ありふれた調律者は異世界にて   作:凡人EX

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原作メインヒロイン、ようやく登場。

チートを通り越した化け物と吸血姫の邂逅をお楽しみください。


調律者、便利屋、吸血姫

 王国から舞台は移り、カムラとメルのいる奈落。二人と一羽はあの後、下に行く階段を見つけ、様々な魔物を食べながら迷宮を攻略していった。

 

 全く光源のない階層では石化させてくるトカゲがいたり、タール状の何かに満たされた階層では気配の察知を妨げる魚がいたり。光源はメルが緑光石を加工してランプを作ったし、魚の気配遮断はカムラには通用しなかった。

 

 更に行くと全体的に毒霧が充満している階層で、毒の痰を吐くカエル(虹色)やこちらを麻痺させてくる蛾(カムラが「モ○ラか」と呟いた)がいた。メルは常に神水を服用しつつ進んだ。やはりというか、カムラには毒が効かなかった。罰鳥は少し苦しそうだったので、神水を少しずつ飲ませてあげた。

 

 魔物も食ったが、カエルより蛾の方が美味しかったことに、かなり悔しい気分になったメルであった。

 

 密林の様な階層では、体の節ごとに分裂して襲ってくる巨大なムカデや、RPGで言うトレントの様な樹の魔物がいた。

 

 ムカデは、メルが悲鳴をあげる程に気持ち悪かった。分裂して来た時、メルの悲鳴が大きくなり、涙目になりながら銃を乱射した。罰鳥がメルをめちゃくちゃつついていた。

 

 メルが泣き止むまで、カムラが慰めていたのは想像に難くないだろう。

 

 トレント擬きだが……コレは全滅させた。倒す度に落とす果実がめちゃくちゃ美味かったからだ。熊の毛皮を使ったリュック(メル作)に入るだけ入れた。時の特異点で保存性もバッチリだ。

 

 メルのステータスは現在、この通りである。

 

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メル・パーシマリイ 15歳 女 レベル:63

 

天職:便利屋

 

筋力:1680

 

体力:1960

 

耐性:1530

 

俊敏:2600

 

魔力:2170

 

魔耐:1920

 

技能:技能習得[+洗練][+期間短縮][+見聞の極]・全属性適正・錬成[+精密錬成][+高速錬成][+鉱物系探査][+鉱物系鑑定]・格闘術[+身体強化][+浸透破壊][+遠当て]・縮地[+重縮地]・先読・剣術・魔力操作・胃酸強化・天歩[+空力][+豪脚]・纏雷・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性

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 元からステータスが高く、便利屋がそもそも戦闘向きでもあるからか、魔物を食べた時のステータスの伸びは著しい。そのうち余裕で三万とかを超えそうである。

 

 更にメルは、途中から新しい武器をカムラから貰った。“紅の傷跡”と言う、手斧と銃のセットだ。銃の使い方はカムラから教わった。メル曰く、「とても使い易い」らしい。

 

 なお、カムラのステータスは変わりないので省略させていただく。

 

 そして、体感的に五十階層は進んだだろうと言う所で、カムラ達はとある異質な扉の前にいた。脇道の突き当りにある空けた場所にある、高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉。その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

 明らかに危険だが、カムラは開けた方がいいと判断した。経験的に、こういった状況では好奇心に任せた方が収穫があると知っているからだ。

 

 何があるのか分からない、なら万全を期して、というメルの進言により、彼らはしばらく体術の修練などを行っていた。

 

 そして今、二人は扉を調べていた。

 

「……壁には見たことの無い魔法陣。しかし、魔力を流すと……」

 

「確実に石像が動き出しますね。今か今かと待ち構えている感じがします」

 

「チュン!」

 

「パニちゃんもこう言ってますし」

 

 定位置となったメルの頭の上で、パニちゃんこと罰鳥が鳴く。よく懐いている。

 

「魔力を使わず、となると、物理でしょうか? カムラ様が何とか出来ますかね?」

 

「いや、物理に頼らずとも開ける方法がある」

 

 メルと罰鳥が頭の上にハテナを浮かべているが気にせず、扉に手を置くカムラ。そして……

 

「妖精よ……」

 

 と呟き、扉に黄金の波動が伝わる。次の瞬間、扉がひとりでに開いた。

 

「……特異点ですか?」

 

「“閉じられたという概念”を強制的に開放するのが“妖精の特異点”だからな。行くぞ」

 

 スタスタと奥へ行ってしまうカムラ。遅れてメルが駆け足でついて行く。

 

 

───────────────────────

 

 部屋は真っ暗で、かなり広い空間らしい。メルは“夜目”によって、カムラは元からの視力で、部屋の全貌を掴んだ。

 

