ありふれた調律者は異世界にて   作:凡人EX

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今回かなり短いです。


調律者に容赦は無い

 アレーティアが仲間となってから数日、調律者一行は大迷宮探索を続ける。

 

 あの後、アレーティアの服を幻想抽出によって作り出したのだが……なんというか、所謂魔法少女の様な服なのだ。ピンク色がかなり目立つ。幸利辺りが物凄い反応を示すかもしれない。

 

 なお、アレーティア本人は可愛いと気に入ってくれた。彼女自身魔法にずば抜けた才があるので、違和感という点では特にない。ついでなのでステッキも作った。

 

 ……大元は、実際に魔法少女として戦っていた少女の物なのだが。

 

 その魔法少女は愛と正義の名のもとに戦っていたが、その少女の愛は、どこか脅迫的な物だった。その少女の正義は、自らが悪になる事を厭わない物だった。否、正義を守るために悪となる事を、少女は選んだ。

 

 カムラが聞いた話はそこまでだ。幾らか存在する魔法少女達の話を、頭に所属していた際に資料を見聞きしただけの、知識だけの物である。

 

 そんな少女が使っていた装備一式なので、アレーティアに悪影響を及ぼす可能性も無くはない。

 

 それはメルにも言えることで、メルに与えた手斧と銃も、狼に凄まじい怨念を持つ赤ずきんの少女の装備が元だ。狼を見て暴走しないか心配である。

 

 

 とはいえ、二人共かなりの練度で使いこなしてくれている。

 

 メルは元々短剣を使っていたのもあり、手斧への順応が早かった。銃への適正も相当なもので、最近秒間6発打ちを見せてくれた。

 

 アレーティアは、元から魔法陣や詠唱なく上級魔法を連発できる程の魔法適正が、カムラの与えたステッキと、かなり親和性が高い物だった。

 

 ステッキから星型の何かを連射し、ついでと言わんばかりに炎属性最上級魔法、“蒼天”を放つなど、ファンシーかつ爽快な戦いぶりだ。カムラは暇だ。

 

 ついでに、アレーティアは吸血鬼の先祖返りというだけあり、血液によって魔力を急速に回復する事ができる。血液の提供者はメルだ。

 

 カムラの血も吸った事があったのだが……

 

『……あ? え? 何……私……あえ? ……あ、あ、あ、これ、なに? なにもみえない? わかる? わからない? わからない……わたし……』

 

 等と、細かく痙攣しながら支離滅裂な言葉を発し始めたので、すかさず時の特異点で巻き戻した。カムラの見解では、

 

『私の血を通して深淵を覗きかけたのだろう。私の魂に染み付いた幻想が、体をも蝕んでいる、とも言えるかもしれないな』

 

 らしい。こんなもん摂取し続けたら、いつかアレーティアが壊れるので、メルの血を定期的に飲んでいる。こちらは魔物を食べたせいかとても濃厚らしい。

 

 

 ───────────────────────

 

「「「………………」」」

 

 アレーティアと出会った階層から、更に潜った一行。160センチはある草が特徴的な草原の階層にて、三人と一羽は息を潜めていた。三人は困惑していた。何故なら……

 

「随分と可愛らしい花ですね」

 

「……ん、お花畑」

 

「土壌ではなく恐竜の頭から生えているがな」

 

「チュン……」

 

 その草原には、頭から可憐な花をちょこんと生やした、トリケラトプスもどきやらティラノサウルスもどきやらの魔物が何体もいたからだ。

 

 ドシン、ドシンと地面を踏みしめる度、頭の花がフリフリと揺れる。凄く……気が抜ける。

 

「和みますが……なぜあんな花が?」

 

「……イジメ?」

 

「いや、流石にイジメは無かろう……洗脳でもされているのではないかね? かつて、自らの花粉を浴びた人間を同種へと変える木がいた。似たような物やもしれんな」

 

 と、カムラが予想を述べ終えると、何を思ったのかメルは花に向けて銃を撃った。バァン!! と清々しい銃声がなり響き、放たれた弾丸は音速を超え、トリケラトプスもどきの頭の花を散らした。

 

 花を撃たれたトリケラトプスもどきは、一瞬ビクッ!! と痙攣し、その場に倒れてしまった。

 

「……花が本体の可能性も出てきましたね」

 

「さてな。まだ脈はありそうだ」

 

「……イジメられて殺されて……哀れ」

 

「イジメから離れんか」

 

 倒れ伏したトリケラもどきを見つめながら各々こぼす。ただ、カムラの言う通り生きてはいるだろう。痙攣が止まっていないが。

 

 やがてトリケラもどきは何事も無かったかの様に起き上がり、辺りをキョロキョロと見回す。そして、足下に花を見つけると、これでもかと何度も踏みつけ始めた。

 

