合を行うも、実力差は大きく、為す術ないまま、10分と持たずに試合続行不可能な状態に追い込まれ敗北した。

勝者たるイプシロンは漫遊寺の校舎の本格的な破壊に踏み込もうとするが、雷門が代わりに試合をするとチームを代表して風丸が主張。イプシロンのキャプテンであるデザームがこれを受け入れ、雷門とイプシロンの試合を行う事が決まった。

 

「待ちなさい、吹雪君。まだ話は終わっていないわよ」

 

現在はイプシロンとの試合における作戦を瞳子がチームに伝えていたのだが、その途中で吹雪が背を向けた事に気付き、瞳子がそれを呼び止める。

 

「おい女。お前は何か勘違いしているようだな」

 

周りに背を向けたまま、吹雪が話し始める。目上の人間であるはずの瞳子に対して、相変わらず失礼極まりない態度であるが、瞳子もそれは今は飲み込む。

 

「勘違い?どういう事かしら?」

「あの胡散臭い輩共との戦いに手を貸すとは言ったが、お前の指示に従ってやると言った覚えはない。そもそも、何故お前如きの指示に私が大人しく従ってやらねばならんのだ」

「…………吹雪君、今の貴方は雷門の一員なの。勝手な事をされてはチームの足並みを乱す事になるわ。それぐらい貴方も分かるでしょう」

「だから何だと言うのだ。私がお前達に合わせるのではない。お前達が私に従えばいいのだ」

「待ちなさい、吹雪君!!まだ話は……ッ!!」

 

自分が舐められている事に関しては今は捨て置き、チームの事を考えろと吹雪を諭す瞳子だったが、吹雪は我関せずと言った態度で一人ピッチに向かう。顔を顰め、頭痛を覚えて頭を押さえた瞳子を責めるのは酷というものだろう。

 

「か、監督?どうするんですか……?」

「………守備を優先する方針は一先ずそのままでいいわ。吹雪君の指示も方針から大きく外れるものであれば無視しなさい。ただし、鬼道君、染岡君。貴方達二人はできる限り吹雪君のフォローに入ってくれるかしら。勿論攻め上がっても構わないから」

 

未だ頭痛は治まっていないものの、チームに改めて作戦を皆に伝える瞳子。しかし、その内容の一部に疑問の声が上がる。

 

「え、いいんですか?監督」

「先取点を取る事ができるのであれば、それに越した事はないもの。吹雪君に一人で任せておくよりはましよ。不動君、貴方は三人が突出し過ぎないように、チーム全体のバランスをとって。できるわね?」

「へいへい。分かりましたよ」

「頼むわね。後は────」

「み、皆さん!!あ、あれ見てください!?」

 

頭の後ろで腕を組みながら、了承の返事を返す不動を見て一つ頷き、続けて話出そうとした瞳子を遮るように、目金の慌てた声が響く。何事かと目金が指差す方向へと目を向けた一同であったが、予想外の光景を目にして思わず固まる。

既にピッチに散らばったイプシロン。そのゴール前に立つキーパーのデザームと至近距離で睨み合う吹雪の姿に、瞳子は胃まで痛くなってきた気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だお前は」

「気に入らんな。お前のこちらを値踏みするようなその眼。加えて頭が高い。誰の許しを得て私を見下ろしている」

 

周囲のイプシロンの選手達が己に向ける殺気も全く気にせず、普段の調子を崩さない吹雪。もし円堂がこの場に居れば、身長的に仕方なくないか?といったツッコミが入ったかもしれない台詞を吐いているが、完全にただのいちゃもんである。それもかなり面倒臭い類の。

 

「……確かジェミニストームを倒したのはお前だったか。奴等を倒した程度で随分と思い上がっているようだな?」

「思い上がる?それは其方の方だろう。地を這う蟻の矮小な牙が、天を舞う龍に届くと思っているのだからな」

「フッ、自らを龍に例えるか。面白い。大言壮語でなければ少しは楽しませてもらえそうだな」

「ああ。だから」

 

吹雪はデザームの眼前に右手の指を三本立てて突き付ける。

 