 聖教教会の大神殿で見た、大理石の様な艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして、部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 そのうち、カムラとメルは石の前面の中心辺りに光る何かが生えているのを見つけた。カムラが“魔力の暴走”で調べると、かなり弱っているが、人間らしい。

 

「……だれ?」

 

 不意に、かすれた少女の声がした。ビクリとするメル。

 

「……こんな所に、人?」

 

 ユラユラと、上半身から下と両手を石に埋めたままに動く人。幽霊映画のように、長い金髪が垂れ下がっており、その間からは月の様な紅い瞳が覗いている。

 

「……だれ、でもいい……助けて……もう、もう……ひとりはいや……」

 

「……随分と必死な懇願だな? 何故こんな所にいるのかを話してみろ。面白ければ助けよう」

 

「こんな時まで自分の楽しみを優先する。そこに痺れる憧れる」

 

「……幸利、私だけでなくメルも……」

 

 そんな漫才を繰り広げる二人と、相方の少女の頭の上の鳥に目をぱちくりさせる少女。カムラが「早く話せ」と促すと、たどたどしく話し始める。

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「……波乱万丈ですね。しかし、吸血鬼と言えば数百年前に滅んだはずですが……」

 

「その間、ずっと封印されていたという事だな……してメル、この鉱物は?」

 

「……どうやら、魔力を弾くみたいですね。鉱物系鑑定が通用しません」

 

「ふむ……」

 

 肝心の少女を置いてけぼりにして、立方体の分析を始める二人。少女はまた目をぱちくりさせる。

 

「……助けてくれるの?」

 

「ん? ああ。吸血鬼とやらの話、非常に興味を唆られた。しばし待て……メル、外を注意しておいてくれ。ここで魔力を使えばトラップが発動するやもしれん」

 

「かしこまりました」

 

 メル(と罰鳥)が部屋の外へ出たのを確認し、立方体に手を置く。途端、カムラの体から、部屋の闇よりも暗い漆黒が立ち上った。

 

「吹き荒れろ」

 

 宣言通り、カムラの魔力が嵐の様に暴れる。するとすぐ、立方体がどろりと溶け、少女が重力に従って落ちた。外で何かが雄叫びをあげたが、直後に銃声が響いた。

 

 やがて、魔力に耐えきれず、石が完全に消し飛んでしまった。もったいないことをしたかもしれない。真上から何かの気配がしたが、感知して間髪入れずに柱を飛ばし、ついでに青い斬撃を飛ばした。断末魔と共に血の雨が降った。

 

「目を潰せば余裕でしたね、あの巨人達。銃というのは本当に素晴らしい武器です」

 

「気に入ったようで何よりだ。上の魔物の肉も回収しておこう」

 

 助けられた少女は、怒涛の展開に呆ける事しかできなかった。

 

 

───────────────────────

 

 部屋の外に出て、メルが錬成で作った洞穴に入った三人と一羽。メルは先程の石像の魔物(サイクロプス的な巨人)と、カムラが地面を踏ませずに惨殺した魔物(巨大な蠍型だった)の肉を焼いている。少女は罰鳥をもふもふしている。微笑ましい。

 

 そしてカムラは、先程の部屋で探し物をしていた。興味深い物を見つけたとか何とか。

 

「戻った」

 

「おかえりなさいませ。収穫はありましたか?」

 

「ああ。中々面白い収穫がな」

 

 と言って、手の中の小さな鉱石を見せる。ダイヤモンドの様な輝きを持つ鉱石だ。そして、目をキラキラさせながら罰鳥をもふっている少女へと目を向ける。

 

「……少女よ、貴様に見せたい物がある」

 

「……?」

 

「貴様の叔父の遺言の様な物だ。何故あそこに貴様を封印したのか、というな」

 

「……叔父様が?」

 

 少女の顔が険しくなる。話を聞く限り、裏切った叔父が許せないのだろう。

 

「そう皺を寄せるな……見ておいた方がいい。このままでは貴様も、貴様の叔父もあまりに哀れだ。ああ、メルも見ておけ」

 

「……ん」

 

「はい」

 

 二人が頷いたのを確認し、カムラはその鉱石に魔力を少し流す。すると、金髪紅眼の美丈夫が浮かび上がる。少女とどこか似通った雰囲気の男だ。少女の顔が更に険しくなった事から、やはりこの男は少女の叔父なのだろう。

 

『……アレーティア。久しい、というのは少し違うかな。君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは…………あぁ、違う。こんなことを言いたかったわけじゃない。色々考えてきたというのに、いざ遺言を残すとなると上手く話せない』

 

 映像の中で、自嘲するように苦笑いを浮かべながら、その男は気を取り直すように咳払いをした。

 

