ありふれた調律者は異世界にて   作:凡人EX

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伏線的なのを大量に張る回です。

キャラ崩壊……と言うより、誰おま注意です。


番外・調律者のまいた種

 オルクス大迷宮から無事に脱出した勇者達は、王城に帰還し、オルクス大迷宮での出来事を話した。

 

 まず、新たに発見されたトラップの事。20階層のあのトラップは、あまりに危険だからだ。

 

 そして、カムラとメルが落ちた事の報告。

 

 オルクス大迷宮でのメルの死(実際には超元気だが)は、王国内でかなりの衝撃だった。

 

 メルは、便利屋界隈では超がつく有名人である。便利屋最高峰の名門、パーシマリイ家の長女にして、本人も家族に負けず劣らず優秀な便利屋。いわゆる天才美少女として、その名は知れ渡っている。

 

 オルクス大迷宮に潜れる程の実力者である事も知られているので、先のトラップによって命を落としたと言う報告は、彼女をよく頼っていた王国としてもかなり応えたらしい。

 

 カムラに関してだが、教会が裏で手を引いていたこともあり、不穏分子として認識されていた彼の死には、誰もが胸を撫で下ろした。

 

 曰く、「勇者達を内側から瓦解させる危険分子」

 

 また曰く、「人類、ひいてはエヒト様を敵に回す愚か者」

 

 ぶっちゃけどちらも完全な間違いではないが、とにかく王国の貴族達はカムラが恐ろしかったらしい。

 

 ちなみに、そんなのを呼んだエヒトに対して恨みつらみが出ることは無かった。教会が、神が与えた試練として大きく喧伝したからだ。それで収まるあたり、信仰は本物なのかもしれない。

 

 表立って態度に示すことは無かったが、誰もがその死に安堵した……

 

『彼の死は、此度の戦争において、人間族の勝率を半分以上下げるのと同等だと考えています』

 

 報告するメルドの発言は、貴族達の頭上にハテナを浮かばせた。

 

『彼はかの伝説の冒険者達でも敵わなかった魔物を、一人で圧倒していました……それも、おそらく本気を出していない状態で。我々騎士団や勇者達が束になってかかっても、彼は歯牙にもかけないでしょう。それ程までに、彼の力は圧倒的でした』

 

『それに、これは私見でしかありませんが、彼は言われているほど悪意の強い人物では無いと思われます。おそらく、上手く頼み込めば、彼は我々に力を貸してくれたかもしれません。今となっては、迷宮の底に落ちてしまったので、確かめようはありませんが』

 

 そう聞いた王国は更に混乱した。主に、やっちまったという感情から。

 

 

───────────────────────

 

「団長も悪だな、アイツが協力するわけねぇのに」

 

「うーむ、そうは言われてもだな……坊主が居ないうちに悪名だけが広がるのは、複雑でな……」

 

 愉快そうに笑う幸利と、バツの悪そうな顔で話すメルド。

 

 幸利は、先にカムラから様々な話を聞いている。世界の真実や、カムラが神を引きずり下ろすために立てた計画の事。

 

 その上で頼まれている事があり、実行に移しているのだ。その為に、メルドを含めて何人かを招集した。まだ来ていないが。

 

 メルドはメルドで、世界の真実を既にカムラから聞かされている。

 

 カムラは、メルドの葛藤に気づいていた。自分より若い者達を戦争に駆り出して良いのか。神の使いとして扱っても良いのか。

 

 そして、神への信仰心が揺らいでいる所に、真実を教え、協力を取り付けた。神に背いてでも、勇者達を守る事を約束させたのだ。

 

 メルドは、最初はバカバカしいと切り捨てた。しかしカムラの話は、自分の疑問に的確な答えを導き出し、その後のカムラの問いかけによって、協力する事を決めたのだ。

 

 

「『既に気づいているというのに何故動かない? それが貴様の目指す物なのか?』……ってか。アイツホントにそういうの上手だな。人の葛藤に決定的な言葉をぶち込んでくるんだからよ」

 

「……坊主に操られているような気がしてならんが……本来、私達の戦争であると言うのに、エヒト様はお前達を呼んだ。その時からおかしいと思っていたんだ。しかし……それを見破られるとは思っていなかったな」

 

「心につけ込んだりするのはアイツの十八番だからな……」

 