 一通り踏みつけた後に上げた顔は、心なしかスッキリしていた。相当鬱憤が溜まっていたらしい。そして、カムラ達を見つけて目を見開いた。

 

「“緋槍”」

 

 すぐにアレーティアの火属性魔法によって頭を撃ち抜れた。

 

「親の仇の様に必死でしたね」

 

「本当にイジメやもしれんな……む?」

 

 何かに気がついたカムラ。アレーティアを撫でる手を止め、二人を脇に抱え、飛んでいた罰鳥を頭に乗せた。

 

 そして軽く跳躍し、着地点に柱を召喚、それに乗り、柱を射出した。イメージとしては○白白だろうか。あの様に飛んでいる。音速を超えようかという速度だが、どういう訳か身体への負担は無い。

 

「か、カムラ様?」

 

「……急にどうしたの?」

 

「チュン!」

 

「いや、あのままいれば囲まれてしまっていたのでね。この階層、どうやら相当にあの花の被害が大きいらしい」

 

「全ての魔物があの花を咲かせている、という事ですか?」

 

「確証は無いが、指揮をする魔物がいるのは確かだ。多数の気配が我々の方に向かっていたからな。この階層を支配する魔物がいるのだろう」

 

「……じゃあ、どうするの?」

 

「簡単だ、ここを焼き払う。中心からやってしまえばどうとでもなろう……貴様らが強すぎて、最近私が暇なのもあるがね」

 

 そう語るカムラ。その瞳には、獰猛さが微塵も隠すことなく表れていた。相当暇だったらしい。メルもアレーティアも、その獰猛さに顔を蕩けさせた。彼女達も相当末期である。

 

 

 ───────────────────────

 

 おあつらえ向きに、階層の中心には大樹があった。柱はその中心に突き刺さった。

 

「さて、ここから全てを焼き尽くしてくれようか……“幻想抽出”」

 

 カムラは右手を前に掲げる。掌の先に、視覚では捉えられない光が集まる……

 

 トータスでも、地球でもない世界。虚時カムラが、カムラとして生きていた世界。何処かに確かに存在する世界。その中心にある、生と死の原型より、カムラは幻想を汲み取る。汲み取った幻想に姿を、現世に存在するための形を与えてやるのだ。

 

 ……五感で捉えられる様になった光はやがて収まり、人類が夢見た物の一端が、カムラの手の中に出来上がった。幻想が、この世界に現れた。

 

 それは、火の着いた十本のマッチだった。それを見たカムラは、一つ頷いて眼下の草むらにその内の一本を落とす。

 

 いつの間にやら、大樹には頭に花を咲かせた恐竜の様な魔物が集まっていた。マッチはそのうちの一体の頭に当たった。

 

 

 爆炎が広がった。

 

 

 マッチが衝撃を受けた途端、広範囲に凄まじい爆発が起きたのだ。瞬く間に火の手はカムラ達の視界の端にまで広がった。

 

 ちなみに、カムラの指示でメルが防御魔法を使っていたので、一行は傷一つなかったりする。

 

 下にいる魔物達は、爆心地にいた魔物が吹き飛び、爆発に巻き込まれることのなかった魔物は広がった炎によって灰になった。

 

 それを見て、カムラは更にマッチを投げる。爆発が四方で、立て続けに九回。大樹にも炎が広がってきたが、カムラが大樹を時の特異点で保護しているので、一行にまで火の手が回ってくることはなかった。

 

「……うわぁ、容赦ない」

 

「ピィ……」

 

「……時折、カムラ様は非常に残酷ですね」

 

「……悪癖だな。滅ぶもの、死にゆくもの、その全てが私は好きなのだ……しかし……クク、クハハハハハ! ああ、やはり愉しいものだ! 命が散る様はやはり美しい! 夢見た少女の最期の輝きともあらば尚更だ!」

 

 カムラの容赦の無さに若干引くアレーティアに罰鳥、慣れてきた自分が怖くなってきたメル、そしてテンションが昂り爆笑するカムラ。カムラが笑うと凄く怖い。

 

 しばらくして、カムラが魔力の暴走を発動。広がっていた炎を消し飛ばすと、残ったのは一行が立つ大樹のみであった。

 

「さて、この階層の魔物は全て燃やしたし、次に行くとしようか」

 

「……階段残ってる?」

 

「あそこの洞窟も爆発で崩れていますからね……」

 

「あの洞窟から花粉が飛んでいたのでね。念入りに破壊させてもらったよ。中にいた魔物も燃え尽きたようだ」

 

「……カムラ一人でよくない?」

 

「私達の出番をいただけるだけありがたいと思いましょうか……」

 

 結局、カムラのせいで何も残らなかった。アレーティアとメルは、改めてカムラの規格外さを実感した。




幻想抽出は、エルヴァ君曰く

「抽出される物に一貫性は無い。ある程度は私が設定できるが……パル○ンテの様に安定しないのだ」

だそうです。

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