『そうだ。まずは礼を言おう。……アレーティア。きっと、今、君の傍には、君が心から信頼する誰かがいるはずだ。少なくとも、変成魔法を手に入れることができ、真のオルクスに挑める強者であって、私の用意したガーディアンから君を見捨てず救い出した者が』

 

 カムラもメルも何も言わない。ただ、男の言葉を聞いている。

 

『……君。私の愛しい姪に寄り添う君よ。君は男性かな? それとも女性だろうか? アレーティアにとって、どんな存在なのだろう? 恋人だろうか? 親友だろうか? あるいは家族だったり、何かの仲間だったりするのだろうか? 直接会って礼を言えないことは申し訳ないが、どうか言わせて欲しい。……ありがとう。その子を救ってくれて、寄り添ってくれて、ありがとう。私の生涯で最大の感謝を捧げる』

 

 少女……アレーティアは微動だにしない。表情が拍子抜けした様な、呆けた様なものになっている。ただ、その眼には歓喜が詰まっている。優しい日の叔父と重なったが故か。

 

『アレーティア。君の胸中は疑問で溢れているだろう。それとも、もう真実を知っているのだろうか。私が何故、あの日、君を傷つけ、あの暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が誰なのか』

 

 そこから語られた話は、アレーティアにとっては意外な、メルにとっては今まで聞いてきた世界の真実に、更に上乗せされる程に重要な話だった。

 

 アレーティアは神子……神の依代として生まれ、神──真名をエヒトルジュエという──に狙われていたこと。

 

 それに気がついた男が、欲に目の眩んだ自分のクーデターにより、アレーティアを殺したと見せかけて奈落に封印し、あの部屋自体を神をも欺く隠蔽空間としたこと。

 

 アレーティアの封印も、僅かにも気配を掴ませないための苦渋の選択であったこと。

 

『君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。だが、奴等を確実に欺く為にも話すべきではないと判断した。私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったのだ』

 

 封印の部屋にも長くいるべきではなかったのだろう。だから、王城でアレーティアを弑逆したと見せかけた後、話す時間もなかったに違いない。

 

 その選択が、どれほど苦渋に満ちたものだったのか、映像の向こうで握り締められる拳の強さが、それを示していた。

 

 それに気づいたアレーティアは、否、気づく前から静かに涙を流していた。

 

『それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。ただ、どうかこれだけは信じて欲しい。知っておいて欲しい』

 

 男の表情が苦しげなものから、泣き笑いのような表情になった。それは、ひどく優しげで、慈愛に満ちていて、同時に、どうしようもないほど悲しみに満ちた表情。

 

『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。──娘のように思っていたんだ』

 

「……おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も……」

 

 父のように思っていた、と。その想いは、ホロホロと頬を伝う涙と共に流れ落ちて言葉にならなかった。だが、罰鳥を抱きしめる腕に、更に力が入ったことが、それを何より雄弁に伝えている。

 

『守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。情けない父親役で済まなかった』

 

「……そんなことっ」

 

 目の前のあるのは過去の映像だ。男……ディンの遺言に過ぎない。だが、そんなことは関係なかった。叫ばずにはいられなかった。

 

 ディンの目尻に光るものが溢れる。だが、彼は決して、それを流そうとはしなかった。グッと堪えながら、愛娘へ一心に言葉を紡ぐ。

 

『傍にいて、いつか君が自分の幸せを掴む姿を見たかった。君の隣に立つ男を一発殴ってやるのが密かな夢だった。そして、その後、酒でも飲み交わして頼むんだ。〝どうか娘をお願いします〟と。アレーティアが選んだ相手だ。きっと、真剣な顔をして確約してくれるに違いない』

 

 夢見るように映像の向こう側で遠くに眼差しを向けるディン。もしかすると、その方向に、過去のアレーティアがいるのかもしれない。

 

『そろそろ、時間だ。もっと色々、話したいことも、伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか作れない』

 

「……やっ、嫌ですっ。叔父さ、お父様!」

 

 記録できる限界が迫っているようで苦笑いするディンに、アレーティアが泣きながら手を伸ばす。叔父の、否、父親の深い深い愛情と、その悲しい程に強靭な覚悟が激しく心を揺さぶる。言葉にならない想いが溢れ出す。

 

 カムラはそっとアレーティアの頭を撫で、メルはその背中を擦る。映像越しの親子の再会を邪魔しないように寄り添う。

 

『もう、私は君の傍にいられないが、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア。最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように』

 

「……お父様っ」

 

 ディンの視線が彷徨う。それはきっと、アレーティアに寄り添う者を想像しているからだろう。

 

『私の最愛に寄り添う君。お願いだ。どんな形でもいい。その子を、世界で一番幸せな女の子にしてやってくれ。どうか、お願いだ』

 

「……その依頼、確かに承りました。パーシマリイ家の誇りにかけて、必ず」

 