 親友の顔を思い浮かべる。回想の中でさえも、悪辣な笑みを浮かべている様な気さえした。

 

 

───────────────────────

 

「さて、アイツに頼まれた人達は集まったな」

 

 時は夜、場所はメルドの仕事部屋。幸利が呼んだ、すなわちカムラが呼んだのは、恵里、メルド、愛子、そして……

 

「ねぇ幸利。何でコイツもいるの?」

 

 コイツこと、天之河光輝であった。愛子がコイツ呼ばわりを諌めるも、聞かれていない。

 

 光輝も光輝で気にしていないようだ。むしろ、かなり不機嫌で、かついつものキラキラオーラが幾分か無くなっている様子に、恵里も愛子も、メルドでさえも意外そうである。

 

「さあな、アイツの考えは俺にもよく分からん。まあとにかく、夜分遅くに付き合わせてしまって申し訳ない」

 

「いえ、それは良いのですが……その、虚時君やメルさんが、クラスメイトの誰かの手で迷宮の奥に落とされたというのは、本当なんですね?」

 

 信じたくないと言うように問う愛子。答えたのは恵里だった。

 

「残念ながら間違いないね。見てたから犯人に聞いたんだけど、しっかりと認めてたよ」

 

 それを聞いて愛子は気絶しそうになるが、幸利が闇魔法で意識を無理やり覚醒させる。コイツも中々鬼畜である。

 

 

 実は、愛子も先にカムラから世界の真実を聞かされているのだ。その上で、カムラはとある提案を持ちかけた。

 

『貴様の大事な生徒達を救いたくば、貴様が動くしかあるまいな』

 

 カムラは、愛子の天職である“作農師”に目をつけた。作農師とは文字通り、農業関係において絶大な影響を与えられる職業だ。

 

 しかもこれ、かなりレアな天職であり、また異世界から召喚された故か、戦争についてまわる糧食問題を完璧にカバーできる程に高い性能となっている。

 

 カムラが頼んだのは、その能力で愛子自身の発言力を上げることだった。

 

『私やメルは確実に教会の敵になる。その時に備えて力をつけてほしい。それに、王国は確実に生徒達に戦争への参加を強制させる。それを退けるためにも、貴様の発言力というのは重要になってくるだろうな』

 

 との事。ぶっちゃけカムラだけで事足りるかもしれないが、メルや香織の事もあるので万全を期しておきたかったのだ。

 

 最初、愛子は猛反発した。愛子からすれば、カムラとて大事な生徒なのだ。そんな彼が世界を相手に戦うなど、いくらなんでも無茶としか思えなく、許容などできようはずもなかったのだ。

 

 しかも愛子は、カムラの異常な強さを知っていてなお反対した。そのあたり、彼女の“生徒達に危険な目にあってほしくない”という想いは本物なのだろう。

 

 最終的に、『守るだけでは無かろう。生徒を信じるのも教師の役割ではないかね?』と言われてぐうの音も出なくなったが。

 

 しかし、王国の指示に従って農地開拓などをやり、帰ってきた矢先のお通夜ムードである。聞いてみればカムラやメルが奈落に落ち、死んだという。

 

 ぶっ倒れかけたところを、幸利が招集したのだ。『アイツなら生きてますよ』と。ただし、同時に生徒が殺人を起こした(殺されたという二人は今頃魚みたいな魔物を食べている)事も伝えられ、今に至るまで悶々と過ごしていたということだ。

 

 

「ちなみに、犯人の手綱は僕が握ってるよ〜。暫くは僕の奴隷みたいなものじゃないかな?」

 

「……おい待て、お前達は犯人が誰だかわかっているのか?」

 

 実の所、生徒達は誰があの火球を打ったのかというのを知らない。皆の注目は、カムラの下へ走るメルや倒れ伏したベヒモスに向いていたからだ。

 

 犯人を知っているのは、幸利、恵里、香織、そして光輝の四人である。幸利は事前に計画を聞いていたから。恵里はその観察眼から。香織はカムラの言葉でその人物を警戒していたため。光輝は何となく当たりが着いており、確かめたら案の定といったところか。

 

「え? そりゃあ勿論。だって見てたし」

 

「カムラはそいつに、自分を打つように誘導したかったらしい。まあ、結果メルさんがやられた訳だが。流石に予想外だったみたいだな」

 