「3分だ」

「何?」

「3分で思い知らせてやろう。私とお前の格の違いを」

「………クッ、フフ……フハハハハッ!!」

 

デザームは吹雪の言葉を聞き、愉快げに笑う。

 

「漫遊寺中は6分で片付けた。我々に歯向かい続ける雷門イレブン、そしてジェミニストームを倒したお前を称え、更に短い時間で決着を着ける気でいたが…………いいだろう。お前が力を示す事ができたなら、最後まで相手をしてやる」

「その言葉、忘れるなよ」

 

デザームに背を向け、自陣へと向かう吹雪。だが数歩歩いた辺りで足を止め、背を向けたままデザームに釘を刺す。

 

「どうなろうと、途中で逃げられると思うなよ。そんな事は例え天が許しても、私が許さん」

「…………」

 

デザームは吹雪の言葉に沈黙を返す。吹雪も特に何か返事を求めてはいなかったのだろう。気にした様子もなく自陣の自分のポジションにつく。

 

「お前達、いつまでやっているのだ。さっさとしろ」

 

自分が見られている事に気づいた吹雪が煩わしげに眉を顰めながらそう宣う。しかし、あわや一触即発かと冷や冷やしながら見守っていた一同からすれば、何事もなくよかったと安心していたところにこれである。

 

「じ、自由過ぎる………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門もそれぞれポジションにつき、試合開始を待つ。今回のフォーメーションは前回の白恋戦の目金のポジションを吹雪に置き換えた形となる。

 

古株が試合開始の笛を吹き、鬼道のキックオフで試合開始。染岡はちらりと吹雪を一度見るが、そちらではなくサイドの風丸へとパスを送る。

パスを出した染岡と鬼道はイプシロン陣内に入り込むが、中盤から染岡にはファドラとクリプトが、鬼道にはスオームとメトロンがそれぞれマークにつく。

風丸にもケンビルがスライディングタックルを仕掛けるが、風丸はこれを跳躍して躱しそのまま空中で不動へとパスを出す。

が、このパスは吹雪にカットされた。

 

「なっ!?」

 

思わず声を上げる不動を無視して、ボールを持った吹雪はそのままドリブルでイプシロン陣内へと切り込んでいく。

 

「吹雪!パスを出せ!………おい、吹雪!!」

 

風丸がパスを要求するも、これも当然のように無視し、FWの二人のマークに中盤の人数が割かれているのをいい事にそのまま単独で中央突破を図る。

それを阻止しようとイプシロンのDFであるタイタンとケイソンが立ちはだかるが、吹雪はこれを意にも介さずあっさりと突破してしまう。

 

「この俺を躱しただと!?」

「少しばかり図体がでかいだけの木偶に、私が止められるものか」

 

驚愕の声を上げるタイタンを一蹴し、吹雪はそのままシュート体勢に入る。

空中で回転を掛けられたボールを中心に、豪雪が吹き荒れる。ピッチに片手をついた体勢から吹雪が回転しつつ跳躍、右足でシュートを放つ。

 

「エターナルブリザード」

 

このシュートに対し、キーパーであるデザームは右手を天に翳す。すると右手に気が集中していき、次の瞬間にはデザームの右手は巨大なドリルと化していた。

 

「ドリルスマッシャー……V2!!」

 

高速で回転するドリルをシュートに向かって叩きつけるデザーム。その衝突は一瞬だけは拮抗したように見えた。

だが、ボールが纏う極寒の冷気は、それに触れるドリルを瞬く間に凍りつかせていく。やがて根本まで完全に凍ってしまったドリルは粉々に砕け散り、ボールは驚愕に目を見開くデザームの体ごとゴールネットに突き刺さった。

 

「そ、そんな……!?」

「デザーム様が……!!」

 

デザームが敗れた事に動揺するイプシロンの選手達を尻目に、ゴールに倒れ込むデザームの前まで歩み寄った吹雪が嘲るように口角を吊り上げる。

 

「1分で充分だったな」

 




プロットの破壊神、豪炎寺&吹雪

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