「貴様の愛に免じ、この少女が幸せを掴む時まで、共にいるとしよう」

 

 微笑み、頷き、二人は返す。心なしか、罰鳥の顔も決心したように凛々しい。

 

 二人の言葉が届いた訳では無いだろう。だが、確かに、ディンは満足そうに微笑んだ。きっと遠い未来で自分の言葉を聞いた者がどう答えるか確信していたのだろう。色んな意味で、とんでもない人だ。流石は、神と戦い抜いた男というべきか。

 

 映像が薄れていく。ディンの姿が虚空に溶けていく。それはまるで、彼の魂が召されていくかのようで……

 

 三人が、決して離れないと寄り添いながら真っ直ぐ見つめる先で、ディンの最後の言葉が響き渡った。

 

『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように』

 

 

───────────────────────

 

「……親子の情……素晴らしい物だな。私はもう覚えていないが……嗚呼、何処へ行っても、何時になろうとも、それは美しい」

 

「ええ、本当に……実家に帰りたくなってきました。お父様やお母様は元気でしょうか」

 

 グスグスと、罰鳥を抱きしめて泣きじゃくるアレーティアを見ながら、二人はそんな会話を交わす。二人とも、形は違えど親とは久しく会っていない(カムラに関してはもう会えないだろう)。しかし、ディンとアレーティアの様子を見て、懐かしさを憶えずにはいられなかった。

 

 やがて、少女が泣き止んだところで、カムラは話しかける。

 

「アレーティアと言ったな。貴様の叔父……いや、父親は、誰よりも素晴らしい人物だっただろう?」

 

「……ん。凄く誇らしい」

 

「それは良かった……して、アレーティアよ。貴様はこれからどうする?」

 

「……連れて行ってくれないの?」

 

「貴様が望むなら。いや、貴様の父と約束した以上、私もメルも、貴様を放ってはおけん」

 

「……ん、連れて行って。私を幸せにして?」

 

 赤ら顔で、妖艶に微笑みながら、アレーティアは言う。カムラは既視感を覚え、メルに目配せをする。

 

「生粋の女たらしですね、カムラ様は」

 

 ニッコリと笑ってそう返された。つまりは、そういう事だろう。カムラに永久就職するつもりらしい。

 

「……あー、その、何だ。アレーティアよ、その返事は待ってほしい。先客がいるのだ」

 

「ん。大丈夫、いつまでも待つ。何なら三人で美味しくいただく」

 

「不穏な事を言うな、有り得そうで恐ろしい」

 

 好奇心のままに扉を開けてみれば、随分ととんでもないものを背負い込んでしまったらしい。

 

 同時に、ライバルの気配を察知した治癒師の少女が般若を発現させ、親友を戦々恐々とさせた。更に、とある“爪”の少年が思いっきり地面を殴りつけ、立派なクレーターが出来上がった。その顔は憤怒に満ち満ちていた。

 

 しれっと誰かが頭数に入っているが、気にしてはならない。メルの無表情な瞳に情欲が宿ったのも、絶対に察してはならない。

 

 と、今更な事をアレーティアは問うた。

 

「……名前、ちゃんと聞いてない……私はアレーティア。アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール。二人は?」

 

 本当に今更だ。三人ともしっかりと名乗っていなかった。アレーティアは、『名を名乗るなら自分から名乗れ』というツッコミを避けるためか、それともそう教育されてきたからか、先に自分のフルネームを名乗った。

 

「そういえば、確かに自己紹介がまだでしたね。私はメル・パーシマリイ。便利屋で、今はカムラ様のメイドをさせていただいております。アレーティア様が抱いているのはパニちゃんです」

 

「チュン!」

 

「私は虚時カムラ。色々と特異な力を持ってはいるが、気にするな」

 

 二人の名前を、アレーティアは心に刻むように何度も復唱し、顔を上げる。

 

「……ん、これからよろしく」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

「よろしく……さて、いい加減アレーティアの服を作らねばな……」

 

「? ……あ」

 

 実は、今の今まで一糸まとわぬ姿だったアレーティア。12、3歳程度の身体年齢だが、出ているところは出ている。寧ろ、同年代よりは発育がよろしいかもしれない。そんな少女の胸も大事なところも丸見えだった。

 

 先程とは別の意味で顔を紅潮させて、カムラを無言で睨みつけるアレーティア。デリカシーの無い主を呆れた様に見るメル。そして、何が悪いのか分からないといった顔のカムラ。

 

 神を殺すための旅路に、新たな仲間が加わった。




化け物がやって来た結果、先の展開をいくらも先取りする事となりました。調律者なら仕方ない。

というわけで、ユエさんはアレーティアとして生きていきます。ハジメさんに殺されそうですが……
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