ソードアート・オンライン ~剣舞う剣豪~ 作:☆さくらもち♪
《始まりの街》中心部はソードアート・オンラインの初ログイン時の初期位置であり、天の姿もそこにはあった。
長い黒髪に少し目にかかる程度の前髪。
それによって隠れつつも辺りを見回す蒼い目。
そしてなによりも見た目だけでいえば美少女であり、小動物をイメージさせる小柄な印象。
それが天の作り上げたSAOでのアバターであった。
最も天自身がゲームそのものをやる性質ではなかったため、現実世界での容姿をそのまま持ってきただけなのだが。
「すごい……すごいすごい!」
現実世界でもまともに外の世界を見ていなかった天にとってはSAOの世界ですら新鮮味があった。
空に手を伸ばせば届かない位置にある太陽や雲。
そして外だからこそ感じ取れる陽光の温もり。
「えっと……でも、これどうすればいいんだろう」
初見での楽しみを終えると天はこれから何をすればいいのか分からず、あたふたとしていた。
一般的な人であれば武器を手に入れてフィールドへと繰り出すのだろうが、天にとってはそれすらも分からない。
どうしようかと途方に暮れていると天の肩を軽く叩いてくる者がいた。
「っ……!」
咄嗟に反応でその方向へ振り向きながら距離を取る。
「わっ、ごめんよ。驚かせるつもりじゃなかったんだ」
「そう、ですか」
相手は紺色という特徴的な髪を持つ少女だった。
天の方が背が低いため、少しばかり少女を見上げる形になる。
本当に驚かせるつもりじゃなかったようで、苦笑しながらも謝っているその言葉からは嘘は感じ取れなかった。
「君ってまだ始めたばかりかな?」
「はい、そうです」
「じゃあボクと一緒にフィールドに出てみない?」
天にとってはその提案は魅力的だった。
だが本当に大丈夫なのかが未だ判断つかないのも事実だった。
「何をすればいいのか、全く分からないんですが」
「えーっと……じゃあ武器から買っていこう?」
「……わかりました」
いざとなれば姿を眩ませればいいと判断すると天は少女についていくことにした。
「あっ!自己紹介がまだだったね。ボクの名前は『
「『
「よろしく!アマネ!」
そう言ってパッと笑顔になった少女の表情は周りの男性プレイヤーも見惚れていたぐらいに美しく可愛らしかった。
アマネもそれに見惚れかけるも無表情を装ってなんてことなく対応した。
始まりの街の商店街にやってきた二人はそこで武具屋を見つけると向かっていった。
「アマネは何の武器を使うの?」
「何を使ったらいいんでしょうか」
「うーん……ボクも初めてだからよく分からないんだよね」
ごめんよ、としょんぼりとしたユウキの仕草にくすっと笑いながらも様々な武器を実際に手に取って扱っていた。
最もしっくり来たのが片手剣、その次に刀だった。
いつかそのうち使ってみたいと思いながらも刀を諦めて片手剣を買うとユウキも同じく片手剣を選んでいた。
「結局それにしたの?」
「はい、一番扱いやすいとあったので」
「そっか。じゃあ戦ってみよう!」
ユウキに手を握られるとその勢いに引かれながら二人は街から出れる門を抜ける。
周りには青いイノシシがおり、遠目にはそのイノシシと戦っているプレイヤーの姿もあった。
アマネが近場にいた青いイノシシに目を向けるとその頭上からカーソルが出ていた。
「……そういう」
青イノシシのフレンジーボアはアマネ達を見つけると勢いよく走って向かってくる。
「ユウキさん、あれ」
「は、走ってくる!」
「いや、多分なんとかなります」
何もわかっていないアマネでもSAOの仕様は何となく理解はしていた。
魔法というものが一切存在せず、剣のみで戦いを行う。
そして魔法の代わりに『ソードスキル』という剣の技を繰り出せることは分かっていた。
片手剣を武具屋の所で軽く振っていた時にソードスキルの出し方なども覚えていた。
「えっと……こう、かな」
まっすぐ片手剣を向けるとシステムが検知し、ソードスキルが立ち上がるのを感覚が理解した。
「はぁぁぁぁ!」
向かってくるボアめがけてソードスキルで迎撃するとHPが無くなったボアは姿を四散して消えた。
「これ……すごいな」
プログラムをただ提供しただけだが、それだけでもこの凄さを理解できる者は少ないだろう。
人間の身体の動きを熟知していなければ特定のモーションによる出来事を行えはしない。
茅場彰彦はまさに天才というべき人物だった。
「アマネ!今のどうやったの!?」