「……人を利用しようとするとああなるんだ。色々な物を他人に押し付けてきたからよく分かるよ」

 

「……ねぇ待って、光輝君マジでどうしたの?」

 

「別に。アイツが俺を呼んだって聞いてろくな事にならないなって思って絶望しているだけだよ」

 

 やはりというか、光輝が暗い。照明を全部消した夜の部屋位に暗い。普段とは真逆と言ってもいいかもしれない。

 

「まあ、誰が殺したかをハッキリさせるって言うのはやめろってカムラは言ってたな」

 

「何故だ?」

 

「自分が殺したかもしれないってのを擦り付けるためらしい。あくまでも、死を覚悟して乗り越えろっていう話だし、どちらになっても文句は言うな、ってとこだろうな」

 

「ちなみに、僕は犯人の監視を頼まれてるんだ〜。一線を超えて歯止めが効かなくなった可能性もあるからね」

 

 思案顔になるメルドと、暗い顔になる愛子。「そんなことより」と話題を変える幸利。

 

「とにかく、メルド団長は生徒達の保護を、愛子先生は引き続き農地開拓なり何なり頑張ってってところか。ああ後、メルド団長へは『使い所を見誤るな』とも」

 

「任せろ、お前達を生かす為に使う事を誓おう」

 

「私が行動しないといけませんしね。皆の為に頑張りますよ!」

 

 メルドの言葉は何とも頼もしい。愛子は例の頑張るぞいなポーズで気合いを入れているため何とも可愛らしい。

 

「んで、恵里はアレの監視と、結局何して欲しいのかってのを決めとけってさ」

 

「アハハ、律儀〜。うん、どっちもやっとくよ」

 

「天之河は……コレ、手紙を預かってる」

 

「……」

 

 訝しげな表情で手紙を受け取る光輝。早速開けて内容を確認すると、めちゃくちゃ嫌そうな顔になった。

 

「……俺、やっぱりカムラが嫌いだ」

 

「……カムラが嫌いってお前が言ったら、『安心しろ、私も貴様だけは嫌いだ』って伝えろって言われたわ……オイオイ、嫌悪感増し増しじゃねぇか。どうしたよお前ら」

 

 普段の八方美人な光輝からは考えられない言葉だ。しかし、ハッキリと光輝は、カムラが嫌いだと言った。しかも、カムラも光輝をハッキリ嫌いと言ったという。そんな二人に驚きを隠せない愛子。

 

「あ、天之河君……?」

 

「……気にしないでください。色々と確執があるんです、アイツとは。手紙には、とりあえず勇者しとけみたいな事が書かれてた。できることも無いし、従うよ」

 

 唖然とする皆を後目に、光輝は用はないと立ち去っていった。

 

「……うっそでしょ、あの人間大好きなカムラが嫌いって言ってたの?」

 

「間違いない。ポーカーフェイスが崩れるぐらい嫌いらしい……アイツのあんな顔見た事無いわ、超怖かった」

 

 

 ───────────────────────

 

『勇者として戦うのはいいが……何時まで迷っている? 何時までその仮面をつけているつもりだ?』

 

「……」

 

『認めないだけ無駄だ。理想だけでは何も救えはしない。事実として、貴様は皆を殺そうとしているのだぞ?』

 

「……わかってる」

 

 カムラが、俺に言いたい事はわかってる。

 

 ずっと迷ってる。おじいちゃんが死んでから……カムラに出会って、衝突して……

 

 最初からそうだ。流石にそこまでバカじゃない。皆を巻き込んだ事も、今まで俺の正しさで皆が振り回されて来たことも。その度に、俺を責める俺がいるから。

 

 それでもやめないのは、俺の、子供以下の我儘だ。

 

「……俺は、お前を認めない」

 

 

 ───────────────────────

 

 檜山は恐怖していた。カムラ達を狙った火球は、確かに檜山の物だった。

 

 オルクス大迷宮に挑む前の日の夜。性根が臆病な檜山は、翌日の大迷宮への挑戦を前に緊張し、落ち着こうと外に出ていた時、香織が、ネグリジェ姿でどこかへ向かうのを見た。見蕩れていると、香織はこちらに気付くことなく歩いて行く。

 

 何処へ向かうのか気になり、ストーカーしていたら、香織はある部屋の前で立ち止まった。そこは……カムラの部屋だった。

 