先ほどのアマネの様子を見ていたユウキは興奮しながらもやり方をアマネから聞いてボアにそれを行おうとした。
だが、中々ソードスキルが立ち上がらなかった。
「うーん……難しい」
「力が変に入ってるからかもしれません、少し力を抜きながら剣を持つ力だけは維持してみてください」
アマネの助言をしっかりと聞き入れながらもう一度行うと今度はユウキの剣がスキルを立ち上げる。
そして一瞬にしてボアを倒していた。
「おぉぉ!すっごい!すごいよ!ありがとうアマネ!」
自分自身の手で倒せたことが嬉しかったユウキはそれを手伝ってくれたアマネに飛びついてはしゃぎながら喜んだ。
「この調子でどんどん他のもやってみます?」
「うん!やろうやろう!」
夕方になるまで二人はフィールドで戦い続けているとレベルも相応に上がっていった。
疲れが出始めた頃合いに街に戻ろうと話をしていると、街の方から鐘の音が鳴った。
「なんの音だろ?」
「鐘の音ですね、でもなんで…」
そう話していると二人は光に呑まれる。
それが収まって辺りを見れば元いた『始まりの街』の中心部だった。
「どういう…」
わざわざこんな大げさなことをせずとも普通に伝えればいいと考えていると空が急に赤く染まっていく。
≪System announcement≫と赤く表示されたものが空を覆っており、隙間から垂れてくるように赤い液体が落ちてくる。
それはそのまま地に落ちず、空中で集まり形を作ると赤いローブの人型が形作られた。
『ようこそ、私の世界へ』
『私の名前は茅場彰彦。この世界のゲームマスターだ』
何故このように大っぴらに出てきたのか。
その理由はすぐに紡がれた。
『君たちは既にログアウトボタンが消えていることを把握していることだろう。そして私が出てきたのはその修正を伝える為だと』
『だが、これは仕様だ』
『もう一度告げよう。ログアウトボタンが無いのはソードアート・オンライン本来の仕様である』
アマネもそれを確認すべくメニューを出して一番下にあるログアウトボタンを確認すると告げられた通り存在しなかった。
『そして現実世界の外部からの干渉も一切存在しないと断言しておこう』
茅場が大きくスクリーンに表示させてきたのはある番組のニュースだった。
そこにはSAOによって引き起こされた惨劇と、その末路が報道されていた。
『もしも君たちがこの先モンスターの戦いにおいてHPが0になった瞬間、現実世界でのナーヴギアが電磁パルスによって君たちの脳を即座に焼き切ることだろう』
『現に数百ものプレイヤーが警告を無視し、ソードアート・オンライン及び現実世界からも永久退場をしている』
『ではどうすればこの世界から抜け出すことができるのか』
『ここアインクラッド城の第100層のボスを倒すことが出来れば君たちはすぐにでも現実世界へと帰還出来ることを保証しよう』
ベータテストにおいても辿りつけた階層がそこまで多くはなかった事。
そして強制的にSAOという世界で命の危機を覚えなければならなくなった事。
そういった様々な出来事がプレイヤー達の中ではじけた。
『今からこの世界で生きていくために君たちにささやかながらプレゼントを贈らせていただいた。確認してほしい』
アマネはプレゼントを見ると中には『手鏡』が入っていた。
それを手に取ってみるとただ自分の姿が映っているだけ、かと思えばいきなり鏡から光が溢れ出す。
それは周りのプレイヤーも同じで、悲鳴も聞こえていた。
「なに……」
もう一度鏡を確認するとなにも変化がなかった。
強いて言えば少しばかり身体が縮んだような感覚があったが、それも誤差の範囲だった。
しかし周りのプレイヤーはそうではなかった。
女性の格好をしていた男性で、逆に男性の格好をしていた者が女性だったりと。
「あぁ、だから意味がなかったのか」
アマネが作ったアバターは現実世界での自分自身を出来る限り近づけたもの。
手鏡の効果である
『何故?何故、天才物理学者『茅場彰彦』はこのような事をしただろうと、みなは思うだろう』
『私の目的は既に達成されている。私が作り上げたこの世界に君たちがやってきた時点で』
『以上で、ソードアート・オンライン正式リリースのチュートリアルを終える』
そこからはアマネは把握していない。
暴言と悲鳴などが中心部からずっと聞こえ続けており、アマネはそれから逃げるように始まりの街から逃亡した。
その時は必死で、ただひたすら逃げた。
また聞くことが無いように遠くへと。