 そこから先の記憶は無いが、それだけで檜山は理解した。香織は、カムラに恋情を抱いていると。普段からの態度の理由も、理解してしまった。

 

 檜山はそれが許容できなかった。光輝の様な人物ならば、所詮は住む世界が違うと諦められた。しかし、カムラは社交性が欠片も無いし、香織に迷惑をかけておいて態度を直しもしない人間のクズだ。それなら自分でもいいじゃないかと、頭がおかしいことを、自分を棚上げして本気で思っていた。

 

 グランツ鉱石を手に入れようと動いたのも、その焦りがあったのだろう。そしてベヒモスと戦うカムラを見て……悪魔に魂を売った。

 

 カムラに魔法が効かないことは知っているので、恐らく主人を迎えに行ったのであろうメルを狙い、カムラがそちらに気を取られている隙に橋を壊した、というのが一連の流れである。

 

 ただ、人を殺したという実感に恐怖している、という訳では無い。

 

「な……何なんだよアイツ……俺、俺は、香織の為にやったんだ……な、なのに……」

 

 彼を責めた恵里に対して、恐怖を感じているのである。

 

『そんなことしたって、香織は手に入らないのにねぇ……あの程度でカムラが死ぬわけないし、無駄だったってわけだよ。ねぇ、どんな気分? 欲しかった人の好きな人を殺した気分は。それでも手に入らないってわかった今の気分はどう? 知ってる? 君が二人を落としたの、香織は知ってるんだよ? ……アッハハハ、何その顔、気づかれてないって本気で思ってたの? そんなわけないじゃん、香織は君がどんな風な目で自分を見てるかって知ってるんだよ? カムラの事をよく思ってないって事も。そりゃあ警戒されるよねぇ、アハハハハ!』

 

 淡々と話す恵里の声は、水底に溜まる泥の様に深く沈み、その瞳は、カムラに引けを取らないほどに、闇を湛えていた。

 

『……ねぇ、人殺しさん。僕が上手く言っておこうか? 香織は僕の言う事は蔑ろにはしないよ? 勿論、暫くは僕の言う事聞いて貰うけど……ああ、そんなに難しい事は言わないよ。僕も欲しいものがあるから、それを手に入れる準備を手伝ってってだけ』

 

「……………………い、いや、アイツに従っていれば、後はどうとでもなる……ここまで来て、やめるわけにはいかないんだ……ヒ、ヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒヒ」

 

 狂った様に笑う檜山。その目は、欲望が渦巻いていた。

 

 

 ───────────────────────

 

「家族みたいに育ってきた奴を、面と向かって嫌いって言われたのがそんなに嫌か?」

 

「……寧ろ、幸利はどうなの? 親友を嫌いって言われたんだよ?」

 

「あー、別に何とも。そんなもん千差万別だってことはわかりきってるだろ?」

 

「そうかも、しれないけどさ」

 

「その調子だと、どうせ檜山にもボロクソ言ったんだろ。キレてる時、カムラみたいになるからなお前」

 

「……あの女を追い返す時に、色々教えてもらったんだ。渋々って感じだったけどね」

 

「量産型か何かか?」

 

「条件さえ揃った人間なら自分みたいにできるって言ってた」

 

「……」

 

「カムラがとんでもないのは今更でしょ?」

 

「……いや、そうじゃなくて。恵里はその条件を満たしてたんだなぁ、と」

 

「ああ、うん。自殺を考えるぐらい心がボロボロだったからね。あの時カムラが来てくれてなかったら、多分川に飛び降りてたよ」

 

「……何か、スマン」

 

「大丈夫。もう終わった事だから」

 

 

 ───────────────────────

 

「……香織」

 

「なあに? 雫ちゃん」

 

「あなた、これからどうするの?」

 

「……暫くは迷宮で頑張る。カムラ君は待っててって言ってくれたしね」

 

「……その、あの火球は」

 

「事故って事になったね。うん、わかってる」

 

「犯人、知ってるのよね?」

 

「知ってるけど、何もしないよ? どうするかはカムラ君に任せる……けど」

 

「けど?」

 

「もし私が暴走しそうになったら、止めてくれる?」

 

「……ええ、勿論。親友の頼みだもの」

 

「ありがとね」




ああ、タグも増やさないとなぁ……

この小説において、光輝君はカムラ君が関わったおかげで原作よりも闇が深いです、とだけ。
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